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「世界一の火力発電技術」を活用できる…日本が「アンモニア火力」に進むべきこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2022年6月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TheBusman

石炭火力に代わる脱炭素エネルギーとして、アンモニア火力に注目が集まっている。基幹電源とするにはどのような課題があるのか。国際大学の橘川武郎教授は「一番はアンモニアの調達方法だ。製造時も二酸化炭素を排出しないグリーンアンモニアやブルーアンモニアの確保に向け、日本企業が動き出している」という――。

■カーボンフリー火力に向けられる期待と疑問

2022年6月7日に公開した拙稿「世界中を悩ませる『LNGの脱ロシア化』で、欧州には不可能かつ日本にしかできない最善のエネルギー源」は、思いのほか多くの反響を頂戴した。石炭に代えてアンモニアを燃料として使うカーボンフリー火力への共感が広がる一方で、いくつかの疑問が寄せられたことも事実である。

代表的な疑問を挙げれば、「日本だけがアンモニア火力に取り組んでいるのはなぜか」「そもそもアンモニアをどのように調達するのか」「既存の火力発電と比べてコストが高くないか」「大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)の排出は大丈夫か」などとなる。

本稿では、これらの疑問を手がかりにして、問題を深掘りしていく。

疑問①「日本だけがアンモニア火力に取り組んでいるのはなぜか」

この問いに対する答えを導くうえでヒントを与えるのは、電源構成の違いである。

日本は、他の先進国と比べて石炭火力への依存度が高く、その分だけ真剣に石炭火力のカーボンニュートラル化に取り組まなければならない立場にある。2021年のG7諸国の電源構成における石炭火力の比率は、高い方から順に、日本とドイツが29%、アメリカが22%、カナダが6%、イタリアが5%、イギリスとフランスが2%であった。

ドイツは、日本と同水準の高い石炭火力依存度を示したが、一方で、2021年の電源構成に占める再生可能エネルギー(再エネ)の比率は42%に達した。日本は、その比率が22%にとどまった。ドイツは、今後、再エネ比率を急速に高めることによって、2022年に原子力発電を、2030年に石炭火力発電を、それぞれ廃止する方針をとっている。

■「再エネを増やして石炭火力をなくす」ができない

しかし、日本はこのような方針をとることができない。日本政府が2021年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成を、再エネ36~38%、原子力20~22%、水素・アンモニア1%、石炭火力19%、LNG(液化天然ガス)火力20%、石油火力2%、と見通しているのである。

日本では、太陽光・風力・地熱・バイオマスといった再エネの大規模導入には時間がかかり、発電コストの低減という課題もまだ解決できていない。端的に言えば、ドイツのようなペースで迅速に再エネ比率を高めることができない。したがって、「再エネを増やして石炭火力をなくす」というドイツ式のアプローチだけでは、問題が解決しない。

日本で石炭火力のカーボンニュートラル化を実現するためには、再エネの普及だけでなく追加的な方策も講じる必要があり、その「追加的な方策」として浮上したのが、石炭火力の燃料としてアンモニアを混焼し、徐々に混焼比率を上げて、やがてアンモニア専焼火力に転換するという日本式のアプローチなのである。

G7を構成する先進国のなかで日本だけがアンモニアに取り組んでいる理由は、このような事情に求めることができる。

■2050年には30倍の量のアンモニアが必要になる

疑問②「アンモニアをどのように調達するのか」

これは大問題であり、石炭火力のアンモニア転換を実現するうえでの最大の課題だと言える。

日本は現在、年間約100万トンのアンモニアを肥料用等に消費している。しかし、石炭火力でアンモニアを20%混焼した場合、大型機1基で年間50万トンのアンモニアが必要となる。政府が2021年6月に改定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、発電用に必要な年間のアンモニア量を2030年に300万トン、2050年に3000万トンと見込んでいる。

しかも、この需要見通しは上方修正される可能性が高い。化学産業やセメント産業でも「カーボンニュートラル化の切り札」として、「ナフサクラッカー」というエチレン製造装置や「焼成キルン(窯)」の熱源をアンモニアに転換する見通しが強まっているからだ。

■日本企業が確保を急ぐ2つのアンモニア

他方で、現在原料用アンモニアは、中国やロシア、アメリカなど世界全体で年間約2億トン製造されている。ほとんどが生産国内で消費されているが、2050年には7億6000万トン規模に拡大すると見込まれている。一見、調達は容易そうに見えるが、その大半が、製造時に二酸化炭素を排出する「グレーアンモニア」として生産されている点が問題だ。

もちろん、カーボンニュートラルのために使用するアンモニアは、グレーアンモニアであってはならない。再生可能エネルギーを使って作る電解水素を活用し製造時に二酸化炭素を排出しない「グリーンアンモニア」か、製造時に二酸化炭素を排出するもののそれを回収して貯留するCCS(Carbon dioxide Capture & Storage)付きの「ブルーアンモニア」のいずれかでなければならない。

しかし、今のところ生産量の少ないグリーンアンモニアやブルーアンモニアを必要量調達することは、けっして容易ではない。そのため、日本の電力会社、石油会社や商社は、「グリーンアンモニア」や「ブルーアンモニア」を確保するための動きを強めている。

日本最大の火力発電会社であるJERAおよび大手石油会社の出光興産が世界最大のアンモニアメーカーであるノルウェーのヤラ社との協業を模索したり、総合商社の三井物産がアブダビ国営石油会社(ADNOC)のクリーンアンモニア生産プロジェクトに参画したりしているのが、それである。これらの動きがさらに進展することを期待したい。

