図書室に「古い百科事典」があったらアウト…藤原和博が教える"良い学校"を見分ける3つのポイント
プレジデントオンライン / 2023年6月16日 14時15分
※本稿は、藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■人間的魅力のある校長は「スピーチ力」がある
まともな校長に率いられた「良い学校の見つけ方」について話をしよう。
本書で述べてきたことから類推してもらえば、校長になる教員は、そつのない人だとわかるだろう。人格者だからでも、一番教養があるからでもない。どちらかといえば事務処理能力に秀でているタイプである。そんな中でも、ときに情報編集力があり、人間的に魅力のある校長もいる。
そういう人物は、入学式や卒業式での話が実に上手い。リスナーである新入生や卒業生、その後方に座る保護者を納得させる話ができる。そう、話力だ。リーダーシップがあり、マネジメント力がある校長かどうかを見分ける手立てに、このスピーチ力がある。私の実体験からして、これはかなり信頼できるアンテナだ。
だからこそ、せっかくの式辞で原稿をマル読みするのは、もったいない限りだ。聴衆だってシラケるだろう、ウソくさい! と。要点のメモを見るのはOKだが、あくまで自分の言葉で語ってほしい。なぜなら自分の言葉で語れるかどうかが、当事者意識を持って学校経営にあたっているかどうかにつながるからだ。
とはいえ、校長のスピーチを日常に何度も聴くことはできない。ならば、どうするか。
だいじょうぶ。見分けるポイントは他にもある。
■玄関、トイレ、廊下に貼られた掲示物
3つのポイントを挙げよう。
「まともな運営が行なわれているか」は、学校を訪ねたときに次の3点をチェックすればわかる。
1つ目に、学校の玄関だ。通常は下駄箱がズラーッと並んでいる。ざっと見渡せば、生徒たちの外履きがどの程度踵を踏んだ状態かもわかるだろう。思い思いのシューズで構わないと思うが、若干の乱れはあっても、全体が整然と揃っていれば、荒れている学校ではない。
2つ目に、トイレだ。綺麗に越したことはないが、古いトイレを大事に使っているかもしれない。生徒が荒れていれば、蹴りを入れられてドアが蹴破られたりもするだろう。でも、その穴が新聞紙や段ボールやベニヤ板で補修されているようなら心配ない。大人が日常的にメンテナンスしているものはたいていの子は大事に扱うようになる。逆に、放っておくと荒廃は進む。
3つ目は、廊下の壁に貼られた掲示物だ。小学校では、教室内や廊下にも絵などの制作物が掲示されているものだが、中高でも掲示物の扱いは重要だ。画びょうが取れて風にたなびいている状態であったら要注意。細かいことだが、こうしたところに学校がきちんと管理運営されているかどうかが、如実に表れる。
■校長の仕事は「管理」ではなく「マネジメント」
以上は基礎編と言えるかもしれない。
管理というのは処理仕事であり、ここまでなら教頭がしっかりしていれば、たいてい達成できる。次段階では、校長が仕事のできる人物であるかどうかがまさに問われるだろう。
校長の仕事は、「管理」ではなく「マネジメント」だ。学校の教育活動を普段通り、事故なく、つつがなく進めるのが「管理」。学校の教育活動に付加価値を付け、クリエイティブに運営するのが「マネジメント」。主として後者が、校長の役割だ。
だから、あなたがもし保護者で、自分の学校の校長の力量を見極めたいなら、次の3つの仕事をやっているかどうかで判断したらいかがだろう。
ここからはさしずめ、応用編だ。
①制服の値段の課題を解決しているか
制服問題である。ここでは要不要問題ではなく、価格問題を取り上げる。
制服がある学校では、相変わらず高価格のまま何のイノベーションも図っていないとしたら、そこは時代の流れに鈍感な場合が多い。
何重にもなった流通網を廃して、メーカー直販で生徒のスマホからの発注を行なえば、必ずコストは下がる。
「いやいや、制服は一人ひとり採寸するし、オーダー製品だから高くて当たり前だ」
もしも咄嗟にそう思うとしたら、それは誤解だ。保護者や先生のそんな常識はすぐに忘れてほしい。制服はオーダーメードではなく、既製服なのだ。つまり採寸するのは、せいぜい5つ(S、M、L、LL、XL)くらいのパターンで普通の既製服と同じようにあらかじめ作られたものから、この子にはこのサイズ、あの子にはあのサイズと、少し大きめのサイズを選んでいるに過ぎない。それでカバーできない特殊なサイズの子だけ、直している。
■「制服は高くて当たり前」は呪縛だった
「採寸する」=「オーダーメード」=「高くて当たり前」は、日本の保護者と教員のすべてにかけられた呪縛だった。そしてそれは昔話になった。今や、生徒は自分のサイズをスマホで入力して、メーカーに直接発注することができる時代だ。彼らはすでに、楽天やアマゾンやYahoo!やZOZOなど、ネットを通した購買に慣れている。
