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なぜ大谷翔平はメジャー屈指のホームラン打者になれたのか…これまでの日本人選手との決定的な違い

プレジデントオンライン / 2023年7月12日 13時15分

ホワイトソックス戦の4回、同点ソロ本塁打を放ちベンチで迎えられるエンゼルスの大谷翔平=2023年6月27日、アメリカ・アナハイム - 写真=時事通信フォト

米メジャーリーグ・エンジェルスの大谷翔平選手が絶好調だ。今年6月は、日本選手と球団の月間最多記録となる15本塁打を放ち、自身3度目の月間MVPを獲得した。活躍の背景にはなにがあるのか。ライターの広尾晃さんが、元プロ野球選手で野球指導者の根鈴雄次さんに聞いた――。

■メジャーの歴史を変え続ける大谷翔平

まさに前代未聞だ。大谷翔平は日本野球だけでなくメジャーリーグの常識さえも覆しつつある。

2020年にア・リーグMVPを受賞、昨年は、唯一無二の「二刀流」で頂点を極めたかと思ったが、今季は打者として本塁打王、いや三冠王が狙える位置にある。さらに投手としても最多奪三振でリーグ2位(7月5日時点)で、投手最高の栄誉であるサイ・ヤング賞の可能性も見えてきた。

なぜ、今シーズンこれだけの結果を残せているのか。筆者は、日本で最もメジャーリーグの打撃を知ると言われている根鈴(ねれい)雄次氏に、大谷の今シーズンの活躍の理由を聞いた。

■6年前と比べて1.5倍身体がデカくなっている

根鈴氏は法政大学野球部出身で、卒業後の2000年、単身アメリカに渡る。モントリオール・エクスポズ傘下でAAAまで昇進するが、ケガや不運もあって昇格できず。もし根鈴氏がメジャーに昇格していたらイチロー、新庄剛志(ともに2001年メジャー移籍)に先立つ「日本人初の野手のメジャーリーガー」になったはずだった。

エクスポズ傘下を退団した根鈴氏は、米独立リーグ、メキシカンリーグなどでプレーののち帰国。日本の独立リーグを経て引退、2017年横浜市内に野球塾「アラボーイベースボール・根鈴道場」を設立した。

根鈴氏の元を訪れる選手はアマ~プロと幅広い。横浜市内にある「根鈴道場」にて。
筆者撮影
根鈴氏の元を訪れる選手はアマ~プロと幅広い。横浜市内にある「根鈴道場」にて。 - 筆者撮影

根鈴道場には小学生から大学生まで多くの野球選手が通っている。その多くは「甲子園よりメジャー」志望だ。またプロではオリックスの杉本裕太郎選手が2020年オフに根鈴道場に通い、パ・リーグの本塁打王を獲得。昨年オフはロッテの藤原恭太選手が根鈴道場に通った。根鈴氏は、今年の大谷の大活躍をどう見ているのだろうか? (以下、「」内はすべて根鈴氏)

「大谷選手はMLBに移籍して6シーズン目ですが、最初の頃に比べてフィジカルが全然違いますね。大げさに言えば1.5倍くらい身体が大きくなっている」

■「やっぱりフィジカルだな」

「松井秀喜選手を観にアメリカから来たスカウトを横浜スタジアムにアテンドしたことがあります。

『彼はパワーヒッターか?』と聞かれたので『日本ではそうだ』と言いましたけど、当時のヤンキースでいえばジェイソン・ジアンビとか、日本にはいないスゴい打者がいる。そんな中で成績を上げないといけなかった。

松井選手はアメリカに渡る時、すでに29歳になっていましたから、ゴロキングだとか言われながらも反対方向に打ったりして何とかアジャストしていった。

でも大谷選手はもっと若くアメリカに渡った。そして目の前にマイク・トラウトがいた。移籍当時はアルバート・プホルスという大打者もいた。

大谷選手はそうした大打者からメジャーに生き残る知恵を学んだと思う。そして、生き残るためには『やっぱりフィジカルだな』と分かった。

それも日本の選手が『肉体改造だ』ってオフの3カ月ほど筋トレするような短絡的なものではなくて、6年間絶え間なく鍛え上げて、今の身体を作った。もちろん、今も鍛えていると思います」

