「いじめをやめろ」は逆効果…いじめ解決のプロがいじめ加害者を改心させるために使う"あるフレーズ"
プレジデントオンライン / 2022年7月31日 15時15分
■いじめ加害者への厳罰化を子どもは望んでいない
前編に続きプロテクトチルドレンで行った「いじめに対する全国児童対象アンケート」の中から、「子どもと大人の意識がいかにズレているか」を思い知らせてくれる回答をいくつかご紹介したいと思います。いじめ問題は、往々にして大人対大人のけんかに発展してしまい、当事者である子どもの気持ちや本音は置き去りにされてしまいがちですが、そんな実態が、アンケート結果からもはっきりと読み取れると思います。
この質問に対して、もしも読者がいじめ被害を受けた子どもの親だったら、いったいどのように答えるでしょうか? おそらく「厳罰を与えてほしい」とか「うちの子から遠ざけてほしい」などと答えるのではないでしょうか。
実際、一部の教育評論家やいじめ問題の専門家と称する人々の中には、「加害生徒に厳罰を与えろ」とか「教室から追放すべきだ」などと声を上げている人もおり、そうした意見に同調する親もたくさん存在します。こうした声を受けて、自民党の文部科学部会ではいじめ加害者を学校の敷地内に入れない懲戒処分制度の創設を提案しています。
しかし、アンケート結果をご覧いただけばわかる通り、実に70%近い子どもたちが「反省して謝って欲しい」と答えているだけで、教室からの追放といった「厳罰」を望んでいるのは極めて少数に過ぎないのです。それどころか、自由回答の中には「(加害生徒を)教室の中に入れないのもいじめだと思う」といったコメントも多くありました。
いまの子どもたちは学校で、「悪いことをしたら、いじめられても仕方ない」という教育を受けていません。そして、この考え方を加害生徒にも、公平に適応しているのです。だから、「いじめをした子だから、教室から追放してもいい」とはならないわけです。
現代の子どもたちが、加害生徒に厳罰を望む親とはまったく違う感覚を持っていることが、回答からはっきりと浮かび上がってくる結果となりました。
■高校生になるといじめを止められなくなる
この回答で注目すべきなのは、高校生になると「できる」という回答が極端に少なくなる点です。中学生では約60%もある「できる」が高校生では約30%と半減しており、その代わりに「関わりたくない」が40%に増えているのです。
なぜ、このような結果になるのか大人にはなかなか想像がつきません。高校生になったとたんに、子どもたちは正義感を失ってしまうのでしょうか?
こうした変化の背後に何があるかは、自由回答を見るとよくわかります。高校生の自由回答には、「先輩ならできないけど後輩ならできる」「相手側や周りから何か言われそうで怖い」といった記述がとても多いのです。
ここから見えてくるのは、決して高校生の「ずるさ」ではありません。家族との関係よりも、むしろ友人や先輩・後輩との関係の方が、比重が大きくなっているという事実です。高校生になると、友だちとの関係の重要性が増すからこそ、いじめを目撃しても注意したりやめさせたりすることに葛藤を感じるようになるのです。「関わりたくない」という答えが多くなるのも、周囲に対して無関心になっているというよりも、周囲と良好な関係を維持したいからこそ、いじめ問題には目をつぶってしまいたいという本音の表れと見るべきでしょう。
私が相談を受けた子どもたちの多くが、「いじめに遭ったとき、友だちに助けてほしかった」と言います。ところが、「だったら、友だちがいじめられていたら助けるんだよね?」と質問すると、多くの子どもが「いじめにはなるべく関わりたくない」と答えるのです。
矛盾した答えだと思いますが、友だちのいじめ問題には巻き込まれたくない、自分を巻き込まないでほしいというのも、子どもたちの偽らざる本音なのだと思います。
■子どもたちは報復を恐れていじめを相談できない
ご覧の通り「相談した後のことが心配」という回答が多く、しかも学年が上がるに連れて多くなっています。
心配になってしまう理由は、自由回答にあるように「逆恨みが怖い」や「本当に解決してくれるか心配」など。親や教師は「いじめられたらとにかく声を上げなさい」などと言いがちですが、「声を上げた後にしっかりとフォローしますよ」というメッセージとセットで伝えないと、子どもは声を上げることさえできないという実態がよくわかる結果だと思います。
■報復が起きるのは「いじめ防止教育」ができていないため
実際、いじめられたことを先生に相談したことで、加害生徒から「お前、先生にチクっただろう」などと逆恨みをされて突き飛ばされたり、殴る蹴るなどの暴行を受けたり、あるいは無視されるようになったという事例を、私はたくさん見てきました。
さらには、加害生徒から報復を受けるだけでなく、無関係の生徒からも「あいつはチクり魔だ」といったレッテル貼りをされて無視をされるようになったという事例もあり、いじめがエスカレートするケースも少なくありません。こうした実態を子どもたちはよく知っているのから、先生や親に相談ができないのです。
報復が起きてしまう原因は、いじめを注意する先生たちが、「なぜ、人をいじめてはいけないのか」という根本的なことを加害生徒の心にしっかりと落とし込めていないことにあると、私は考えています。表面的な注意で終わらせてしまうから、逆恨みや報復を招いてしまうのです。もっと言ってしまえば、表面的な注意で終わらせてしまう先生自身、「なぜいじめはいけないか」を深く認識できていないのではないでしょうか。
いじめ防止の指導をする以上、「いじめはいけないことなのだ」という意識を子どもたちの心にしっかりと落とし込む必要があります。子どもが心からそれを理解するまで、何度でも指導を重ねる必要があるのです。
指導とは「同じことを繰り返させない」ためにするものであり、もしも、いじめが再発してしまったり、報復でいじめがエスカレートしたとしたら、先生は「自分がやったことは指導ではなかったのだ」と反省すべきなのです。
■自分の身に置き換えて考えさせる
では、いったいどうすれば、「いじめはいけないことなのだ」という意識を、子どもの心にしっかりと落とし込むことができるのでしょうか?
私は、子どもたちと直接話をするときには、怒るのではなく「自分たちに置き換えてみて」と問いかけます。「自分がされたらどう思う?」と。すると、ほとんどの子が「嫌だ」という。そうしたら、その意見に共感し「嫌だよね、傷つくよね。だったら、自分もそういうことをしないようにしないとね」と話します。
加害生徒が心から相手の立場に立って自分の行為を振り返らない限り、いじめは終わりません。逆にいえば、加害生徒がいじめられた子の気持ちになって考えることができるようになれば、報復が起きるわけはないのです。
表面的な指導がむしろいじめを助長させてしまうことを、大人たちは胸に刻んでおくべきでしょう。
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特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表
息子がいじめで不登校になり、学校や教育委員会と戦った経験から、同じような悩みを持ついじめ被害者や保護者の相談を受けるようになる。相談が殺到し、2020年に市民団体を、2021年にはNPO法人を立ち上げる。いじめ、体罰、不適切指導、不登校など、さまざまな問題の相談を受けているが、中立の立場で介入し、即問題解決に導く手法が評判を呼んでいる。相談はHPから。
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(特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表 森田 志歩 構成=山田清機)
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