"50代サラリーマン無理ゲー社会"で「困ったおじさん」になる人とならない人の決定的違い
プレジデントオンライン / 2022年3月27日 15時15分
※本稿は、河合薫『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■元上司の年上部下
こう嘆くのは、薬品会社に勤める課長職の平田悟さん(仮名、44歳)だ。
平田さんの会社では、数年前から若手を課長に抜擢する一方で、「役職定年」の年齢を55歳から50歳に一気に引き下げた。
50歳を会社員の1つの節目とし、「役職定年にして今までと同じ仕事をする」か、「希望退職する」か、「地方などに転勤する」か、以上3つの選択肢から選ばなければならなくなった。平田さんによれば、多くの50歳が「役職定年」を選択するため、元上司が“年上部下”になり、若手が扱いに苦労しているという。
■「困ったおじさん」が生まれるワケ
このようなケースは、平田さんの会社に限ったことではない。
私は、40代のリーダーたち向けの講演会やセミナーの講師を勤めることがあるが、以前にもまして、同様の悩みを訴える管理職が増えた。学ぼうとしない、理解しようとしない、自分のことしか考えない、会話しようとしない……などなど、“年上部下”の「ないない攻撃」に辟易しているのだという。
その一方で、私は多くの“年上部下”たちへのインタビューも行っている。そのため、「ないない攻撃」に出る気持ちがわからないわけではない。なにしろ、会社はさんざん競争を煽っておきながら、突然年齢で区切って、一斉にそれまで獲得してきた役職、裁量権、収入を奪うのだ。しかも、いったん戦力外扱いになると、どんなに頑張っても給料はびた一文上がらない。
彼らに共通するのは「役職をもぎ取られた感」で、そんな感情を抱く自分にも嫌気がさしている。
そう、彼らはみな能力主義社会の勝者、「メリトクラシーの勝者」として、高い学歴、高い収入、高い社会的地位などを獲得してきたはずなのに、それらに付随する権力におぼれ、依存し、今や「困ったおじさん」に成り下がっていた。
■「やりたいことだけやる」幻想の末路
「私」たちは、自分らしく生きたいと願う。とくに人生の後半戦に突入すると、世間に惑わされない生き方をしている人に魅了され、「私」も自分らしく生きたい、そのためには「やりたいことだけやる」「やりたくないことはやらない」と決める人たちも出てくる。
しかし、やりたいことだけやって生きていけるのは、一部の、ごくごく一部の恵まれた人だけだ。いくつになろうとも、やりたいとか、やりたくないとかは関係なく、「やらなくてはならない」作業で、日常は回っている。
むろん、「やりたいことだけやる」生き方を否定する気はない。しかし、人生とはとかく思い通りにならないものだ。想定外の出来事は起こるし、人生の後半戦ほど、自分のやりたいことだけやって過ごすのは難しくなる。年老いた親の介護に忙殺されたり、パートナーが病に倒れたりすることもあるかもしれない。決して言い訳できない、逃れられない状況で、やりたいことだけやるのは無理だ。
人生には、あまねく困難やストレスが存在する。だからこそ、他者とゆるくつながり、「人生の危機でこそ強化されるポジティブな思考」である心理的ウェルビーイングの実現が大切だと、私は思う。
■人生の迷い子を脱する時は「いま」
私たちは助け合って生きていることを忘れてはいけないし、優しさや、いたわり、愛情といった温かな感情を訓練して身につけてこそ、本来の自己に近づいていく。そして、限りなく自己に近づいた「私」を、人は「自分らしさ」と呼んでいるのだ。
渦中にいる時はわからなかった感情を理解できるようになるのが、50歳ではないか。愛をケチることなく、延ばし延ばしにしていたことに、ようやく決着をつける。人生の迷い子を脱し、人生を生き直すのだ。
なのに、人間とは実に奇妙な生き物で、「自分らしく生きたい」と願いつつ世俗的な人生観に毒されていく。自分の手の届かない幸せを手に入れた人たちをうらやみ、他者との温かい関係より、経済的に豊かになることが幸せへの道のりだと勘違いする。他者とのつながりの大切さに気づいたとしても、すぐに忘れていく。
一方で、これまでとは異なる考え方や意識で、半径3メートル世界の「ゆるいつながり」を日常にした人たちがいる。“新しいゲーム”に参加した、パラダイム・シフトした人たちだ。
彼らは、ホームページやクラウドファンディングを活用して集まった資金を元手に、子どもたちに食料を届けたり、地域の人たちが交代で高齢者の家を訪問したり、自分も力になりたいと地域の人に呼びかけるサイトを作ったりしている。「ちょっとだけ余裕のある人」が、「ちょっとだけ元気な人」が、“雨”に濡れている人たちに“傘”を差し続けている。
あなたは、雨に濡れる人がいたら傘を差しているだろうか。あるいは、あなたが雨に濡れていたら傘を差してくれる人はいるだろうか。
■HOPEを取り戻せ
私はこれからの時代の鍵を握るのは、人々の心の奥底に眠る「HOPE」の復興にあると信じている。収入でも肩書でも勤務先でもない、50歳からは半径3メートル世界に、あなたが幸せになるためのヒントが隠されている。
そんな思いを込めて、今回、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』を上梓した。健康社会学者としての知見、および、約900人の会社員にインタビューをしてきた事例をもとに、サラリーマンの「パラダイム・シフト」を提案している。ぜひ同書をご高覧いただきたい。
HOPEは直訳すると「希望」なのだが、日本語で言う希望とは、若干ニュアンスが異なる。
「希望がある」と言うと、「頑張れば必ず報われる」「未来にいいことがある」など、期待感や可能性を示す使われ方をする場合が多いが、対してHOPEは「逆境やストレスフルな状況にあっても、明るくたくましく生きていくのを可能にする内的な力」のこと。シンプルに言えば、「前向きに生きようとする意思」であり、「あきらめない力」のことだ。
HOPEは、「共に生きてくれる他者」の存在により引き出され、日常で経験する小さな喜びや楽しみによって高めることができる。
■HOPEはあなたの周りにいつでも存在している
「情けは人の為ならず」というが、人に情け(=愛)を尽くせば、巡り巡って自分にいい報いが返ってくる。そして「情け」とは、一人の人間として他人を思いやる心にほかならない。
私が在籍した研究室(東京大学大学院医学系研究科健康社会学教室)で一般の成人男女300人を対象に行った調査でも、自分を大切に思ってくれる人、信頼できる人がいることでHOPEが強まる傾向が確認されている。一方で、HOPEと経済的なゆとりとの関連性は認められていない。
おそらく今後、さらに経済的格差が拡大し、効率が優先される社会風潮が強まるだろう。努力しても報われず、人々は理不尽な社会システムに翻弄され、自分の存在意義さえ失いそうになるだろう。「この社会には希望がない」と「私」たちは嘆くかもしれない。
しかし、そんな時は、大きく深呼吸をして周りを見渡してみるといい。しばらく連絡をとっていなかった友人に電話をしてみるといい。それだけで何かが変わる。心に風が吹き込むことになる。
日々の忙しさの中で、他人の存在やつながりの大切さを忘れてしまうことは度々あるものだ。時々、立ち止まって思い出して欲しい。そして、仕事との向き合い方、働き方に悩む50歳だからこそ、仕事が「私」という存在を支える太い柱であることを、どうか忘れないでほしい。
HOPEは、いつでもあなたの周りに存在している。そのことに気づくか、気づかないかだ。
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健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。著書に『残念な職場』(PHP新書)、『他人の足を引っぱる男たち』『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)などがある。
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(健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士 河合 薫)
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