カリフォルニア州アナハイムのメジャーリーグ野球チーム、エンゼルスタジアムの正面玄関
写真=iStock.com/USA-TARO
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/USA-TARO

■チームメイトであるトラウトの存在

ここで、近年のMLBで起こっている「変革」について、簡単に説明しよう。MLBでは統計学に基づく情報戦略(セイバーメトリクス)によって、打球の方向性を予測して守備位置を変更する「極端な守備シフト」が流行、打者の成績は急落した。

それに対抗するために編み出されたのが「フライボール革命」だ。「投球に対して一定の角度(バレルゾーン)、一定以上のバットスピードで打球を打つとホームランになる確率が上がる」というシンプルな理論。これを実践する選手が続出し、投打のバランスは再び変わった。

「大谷選手は『フライボール革命』をちゃんと理解しています。単にフライを上げるのではなく『バレルゾーン』が大事だということも。

2018年にこの理論を本格的に実践した一人が大谷選手のチームメイトだったマイク・トラウトでした。彼はそれを見ていた。移籍した当時の大谷選手は打席ではまだ足を上げていて『投手としてはすごいけど、打者としては高校生』なんて批評家に言われた。それをノーステップに変えてメジャーの投手に食らいついていった」

■賞賛すべき大谷の才能

打席で足を上げないノーステップ打法は、「フライボール革命」に対抗するために投手が変化球を多投し始めたことに対応して広まった。重心の移動が難しいが、変化球に対応するためには必要な技術だ。

「『フライボール革命』だけではなく、自分に足りないものを吸収するためには、日本で積み上げてきたものを平気で壊すことができる。そして目の前にすごい選手がいれば『なんでだろう』と思ってすぐにマネをすることができる。これってやっぱり才能ですね」

■バットのメーカーを変えたワケ

さらに、大谷翔平は今シーズンから、昨年よりも1インチ(2.54cm)長い34.5インチ(87.5cm)のバットを使用している。重さは前年と変わらない32オンス(907g)。メーカーもアシックスからアメリカのチャンドラー製にスイッチした。

「チャンドラーは、昨年62本塁打でア・リーグの本塁打王、MVPになったヤンキースのアーロン・ジャッジが使っているバットです。

大谷選手はオールスター戦などでジャッジと会話しています。『どんな練習しているのか?』とか『どういうイメージで打っているのか?』とか聞いたと思います。

使っているバットを一気に2.5cmも伸ばすなんてことは普通、あり得ない。これまで短いバットで積み上げてきた実績をひっくり返すようなものですから。普通はもっと長さや重さを微調整するものです。でも、大谷選手は『別物の感覚』が欲しくなったのでしょう」

■120キロのベンチプレスを軽々と

根鈴氏は、バットを持ち換えた背景には、昨年オフのさらなる肉体改造があったのではないかと話す。

「年輪のように1年刻みで計画的にフィジカルを上げていった。それに伴って、バットも持ち替えたと思います。

このオフの大谷選手は、120キロのベンチプレスが(ウオーム)アップだったと聞きました。そんな選手日本では見たことがない」

ジムでベンチプレスを上げている男性
写真=iStock.com/South_agency
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/South_agency

「その強力な出力で去年のバットを振ったら、スイングは速いけど、ボールと出くわさない。大人がプラスチックバットを振るようになってしまう。

彼の体力なら、ボールとバットがいい角度で当たったらフルスイングしなくても100メートルくらい普通に飛んでいく。そこまで筋力がアップしたから、バットもシフトするべき時期だったということでしょう。それがドンピシャのタイミングだった」

■ミスショットでもホームランになる

バッティングの技術はどう進化したのか。

筆者は大谷翔平が移籍した2018年オフにも根鈴氏に話を聞いている。この時、根鈴氏は「反対(左打者の場合、中堅から左翼)方向の本塁打を打ったことで、メジャーでも評価された」と話していた。

「最近もセンターや左方向にホームランが出ている。左投手のスライダーを逆方向に140メートル飛ばしたホームランもあった。あのスイングが大谷選手のデフォルト(標準、基準)になっているのでしょう」

