一等地の美容室はなぜ低い売上でも潰れないのか…商売を長年維持するために重視すべき"たった1つの数値"
プレジデントオンライン / 2023年5月23日 10時15分
※本稿は、玉岡一央『ビジネスで大切なことはみんな吉祥寺の焼き鳥屋で教わった』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
■大将の焼き鳥屋は「原価2割未満」を徹底
私が小学生の頃から、大将はよく「うちは原価率2割未満だから」というような話をしてくれました。
例えば焼き鳥は原価○割、飲み物は○割、おつまみは○割など……当時いっさいメモを取っていなかったのでハッキリと覚えてはいませんが、とにかく原価を2割未満に抑えていたことだけは、なんとなく記憶に残っています。
また、それと一緒に「良い材料を使って、それを安く出すことが、お店を繁盛させるわけではない」ということも、大将はよくいっていました。だから原価率を上げてはいけないというわけです。
正直なところ、子どもの頃はそんな話を聞いても、ピンと来ませんでした。むしろ内心では「美味しい料理を安く提供すれば、それが話題となって、お客さんがたくさん来るんじゃないの?」と考えていたくらいです。
■新陳代謝の激しい街で生き残った秘訣は原価率だった
ただ、成長していくにつれて、私も「どうやら大将のいっていることには一理ありそうだぞ」と思うようになりました。
というのも、吉祥寺は、新しいお店ができては消えてゆく、いわゆる新陳代謝のペースが早い街です。
その街の変化を見ていると、大将の焼き鳥屋のように長年に渡って繁盛しているお店がある一方で、新規開店して味も美味しく価格も安いのに、なぜか撤退してしまうお店があるという光景に何度も出会うのです。
それは飲食店に限らず、アパレルや雑貨店など、どんな業種でも見受けられたと記憶しています。
では、生き残るお店と消えるお店の何が違うのか?
もちろん個別のお店によって様々な原因があるのでしょうが、大きな傾向としては、原価率が低い商売ほど生き残りやすいと感じました。やはり、大将のいっていることは正しかったのです。
■原価率の高い業界では、人気店でも生き残るのは難しい
例えば、私はフリーター時代に、吉祥寺ロンロン(現アトレ吉祥寺)内にあったテクテックというスニーカーショップで働いていたことがあります。当時、業界ではかなりの有名店だったので、古くからのスニーカーマニアの方であれば懐かしく感じるかもしれませんね。
しかし、そんな有名店でも、内情は決して楽ではありませんでした(私はしょせんアルバイトだったので、経営の細かいところまでは知るよしもありませんが……)。
というのも、スニーカーの仕入れ原価は5割がほとんどなのです。少し強気なメーカーだと6割ということもありました。大将の焼き鳥屋と比べると、ずいぶん高い原価率だなと驚いた記憶があります。
しかも、スニーカーには色違いやサイズ展開もあるので、1つのモデルについて14〜15足の在庫が必要になります。在庫がないと売ることができませんから仕入れるしかないのですが、とはいえデザインやサイズの売れ方にムラがありますし、どうしても大量の売れ残りが出るのです。
そうなると、在庫品の保管場所にもお金がかかりますし、スニーカーには流行もあるので、最後はセールで大幅に割り引きしてでも売るしかありません。これがさらに原価率を引き上げます。
当時はスニーカーブームでしたから何とか成立していましたが、なかなか長続きは難しい商売だろうな、と感じたものです。
■なぜ美容室はなかなか潰れないのか?
一方で、原価率が低ければ、お店は意外としぶとく生き残るものです。
例えば、美容室。吉祥寺に限らず、人気の街に行っても、駅前やショッピングモールの良いロケーションに美容室が入っていますね。
美容室というのは、1人のお客さんをカットするのにどうしても1〜2時間はかかりますから、いくら流行っているお店であっても、1日に稼げる売上には限界があります。それにもかかわらず、なぜ立地の良い、高い家賃の店舗を借りてやっていけるのか、不思議に思いませんか?
私のサーフィン仲間に美容師がいて、その彼が独立してお店を出すことになったので、話を聞いてみたことがあります。その秘密は、やはり原価率でした。
美容室は店を借りたり内装工事をしたり、初期費用はそこそこかかりますが、オープンさえしてしまえば原価がほとんどかかりません。仕入れるのはシャンプーやトリートメント、パーマ液やパーマ用のロッドといった消耗品ぐらいで、固定費は家賃、水道代、電気代だけです。
しかも美容室というのは、いったんお客さんに気に入ってもらえれば、定期的にずっと通ってくれる常連さんになってもらえますから、そうした常連さんを一定数確保できれば集客コストもそれほどかけなくて済みます。
このような原価率の低さこそが、一等地でお店を維持できる秘密だったのです。
■安定性を求めるなら原価率が低い業種がお薦め
私が就職するにあたり不動産仲介業を選んだ理由の1つも、実は原価率でした。
そもそもフリーターを辞め正社員として就職するのは、安定した仕事に就くためです。そのためには、維持しやすい=原価率が低いビジネスを選んだ方が良いに決まっています。
その点でも、不動産仲介業という仕事は優秀でした。不動産を売りたい人と買いたい人を仲介して、成約した物件に対して手数料をもらうというビジネスですから、物件を仕入れる必要はありません。つまり、ほとんど原価がかからないのです。
ちなみに不動産仲介業に限らず、ものを売って利益を出しているのではなく、いわゆるサービスに対価を払ってもらっている仕事は、基本的に原価率が低い傾向があります。
仕事を選ぶ基準は人によっていろいろ違うとは思いますが、いずれにせよサラリーマンとして就職したいのであれば、ある程度の安定性を求めたい人がほとんどなのではないでしょうか?
原価構造というのは業界ごとに意外と違うものですから、そうした視点から仕事を選んでみるのもいいと思います。
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不動産プロデューサー、ユニバーサル・リアルティ株式会社代表取締役社長
1976年東京都生まれ。宅地建物取引士。東京の吉祥寺ハーモニカ横丁で焼き鳥屋を経営する父親の下で、小学生から家業を手伝い、目上の人と接する経験を多く積む。文化服装学院中退。様々なアルバイトを経て、結婚をきっかけに一念発起し、給与水準の高い不動産業界への転換を決意。中堅の不動産会社を経て三井不動産リアルティ株式会社へ転職。営業奨励賞5年連続受賞などの功績が認められ営業リーダーへ最短で抜擢、年収1000万円超えを実現する。
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(不動産プロデューサー、ユニバーサル・リアルティ株式会社代表取締役社長 玉岡 一央)
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