酷暑にスポーツドリンクや経口補水液のガブ飲みは絶対NG…水分補給では飲むべきではない医学的理由
プレジデントオンライン / 2023年7月23日 13時15分
※本稿は、髙取優二『人は腎臓から老いていく』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「ペットボトル症候群」は腎臓の大敵
夏の暑い時期はスポーツドリンクを飲む機会が増えます。
スポーツドリンクにはミネラルが含まれており、発汗によりミネラルが失われがちになる夏場に人気の飲み物です。なかには、意識してスポーツドリンクを飲んでいる方もいるかもしれません。
ただし、腎臓専門医の立場からすると、水の代りに多量にスポーツドリンクを摂取するのは、決して健康にいいとは言えないのです。
「ペットボトル症候群」という言葉をご存じでしょうか。ペットボトルに入っている清涼飲料水をたくさん飲んで起こる高血糖(血液中の糖分量が多い状態)です。
症状として、のどが渇く、尿量が増える、疲れやすい、吐き気がするなどが挙げられます。そんなペットボトル症候群を引き起こしやすいのが、スポーツドリンクです。
スポーツドリンクには、100ミリリットル当たり6gほどの糖質が含まれています。のどが渇くたびにスポーツドリンクを飲んでいたら、糖質の取り過ぎとなり、血糖値がぐんぐん上がります。そして、さらなるのどの渇きが起こるのです。この悪循環が高血糖を引き起こします。
■水分補給にスポーツドリンク、経口補水液は逆効果
高血糖になると、なぜ腎臓がダメージを受けるのか。実は、腎臓は毛細血管の塊といっていいくらい、びっしり血管が詰まっています。血糖値が高くなると、血管が傷つきもろくなるため、腎臓の機能も低下するのです。
また、含まれている塩分の量も多いので、飲みすぎると腎臓に負担をかけます。「のどが渇いた」という理由だけで飲むには適していません。
スポーツドリンクを飲む必要があるのは、すでに脱水になってしまった場合です。脱水のときは、細胞の中と外の体液のバランスが崩れていて、水分だけを補給しても回復しません。ですから、塩分と糖質を含む経口補水液や、スポーツドリンクを飲むわけです。
それから、コーヒーや緑茶では水分補給になりません。利尿作用があるカフェインが含まれているので、水分が排出されてしまい、逆効果です。
水分補給には、特別な飲料ではなく、水を飲みましょう。
■「健康にいい食材」が40歳以上の人には負担になる
患者さんとお話しする中で気づいたのですが、「健康によい」と思い込んで行っていることが、実は腎臓にダメージを与えている場合は少なくありません。
例えば、しょっぱくて脂っこいラーメンなどは、年齢を重ねると胃腸が受けつけなくなります。加えて、「いかにも体に負担をかけそう」と見た目で判断し、避けるようになるでしょう。
では、健康にいいというイメージが強く、子供時代に「栄養がある」などと勧められた食品については、どうでしょうか。
たとえ食べたくなくても、「健康のために」とがんばって取り入れている人もいるかもしれません。しかし、子供の頃に推奨されていたことを、40歳を過ぎてからも続けているケースは、実は健康を損なっている可能性もあります。
悲しい現実として、私たちの知らないところで、内臓などの機能は少しずつ衰えています。健康のために食べたはずのものが、子供の頃とは違って体の中で利用されず、蓄積して有害な物質になってしまうことがあります。
そのダメージを受けるのが、腎臓です。
■牛乳の飲み過ぎはかえって危険
一般に「牛乳は健康によい」というイメージがあります。そんなイメージができた背景には、学校給食で牛乳が提供されてきたことがあるでしょう。
文部科学省が策定した「学校給食摂取基準」では、学校給食でのカルシウムの摂取量は、1日に必要な量の50%が基準値とされています。牛乳はカルシウムを多く含んでいるだけでなく、栄養のバランスも優れているため、学校給食に取り入れられたのだと考えられます。