■石炭より3倍かかるコストをどこまで下げられるか

疑問③「既存の火力発電と比べてコストが高くないか」

現状では、火力発電用の燃料アンモニアのコストは確かに高い。2022年6月14日に開かれた総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第49回会合において、事務局を務める資源エネルギー庁は、足元のNm3-H2当たりの燃料価格について、一般石炭は7円程度、LNGは13円程度、グレーアンモニアは20円程度と説明した。

この分科会の席上、資源エネルギー庁は、既存燃料とのコスト差を縮小するため、「発電用の燃料アンモニアについて2030年に10円台後半/Nm3-H2の供給価格を目標とする」とし、以下のようなさまざまな支援策を講じる意向を表明した。

・「ハーバーボッシュ法」に代わるアンモニア新合成技術や再エネから一気通貫でアンモニアを合成するグリーンアンモニア電解合成の技術開発を支援
・低廉かつ安価なサプライチェーン実現に向け、資源国との連携強化を進める
・貯蔵用タンクの整備などインフラ整備の在り方などにも注目しながら、導入拡大、商用化に向けた支援措置の詳細検討を行う

なお、ここで登場する「ハーバーボッシュ法」とは、20世紀の初頭にドイツで開発され現在でも広く使われている画期的なアンモニアの合成法のことであるが、最近ではエネルギーを大量に消費する点が問題視されるようになっている。

石炭採掘を模したおもちゃのフィギア
写真=iStock.com/dashu83
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dashu83

■アンモニアを「いの一番」に挙げた政府の決意

この分科会の主たる目的は、経済産業省が2022年5月13日にまとめた「クリーンエネルギー戦略 中間整理」の内容を説明することにあった。

この中間整理は、GX(グリーントランスフォーメーション)を実現するための重点分野・産業として、アンモニア、水素、洋上風力、蓄電池、原子力、二酸化炭素分離回収、コンクリート・セメント、SAF(持続可能な航空燃料)、合成メタン、合成燃料・グリーンLPG(液化石油ガス)、化学、バイオものづくり、鉄鋼、自動車、運輸、住宅・建築物・インフラ、食料・農林水産業を、幅広く取り上げている。

そのなかで「いの一番」に挙げられているのはアンモニアである。また、第49回会合で資源エネルギー庁がGXの重点分野・産業について説明した際にも、大半の時間を割いたのはアンモニアに関してであった。これらの事実から、燃料アンモニアの社会実装にかける日本政府の並々ならぬ決意を窺い知ることができる。

■大気汚染物質の発生を抑えることは十分可能

疑問④「大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)の排出は大丈夫か」

アンモニアの化学式はNH3であるから、このような疑問が生じるのは、当然のことである。ただし、燃料アンモニアの使用にともなうNOx排出の抑制については、技術革新が進んでいることも事実である。

例えば、燃料アンモニア活用の動きの起点となった内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」でサブ・プログラムディレクターを務めた住友化学の塩沢文朗氏は、「NOxの生成」について以下のように述べている。

「燃焼機器内で燃焼気体中のNH3が若干余剰となる条件でNH3を燃焼することにより、抑制可能であることがわかった。こうした条件下では、燃焼気体中に存在するNH3の還元作用が働き、燃焼中に生成するNOxがN2(窒素……引用者)に還元されるのである。

つまり、NH3は燃料としても、燃焼で生成するNOxの還元剤として働くことが明らかになり、燃焼機器の設計、燃焼条件の調整によりNOxの発生が抑えられることがわかったのだ」
(戸田直樹・矢田部隆志・塩沢文朗『カーボンニュートラル実行戦略:電化と水素、アンモニア』エネルギーフォーラム、2021年、137ページ)

この点に関連しては、電力業界で最も早く2017年の7月3~9日に石炭火力の水島発電所2号機(岡山県)でアンモニア混焼の実機試験を行った中国電力の経験も、有用である。

同社は、発電機出力12万kWの状態で0.8%(1000kW相当)のアンモニア混焼を実施し、「試験を行った燃焼方法において、一定の条件の下では、窒素酸化物の濃度が下がる傾向にある、といった新しい知見が確認できたことから、本知見について特許を出願」(中国電力2017年9月8日付プレスリリース)している。

■アンモニア火力を電源化する3つの課題

前回の記事でも紹介したように、日本では現在、熱効率が高く発生電力量当たりの二酸化炭素排出量が相対的に少ない超々臨界圧の石炭火力の新設が進んでいる。

こうした高技術を誇る石炭火力や化学産業、セメント産業で燃料アンモニアを活用することは、世界のカーボンニュートラル化に貢献する日本発のユニークな施策である。同様のアプローチは、2021年の電源構成における石炭火力の比率が34%に達した韓国でも、採り入れられつつある。

ただし、本稿で検討したように、燃料アンモニアの社会的実装のためには、3つの課題をクリアしなければならない。第1は、「グリーンアンモニア」と「ブルーアンモニア」を大規模に調達することである。第2は、それらのコストを少なくともLNG並みに引き下げることである。そして第3は、ハーバーボッシュ法に代わる新しいアンモニア合成技術やNOxの排出を抑制する技術を確立することである。

これらの課題を達成することは、けっして容易ではない。しかし、それを成し遂げた先には、脱炭素と安定した電力供給とが両立する素晴らしい未来が待っている。

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橘川 武郎(きっかわ・たけお)
国際大学副学長/国際大学国際経営学研究科教授
1951年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。青山学院大学助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て現職。専攻は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『エネルギー・シフト』、『災後日本の電力業』などがある。

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(国際大学副学長/国際大学国際経営学研究科教授 橘川 武郎)

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