人間関係のストレスがスッキリ解消…「紙とノート」があれば誰でも今すぐできる感情整理術
プレジデントオンライン / 2023年5月31日 11時15分
※本稿は、SHOWKO『私らしい言葉で話す 自分の軸に自身を持つために』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。
■「土のもり」「筆のもり」という言い方
私が取材を受けると、仕事柄、よく訊かれる質問があります。
それは、「土や道具と、どのように対話していますか?」という質問です。
インタビューなどで聞くフレーズですが、とてもよい質問だと思います。本来、対話とは二者の間で相互に行われるものです。しかし、感情を持たない土や道具との対話とはどういうものなのか。改めて考えさせられるからです。
陶芸ではよく「土のもり」や「筆のもり」という言い方をします。
「もり」とは、子守りのことで、世話を焼くという意味で使われます。つまり、土や、筆といった道具を、使いやすくベストな状態に日々整え続けるということです。
土のもりなら、土が乾きすぎたり、どこか一部だけが乾燥したりしないよう、ひっくり返したり、ビニール袋をかぶせたり、置く場所を変えたりします。釉薬のもりなら、釉薬の水分が蒸発して濃くなりすぎないように管理する。また、筆のもりなら、筆の毛並みを揃え、書きやすいように保つ。そうした一連のお世話のことを指します。
■器を通して自分と対峙している
このように、丁寧に道具と接し、その変化を見続けていくことで、だんだんと道具に対する「愛着」が湧いてきます。最初は他と同じ筆であっても、使ううちに少しずつ特有の癖が出てきて、唯一のものに育っていきます。もし誰かが私の筆を他の筆にすり替えれば、私は間違いなく気がつきます。
土や道具との対話とは、こうした日々を重ねて、対象を「特別のものにしていく」過程です。そしてこれは、人との対話でもやはり同じことが言えるのではないでしょうか。
また、当然ですが、土や道具にいくら語りかけても返事はありません。しかし、「語らないもの」と接しているときも、そこにはいつも関係が生まれます。料理の道具、パソコン、毎日使うマグカップだって同じです。自分と道具との関係は、日々育まれています。
私はあるとき、語り返してこない器に対峙することは、器を通して自分と対峙することだと気がつきました。華道家の友人はよく「花が曲がりたいように曲がらせてあげる」と言います。ここでも自然物を通して、自己との対話がなされています。
最近では、メディテーションの一つとしてものづくりをされる方も多いと聞きます。私が不定期に開催している絵付けのワークショップでも、終わったあとに「とてもスッキリした」「座禅をしたあとみたい」という声をいただくことがあります。語らぬものと対峙するうちに、より深い自分に気がつくことができるのかもしれません。
自分との向き合い方、自分との対話の仕方、自分を知る技術について考えていきましょう。
■「出さない手紙」を書くことで感情を整理する
言葉をたくさん知ること、丁寧な表現を使うこと。
そのあとに、大切なことがあります。
「自分の気持ちを知ること」です。
その一つの方法として、「出さない手紙」を書いてみることをおすすめします。言葉を文章にすることで、心にある感情を整理することができます。
自分がいま、どんな気持ちでいるのか。悲しいのか、嬉しいのか、怒っているのか。文章にしようとすることで、心をつぶさに観察できます。
私は中学生の頃から日記を書きはじめました。公開・非公開とさまざまですが、いまはブログを書き続けています。思春期の心にあった「モヤモヤ」とした感情、それを言語化することで、やっと受け止められた。感情を整理するために書きはじめたのがきっかけでした。そのまま、いまに至っているわけです。
ところで、いま私、「『モヤモヤ』とした感情」と言いました。よく使われる言葉ですが、どんなイメージをお持ちですか? 心のなかにモヤがかかったような、景色が見えにくい状態でしょうか? もしくはふわふわとした形にならないようなものを指しているのでしょうか?
心にある感情の整理は戸棚の整理とよく似ています。
戸棚からいちどものを出し、きれいに拭きあげ、再び収納します。
■頭が感情でいっぱいになるのは「言語化」できていないから
言葉にならないモヤモヤとした感情は、立方体でも円柱でもないフワフワとした雲や霧のようなものだとイメージしてみましょう。逆に、言語化できている感情には、立方体や円柱のように、きっぱりとした形があります。明確な形があるので、戸棚のなかで、積んだり寄せたりして整理整頓しやすいものです。一方で、モヤモヤとした感情は、積みにくいし、置き場所が定まりづらく、余計な場所を取ったりします。
心や頭のなかが、ある感情でいっぱいになってしまう。
それは、その感情を、言語化できていないからです。
脳内が一つの感情でいっぱいになってしまうと、日々の活動や意思決定のスピード、方向性にも影響を与えてしまいます。
そんなときに、頭を整理するための「出さない手紙」を書きます。
仕事のトラブルや、家族とのいさかい、どうしようもない片想い、人との別れなど、感情が激しく動くとき、そのほとんどは人間関係に由来します。何か解決できていない、伝えきれていない言葉が心のなかで燻くすぶっている場合、それを吐き出さないまま、過去のことにするのはなかなか難しいのです。
だから「出さない手紙」を書いてみるのです。手紙は誰かに見られるわけではないので、何を書いても構いません。
一つだけ大切なことは、自分の気持ちに素直になること。
自分がいま、どんな気持ちなのか。どんな複雑な感情があるのか、心に向き合い、伝えきれていない何かを、自分のために、丁寧に言葉にしてあげましょう。
■「非公開」だから言語化できる
素直な言葉を綴る。
それはとても難しいことです。
ブログやSNSでも「公開」で投稿しようとするとき、つい分別のある人ぶって書いてしまうという経験が、誰しもあるのではないでしょうか?
感謝していないのに、感謝したふり。
わかっていないのに、わかったふり。
怒っているのに、怒っていないふり。
恋しているのに、恋していないふり。
心が動いているのに、動いていないふり。
これでは心は言語化されないまま、どんどん置いてきぼりにされてしまいます。モヤモヤをきちんと言語化することは、自分の感情をよく見つめるということです。言語化するために感情を整理したあとには、以前よりも自分の気持ちが理解できるかもしれません。
「非公開」のノートに書いた日記は、「自分に宛てた出さない手紙」です。
自分の気持ちを知り、理解することは、自分を慈(いつく)しみ、大切にするきっかけになります。そして、「自分の言葉」を持つ、確かな土台になっていきます。
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陶芸家
SIONE主宰、スプリングショウ代表取締役。京都で330年続く茶陶の窯元「真葛焼」に生まれる。佐賀での陶芸の修行を経て、2005年、京都で自身の工房をスタート。2009年に法人化し、「読む器」をコンセプトにした陶磁器ブランドSIONEを立ち上げる。銀閣寺の近くに直営店をオープンし、ミラノ、パリ、中国、台湾、他、活躍の幅を世界に広げている。著書に『感性のある人が習慣にしていること』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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(陶芸家 SHOWKO)
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