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YouTuber志望者が直面する「それで食べていけるのか?」に対するシンプルな答え

プレジデントオンライン / 2022年3月24日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov

「YouTuberになりたい」と子どもが言い出したら、どう答えればいいか。戦略デザイナーの佐宗邦威氏は「インターネットを通じて自分の好きなことで食べていける環境が整ってきた。ものをつくる人こそ稼げる時代がやってきている」という――。

※本稿は、佐宗邦威『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「正解がわからない」美術の授業が苦手だった

「表現は魔法だ。でも、自分はそれができない。うまく表現できる人は羨ましい」

ずっとそう思って生きてきました。13歳のころ、僕にとって美術は最大の不得意科目のひとつでした。僕の子ども時代は、周囲の友達が受験しているからという理由で塾に通い始め、いつの間にか受験という“ゲーム”に没頭し、結果として中学受験、さらに大学受験をしました。

子ども時代の僕にとって、国語、算数、理科、社会(中学生になってからは、現代文、英語、数学、歴史、生物)などの科目が重要な科目であり、得意科目でもありました。それらはいずれも、ただひとつの正解があり、自分が向かっていけばいい方向は極めて明確です。点数も含めて結果も見えるし、予習、復習をすれば良いのです。何より受験にとって「必要な」科目です。

一方で、中学校に入ってからの美術の授業は、どうも苦手でした。描いている間は楽しいのですが、自分よりもうまい人の作品を見ると、自分の作品が取るに足らないものに見えて、だんだん苦手意識を持つようになってしまったのです。しかも、受験には役に立ちません。正解がわからないものは、努力しようと思ってもどうやっていいかわかりません。そうやって、僕は美術が嫌いになっていきました。

■デザイナーになってわかった、美術を学ぶ意味

大人になり、デザインの勉強をし、デザインの仕事をしているいまになってみると、美術を学ぶことは三つの意味があったことに気づきます。

ひとつ目は、表現の技術。デッサンやクロッキーから始まり、自分の頭のなかのイメージを世の中に具体化する技術。二つ目は、人類の社会やメディアの環境が変わっていくなかで、世の中を新たにとらえ直してきたコンテクストの理解、つまり教養。そして、三つ目は、自分の頭のなかのイメージを解像度高く知覚すること。

これらを通じて、自分なりの世の中に対する感性を積み重ね、自分なりの創造をしながら生きることを喜びにしていく技術ではないかといまでは理解できます。

■「明日は今日よりも良くなる」かつては誰もがそう思っていた

僕の視点から私たちはどのような時代に生きているかを考えてみます。いまは、僕自身や僕たちの上の世代が生きてきた社会とは常識が大きく変わる時代だと思うからです。

日本は第二次世界大戦後、経済成長をずっと続けてきました。この時代を引っ張っていったのは科学技術であり、ビジネスの現場によって生まれた経済でした。「鉄腕アトム」や「ドラえもん」に代表されるように、科学技術は僕らの未来の可能性やワクワクを提示してくれるものでした。この時代においては、現在<未来であり、明日は今日よりも良くなるとみんなが思っていました。未来は、そのより良い姿をみんなが共通して見られるゴールのようなものでした。

現在<未来の時代では、いま我慢してでも、より良い未来のために努力する、つまり「頑張る」ことはとても重要でした。放っておいても成長する環境では、成功例をみんながまねるだけでも、人生がうまくいく確率は高く、真面目に他の人の成功例を学ぶ姿勢が成功のコツでした。僕自身をはじめ、学校の現場にいる先生や親、子どもたちの教育を考える人はそういう前提のなかで生きてきた世代です。

■未来のためにいま我慢して「頑張る」意義が消えた

それに対して、いま起こっているのは、このモデルの逆回転です。いまの13歳の人たちがこれから大人になっていく未来に予想されているのは、人口が減っていき、高齢者がより増えていき、世界的な気候変動による自然災害が予想され、進化するテクノロジーが人間の役割を奪いすぎるという難題ばかりです(もちろん、どんな世代にとっても同じ未来なのは言うまでもありません)。少なくとも、日本という国で生きる以上は、これらの社会課題が増えるなかで、手を打たない限り、課題はどんどん増えていくというのは、ひとつの事実です。

