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「自分を仕事が完璧な人間だと思い込む」精神科医が教える"仕事の集中力を高める4つの条件"

プレジデントオンライン / 2022年3月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vladans

仕事に集中できないときはどうすればいいのか。精神科医の春日武彦さんは「『仕事をやらされている』というような被害者意識を持ってはいけない。どうしても気が進まない時は、自分をゴルゴ13だと思い込み、感情を持たず淡々と仕事をこなすのがいい」という――。

※本稿は、春日武彦『こころの違和感 診察室』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■「集中すること」と「無我夢中になること」の違い

集中することと、無我夢中になることでは、どのように意味が違うのでしょうか。

どちらも目の前の行為に没入する点では変わらない。もはや周囲の出来事なんか意識の外に閉め出されてしまう点でも同じです。

ただし「無我夢中」には喜びや快感が伴う。いっぽう「集中する」はもっとニュートラルな印象がある。作業や振る舞いに専念し、真剣に取り組むといったところでしょうか。

集中すべき仕事において無我夢中になってしまうと、もしかするとバランスを崩しかねない。仕事の質に濃淡が生じてしまいそうだ。「無我夢中」には、結果を問わないといった無責任なトーンがあるのかもしれません。

■集中力を高める4つの条件

集中できるためには、無我夢中とまでにはならなくとも、相応の手応えや充実感が必要となりそうです。

それらを得るためにはどんな条件が必要か。思いつくものを挙げてみましょう。

①期待されているという実感。
②集中して頑張るだけの価値があるという実感。
③やり遂げられそうだという実感。
④適度のストレスや困難状況。

■承認欲求が満たされると、やる気は増大する

最初に挙げた「期待されているという実感」とは何か。

誰に割り振ってもいい仕事だけど、たまたま君がいたから君にやってもらおう――そんな仕事には、今ひとつ気合いが入りませんよね。

どちらかといえば、君以外では駄目だから頼むんだ、といったシチュエーションでないと腕まくりをする気になれない。

承認欲求が満たされることとペアになると、やる気や集中力は増大します。

■仕事のどこに価値や意味を見出すことができるか

では「集中して頑張るだけの価値があるという実感」とはどのようなことでしょう。

たとえば流れ作業で、ベルトコンベア上の小さなケーキに苺をひとつずつ乗せるという仕事をするとしましょう。次々に苺を乗せるだけといえばまさにその通りですが、実は乗せる位置がちょっとずれると商品にならない。微妙に苺が傾いていたりしても、ショーケースに並べてみると「みっともない」ということになりかねない。

つまり苺をケーキに乗せる作業はあたかも単純作業だが、本当は結構奥が深い。少なくとも集中力が必要だし、おそらくケーキに対する「愛」も必要に違いない。

というわけで、流れ作業のつまらない仕事と思うか、それとも意外にやり甲斐のある大切な仕事と認識するかで集中の度合いが異なってくる。どこに価値や意味を見出すかが、集中力発揮の前提となるわけです。

■負け戦に集中することは難しい

三番目の「やり遂げられそうだという実感」はどうでしょう。明らかに無理だと分かっていれば、そんな負け戦に集中するのは困難です。力が抜けてしまい、気もそぞろになってしまう。

それなりの勝算、期限内に求められる質を実現できそうな感触があってこそ、気合いを入れて集中が可能になるのではないでしょうか。

結局、自分なりの自信を裏付けとして、初めてミッションに集中ができるという次第です。

■ある程度の歯応えが必要

最後の「適度のストレスや困難状況」について。ゲームやパズルだって、あんまり簡単だったら面白くない。飽きてしまうし集中以前の話でしょう。

それなりの難しさ(歯応え)、差し迫った期限、内容に込められた重大さなどがあったほうが、アドレナリンが分泌される。やる気というか闘争心が湧き、集中力も圧倒的に高まる。

