「一人暮らしはさみしくてかわいそう」は大きなお世話…ベテランの独身ほどそう嘆息しているワケ
プレジデントオンライン / 2023年6月19日 14時15分
※本稿は、和田秀樹『心が老いない生き方』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。
■定年を迎えると心を圧迫するものが一気に消える
職場には長い年月、積み重ねてきた人間関係があります。
朝から晩まで続いてきて、しかも上下関係でもありますから心を圧迫してきたのは間違いないことです。
それが定年でいきなり、すべて消えてしまいます。
同時にノルマや責任といったものも消えます。これも心に圧し掛かってきたものでしたから、とてつもない解放感が生まれるはずです。
もちろん働きたい人は働き続けることができます。再雇用でも再就職でも、仕事をするだけなら70代になってもほとんどの人が続けることができます。
でもそこで生まれる人間関係や、ノルマや責任もかつてに比べれば小さなものでしょう。基本、自由になったことには変わりないのです。
ところがそのことに気がつかなかったり、居場所がなくなった心許なさだけに捕まってしまう人がいます。むしろそういう人のほうが多いでしょう。それどころか不自由になったと感じる人さえいます。
■身体的な老いが心の老いにつながってしまう
体力が落ちて行動半径が狭くなった。
健診の数値が高めで食事の制限や薬の服用が増えてきた。
耳が遠くなったり視力が衰えて不便が増えてきた。
挙げていけばいくらでも出てきますが、身体的な老いは不自由を感じさせることが多いのです。
するとどうしても、閉じこもって暮らすようになります。少しも自由ではありません。
でもそういうのはすべて身体の不自由です。90代になって本格的な身体の不自由を実感するならともかく、まだ元気な70代のうちに「もう70過ぎたんだな」と老いたことを嘆いて暮らすようになってしまいます。
つまりここでも年齢呪縛、心の老いに捕まってしまうのです。
いままでの自分を束縛してきた組織や人間関係から自由になれたということは、それだけでも解放感に浸っていいことです。大きく背伸びして「さあ、今日から自由だぞ」と喜んでいいはずです。
小さな不自由が増えたとしても、大きな自由が手に入ったのですから、そのことをまず喜ぶこと。それさえできれば、「さあ、これから何をしようか」とワクワクしてきます。これだけでも心の若さを失わずに生きていけるのです。
■友だち関係だって心の枷には違いない
高齢になって人間関係から自由になれるというのは、結構、冷酷な面もあります。
たとえば長い付き合いの友人とか遊び仲間のように、心の自由を束縛しない人間関係も少しずつ途切れていくからです。
顔を合わせる機会が少なくなり、病気をしたり身体が不自由になる仲間が増えてきます。いまはもう年賀状だけのつき合いという友人がだんだん増えてくるのが老いの現実でもあります。
でもこれは仕方ありません。ぽつりぽつりと欠けていく人間関係は長く生きていれば当然、出てくるし、そのかわり、長く生きていれば新しい人間関係も生まれてくるからです。
ただここで、はっきり申し上げたほうがいいと思うことがあります。
友だちとか遊び仲間のような、気の置けない人間関係だって心の枷には違いないということです。
そもそも若いころから(子どものころから)、友人が少ないとか仲間がいないというのはコンプレックスの原因になっていました。友だちの多い人間は人柄も良くてみんなに信頼されているとか、コミュニケーション能力があるから世の中に出ても成功すると思われてきました。
■「仲間がいっぱい=幸せな高齢者」なのか
それに比べて友だちがいないというのは、わがままだったり冷淡だったり、あるいは能力が劣っていたりするからで、恥ずかしいことだと受け止める人が多かったのです。
ここでも協調性とか、人柄の良さとか、つまり自分の意見や考えにこだわるより周囲に合わせることのほうが大事だと思われてきたのです。
この傾向は高齢になっても続きます。
周囲に仲間がたくさんいたり、人脈が広くてみんなに信頼されているのが幸せな高齢者というイメージがあります。
その逆が孤独な老人です。友人や仲間が少ないとか、誰も寄り付かないとか、そういう人は性格も偏屈で協調性もなく、孤独だからますます性格が悪くなると思われがちです。
でもわたしは、こういう見方は一面的すぎると考えています。
友人や仲間が少なくても、自由に生きている人がいるからです。周囲に合わせないで自分のやりたいことをやって暮らしを楽しんでいる人ならいくらでもいます。
