世界No.1のAI研究者も驚いたChatGPTの精度「これから起きる第3のAI革命で日本の産業はガラッと変わる」
プレジデントオンライン / 2023年6月6日 13時15分
■世界No.1に導いたAI研究者も驚いたChatGPTの登場
ChatGPTは、テキストでの質問や依頼に対して答えを「生成」するAIチャットサービスです。ChatGPTが登場したのは、2022年11月末のこと。たちまち世界中で利用されるようになり、その功罪やビジネスでの活用などについてメディアがさかんに取り上げています。
人工知能の研究や社会実装に取り組み、顔認証技術では世界No.1の評価を受けるNECでも、ChatGPTのようなジェネレーティブAI(生成系AI)の動向を注視してきました。私個人としても、昨年の夏ごろには自然言語処理の精度が著しく向上していると感じ、ビジネスでの利用・提供について社内で提案し始めていました。
正直に明かすと、実はこれほど精度が向上するとは予想していませんでした。特に日本語についてはまだまだ弱いだろうと思っていたのですが、想像以上のペースで強くなったことに、研究者として本当に衝撃を受けました。
ChatGPTが騒がれ利用されているのは、やはり多くの方が精度の高さに驚いているからでしょう。加えて、その名の通りチャットで話しかけるインターフェースであり、誰でも使えることが大きな理由だろうと見ています。少し前には画像生成AIも話題に上ったものの、専門知識がなければ利用できませんでした。ChatGPTは「AIの民主化」をもたらした点でも評価すべきだと思います。
■ChatGPTの活用用途
一方で、誰でも使いやすいがために、ネガティブな議論もあります。仕事や教育の現場で規制すべきか否か、いろんな考え方があると思いますが、私は算数の問題を解くときに計算機を使うのと同じことだと捉えています。自分で考えるプロセスを重視して学ぶべきなのか、それとも答えを出すことが求められているのか、その目的ごとに判断すればいいのです。
ビジネスの場合、ほとんどの現場では後者の考え方に基づき、実務をいかに効率よく進められるかに注目しているのではないでしょうか。NECの社内でもそのように考え、既にChatGPTの活用を始めています。言語を扱うAIですから用途は幅広く、職業・職種を問わず全面的に利用できると考えられますので、今後あらゆる業務に組み込まれていくことでしょう。
最も身近なところでは資料要約や議事録作成があり、どの企業にも共通する業務なので早く広まりそうです。また、顧客からの問い合わせ対応の自動化、営業サポートでも威力を発揮するでしょう。IT関連企業であれば、システム開発やセキュリティーでも欠かせない戦力になるだろうと予想しています。
■ChatGPTは何が画期的なのか
図表2にAIの3段階の革命とその中における生成系AIによる革命の位置づけについて示しました。
2013年ごろには、主に画像を認識する「学習系AIの革命」が起きました。言い換えると、インプットのAI革命です。
それに続いて、今まさに訪れているのが「生成系AIの革命」です。これはアウトプットのAI革命であり、具現化した代表的な存在がChatGPTなのです。
学習系AIが台頭した当時、職業が大きく変わると騒がれましたが、現実にはそれほど変わっていません。なぜなら、アウトプットまでは実現できなかったからです。今回の革命はアウトプットまでつながったからこそ、画期的なのです。そのため「生成系AIの台頭で消える職業は何か」といったことが注目されがちですが、それはつまらない論点だと思います。長い歴史の中で、例えば「飛脚」という仕事がなくなりましたが、それによって悲しむ人がいたでしょうか。それよりも、この画期的な技術をどう生かせるかをそれぞれの立ち位置で考えていくことが大切なのです。
ChatGPTが現在注目されている使い方は、言語をインプットし言語をアウトプットするLanguage to Languageの使い方です。ChatGPTは言語がベースだからこそ、カバーする産業や業務も広く、利用が進めば幅広い産業の知見(インダストリーナレッジ)がChatGPTによって集約されることになります。もちろん機密情報を漏らさない仕組みの構築が前提となりますが、高度な知識生成によってビジネスの競争力を獲得できる可能性を秘めているのです。
■第3段階のAI革命で起きること
生成系AIの革命も、AIが進化する過程の一部に過ぎません。インプットとアウトプットができる脳はあっても、その司令を受けて動く手足=ロボットや機械と明確にはつながっていないのが現状です。
今後、手足までつながるようになれば、製造、ロジスティクス、農業、介護など、あらゆる産業に与える影響は計り知れません。このときインダストリー・ナレッジの重要性が増すため、ChatGPTのようなAIもまた大きな役割を担うことになるでしょう。
そうなれば、もちろん私たちのライフスタイルや仕事は変化します。その時期を正確に予想することはできませんが、変化についてはある程度見通せます。いずれ変化が訪れるのは間違いないのだから、時期ではなく中身に注目することのほうが重要だと、私は考えています。
■日本の得意分野を発揮できるチャンス
次の革命に不可欠な手足の部分は、これまで日本が得意としてきた産業です。日本の国力低下を心配する声が高まっていますが、AI技術の進展が潮目を変えることになるのではないかと期待しています。
また、日本は少子高齢化、人口減少の局面がしばらく続きます。働き手が少ない中で社会を維持していくためにも、AIによって制御されるロボットや機械は欠かせない存在であり、窮地の日本を救う切り札となるでしょう。
■ChatGPT活用の広がり
図表3はChatGPTの用途についてまとめたものです。
ChatGPTの現在注目されている用途について、先ほどLanguage to Languageと表現しましたが、インプットは言語だけである必要はありません。例えば、データを与えて「どういう関数で近似できる?」と聞けば、「線形」と答えてくれます。データサイエンスのための統計リテラシーがビジネスパーソンに求められつつありますが、統計が苦手な人も少なくないでしょう。ビジネスでデータを味方にするのにも、ChatGPTは有効なツールになり得ると考えています。
さらに今後は、画像をインプットするImage to Languageや、センサーをインプットするSensor to Languageにも拡張していくでしょう。
例えば、機械に取り付けたセンサーから集めた数値データを基に、ChatGPTで異常点を探し出し、機械のトラブルを未然に防ぐような用途が考えられます。生産性が向上するだけでなく、現場の人手不足解消や働き方改革も期待されます。
ChatGPTはあらゆる用途で利用できるとはいっても、特にまだ浸透していない段階では戸惑ってしまうでしょう。利用を促進するためには、社内での成功事例を共有したり、利用者の不安を払拭したりする体制の構築が不可欠です。
当社では、社内のデスクワーク等の一般的な業務のほか、研究、システム開発や管理において安心して利用できるように、NECグループ専用のChatGPT環境を構築し事前申請に基づき公開しています。そして、問い合わせ内容や、問い合わせの過程で生まれたナレッジをシステムで管理しており、専門チームのサポートによりChatGPTをより良く活用できるように支援しています。
各社においてもChatGPTの可能性を引き出すための体制づくりが求められるでしょう。
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NECフェロー
1997年NEC入社。脳視覚情報処理の研究開発に従事したのち、2002年に顔認証技術の研究開発を開始。世界70カ国以上での生体認証製品の事業化に貢献するとともに、NIST(米国国立標準技術研究所)の顔認証ベンチマークテストで世界No.1評価を6回獲得。著書に『顔認証の教科書 明日のビジネスを創る最先端AIの世界』(プレジデント社)がある。
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(NECフェロー 今岡 仁 構成=加藤学宏)
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