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「日本をパクるのはもう恥ずかしい」劣化コピー品に喜んでいた中国人が激変したワケ

プレジデントオンライン / 2022年3月28日 15時15分

中国・上海にある無印良品と中国EC大手「京東集団(JD.com)」の合弁会社による中国初の生鮮食品店「七鮮超市(7FRESH)」で買い物する客たち(2021年11月13日)。 - 写真=CFoto/時事通信フォト

中国では2020年、東京・歌舞伎町を模した「ニセ日本街」を作ったことが問題となり、一部を撤去するなどの騒ぎになった。フリージャーナリストの中島恵さんは「今の中国人は、『日本のパクリ』ではもう満足できなくなっている」という――。

※本稿は、中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

■「とにかく日本に行きたくてうずうずしている」

コロナの影響で世界中の人々の往来は激減した。中国人の訪日旅行も2019年は過去最多の約959万人に上ったが、その後、彼らが日本を訪れることはできなくなった。武漢からコロナの感染が拡大したことや、中国の人権問題などにより、日本人の中国に対する感情は大幅に悪化。コロナの収束後もインバウンドの見通しは厳しいものになるだろうと予測されている。

中国人は今、日本についてどのような気持ちを抱いているのか。私が上梓した『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)は中国人の中国観がメインテーマだが、彼らは久しぶりに連絡を取った私に「日本愛」についても語ってくれた。上海在住の女性は語る。

「東京の自由が丘にあるおしゃれな雑貨屋に行きたい。大阪で何度も通った馴染みのおばちゃんがいる店でお好み焼きを食べたい。金沢に行って、日本海の海の幸を食べ尽くしたい。とにかく日本に行きたくてうずうずしているのですが、しばらくの間は無理ですよね。

今年(2021年)初めに『唐人街探案3』(邦題:『唐人街探偵 東京MISSION』)という映画を観ました。もともと1年前に公開される予定だったのですが、コロナの影響で延期となり、やっと見られたのです。

東京が舞台になっている映画で、思わずその風景を食い入るように見てしまいました。あの通りを自分も歩いたな、ここの近くで買い物したな、と思い出し、また日本に行きたい思いが募りました」

■10年以上前の『おくりびと』が中国全土で大ヒット

同作品は探偵コンビが事件を解決していくというコメディ・サスペンスで、同作がシリーズの3作目(第1作はバンコク、第2作はニューヨーク)。

日本側の出演者は妻夫木聡、長澤まさみ、三浦友和などの俳優陣で、渋谷のスクランブル交差点(実際は栃木県足利市のセットで撮影)や、東京の代表的なスポットが数多く登場している。

2021年10月には、2008年に日本で公開された映画『おくりびと』が中国全土9400カ所の映画館で上映され、こちらも大ヒットしたというニュースがあった。SNSでは若者を中心に共感の声が集まった。

「日本人の死者の弔い方に感動した。涙が止まらなかった」「一人ひとりの命や尊厳をちゃんと大切にする国、日本は本当にすばらしい」「日本にこんな文化があったなんて知らなかった」

■反日精神の中国人を変えた爆買いブーム

ナショナリズムの高まりにより、日本を侮辱するSNSの投稿が増えた一方で、日本映画にも感動の声が上がっていることは事実だ。中国人の友人は語る。

「日本を『上から目線』で見ている人たちと、日本文化に興味を持つ人々は出身も、学歴も、生活環境も全然違います。日本へのリスペクトの気持ちを持っている人々は、爆買いブーム以降、大幅に増えました。実際に自分の目で日本を見て変わったのです。その証拠がこのような映画の大ヒットに表れていると思います。

私も日本との距離は離れてしまったと感じていますが、今は日本料理を食べたり、ネットで日本の動画を見たりして、“日本補給”につとめています」

米中対立の影響で日本に対しても不信感を持ったり、デジタル後進国となった日本を蔑んだりする人々がいる反面、このような人々も大勢いる。

日本好きな人々がとくに多いのが、中国で最も洗練されている上海だが、コロナ禍になって以降、上海とその近郊には、いつの間にか「日本」があふれるようになった。

■蔦屋書店、LOFT、無印良品にニトリ…

2020年10月、杭州に、同12月には上海に、日本の蔦屋書店がオープンした。上海店は「上生新所」という1924年にアメリカ人建築家によって設計された洋館の中にあり、店舗面積は約2000平方メートル。

中国語の書籍がメインだが、日本語の書籍や欧米の美術書、ギャラリースペースなどもあり、一般的な書店というよりも、落ち着いた文化サロンといったおしゃれな雰囲気を醸し出している。訪れた友人は「まるで東京・代官山の蔦屋書店がリニューアル・オープンしたのでは? というほど洗練された空間でワクワクしました」と話していた。

今や上海だけでなく、中国各地には蔦屋書店ばりのおしゃれ系書店は急増しており、同店が抜きん出ているわけではないが、日本旅行での体験を覚えている人々などを中心に人気が出ている。