申し訳ないが、長年お世話になった小売店には遠慮してもらって直販体制を敷くことで、実際2割の価格ダウンが可能だ。私自身が「制服のスマホ発注」を実践した一条高校では、3年以上、生徒のスマホからの発注を続けているが、一件の事故もないと聞く。具体的な価格については、当時の報道記事を引用しよう。
「現行の制服(上着、冬夏のスカート・ズボン、冬夏のシャツの計5点の合計税込金額)は男子で4万7550円、女子で5万1950円。対して新制服の税込み価格は男子生徒向けのAタイプで3万7550円、女子生徒向けのBタイプで4万1950円と、それぞれ1万円安くなるという」(ハフポスト日本版/2018年3月20日付)
このシステムを共同開発してくれた制服メーカーの瀧本株式会社によると、コロナ禍で販売店による採寸が難しくなったこともあり、近年も問い合わせが相次ぎ、導入校も増えているという。
■古い百科事典や古い文学全集には要注意だ
②図書室を活用しているか
もし、あなたの息子や娘を通わせている学校の図書室に、いまだに20年、30年前に寄贈された古い百科事典が並んでいるようなら、そこに子どもを近づけてはいけない。地名をはじめ、更新されていない事実の表記だらけだからだ。
同じように、寄贈された古い文学全集も要注意だ。上下二段の細かい字の本をもはや子どもたちは読まないし、埃だらけで不衛生だ。
私は「よのなか科」の授業などで訪問した学校の図書室には、ほぼ必ず寄っている。校長が同行することもあるが、図書室に入れば瞬間的に、そこが児童生徒によく利用されている場所かどうかがわかる。司書や司書的な役割を果たす国語の先生がいくら頑張ったとしても、魅力のない図書室には子どもたちは寄りつかない。
それでも小学校の図書室はだいぶ整備が進んだようだが、中学校はどうだろう。高校には通常、専任の司書がいるはずだから、まだいいかもしれない。
■「図書室の改装」で利用者は10倍になった
和田中の図書室も、図書委員の数が1日の利用者の数と同じだった。カビ臭く、奥まった場所にあることもあり、暗かった。
情報社会なのに、これでは何とも情けない。私は一念発起し、「図書室の改装」を決めた。図書室改造の専門家である児童文学評論家の赤木かん子さんに相談して大規模に改装したのだ。予算をかけられる作業ではないので、保護者や地域社会のボランティアの方々に協力してもらい、丸4日間かけて行なった。詳細は拙著『藤原流200字意見文トレーニング』(光村図書出版)の「図書室をどう改造すれば、子どもたちが集まるか」に書いたので、興味がある方は読んでみてほしい。
ここではポイントだけ記すことにする。結果として、利用者が10倍になったのだ。のちに、この図書室改造ボランティアに参加したメンバーを中心に、地域本部に図書室の運営を委託することにもつながっていく。想像以上の広がりだった。
お母さんたちは、カーテンやテーブルクロスを既製品ではなく手作りしてくれた。端切れの生地を買い集めて、家庭科室のミシンで縫って設(しつら)えてくれたのだ。
お父さんたちは、すべての本をいったん本棚から出してから、書棚を磨いたり、A4判の自然科学書が入るようにサイズを変える改修を日曜大工のノリでやってくれた。棚の奥から、いつ紛れ込んだのか、スズメのミイラが見つかったのには皆で驚嘆したものだ。
子どもたちはその間に、蛍光灯を一つひとつ外して磨き、反射板にも雑巾掛けをしていった。ガラスも一枚一枚拭いていく。みるみるうちに綺麗になった。
■図書室を放っておく校長は信用できない
何といっても、赤木流図書館改造のキモは、不要な本を処分することだ。一気に3000冊捨てた。廃棄台帳にいちいち記入する必要はなく、「一括廃棄」と一言書けば事足りる。美術書など、貴重なものが交じっている可能性もあったので、ネットで古書を扱う業者に取りに来てもらった。廃棄本の片付けを手伝う代わりに、再販売が可能なものはどうぞネット販売して収益を得てください、とお願いした。ギブ・アンド・テイク、WinWinの関係だ。
赤木流でやれば、図書室が明るくなり、利用者も増え、司書も先生方も喜ぶことを実感したので、その10年後には一条高校でも同じ改造を試みた。
一条高校には専任の司書がいたから、「僕がまだ読んでなさそうな小説やノンフィクションで、これは読ませたい、これは素晴らしいという本があったら、紹介して」と声をかけ、未知の本を半年間に10冊くらい読めたのは収穫だった。図書室は、社会との架け橋なのだ。
そんな図書室を利用して教養を磨くことは、校長の特権かもしれない。
逆に私には、利用されない図書室を放っておく校長は信用できない。たぶん、本に興味がないのだと思う。自分で調べることも、ノンフィクションや小説を読むこともないのだろう。実際、本好きな校長には滅多にお目にかからない。
日常的に本を読まないで、どうやって教養を蓄積するのだろうか。図書室を放っておく校長は、ウソくさい!
