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斜面地への無謀な建設が土砂崩れを誘発…すでに世界3位のソーラー大国・日本で太陽光発電所を増設するナゾ

プレジデントオンライン / 2023年5月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

日本の地方部で太陽光発電所の建設が止まらない。すでに日本には世界3位の発電能力があるが、太陽光パネルや架台は建築基準法の対象外で、設置基準すらあいまいなままだという。これ以上増やす必要はあるのか。元産経新聞記者の三枝玄太郎さんがリポートする――。

※本稿は、杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純ほか『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)の「メガソーラーの自然破壊と災害リスク 報道されない『太陽光発電』の暗部」の一部を再編集したものです。

■自宅周辺で「なぜトイレのような臭いがするの?」

2021年7月3日、静岡県熱海市伊豆山。日本列島に梅雨前線が停滞していた。当地の降水量は午後3時20分まで48時間雨量で321ミリに達し、伊豆山地区では7月の観測値としては過去最高の雨が降っていた。伊豆山に住む50代の女性は、前夜からある異常を感じていた。自宅の周囲で、鼻につく汚物のような臭いが漂っていたのだ。

「誰か、変なものを捨てたの? なぜ、こんなにトイレのような臭いがするの?」

数日前から「パン、パン、パン」という山鳴りが聞こえるのも気味が悪かった。家族と「何なんだろうか」と話していたが、原因がわからない。

7月3日の午前10時半ごろ、目の前にあるはずの家が2軒、なくなっているのに気づいた。家を出てみると、大量の土砂が家のそばを流れていた。近くに住む親類に電話をすると、その家も流されていた。身支度をしてほうほうのていで自宅から逃れた。

最も大きな土石流は、その直後に起きた4回目のものだという。赤い3階建てのビルをかすめながら大量の土石流が下流域に流れていった。初期の土石流に対応するため現場に集まっていた消防関係者が逃げ惑う姿がニュース映像として放映され、衝撃を与えた。

この証言をした女性の家も土石流に流されこそはしなかったが、かなりのダメージを受け、8月末時点でも家には住めない状態が続いている。

■太陽光発電所の建設で森の保水力が失われた

死者・行方不明者が28人(2021年8月末時点)にも及んだ熱海の土石流は自然災害だったのか。調査が進むにつれ、この土石流は人災どころか“殺人”といわれても仕方がないような実態が明らかになってきた。

静岡中央新幹線環境保全連絡会議の地質構造・水資源専門部会の委員を務める地質学者の塩坂邦雄氏は「尾根部の開発(太陽光発電施設の建設工事)を行い、今まで保水力のあった森がなくなったために(雨水が)流出したんです。

悪いことに(太陽光発電所への)進入路があるので、ここが樋(とい)のようになって(土石流の起点に)水がたまって、水が全部ここ(盛り土)に来ちゃった」との見解を示している(2021年7月6日テレビ朝日のニュース)。塩坂氏は地元紙・静岡新聞にも同様の見解を述べている。

■建てられた場所は「土砂災害警戒区域」だった

盛り土から数十メートル離れた場所に太陽光発電所があり、発電所の売電権(ID)を持つZENホールディングス(東京都千代田区)の創業者、麦島善光氏(当時85)が盛り土の現所有者だったこともあり、関連が指摘された。

もっとも、国土交通省港湾局出身で、国土交通省大臣官房技術総括審議官も務めた静岡県の難波喬司・副知事が「太陽光発電所が土石流に直接影響を与えたとは考えていない」と会見で表明したこともあり、現時点(2021年8月)でZENホールディングスが建設した太陽光発電所が土石流災害にどの程度、影響を与えたのかは定かではないが、現場となった伊豆山地区の山一帯が「土砂災害警戒区域」(一部は特別警戒区域)に指定されており、そこに太陽光発電所が造られたことは付言しておきたい。

■「電気工作物」の扱いで、建築基準法が準用されない

国立環境研究所が興味深いデータを示している。同研究所によると、日本の0.5MW(メガワット)以上の大規模太陽光発電施設の建設によって、約229平方キロメートルもの土地が改変されている実態がわかったというのだ。これはほぼ山手線内側の土地の3倍ほどの面積に当たる。また約35平方キロメートルの土地に造成された太陽光発電所は鳥獣保護区や国立公園などにあり、自然が損壊されている実態が浮き彫りになったのだ。

本来は規制されて然るべき、こうした自然公園などや急傾斜地など災害リスクの高い場所に太陽光発電所が乱立したのは、再生可能エネルギー特別措置(FIT)法が成立した当時、政権を担っていた民主党の菅直人政権の存在がある。