同じくコロナ禍の2020年、上海には「ロフト(LOFT)」もオープンした。ほかにも「MUJI」(無印良品)、「ニトリ」、日本人経営のカフェや高級寿司など、「日本」関係の店はとにかく多く、いずれも中間層以上の上海人の間で、それらの店を利用することは「日常生活」の一部になっている。

2020年4月、中国・上海にある無印良品の旗艦店
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

こうした現象は2020年以降、急増した。自由に往来できなくなったことで、中国の中の「日本」の存在感は熟成されているのではないかとすら感じる。

■“日本のパクリ”ではもう満足できない

経済的には、日本の影響力は小さくなっているが、文化レベルや生活の質という面では、まだ日本の存在感は落ちていない。

外部(海外)への渡航ができなくなり、内側(国内)に閉じ込められている状況下、ここ数年、海外で見聞を広めた中国人の文化への関心が熟成していったことと、コロナ以前から進められていた案件(日本など海外のデザイナーなどによるホテルや施設の建設)がいくつも完成し、そこに行ってよいものに触れることで、改めて知的好奇心をくすぐられ、「やはり、次は日本に行って、よいものを実際に見聞きしたい」という願望が強くなっている。

ある中国人はいう。「中国人の生活の質はコロナを経て、劇的に向上しました。日本のものをそのまま受け入れたり、共感できたりするくらいの高いレベルになってきています。だから、『なんちゃって日本』では、もはや満足できないのです」

「なんちゃって日本」とは2020年、広東省仏山市や江蘇省蘇州市などに出現した「ニセ日本街」のことだ。東京・新宿歌舞伎町を模したストリートや、怪しい日本語の看板が並ぶエリアで、若者たちが写真を撮りまくり、SNSに投稿していたことが日本でも報道されたが、すぐに著作権の問題が発生して、一部は撤去された。

■中国人は世界でいちばん日本のことを観察している

「今後もこういうものがときどき出現しては、消えていくでしょう。中国にはいまだに著作権が何かもわからず、喜ぶ人がいるのも事実ですが、その一方で、成熟した日本ファンが着実に育ち、日本人が想像する以上に、日本行きを心から望んでいます。たとえ、日本で歓迎されなくても、日本を旅行したいと思っている人は多いと思います」(ある中国人)

コロナ後のこの世界がどのようになるのか、まだわからない。めまぐるしく変わる世界情勢のなかで、現状ではコロナに打ち勝ったかに見える中国はますます強大になり、米中関係、日中関係が好転する兆しはまったく見えないが、コロナで離れている間にも、中国人の日本に対する関心は高まっている。

ある中国人はこういう。「世界でいちばん日本のことをよく観察しているのが中国人だと思います。きっと逆もそうでしょう? 他国の細かいことまでは気にならないのですが、お互いの国の情報は気になって見てしまう。

この前、サッカーの試合(2021年9月8日に行われたワールドカップ予選)を見ました。中国は0対1で日本に負けましたが、SNSでは意外に冷静で、日本の強さを褒めている中国人が多かった。これからまだ中国は日本に勝つチャンスがある、と喜んでいた人もいました」

■お金持ちアピールする中国はまだ豊かではない

「いつか、真の意味で日本を超えたいと思っています。日本が輝いていた時代がどれほどすごかったかを知っているから。そう思っている中国人は少なくないと思いますが、まだ発展途上だと思います。アメリカは中国にとって最大のライバルですが、個人の中国人からすると、心理的にも距離的にも遠すぎます」

別の中国人はこんなことを話していた。「今の中国は豊かになって、『お金持ちアピール』をする人が増えました。お金持ちであることを隠さないどころか、見せびらかしている。それで気分を悪くしたり、中国人のことを誤解したりしている海外の人は多いと思います。でも、そういう態度をとるのは、中国がまだ本当に豊かになっていない証拠です。

人間は貧しいときはおとなしいし、小さくなっている。成り金になると強気で、途端に『上から目線』になる。もっと豊かになると、自然体で謙虚、冷静になれるのだと思いますが、中国人はまだそうなれていない。虚勢を張らなければやっていけない」

■だれもが「中国を世界一に」とは考えていない

中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)
中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)

「人だけでなく、国家も同じです。だから、つい気が大きくなってしまって、海外に『中国すごいぞ』とアピールをしてしまう。これは悪い癖です。でも、以前よりもずっといい暮らしができるようになって、かなりの国民は満足していると思います」

日本からは、中国政府が挑発的な外交を行い、ナショナリズムを高揚させて、国内の諸問題から国民の目をそらそうとしているように見える。だが、「党は党、国は国、中国人は中国人、自分は自分だ」という一歩引いた気持ちで自国を見ている中国人も多い。

「中国中の人が覇権主義に賛同し、中国に世界でナンバーワンの国になってほしいなんて考えているわけではありません。多くの中国人は自分と家族の生活を守り、ただもっと豊かになることだけを望んでいます。求めているのは社会の安定と家族の幸せ、それだけなんです」

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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