この環境においては、現在>未来となります。未来のために我慢するよりは、いまを楽しむほうがいいし、絶対的な正解がないのなら、自分なりの成功でいい。これが、いまの子どもたちが生きる前提なのです。

昔は、より良い未来に到達するためにいま「頑張る」ことに意味がありました。設定した目標を達成することが重要で、より良い未来が待っているなら、そのプロセスは苦しくても良かったのです。これは、予測のできる道のある未来です。

■達成できなくてもいいくらい大きな夢を持つことが重要

しかし、これからは、未来は手放しにより良くなるものだとは信じられなくなりました。見通しのよくない環境では、具体的な未来像を描いて目標を設定することも不安なうえに、目標を絶対に達成しようと頑張ることも辛くなります。そうであれば、達成できなくてもいいくらい大きな夢を持った上で、そこに向かうプロセス=いまを楽しんでいく力を身につけることが重要なのではないかと思います。

昨今、なりたい仕事ランキングのなかには「YouTuber」が登場しますが、10年前に予測できた人はいないでしょう。僕も、いまは戦略デザイナーと名乗り、デザインファームの経営をしていますが、それも10年前には想像ができないことでした。

いくつもの職業がなくなり、大きく変わる可能性がある社会、10年先のことも予測できない世界で、職業を起点に叶えたい夢を語るのは現実味がありません。一般的な成功例ではなく、自分ならではの未来を描く。そして、自分のビジョンに対して、それぞれがいま感じている意味を語り、形にしたいというモチベーションから多様な学びが生まれる。これこそが、創造力の果たす役割であり、希望をつくる学びなのではないかと思います。

■2020年代はクリエイター経済が花開いていく

2020年代はクリエイター経済の時代になるという大きな潮流があるといわれています。この文章を書いている2022年初頭は、2000年代からつくられてきたインターネットの時代が大きく変わり、Web3という新しいインターネット時代の幕開けが始まるのではないかといわれています。このWeb3というのは、簡単にいうと、GoogleやFacebookのような場を提供する強大な管理者が利益を総取りしてしまうのではなく、管理者なしに直接その創作者である一人ひとりのクリエイターに収益が入ってくるような新しいインターネット上の経済をつくろうという動きです。

ペンタブレットを使用して創作をする人
写真=iStock.com/PrathanChorruangsak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PrathanChorruangsak

すでに、YouTuberのように、自分が制作した動画を通じて稼ぐことができる世の中になってはいますが、このクリエイター経済の時代には、デジタル上のゲームやバーチャル空間を中心に、さまざまな表現形態で稼げる場所が、あらゆる場所に広がっていくと考えればいいでしょう。例えば、デジタル上で3Dの靴をデザインしたり、ゲームのなかのアイテムをつくったり、マインクラフトでつくった建築物なども、新しいクリエイティブのフォーマットになっていくでしょう。

つまり、あなたが自分の好きを突き詰め、自分が持つ創造力を活かして、世の中に何かしらの作品を生み出せるようになると、それが単なる趣味ではなく、稼いで生計を立てる手段のひとつになる可能性は、いままで以上に増えていくということです。

■ブログでの発信から身を立てた自身の実感

思えば、僕が創造の道を歩み始めた最初のきっかけが、ブログを書き始めたことでした。2006年、「マーケターKuniのアンテナ」というブログ(いまでもGoogle検索すると残っています。当時の僕がいかにアマチュアの書き手であったかがよくわかるので恥ずかしいのですが)を書いて、外に発信することを始め、気づけば本を出版するようになり、自分が書いた本をきっかけに戦略デザインコンサルティングという新しい業態の仕事をつくることができています。

これはインターネットによって誰もが表現者になれることにより、なし得たことといえます。インターネットという発信の場があり、ブログという簡単に発信できるツールができたことで、佐宗邦威という個人が直接世の中に対して自分の作品を届けていける環境が整っていったのです。当時の僕には、作品という感覚はありませんでしたが……。

