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売春で妊娠したと偽り、「トータル2000万円」を稼ぐ…立ちんぼに群がる男たちが知らない「頂き女子」の闇

プレジデントオンライン / 2023年7月27日 15時16分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

路上売春を続ける女性の語る「境遇」は真実とは限らない。ノンフィクションライターの高木瑞穂さんの著書『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋し、横浜市内の高級住宅街で生まれた31歳の舞台女優・琴音さんのケースを紹介する――。(後編/全2回)

■高級シティホテルに宿泊する街娼

(前編から続く)

「ねえ、高木さん、いま歌舞伎町? なら、私、西新宿の京プラ(京王プラザホテル)にいるから遊びに来ない? 朝食奢ってほしい」

京プラといえば、高級シティホテルである。以前から琴音の日々の暮らしぶりを知っておきたかった僕は、二つ返事で了承し、琴音のもとへ急行した。

話の信憑性がどれだけあるのかを見極めつつ、朝食というエサで恩を売る。これこそが、琴音の収支の全貌を浮かび上がらせるきっかけになると考えたからだ。

高層階の一室でチャイムを鳴らすと、上下ピンク色のパジャマを着た化粧っ気のない琴音が扉を開き、部屋のなかへと招いた。

■売春以外にも何らかの手段でカネを得ている

まさに高級ホテル暮らしをしていた琴音は、在籍する風俗店で2時間後に指名予約が入っているらしく、出かける身支度を始めるところだった。

15畳はありそうなダブルルームのそこかしこに洋服や化粧品、服用している薬などが置かれていたが、私物は大きめのキャリーバッグに収まるほどしかない。

私物は「これで全部」で、滞在は「今日で10日目」。でも、1泊1万6000円の宿泊費を毎日、払い続けるのはさすがにキツい。そこで、新宿近辺に部屋を借りることも考えているという。

見えてきたのは、やはり売春以外にも何らかの手段でカネを得ているという状況だ。

琴音のリクエストで持参したカップラーメンにお湯を注ぎ、割り箸とおにぎりを差し出す。温かい麺をすすり琴音が笑みをこぼしてから、何気ない会話のあとに切り出した。

■演劇でのお金は、普通のお金以上に大切

――ところで、ねえ、前に演劇の公演に誘ってくれたじゃん。手口って言うと悪いイメージだけど、誘い方がうまいというか、知らず知らずのうちに『チケット買うよ』と言わされていた自分がいたわけよ。

「別に騙そうなんて思ってないんだよね。ただ、自分が頑張るから、好きな友達とかお世話になってる人には、ちょっと悪いけど本心から見てほしいと思って誘うんだよね。チケットバックもあるんだけど、お金が欲しいとかはない。演劇で得たお金は大切に取ってある。演劇でのお金は、普通のお金以上に大切なものだから」

――売春で得るカネとは違うわけだ。

「なに言ってんの。重みが違うよ」

■「妊娠したって言って、友達と客との3人で会う」

――思ったんだけど、その会話術は裏引きとかにも生かされてるの?

「うん。私、詐欺師だからね」

琴音は、これはあまり言いたくない、といった様子で苦笑いした。だが、すぐにネタになるなら教えてあげたい、といった思いになってくれたようで、「けっこうゲスいよ。犯罪だよ」と前置きして明かした。

「妊娠したって言って、友達と客との3人で会う。そこで泣き落としする。男ってさあ、女ふたりで来られて泣かれると対処できないし、かつコッチは冷静でいられる。だからコッチは女ふたりがマストで、50~100万もらって、その友達と折半する」

――でも、最初は向こうも信じないよね。

「別の友達がガチで妊娠してて、その子の検査薬を借りて私が妊娠したことにして。ま、そうして周到に用意はしているけど、実際に『検査薬見せろ』って言う人はいないんだよね」

■「ひとり100万ぐらいずつ詐欺した」

――普通に払うんだ。

「うん。私、ウソ泣きが上手らしくみんな信じてた。詐欺する相手と会う場所はカラオケボックスが多いかな。『カラ館(全国展開するカラオケボックスチェーン・カラオケ館)』に歌を歌いに行ったことあんまない。カラ館でやって、喫茶店でカネわけて。そんな感じでふたりぐらいハシゴして、ひとり100万ぐらいずつ詐欺したことが何回かある」

――でも、そんなに現金を持ってない人もいるよね。

「銀行に下ろしに行かせる。預金残高がない場合はアコム(消費者金融)で借りさせる」

――そこまでやるんだ。どういう男を標的にするの?

「生でやった全員。ゴムつけていたとしても、『他に思い当たる人がいない』『Aさんだけとしかやってない』とか言って。狙いは出会いカフェの客。ほら、出会いカフェは身分証の提示を求められるでしょ。身分証があれば、アコムで簡単に借りられるから。

公園の客には詐欺しないよ。ほら、数多の風俗遊びを経験して、出会いカフェで買春を覚えて、最終的に連れ出し料やトーク料がないコスパのよさから公園を選んだやつらだから。『妊娠した』ってイチャモンつけても『あ、俺、カネないから』の一言で済むってわかっちゃってるから」

■「トータル2000万ぐらい」

――失敗もある?