理想的な環境や状況よりは、ある程度の困難さを伴ったほうが(ストレス状況)わたしたちは目の前の作業に集中できる。

■物書きが締め切りギリギリまで仕事を始めないワケ

といった次第で、半端に作業が簡単だったり自尊心を満足できそうになかったり、逆に無理難題で途方に暮れてしまうようなときには、集中が難しくなってしまいます。

しかしそうした条件の多くは、わたしたちには変えようがない。

せめて気の持ちようということで、いかに自分自身を説得できるかを考えるしかない。

顔見知りの物書きの少なからずが、締め切りぎりぎりまで仕事を開始しないのは、どうやらそのこと自体が上記に挙げた四つの条件を確認するための儀式ではないかという気がします。

■「やる気スイッチ」を押す薬は存在しない

やる気の出る薬、集中力が高まる薬はないのかと尋ねられたことがあります。その答は、残念ですが「否」ですね。

精神科領域の薬は、一般的に気持を落ち着かせたり安定させることを目指します。ベクトルとしては、気分を昂ぶらせるのと正反対ですね。抗うつ薬の一部は気分を底上げする作用を持ちますが、下手な使い方をすると気分が前向きにはならず、むしろイライラや焦り、怒りっぽさや衝動性などが前景化してしまう。

一時期はADHD患者に用いられたことのあるリタリンが、「やる気スイッチ」を押す作用があるなどと取り沙汰されましたが、あれは覚醒剤に近い。

手のひらに薬の錠剤を出す女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

なるほど覚醒剤は異常に集中力が高まったりしますが、そのぶん、あとでツケがくる。深刻な後遺症が生じてその治療はきわめて困難なことが多い。

薬剤に期待するのは諦めたほうがいいです。せいぜい、濃いコーヒーといったところでしょうね。

ここまで読んで「結局、集中力を高める方法はないのかよ」と不満に思う読者の顔が思い浮かびます。わたしとしては、魔法の方法なんかありませんと言うしかないのですけれど、さすがにそれでは不親切だ。そこで、いくつかヒントを示します。

■被害者意識を抱いてはいけない

集中力はモチベーションと深く関わりますが、大切なことのひとつとして、被害者意識を抱いたらアウト、というのがあります。そもそも集中できないのは、その作業というか仕事を行うこと自体気が進まないから、といった場合が少なくない。

上司から押しつけられたろくでもないノルマとか、内心くだらないと思っているミッションとか、そういうものがまことに多い。

そうなりますと、そんなことを強制させられる――それどころか、集中力を発揮しなければ取り組めないような面倒なミッションであったりしますと、自分が被害者であるような気分になりやすい。

たしかに被害者に近いケースは珍しくありませんよね。でもそこで「オレは被害者なんだ」と思ってしまうと、腹が立つばかりでモチベーションをますます低下させてしまう。

結局自分が損をするだけになってしまう。被害者意識は妙な形で自己正当化に与しますから、なおさらムカつくばかりになってしまう。

■「わたしは仕事師である」と思い込む

こうした場合には、クールな態度で「わたしは仕事師(仕事人)である」と割り切って淡々と作業をこなすのが正解だと思います。

春日武彦『こころの違和感 診察室』(河出新書)
春日武彦『こころの違和感 診察室』(河出新書)

感情なんか交えずに、どんな内容であろうととにかくベストの成果を出してみせる寡黙なプロフェッショナルといった感じですね。ゴルゴ13的かもしれない。あえて自分をそういったキャラクターに重ねてみるのは効果的であります。

それから、作業に取り掛かる前に助走をつけると集中モードに入りやすい。

例としてわたしが原稿を書く場合、とにかく最初の数行は書いておく。したがって、本格的に作業に入るときはその数行に続けて書いていく形になる。真っ白な画面から始めるよりは、数行が既に書かれていると勢いがつけやすくなります。

結局はその数行を削除してしまう場合もありますが、それでもその時点でわたしは集中モードに突入しています。もちろんこの原稿も、そんなふうに助走をつけて書きました。

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春日 武彦(かすが・たけひこ)
精神科医/作家
1951年、京都府生まれ。日本医科大学卒業。産婦人科医を経て、精神科医に。都立精神保健福祉センター、都立松沢病院精神科部長、多摩中央病院院長などを経て、現在も臨床に携わっている。著書に『援助者必携 はじめての精神科 第3版』(医学書院)、『奇想版 精神医学事典』(河出書房新社)など多数。

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(精神科医/作家 春日 武彦)

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