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電気自動車トップ・テスラは中国勢との値引き合戦では勝ち目なしか?…バッテリーの開発市場で競争力を失った稀代のメーカーの現在地

集英社オンライン / 2024年4月24日 11時57分

王者・スターバックス成長神話崩壊の足音…中国での苦戦と北米の難易度の高いカフェチェーン店舗運営に対応しきれるか?〉から続く

テスラが日本時間の4月24日に発表した決算内容は衝撃的なものだった。2024年1-3月が減収減益となったのだ。特に深刻なのは減収で、コロナ禍で生産や販売活動がストップしていた2020年4-6月以来となった。アナリスト予想にも届かない惨憺たる結果だ。

【図を見る】テスラ社が中国勢に価格破壊で王者の座を奪われるというわかりやすい構図

神話化していた特異なビジネスモデルが一瞬で瓦解

2024年1-3月の売上高は前年同期間比7.4%減の216億ドル、営業利益は同53.6%も減少して12億ドルとなった。営業利益率は11.4%から5.7%に低下している。



テスラをEVの王者たらしめていたのは、長らく販売台数トップをひた走っていたことに加え、営業利益率が10%を超えていたためだ。これはトヨタやVWなど世界の一流メーカーをもってしても成し遂げられなかった。

テスラは販売する車種を極限まで絞り込むことや広告宣伝費をかけないこと、直接販売方式で販売手数料を抑える独特なビジネスモデルでそれを成し遂げた。しかし、2023年4-6月に営業利益率が10%を切ると、転落するように数字を落していった。

テスラのイーロン・マスクCEOはブランディングの天才だった。“稀代の起業家”の名をほしいままにし、SNSやメディアでは大言壮語ともいうべき壮大なビジョンを語っていた。多くの起業家やビジネスマンの興味関心を引くには十分な素質を備えていたのだ。

さらにEVは脱炭素の星ともいえる存在だ。マスク氏のビジョンに共感し、環境配慮型の自動車に乗るのは“イケてる”ライフスタイルを醸成するのに最適だった。それが高値でも販売できた要因の一つでもあるのだ。他社が再現できるはずもなく、テスラのビジネスモデルは半ば神話化していた。

しかし、夢物語は長くは続かなかった。2024年1-3月のテスラの総販売台数は前年同期間と比較して1割も減少している。主力のモデル3とYは37万台ほど。2023年は四半期単体で40万台を切ったことはなかった。

EV市場を侵食しているのが、安価なEVを世に送り出しているBYDだ。2023年10-12月に販売台数でテスラを追い抜いた。価格破壊で王者の座を奪うという、わかりやすい構図である。

サイバートラックの優劣を決める「4680」とは?

テスラは2023年11月30日に新型車サイバートラックの出荷を行なうと発表した。日本では2024年2月15日に東京・豊洲でお披露目されている。

イーロン・マスク氏は年間25万台を目標にしていたようだが、2024年1-3月のモデル3とY以外の販売台数は1万7000台ほどだ。アメリカではパワー不足や安全面で問題があるなど、悪い評判ばかりが聞こえてくる。アクセルペダルが外れる恐れがあるなどとして、3900台あまりのリコールも行った。

アメリカでは、フォードのFシリーズやシボレーのシルバラードのようなピックアップに一定の需要がある。ホームセンターやディスカウントストアのような大型店で大量の品々を買うために積載量が重視され、レジャーでも使い勝手のいい実用的かつタフな車が必要とされているからだ。

テスラは中国メーカーが進出しづらい特殊な層を狙い撃ちしたわけだが、それが上手くいっているようにも見えない。

そしてサイバートラックには目玉となるべきパーツがあった。「4680」と呼ばれる新型バッテリーだ。これはドライ電極を活用することでエネルギー密度が高く、省スペースでハイパワーを実現できる。しかし、テスラはこのバッテリーの調達や製造に難航しているようだ。

テスラはバッテリーの内製化を進めようとしているが、製造技術を自前で育ててこなかったという最大の弱点がある。それを克服しない限り、価格勝負で優位に立てることはないだろう。

テスラはなぜバッテリーの製造を内製化したのか

テスラは2010年にパナソニックと資本提携した。パナソニックが1.5%の株式を24億円で取得。バッテリーの共同開発を行なってきた。

しかし、2015年ごろから中国や韓国からの調達を示唆。2019年に突如として中国のCATLからの調達を開始している。2021年にはパナソニックが持株を4000億円で売却した。資本提携は解消されたのだ。

 このとき、テスラは中国が魅力的なマーケットであると感じていたはずだ。2017年の時点で中国のEVとPHEVの販売台数はアメリカの3倍以上に膨らんでいたからだ。更に2015年の時点でパナソニックはリチウムイオンバッテリーのシェア1位の座をCATLに奪われていた。

テスラが調達先を分散し、中国での量産体制確立を目論んでいたのは明らかだ。しかし、それが誤算を生むことになった。

中国は2019年に「NEV規制」を導入した。EVやPHEVの普及を目的に、国内外の自動車メーカーに対して数値目標を設定したのだ。テスラにとっては正に追い風で、2019年に上海で初のギガファクトリーを稼働させた。

しかし、中国国内のメーカーが次々と安価な電気自動車を発売してしまう。当時、1台当たり50万円を下回るモデルもあった。テスラにとって魅力的なマーケットである中国で、価格破壊という悪夢が現実のものとなったのだ。

BYDはもともとバッテリーメーカーで、CATLに次ぐシェアを獲得するに至った会社だ。EVは製造原価のおよそ4割をバッテリーが占めている。ガソリン車のエンジンに等しい存在だ。

バッテリーから製造できるBYDと、それを調達する以外の手立てがないテスラでは埋められない価格差が生じるのは当然である。

そこで、テスラは2020年ごろからバッテリー内製化の動きを加速したのだ。

アメリカの税制優遇制度からも外れるという不運に

バッテリー開発に乗り出したとはいえ、そんなにスムーズに進むはずもない。サイバートラックに搭載を計画していた「4680」の開発に難航。最終的には、バッテリーに必要な部品の一部をBYDに供給するよう求めたという。BYDが利益率を高められるバッテリーの完成品を収めたがるのは当然だ。結局のところ、BYDからテスラへの部品の供給はかなわなかった。

しかし、やはり自前での開発はしきれず、部品の一部は中国から調達を続けていた。これが仇となる。

バイデン政権は、テスラに対して2024年1月から中国製のバッテリー部材を使っているとし、アメリカ政府の補助金支援リストから外れている。サイバートラックは、アメリカの電気自動車購入における110万円程度の税制優遇が受けられるはずだったが、それも立ち消えとなったのだ

テスラは販売台数やシェアをいたずらに追いかけるのではなく、購入する層の再設定やアフターサービスの充実、生産体制の見直しなど、ビジネスモデルの再転換が必要なように見える。

取材・文/不破聡 写真/Shutterstock

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