「あの人は友だちが少ないし、人脈もない」とか「変わっているから誰も寄り付かない」と思われている人が、じつは誰にも気兼ねせず自分の人生を伸び伸びと楽しんでいるかもしれないのです。
■いまさら友だちの数なんか気にしなくていい
つまり老いたらもう、友だちの数なんかどうでもいいということです。自由に何でも話せて、楽しいつき合いができる友人が一人でも二人でもいるならそれで十分だと考えたほうが、友人の数や交際範囲の広さにこだわるよりはるかに気楽に生きていけるような気がします。
それに高齢になるということは、周囲から友人が一人、また一人と欠けていくということです。自分より年上の人がいなくなり、同世代も欠けていきます。夫婦であってもどちらかに先立たれ、子どもたちとも次第に疎遠になっていきます。
あるいは自分が不自由になって、外出できなくなったり集まりに顔を出せなくなったりもします。望まなくても友人と疎遠になることだってあるのです。
そういうときでも、友人の数やつき合いの広さを自慢する人は孤独感に包まれることになります。「いよいよ一人ぼっちになったなあ」と寂しくなります。でもその「一人ぼっち」と引き換えに初めて本物の自由が手に入ったと思えばいいような気がします。
■拘束し合わない新しい人間関係が生まれる
こう書くとわたし自身、何だか悟りきった人間のように思われそうですが、「そのときはそのとき」という覚悟はできます。孤独は寂しいとわかっていても、いままでに経験したことのない自由の感覚が生まれるだろうなという楽しみもあるからです。
それからまるっきり一人になってもそのままではありません。
いったん周囲の人間関係が消えてしまうということで、新しい友人ができたりいままでなかった場所に新しい人間関係が生まれてきます。先ほど挙げた組織に縛られない仕事やボランティア、自分で考えて生み出す収入の道でも、お互いを拘束しないで張り合いを共有し合う関係が生まれることになります。
とにかく自宅に閉じこもって一人で暮らさない限り、そこに何らかの人間関係は生まれてくるのですから、「一人ぼっち」というのはあり得ません。
むしろ友人の数や人脈の広さを自慢にして、その中だけで生きてきた人のほうが「一人ぼっち」になりがちでしょう。高齢になればどうしても友人の数も人脈も乏しくなってくるからです。
老いればどうせいつかは孤独になります。その孤独がもたらす自由の気楽さを恐れるより、組織や人間関係に縛られない生き方を少しずつ実践していく気持ちになってください。
■一人で飄々と生き、面白おかしく老いていく
都会でも地方でも、一人暮らしの老人は大勢います。
「寂しいだろうな」
「家族もいないのは可哀そうだな」
「何もかも一人でやるんだから大変だろうな」
ついそんな同情の眼で見てしまいがちですが、本人はどんな気持ちだと思いますか?
たとえば地方の古い家に住むおばあちゃんです。夫に先立たれ、子どもたちは遠く離れた都会で暮らしています。孫を連れておばあちゃんのもとに帰ってくるのは年に一度か二度、お盆と年末年始、くらいなものです。
寂しくないのか?
寂しくなんかありません。隣近所にも同じ境遇の仲良しがいるからしょっちゅう、顔を合わせてお茶を飲んでいます。自分が高齢になってみると、同じような境遇の同世代にいままで感じなかった親しみが自然に生まれてくるのだそうです。終(つい)の友だちという感覚です。
一人暮らしは可哀そう?
本人は自分を可哀そうとは思っていません。誰にも気兼ねしないで、朝起きて夜寝るまで、自分のペースでゆったりと暮らせるのです。のびのびと、心底くつろいで暮らしている老人がほとんどです。
一人じゃ大変?
一人暮らしはできることをやるだけです。夫あるいは子どものための家事というのは、「なんと世話の焼けたものか」と一人になって気がついたそうです。たまに子どもたちが帰ってきて賑やかになると、「早く一人に戻りたい」と思うそうです。
一人でものんびり朗らかに暮らしている高齢者に共通するのは、自分の老いを面白おかしく受け止めているということです。
「ほんとにもう、すぐに忘れてしまうなあ」
「一日はあっという間に終わってしまうけど、その割にボーッとしている時間がほとんどだな」
「90歳は卒寿か、人生卒業か、なんにも卒業できてないな」
そんな調子でため息つきながらも、日々、飄々と生きている一人暮らし老人が多いのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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