「失敗しないようにする。3万でも5万でも絶対に持って帰る。土下座とかも全然したね、カネくれるなら」

――かれこれ、いくら引っ張ったの?

「トータル2000万ぐらい。いま、毎月15万から20万もらってる人もいるよ」(写真=『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より)
「トータル2000万ぐらい。いま、毎月15万から20万もらってる人もいるよ」(写真=『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より)

「トータル2000万ぐらい。いま、毎月15万から20万もらってる人もいるよ。それが3年続いてる」

■最近流行りの「頂き女子」

この行為には、最近流行りの「頂き女子」という言葉が当てはまる。

ターゲットにする男性に対して、男性側に恋愛感情があることに乗じ、こちらも恋愛感情があるように振る舞い信頼関係を築いてから「生活に困窮している」などと言葉巧みに嘘をつき、多額のカネを騙し取る。

広く知られた言葉に置き換えるのならば、若い女性版のロマンス詐欺だ。

「頂き女子」たちは、同じ詐欺を働く者同士で連携を取る。カモにする男性を紹介し合ったり、詐欺の道具を共有したりする。

その道具とは、妊娠検査薬を使い陽性反応が出たことを示す画像などだ。一度でも男性と性行為をしたのをいいことに、その画像をもって「妊娠した」と主張。男性からしても身に覚えがあるため無下にはできない。妊娠中絶費用名目で少なくないカネを騙し取るのである。

担当のためにやった「シャンパンタワー」(写真=『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より)
担当のためにやった「シャンパンタワー」(写真=『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より)

■「カレー食っただけで15万もらって帰った」

実際、琴音を含め200人以上が入会する「頂き女子」LINEグループのスレッドを見せてもらったことがある。そこでは「妊娠検査薬」画像だけではなく、嘘のストーリーで男性からカネを巻き上げた成功体験が綴られるなど詐欺の手口が共有されていた。一部の若い女性たちのなかで悪事が常態化する様が透ける――。

――3年払い続けてくれるのってどんな人?

「最初は出会いカフェの客。48歳独身で、仕事はSE。ハゲ散らかして、見た目はキモいけど、私と会うときはオシャレしてくるからカワイイなって」

――セックスはするの?

この日の会計は150万円を超えたという(写真=『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より)
この日の会計は150万円を超えたという(写真=『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より)

「最初は1回したけど、もうしてない。確か、性被害に遭ったことがあるからセックスが好きじゃないとか、出会った当初に言った気がするなぁ。もちろんウソだけど、向こうが私のことを好きだから、月に1回、会えばカラダの関係ナシでもお金をくれる。今月もふたりで『ココイチ(大手カレーライスチェーン・CoCo壱番屋)』でカレー食っただけで15万もらって帰った。でもクリスマスやバレンタインとか記念日には必ず会うよ。優しいでしょ」

■なぜ48歳・SEの男はセックスなしで貢ぐのか

「もう詐欺はやめなよ」

琴音との会話が終わったところで正したが、会話中は詐欺を咎めることはしなかった。批判もあろうが、琴音の告白をそのまま受け止めることが、僕が知りたい錬金術を紐解くことに他ならないからだ。

そして少し日を空けて、なぜ48歳・SEの男はセックスなしで貢ぐのかと、またいつもの喫茶店で琴音と議論した。要は彼女も妻もいない、社会のなかではもちろん、キャバクラでも相手にされない、でもカネはある男だからである。

そこにきて、出会いは売春であっても琴音は相手にしてくれる。売春婦と買春客。上中下のカーストの、琴音も男も一般的には下に格付けされ、下は下同士で対人関係を構築するしか道はない。

立ちんぼはハイジア横のレンタルルームを利用することが多い。
写真=筆者提供
立ちんぼはハイジア横のレンタルルームを利用することが多い。 - 写真=筆者提供

■「誰かのためにお金を使って頑張ってる自分が好き」

むろん、下同士であっても力関係は生じる。いや、舞台女優でもある琴音は上や中でも生きられる面があり、相手より優位に立ち回るために下まで降りてきているだけなのかもしれない。これが僕の見解である。

高木瑞穂『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)
高木瑞穂『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)

印象に残っているのは、琴音も僕に同調し、その上でさらに生々しく分析してみせたことだ。

「ホス狂いと一緒でさぁ、誰かのためにお金を使って頑張ってる自分が好きなんだよ。貢いでいるだけとわかっていても、私にお金を使うため切り詰めて生活してる自分が好きなんだよ。アイドルに走る男も多いよね。でも、大衆のなかのひとりじゃなくて、自分だけが独占したいんだと思う。だから、お金はもらうし、セックスもしないけど、できるかぎり疑似恋愛してあげてる」

男をホス狂いだった過去の自分に重ね、偽りの愛情を注ぐという琴音の姿は、担当との蜜月時代そのものに見えた。

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高木 瑞穂(たかぎ・みずほ)
ノンフィクションライター
1976年生まれ。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』『東日本大震災 東京電力「黒い賠償」の真実』『覚醒剤アンダーグラウンド「日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男」』(彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)、『日影のこえ』(共著、鉄人社)ほか。

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(ノンフィクションライター 高木 瑞穂)

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