まだ貯金を取り崩すわけにいかない…「旅行は5年後にしよう」と考える人を待ち受ける不幸
プレジデントオンライン / 2023年6月19日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『幸齢者』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「勝ち負け」で考えない
これから、つらく、がまんしてばかりの「高齢者」から、人生の後半生に幸せを感じながら生きる「幸齢者」になるために、次の「マインドリセット7カ条」を実践することが必要です。
まずは、勝ち負けで考えないことです。
人間は、何かにつけてつい他人と比較してしまいます。そのうえ、他人に負けたくないという気持ちがあるものです。
でも、勝ち負けでものごとを考えていたら、人間は学ぶことができないという一面があることをわかってください。
■答えは1つではないと知る
「これを認めたら負け」という価値観にのっとって相手の意見を否定し続けると、人間関係は確実に悪くなります。加えて、視野が狭いままに人生を歩まざるをえなくなります。
勝ち負けにばかりこだわって偏狭な考えに陥(おちい)ることは避けましょう。そうではなく、ぜひ、年をとればとるほど、「答えは1つではない」という考え方を持ってほしいと思います。
いろいろなものを受け入れることによって、年をとればとるほど知恵者になれるわけです。自分の考えを変えない以上は、年をとってもそれ以前より賢くなることはないのです。
■試してみないことにはわからないことだらけ
あれは50歳くらいのことでしょうか。私は、正解を求めて本を読むということをやめました。それ以降は、いろいろな正解があることを知るためにさまざまな本を読むという考えのもと、読書を楽しむようにしています。
ものごとには正解があると決めてかかる人は、試す前から答えがあると思っている人です。そういう人は、読書でいえば、すでに自分の中で正解が存在しているため、結局は自分と同意見の本ばかり集めてしまいます。
世の中には絶対的な正解などない。試してみないことにはわからない。そうとらえれば世界は大きく広がります。
■人生は実験だ
人生は実験なのです。実験の連続です。
今日はラーメンを食べようと決めたとしましょう。いつも行っているラーメン店は確実にうまい。それはよくわかっている。でも隣には一度も入ったことのないラーメン店がある。行列ができることもあるくらいの店だから、たぶんうまいのだろうが、自分の舌には合わないかもしれない。そう考えていつものラーメン店に入る……。
もちろん、それでいつものおいしいラーメンを食べるのもいいのですが、初めて隣の店に入って別のラーメンを食べてみるほうが、人生が開けるはずです。
「人生が開ける」という言い方は大げさかもしれませんが、隣の店のラーメンがおいしかったなら、自分の「引き出し」が増えるわけですよね。もちろんそのラーメンがおいしくないかもしれません。そのときは実験が失敗だったと思えばいいだけの話です。
実験の繰り返しこそが人生。試してみてこそ、人生の楽しみが広がっていくのです。だからこそ、この結論です。
■「かくあるべし思考」は棄てる
年をとるにつれ、少しずつ保守的な思考になっていきます。「もう年だから」「年甲斐もなくみっともない」などという言い訳を並べて、新しいことに挑戦しません。
「かくあるべし」という基準を勝手に作って、そこから一切はみ出そうとしない。そこで私は言いたいのです。
たとえば、素敵な赤い服があったとしましょう。あまりにチャーミングなので自分も着てみたいと思ったものの、「これを着たらみんなに笑われるんじゃないか」と躊躇(ちゅうちょ)する人は多いのではないでしょうか。
でも前述したように、人生は実験です。笑われるかどうかは、着てみないとわかりません。もし本当に着たいのなら、着てみればいい。「よく似合っている」「若々しくていいね」とほめられる可能性もあるのです。これは試してみないとわかりません。
■世間体という名のプライド
「かくあるべし」という思い込み――あるいはプライドといってもいいのかもしれません――が、可能性をどんどん削いでしまっていることに気がつくべきだと思います。
「かくあるべし」思考は、自分自身のプライドというよりも、世間体を気にしすぎていることが原因で発生するのではないかと思います。
「かくあるべし」=「かっこ悪いからやめよう」という思考は、高齢者の行動範囲を狭めてしまいます。「杖なんかつきたくない」「オムツなんかつけたくない」という理由で、外出をしない。「補聴器をつけたくない」から、他者との会話を避ける。
そうではなく、年をとるってこういうことだよね、と柔軟に受け止め、いろいろなことを試してみる。そういう人のほうが、楽しい後半生を手にする可能性は高くなりますし、うつになるリスクも低いのです。