■「好きなことで食べていく」環境はますます整っていく

僕が書き始めたころは、ブログの書き手は、自分の文章を読んでもらい、知ってもらうだけでした。しかし、いまはnote・YouTube・Instagramなどの表現プラットフォームを通じて、読者から直接お金を受け取れる仕組みが広がってきています。すでに、世界全体で何かしらの収益をあげるクリエイターは2億人に達すると言われており、日本でもHIKAKINさんなど、YouTubeで収益をあげる人がスターになるような時代に入りつつあります。自分の好きなものや情熱で稼げる時代が、目の前に訪れようとしています。

最初は、自分一人でつくっていた作品を、インターネット空間を通じて外に出していくことで、読者や応援者を見つけられる、人とつながれるだけではなく、生計を立てていくこともできる環境がさらに整いつつあります。

「それで食べていけるのか?」

クリエイターやアーティストと呼ばれる人は、ことあるごとにこの言葉を投げかけられてきました。そして、まだまだこの状況は続くでしょう。

しかし、「稼ぐ」という経済の面に目を向けてみても、創造力が「希望をつくる力」になっていくのです。

■絶対的な正解が存在した“大きな物語”の時代

創造によって生きられる人の選択肢は増えていきます。しかし、創造はそれ以上のものだと思います。それは、自分自身の人生の生き甲斐を自分でつくれる行為だということです。

少し大きな話になってしまいますが、お付き合いください。インターネットが普及する以前にはひとつの絶対的な世界だけがありました。そして、その世界には、キリスト教などの宗教や、資本主義などの人類共通の共有する物語がありました。これは、大きな物語と呼ばれ、人類が共有する絶対的な正解があった時代があったのです。このような時代では、僕らは否が応でもその社会のシステムに組み込まれていきます。

■変化し続ける社会で「自分らしさ」をどう見つけるか

しかし、僕らにも自分がある。いわゆる自我というものです。自分の自我を確立するためには、一度その大きな物語から外に出て、その大きな仕組みと戦うことが必要でした。大きな物語があった時代において、青春時代に一度外に出て、グレる、反抗するというのは、自分のアイデンティティを確立していくための過程だったのです。

佐宗邦威『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』(PHP研究所)
佐宗邦威『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』(PHP研究所)

しかし、いまは、インターネットによって多様性の時代になりつつあります。「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」や「フォートナイト」など、ひとつのゲームに参加するといっても、その目的や楽しみ方もそれぞれです。

ここには絶対的な物語がありません。常に変化し続ける流動的な社会のなかで、生きていく際に起こるのは、自分は誰なのか? という問いです。なぜなら、戦うべき絶対的な権威も物語もないからです。

この時代に、自分らしさをどのようにして感じて生きていけばいいか。そのキーワードが創造です。自分の内面を見つめ、引きこもるのではなく、何かを表現して出してみる。自分の内面は、何かしらの作品となることで他の人にとって理解できるものになります。そして、他の人からの評価や反応をもらうことで、新しいモチベーションが生まれ、自分が生きている実感を得られるようになる。

■自分の生きていく意義をつくりだせるのが「創造力」

創造とは、かつてのような絶対的な物語がなくなり、自分自身の存在意義を実感しにくい時代に、自分が自分で自分の生きていく意義をつくることができる力なのです。哲学者のマルクス・ガブリエルは、この流動化する時代においては、「人と人の間で生まれる無数の意味の場」こそが拠り所になると言いました。

これから僕たちが表現できるキャンバスはさらに広がっていきます。リアルの世界においても、デザインやアートは非常に重要になってきています。デジタルの世界では、ゲーム、バーチャルリアリティをはじめ、まだ想像できていないものも含めて、無数の新しいキャンバスが生まれるでしょう。

誰もが自らのキャンバスを選び、自分を表現していく生き方をすることで、希望をつくれるようになる。そんな時代になるとしたら、次の時代は、多くの人がつくり出した彩りのある希望に満ちた時代にしていけるのではないかと思います。

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佐宗 邦威(さそう・くにたけ)
戦略デザインファームBIOTOPE代表
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修士課程修了。P&G、ソニーを経て独立。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)、『直感と論理をつなぐ思考法』(ダイヤモンド社)、『ひとりの妄想で未来は変わる』(日経BP)などがある。多摩美術大学特別准教授/大学院大学至善館特任准教授。

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(戦略デザインファームBIOTOPE代表 佐宗 邦威)

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