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「あると便利」から「ないと大変」に…岸田政権のマイナカードの進め方が「どう考えても不誠実」と言えるワケ

プレジデントオンライン / 2023年7月13日 14時15分

出典=デジタル庁広報資料のリーフレット

マイナンバーカードをめぐるトラブルが多数報告されている。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「岸田政権はポイントと保険証の『アメとムチ』で強引にマイナンバーカードを普及させようとしている。これは岸田政権の『聞く力』とは真逆を行くものだ」という――。

■マイナンバーカードで支持率を落とした岸田内閣

岸田内閣の支持率が、各種世論調査で軒並み急落した。6月23~25日に新聞各社の調査が行われたが、日本経済新聞の調査では39%で、前回調査比8ポイントの下落。読売新聞の調査では41%と、実に前回比で15ポイントもの急落だった。5月に岸田文雄首相の選挙区・広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で上昇した分を、完全に食い潰している。

最大の原因として指摘されているのが、マイナンバーカードをめぐる問題だ。コンビニエンスストアでマイナンバーカードを使って住民票などを発行する際に、誤って別人のものが交付されたり、国の給付金などを受け取る口座を関連づける際に本人以外の口座を登録していたりと、連日のようにトラブルが報じられている。日経新聞の調査によれば、こうしたトラブルへの政府の対応は「不十分だ」との回答が76%。読売新聞の調査でも、政府が適切に対応していると「思わない」と答えた人が67%にのぼった。

7月5日には衆院の地域活性化・こども政策・デジタル社会形成特別委員会で、この問題に関する閉会中審査が行われたが、野党から「マイナンバー制度を進める一番の障害は河野太郎デジタル相」と言われるありさま。国民の不安は軽減するどころか、むしろ募る一方だ。

トラブルがあまりにも頻発しているので「トラブル対応に右往左往して、ごく普通の行政能力さえ持てない岸田政権」という点に大きく焦点が当たっている。だが、それだけではない。「行政能力の欠如」もさることながら、「アメとムチ」を駆使して国民を追い詰めるような形でしか自らの施策を進められない岸田政権の「国民との対話能力の欠如」も、支持率急落に大きく影響していると考える。

■「行政能力の欠如」が露呈した

最初に「行政能力の欠如」について、少し述べておきたい。

政治が何らかの新しい施策を手がける時には、国民の不安を最小化するため、十分な周知期間を設けるなどして、行政の現場の混乱を最小限にとどめるよう目を配るのは当然のことだ。特に政権を預かり、行政を担っている側は、派手な立ち居振る舞いで自分自身にスポットライトを当てようとする前に、まず「当たり前の地道な仕事を普通にやれる」ことを大切にすべきなのは言うまでもない。「行政能力がある」とはそういうことだ。

しかし、今回のマイナンバーカード問題では、岸田政権が無理な要求によって自治体に多くの負担をかけ、結果としてミスを多発させている。

■地方交付税をちらつかせて自治体をあおる

「作るも作らないも個人の自由」であるはずのマイナンバーカードの交付を促進させようとすれば、事務負担がかかるのは地方自治体だ。国の施策によって自治体に大きな負担がかかることのないよう、最大限の気を配るのが政権の役割のはずである。

ところが岸田政権は、地方自治体ごとのマイナンバーカードの交付率を、地方交付税の額に反映させる方針を打ち出した。カードの交付率が高い自治体に対し、国から交付税増額という「アメ」をちらつかせることで、国の施策の実現に向けた自治体の「忠誠度」を競わせたのだ。交付率上位の自治体ランキングの発表まで行い、自治体をあおり続けている。

地方交付税は、国から地方自治体への「施し」ではない。各自治体の財政力に差があっても、教育や警察などの公的サービスに格差が生じないよう、国が自治体の財政力を調整するため、人口や面積などに応じて支出しているものだ。そんな交付税を「国の施策を忠実に実施するかどうか」で自治体を「評定」する目的に使い、配分に格差をつけるのは「国と地方の関係を『上下・主従』から『対等・協力』に変える」という地方分権改革の理念を全く無視したやり方と言える。

こうして岸田政権が地方自治体に対し普及促進をあおったことが、自治体に過重な負担を負わせ、トラブルの続発につながっていることは否定できない。

■トラブルは「自治体のせい」と責任転嫁

岸田政権は今になって、ようやくトラブルの総点検に乗り出したが、河野デジタル相は7月2日のNHKの番組で「マニュアルが徹底されていれば(情報の誤登録など)ひもづけの誤りは起きない」などと述べた。まるで一連のトラブルは「自治体のせい」であるかのような言いぶりだ。自治体にトラブルを起こさせないように十分な対応を取るどころか、逆にトラブルを誘発させるようなまねをした政権自身の責任を顧みる姿勢が、まるで感じられない。