■保健室が人気なのは“評価されない場所”だから
③避難所となる「居場所」を作っているか
カウンセラー(臨床心理士)が常駐していれば、子どもたちも心の悩みを相談しやすくなる。でも、週に1回とか2回では難しい。ましてや親の相談も受けるから、スケジュールは通常すぐに満杯になってしまう。
また、ベテランでないカウンセラーの中には、かえってケースをややこしくしてしまう例も見受けられる。さらに言えば、親が精神に異常をきたしているケースでは、カウンセラーや児童相談所のパワーだけでは解決に向けて動けない。医療や警察との連携も欠かせないからだ。その場合には、これらの専門家をチームとしてまとめるソーシャルワーカーの登場が期待される。
ただ、それ以前に私には感じることがあった。学校には、子どもたちが「成績」や「評価」から解き放たれて癒される場が少ない。息を抜ける避難所がない。だからこそ“評価されない場所”として保健室が人気になる。養護教諭は成績の評定をしないからだ。
だったら、直接担任しない校長も子どもたちの成績を評価する教諭とは違う立場だから、「ナナメの関係」からオジサンぽく迫ったら、良い関係が作れるかなと考えた。
■ドアが開いていれば入っていい「校長室の開放」
そこで私がやったのが、「校長室の開放」だ。日常的に校長室の廊下側のドアを開け放って、クラスと名前を名乗ればいつでも入ってきて良いことにした。来客があっても、私が書類仕事をしていても、ドアが開いていれば入ってきて良い、と。
始業式で校長室の開放を告知したら、その日の休み時間に早速やってきたのは3年生の女子。“斥候(せっこう)の役割”だった。「今度来た校長は、いったいどんなやつか」、品定めしに来たのだろう。たぶん、たちどころにクチコミで伝わったはずだ。今だったら、LINEかツイッターかインスタか。しかしながら、その後しばらくは誰も来なかった。お客が切れた。
そこで餌を撒くことにした。漫画を300冊ほど、校長室に並べたのだ。その後、壊れたコンピュータをバラバラに分解して黄金に輝くチップを取り出すイベントを開催したり、トランプを置いておいて簡単な手品を見せたり……様々な仕掛けを繰り出したことで、次第に給食後の昼休みのお客さんが増えていく。
■「玉手箱のような校長室」も楽しいんじゃないか
子どもたちの様子を見、ときに癒し、必要なら何らかの対処を講じるのだが、普段は黙って眺めているだけの部屋。あくまでも子どもたちの「居場所」。
4年目、5年目には、漫画を立ち読みする1年生で校長室が満員御礼になった。教室に居場所がない子かもしれない。エネルギーのある子は、給食後にはさっさと校庭に遊びに行くだろう。校長室で立ち読みしている分には、いじめられる心配もない。校長がなんとはなしに、そこにいるからだ。
小学校の校長が理科の専門なら、校長室を実験室にしても良いんじゃないかと本気で思う。大学で行なっていた研究を続けてもいい。そういう何かが起こりそうな、玉手箱のような校長室も楽しいんじゃあなかろうか。
こうして和田中では、図書室が第二の保健室に、校長室が第三の保健室の役割を担うことになった。
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「朝礼だけの学校」校長
1955年、東京都生まれ。教育改革実践家。78年東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。96年同社フェローとなる。2003~08年杉並区和田中学校校長、16~18年奈良市立一条高等学校校長を務める。21年オンライン寺子屋「朝礼だけの学校」開校。主著に『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』『10年後、君に仕事はあるのか?』など。
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(「朝礼だけの学校」校長 藤原 和博)
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