■「5年後」が思い通りになるかはわからない
世間を騒がせた「老後2000万円問題」ではありませんが、高齢者や高齢者の前段階の方々が不安に思っているほど、将来経済的に苦しむことはないと思います。「老後の蓄え」を取り崩したくないためにお金を使わず、必要以上の節制に励む。そんな必要はありません。
そのお金を使っていまを楽しむことが大切なのです。「まだ貯金を崩すわけにはいかない。あと5年がまんしたら旅行に行こう」と考えても、5年後には旅行に行けなくなっているかもしれないわけです。
いまは元気な高齢者でも、突然、脳梗塞になって、明日から要介護になったりすることもあります。転んで骨を折ったら、若いころと違って治りが悪く、ずっと歩行が困難なままということもあります。
「5年後を楽しみに」と思っていても、その5年後には、体の状況がかんばしくない可能性があるということを、念頭に入れておかなければなりません。
■「いま」を楽しむ
ですから、これからは次のことを合い言葉にしてください。
いま楽しめることはいま楽しんでおかないと、あとで楽しめなくなることがある。そういう覚悟を決めることが、年をとってからは必要です。
若いころであれば、「いまはがまんして頑張れば、あとからいいことがある」と思う人のほうが、将来成功することも多いでしょう。でも、年をとってからは、もうそうじゃないよね、ととらえていいと思います。いま楽しんでおかないと損――そのようにマインドリセットしましょう。
■人と比べない
長年、高齢者医療の現場にいて目の当たりにしてきましたが、じつは認知症になっていない高齢者が、認知症になっている高齢者をバカにする言動をとることは多いのです。つまり、高齢者による高齢者差別が多いということです。
自分は同世代の人に比べて頭がはっきりしている、ちゃんと歩ける、がんにもかかっていない、オムツも必要ない……。そのように人と比べて、「自分は勝っている」と思うのです。
でも、そういう人たちも、いま勝っているうちはいいのですが、いざ老いが進んで、いわば“負けて”きたときには、自分で自分を受け入れられなくなってしまいます。そこで次の言葉を教訓にしましょう。
認知症などは、長生きをすれば、いずれはみんながかかるものです。かかるのが早いか遅いかだけの違いです。自分はあの人と比べて勝っている、などと自慢することは、少し先の自分を非難しているのと同じことなのです。
■自分で答えを出す
高齢者は豊かな人生経験を積んできました。
もちろんその年齢になるまで、多くの失敗を重ねたことでしょう。その積み重ねがいわゆる「肌感覚」を磨いてきました。自分では自覚しにくいかもしれませんが、肌感覚が研ぎ澄まされてきたわけです。そして、優れた肌感覚にのっとって出した答えは正しいと信じていいのです。
ある分野の専門家の意見を参考にすることは大切ですが、それを妄信する必要はありません。自分の体を守る行動です。最善の答えは、自分自身で考えて出せばよいのです。
あらゆることにおいて、他人がどう考えるかではなく、自分がどうとらえるかが大事なのです。自分の人生の結論は、自分で出すようにしましょう。
■人目を気にしない
最後にお伝えしたいことは、次の一言に尽きます。
じつはこのフレーズは、マインドリセット全般に関わる最も大事なことだといっていいでしょう。
勝ち負けでものごとを考えたり、「かくあるべし思考」にがんじがらめになったりするのも、言ってみれば人目を気にしすぎるからです。他人は他人、自分は自分なのです。自分のことは自分で決めるためにも、人目を気にしすぎることはやめましょう。
もちろん犯罪行為はいけませんし、人に迷惑をかけることは慎みましょう。でも、そうでないなら、自分がやりたいことをやればいい。
■70歳からは自己満足、やりたい放題、大いに結構
自己満足は悪いものであるかのように思われがちですが、それは間違いです。自己満足ほど幸せな状態はないのですから。それで幸せホルモンであるセロトニンが分泌されれば、健康かつ若々しさを保つことができます。
性愛についても同様です。
恋人ができたなら、仲よく手をつないで歩けばいいと思います。「年甲斐もなく」といった人目など無視すればいい。
かつて歌人の川田順が「墓場に近き老いらくの/恋は、怖るる何ものもなし」と詠んだように、高齢者の恋は怖いもの知らずでよいのです。
人目を気にすることが、高齢者の行動を制限していると思います。ここは「70歳からはやりたい放題」とマインドリセット。人目は気にせずに、やりたいことをやる。
それが残りの人生を豊かにする秘訣だと思います。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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