これはマイナンバーカード問題に限らない。第2次安倍政権以降の自民党政治は、政権与党や与党もどきの政治家が、何か「大きなこと」を吹いて「やってる感」を演出し、そのくせ面倒な実務は霞が関や地方自治体のお役人に無茶ぶりして丸投げし、いざ実務がうまく回らないとすべて彼らのせいにして、自らの責任には口を拭う、というパターンが定着している。

自民党の大先輩である竹下登元首相の言葉「汗は自分でかきましょう、手柄は人にあげましょう」の真逆を行っているわけだ。特にコロナ禍以降、この傾向はさらに強くなっているように思えてならない。

■保険証の一体化は「国民への脅し」

岸田政権が自治体との丁寧な対話を行うことができず、交付税という「アメ」で釣るようなやり方で自治体を駆り立て、トラブルを続発させたのが「行政担当能力の欠如」だとすれば、もう一つの問題点である「マイナンバーカードを健康保険証と一体化させ、現行の保険証は廃止する」という動きは、国民との「対話能力の欠如」という話だ。多少強い言葉になるが、これは「国民を『脅す』ことで政策を進めようとする政治」だと言える。

政府は当初、カード取得者には最大2万円分の「マイナポイント」を付与することで、カードの普及促進を図ろうとした。「作るも作らないも個人の自由」であるマイナンバーカードの普及を進めるためには、マイナポイントという「アメ」で国民を釣るしかない、ということだったのだろう。「取得するかしないかはあなたの自由ですが、取得すればおトクにお買い物できるので、政府としては取得をお勧めしますよ」というわけだ(これが税金の使い道として妥当かどうかは、とりあえずここでは置く)。

そんななかで打ち出された「現行の保険証廃止」方針は、それまで「アメ」を配っていた岸田政権の、唐突な「手のひら返し」と言える。マイナポイントのように「マイナンバーカードを保険証として使えて便利」とメリットを強調して取得を促すやり方から一転、今度は「これまでの保険証は使えなくなる」と国民を「脅し」にかかったのだ。

「アメ」から「ムチ」への華麗なる転換。岸田政権は、マイナンバーカードに不安を持つ国民に対し「保険証廃止」というさらに大きな不安を突き付けることで、強引にカード取得の方向に追い立てているわけだ。

マイナンバー情報総点検本部の初会合で発言する岸田文雄首相(右端)。同2人目は河野太郎デジタル相=2023年6月21日、首相官邸
写真=時事通信フォト
マイナンバー情報総点検本部の初会合で発言する岸田文雄首相(右端)。同2人目は河野太郎デジタル相=2023年6月21日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■「あると便利」から「ないと大変」へ

多額の税金をつぎ込んでマイナポイントを喧伝し、国を挙げて普及促進を進めても、国民が「便利になるからカードを作ろう」という気持ちにならないのは、どう考えても岸田政権の施策の進め方の失敗である。

だが、彼らは自らの失敗を認めない。むしろ「普及が進まないのは国民のせい」と考える。マイナポイントという「アメ」をぶら下げても国民が動かないなら、今度は「ムチ」を振りかざし、事実上強制的にカードを作らせようとする。「持っていれば便利」ではなく「持っていないと大変」という状況に追い込んで、国民を国の意向に従わせようとする。

■自民党にはびこる「誤りを認めたら負け」思想

筆者自身はマイナンバーカードと保険証の一体化にほとんどメリットを感じていないが、百歩譲って「マイナ保険証」がそんなに必要だというなら、岸田政権はなぜ真摯(しんし)に国民と向き合い、説得することをしないのだろうか。国会で、記者会見で、全国での車座集会などの方法で、一体化の意義や、国民の不安を解消するすべについて、言葉を尽くして説明しないのだろうか。

そういう丁寧な「説得」の手続きをすっ飛ばして「ポイントで釣る」とか「保険証を取り上げて脅す」とか、両極端な手法で国民を「誘導」し「操作」する。そんな形でしか政治の進め方を知らない岸田政権の現状に、ただあ然とするしかない。

前述した竹下元首相の時代、というより、55年体制当時の自民党には、金権政治などさまざまな問題はあったとはいえ、少なくとももう少しは、こうした国民の不安や不満を「聞く力」があった。国民の批判が大きければ、時には政策を修正したり止めたりすることもあった。今の自民党にはそうした姿勢がない。「少しでも誤りを認めたら負け」と言わんばかりに、一度決めたら無謀に突き進むだけだ。

■「聞く力」はあって当たり前

岸田首相は何かにつけて「聞く力」と声高に叫んでいるが、それはむしろ「聞く力」がないことの証左である。「聞く力」など政治家にとっては「あって当たり前」のものであり、本当に「聞く力」を持つ人は、わざわざそんなことを改めて口にはしないものだ。

岸田首相は今になって健康保険証について「全面廃止は国民の不安払拭のための措置が完了することが大前提だ」などと述べ、廃止時期を延期する可能性を示唆したが、それで「聞く力」を発揮したつもりでいるのなら、大きな間違いだと言っておきたい。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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