菅政権は太陽光発電所の設置基準などを一切示さずに規制をしなかったばかりか、太陽光発電所のパネルや架台を建築物に該当しないこととしたために、建築基準法の規定が準用されないのだ。このため法律上、太陽光発電所は「電気工作物」の扱いであり、面倒な建築確認申請も必要がない。

難波副知事の「直接的な関連性は低い」との発言のため、「メガソーラーは危険ではない」という流言飛語がネット上などで散見されるようになったが、認識不足もはなはだしい。熱海市伊豆山から山を挟んで反対側にある静岡県函南(かんなみ)町で起きた事例を挙げてみよう。

■「メガソーラーを建設するなんて非常識だ」

2019年10月12日、函南町田代にある太陽光発電施設の土砂が台風の影響で崩落しして以来、雨が降るたびに斜面を大量の雨水が滑り落ちているのを何人もの地元住民が目撃している。これらの「異常」から、太陽光発電所が原因であることはほぼ間違いないとみられている。

実はこの現場の南隣の集落、距離にして300メートルほどしか離れていない軽井沢(かるいさわ)区で敷地面積60.5ヘクタール(事業主のブルーキャピタルマネジメントのホームページより)規模の太陽光発電所建設計画があり、地元住民の激しい反対運動が起きているのだ。

伊豆半島の土質は、火山の噴火などで長年にわたって火山灰が堆積された火山灰土が特徴だ。また一帯は地下水が豊富で、半面、水が涸れてしまったり、逆に大量の湧水が発生することがある。1921年に丹那トンネルが崩落し、作業員33人が生き埋めになり、16人が死亡。24年、30年にも同様の事故が発生し、犠牲者は計67人にも及んだ。原因は大量の湧水だった。

このような地盤であることを地元の住民は誰もが知っているから、「伊豆半島にメガソーラーを建設するなんて非常識だ」と、あちこちで反対運動が起きているのである。

泥
写真=iStock.com/ognennaja
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ognennaja

■日本の地方に進出する中国系メガソーラー

ちなみに崩落事故の原因となった疑いがある太陽光発電所は、カナディアン・ソーラー系の会社が組成したファンドによる運営だ。

カナディアン・ソーラーは2001年11月に創業した歴史が浅い会社ながら、2018年12月現在、モジュール生産能力は世界トップクラス。従業員は1万4000人を数え、東京都内にカナディアン・ソーラー・ジャパンがある。もっとも、本社はカナダにあるものの、現在(2021年9月)のCEOはショーン・クーという中国・北京生まれ、清華大卒のれっきとした中国人で、ある経済サイトのインタビューによると、創業時からの主要メンバーで実質上、中国系企業といっても過言ではない。

新宿区に本社があるカナディアン・ソーラー・ジャパンも代表取締役こそ日本人だが、取締役3人のうち2人は中国系と思われる名前だった。詳しくは『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)でも紹介しているが、福島市でも中国の代表的な企業「上海電力」によるメガソーラー争奪戦が勃発している。

では今後、中国企業の日本の太陽光発電事業への影響力は強まっていくのだろうか。答えはイエスだ。

■トップ5を独占し、中国の一人勝ち状態

太陽光発電市場に関するリサーチ・コンサルティング会社である米SPVマーケットリサーチの最新レポート「ソーラーフレア」によると、中国メーカーがトップ5を独占。2020年のパネルの出荷量の67%は中国製といわれ、安価な販売攻勢に日米の先進国企業はまったく太刀打ちできず、この分野では中国の一人勝ちといっていい状態にある。

こうした「安値攻勢」に音を上げた当時のトランプ政権は2018年1月、結晶シリコン太陽電池(CSPV)の輸入製品に4年間、関税を課すことを決定した。

その後のバイデン政権はこのようなトランプ前政権の締め付け政策を緩和させるどころか、一層厳しく中国に接している。2021年6月24日、「労働者に対する脅迫や移動の制限が確認された」として、中国のシリコン製造大手「合盛硅業」からパネルの部品となるシリコンの輸入を禁止する措置に出た。中国製太陽光パネルの約64%は新疆(しんきょう)ウイグル自治区で生産されているといわれ、中国の太陽光パネルメーカーにこの措置は大きな打撃となっただろう。

習近平政権は終始、「アメリカの言いがかりだ」として反発する姿勢を崩していないが、中国製のシリコン価格はこの1年で5倍も高騰し、太陽光パネルもこれに加えて4割ほど上がっているのだという。