バットの芯に当たって思い切り振れば、右方向の引っ張りの本塁打が出る。しかしメジャーでは変化球が多いので、それだけでは本塁打は増えない。

「多くの人はみんな引っ張って飛んで行ったホームランに注目するけど、大谷選手は『バーティカルスイング』もできる。この打法はボールとバットが当たる面積が大きい」

バットを横ではなく縦に出すバーティカルスイングは、トラウトなどMLBの強打者の打撃スタイルだったが、「フライボール革命」以後、注目されるようになる。

横方向でバットを当てるよりも、下からバットを振り上げる「バーティカルスイング」の方がボールとバットが当たる面積が大きい
筆者撮影
根鈴氏が実演する「縦のスイング」。インパクト時のバットが縦になることで、ボールとバットが当たる面積が大きくなる。 - 筆者撮影

日本ではバットを地面と並行になるようにスイングするレベルスイングや、バットを上から下方向に振り下ろすダウンスイングが長く主流だが、大谷はバーティカルスイングで本塁打を量産している。

「手が長くてバットも長くて、パワーもある選手が縦にバットを出していけば、多少のミスショットでもスタンドまで飛んでいく。普通の選手ならライト前ヒットのところが、ホームランになってしまう」

■大谷が小顔に見える理由

「今年の大谷選手は、以前より顔が小さくなったように見えます。それは、上半身、特に僧帽筋など首周りの筋肉が大きくなったからでしょう。まるでガンダムみたいな身体になった。

大谷選手はトレーニング方法も、早くから本場アメリカのやり方を学び、それを実践しています。日本には優秀なトレーナーはたくさんいるけども、自分自身が大谷翔平よりガタイが大きいトレーナーってめったにいない」

WBCでチームメイトになったヤクルトの村上宗隆は、目の前で見た大谷の肉体の大きさ、そして打撃練習でのスイングのスゴさや飛距離にショックを受けたと報じられた。

「目の前で大谷選手を見て、村上選手も数カ月で追いつけるようなものではないことに気付いたのでしょう。でも、村上選手は23歳と若いのだから、今からトレーニングを始めればいい。そしてできるだけ早くアメリカに行った方がいいですね」

■35歳までは成績を伸ばす

大谷翔平は7月5日に29歳になった。メジャーリーグ選手全体の平均年齢は28.6歳前後だから、もはや若手ではなくベテランの領域になりつつある。今後はどうなっていくか。

「年齢とともに試合での出力は年々落ちていくと思いがちだけどそうじゃない。

ダルビッシュ有選手が『18歳の自分は時速150キロのボールを投げるのに80%の力で投げなければいけなかったが、筋力の総量を年々上げていくと30歳ころには20%くらいで投げられるようになった』と言いましたが、トレーニングを積んで年々筋力をつけていけば、燃費が良くなっていくのです。

試合での疲労度も下がるし、うまくケアすれば回復も若い頃より早くなる。それを考えると大谷選手は35歳くらいまでは成績を伸ばすのではないでしょうか。

今、トレーニングや栄養管理について、大谷選手にアドバイスができる専門家って、日本にはほとんどいないでしょう。もちろんここまで専門家のサジェスチョンはあったでしょうが、彼は自分の身体について徹底的に知り抜いて、自分なりのトレーニング法を作り上げ、身体を作ってきた。大谷選手が本当にすごいのはそういう部分ですね」

■大谷に唯一心配していること

根鈴氏の話を聞いていると「『天才』とは努力を継続する才能がある人のことだ」という言葉が浮かんでくる。

23年前にメジャーリーグを目指して単身渡米した根鈴氏は自らの経験に照らして、大谷翔平の天賦の才に加えた努力のスゴさ、それを継続できる精神力に、心底から感嘆しているのだ。

大谷翔平の才能と努力は、根鈴道場に通う若者をはじめ、自分の足で歩こうとする多くの若者を大いに鼓舞するだろう。

ただ一つ、厳しい競争社会であるMLBでは、不慮のアクシデントも多い。つい先日も僚友のマイク・トラウトが負傷者リスト入りした。大谷はすでにトミー・ジョン手術の洗礼を受けているが、今後、大きなケガ、故障がないことを切に祈りたい。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)

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