■「1トンにつき700円」で働かされているという報道も

公明党の山口那津男委員長(当時)は「新疆ウイグル自治区などで起きている中国政府による人権侵害行為を非難する国会決議」に終始消極的で、「証拠がない」と述べて、とうとう国会として決議を出せない事態に陥ったのは記憶に新しい。

だが、CNNの報道によれば、中国ではウイグル人の肉体労働者が1トンにつき日本円で700円という破格の安さで、「非自発的な労働を示唆する抑圧的な戦略」によって、手作業でシリコンを砕いているというのだ。強制労働なのであれば、中国製太陽光パネルが安いのは当然といえる。

ソーラーパネルの製造・加工工場
写真=iStock.com/alvarez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alvarez

さて、こうした中国製太陽光パネルの禁輸措置ないしは制限措置をアメリカが続々と打っているなか、肝心の日本は前述したように国会が非難声明のひとつも出せない状況だ。おまけに菅義偉政権(当時)は「2050年に温室効果ガスを実質上ゼロにする」とのスローガンを掲げた。

父の純一郎元首相が、東京地検特捜部に詐欺や会社法違反(特別背任)などの容疑で社長が逮捕、起訴されている太陽光発電関連会社「テクノシステム」と親しいことが知られている、小泉進次郎環境相(当時)も、「住宅の太陽光発電を義務化する」だとか、国立公園では原則、太陽光発電所の新設ができないことについて「保護一辺倒で活用が進まない」と述べ、規制を緩和させると、日本経済新聞へのインタビューに答えている。

■有害ゴミが不法投棄される「2040年問題」とは

仮に政府の方針がこのまま進めば、アメリカで禁輸もしくは制限された中国製の太陽光発電用パネルが日本に殺到することは目に見えている。日本はウイグル人の人権抑圧に間接的に手を貸すことになる。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光発電能力は2020年、日本は世界3位であり、すでに平地面積1平方キロメートル当たりの発電量では主要国のなかで最大だ。

杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)
杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)

また、現時点で、20年後に燃やすことができない太陽光パネルが「廃棄物」として大量に出ることが予想される。鉛、セレン、カドミウムといった有害物質を含む大量のゴミが日本中のあちらこちらに不法投棄される様が目に浮かぶようだ。「2040年問題」ともいえる非常に由々しき事態が必ず訪れる。しかも中小・零細企業が多い太陽光発電事業者のなかに、廃棄費用まで負担できる企業がどれほどあるかは未知数で、多くは放置されたり、不法投棄されたりするのではないかと危惧されている。

経済産業省は2022年7月から、事前に廃棄に必要な費用を強制的に積み立てさせる制度を順次スタートさせたが、遅きに失したといわざるを得ない。

静岡県熱海市伊豆山の土石流の原因となったとみられる盛り土にしても、反対運動などが激しく、新設することが難しい管理型産業廃棄物処分場の代わりに、いかがわしいゴミがそこに棄てられていたとしか思えない実態があるのではないか。

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杉山 大志(すぎやま・たいし)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員等のメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな!』(かや書房/渡邉哲也氏との共著)、『メガソーラーが日本を救うの大嘘』(宝島社、編著)、『SDGsの不都合な真実』(宝島社、編著)などがある。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。

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掛谷 英紀(かけや・ひでき)
筑波大学システム情報系准教授
1970年大阪府生まれ。93年東京大学理学部生物化学科卒。98年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。NPO法人「言論責任保証協会」代表。著書に『学問とは何か 専門家・メディア・科学技術の倫理』『学者のウソ』など。近著に『「先見力」の授業』(かんき出版)がある。

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有馬 純(ありま・じゅん)
東京大学公共政策大学院特任教授
1982年、東京大学経済学部卒業、同年、通商産業省(現経済産業省)入省。IEA(国際エネルギー機関)国別審査課長、資源エネルギー庁国際課長、同参事官などを経て、JETRO(日本貿易振興機構)ロンドン事務所長兼地球環境問題特別調査員。2015年8月より東京大学公共政策大学院教授、2021年4月より同大大学院特任教授、現職。著書に『私的京都議定書始末記』(2014年10月、国際環境経済研究所刊)、『地球温暖化交渉の真実 国益をかけた経済戦争』(2015年9月、中央公論新社刊)、『精神論抜きの地球温暖化対策 パリ協定とその後』(2016年10月、エネルギーフォーラム刊)、などがある。

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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山 大志、作家 川口 マーン 惠美、筑波大学システム情報系准教授 掛谷 英紀、東京大学公共政策大学院特任教授 有馬 純)

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