ですから、子供たちの骨の成長のために牛乳が推奨されることは、十分理解できます。しかし、比較的年齢の高い人が健康のため、あるいは骨がもろくなる骨粗しょう症を予防するために、牛乳を飲むことはお勧めしません。
牛乳は、数ある飲み物の中でもリンの量が多いからです。
リンを過剰に摂取すると、血液中のリンが血管に入り込んで、血管が硬くなる石灰化が起こります。それだけでなく、リンとカルシウム、血液中のたんぱく質が結びつくと、血管の内側を傷つけて炎症を起こしたり、石灰化を誘導したりします。
こうして、動脈硬化を引き起こすのです。腎臓は血管の塊のような臓器です。動脈硬化が起きるということは、腎臓の機能が低下することと同じ意味だといえます。
■植物性の食品を勧める理由
日常的によく食べられている料理には、牛乳や乳製品が使われていることも珍しくありません。
チーズやヨーグルト、生クリーム、アイスクリームなどは、乳製品です。ですから、こうした食材を使ったクリームシチューやクリーム系のパスタ、グラタン、ドリア、ピザにも、リンが多く含まれます。
牛乳や乳製品が使われている料理はあまりにも多いので、避けるのは非常に大変です。飲み物としての牛乳は、あまり頻繁に飲まないほうが賢明です。
40歳を過ぎてから、骨の健康のために飲むとしたら、豆乳を私はお勧めします。植物性の食品に含まれているリンは、あまり吸収されないからです。
■赤身の肉は避けたほうがいい
脂肪が少ない良質なたんぱく源として、赤身の肉を勧められるケースは少なくないようです。しかし、腎臓の機能を守るために、赤身の肉は避けたほうがいいでしょう。
理由の一つは、たんぱく質量の割に、リンが多いからです。リンの過剰摂取は、腎機能低下、慢性炎症の引き金となることがわかっています。
それから、赤身に限らず、動物性たんぱく質を多く含む肉類を食べると、体内で尿素窒素やクレアチニンなどの体のゴミ(老廃物)が増えてしまいます。こうしたゴミを排泄するために、腎臓への負担が大きくなります。
この2点が、腎臓の機能が落ちた場合に、たんぱく質の制限が行われてきた理由となっています。
ただ、たんぱく質を制限し過ぎれば、筋肉が弱って、全身の筋肉量が低下するサルコペニアなどの問題が起こります。そのため、含まれているリンが体に吸収されにくく、クレアチニンなども発生させにくい植物性の食品で、たんぱく質を積極的に補給してください。
大豆を使った大豆ミートなど、代替肉を利用するのもいいでしょう。代替肉にも加工度によって添加物の量に差があるので、できるだけ添加物の少ないものを選ぶよう心がけてください。
■サプリメントの過剰摂取はNG
私たちの生活ですっかり身近になったサプリメントですが、薬とは違って、気軽に利用する人は多いでしょう。注意したいのが過剰摂取です。
40代以降で腎機能が低下していると、成分によっては血中濃度が上昇します。そのため、過剰摂取になりやすいのです。
ビタミンA・ビタミンC・ビタミンEについては、体を活性酸素の害から守る抗酸化作用があるとして知られています。確かに適量であればプラスに働きますが、過剰に摂取すると、逆に酸化を促進させます。
また、「骨を強くする」とされているビタミンDやカルシウムを過剰摂取すると、血液中のカルシウム濃度が非常に高い「高カルシウム血症」を引き起こし、消化管の不調やのどの渇き、多尿が現れます。
また、ビタミンB群とビタミンCは水溶性なので、体内に蓄積されずに排泄されます。そのためでしょうか、まったく量を気にせずに取っているケースがあります。
加えて、「体に優しい」などとうたわれている漢方薬も、日常的に服用している人は珍しくありません。ただ、サプリメントも漢方薬も、精製の段階で無機リンが加えられています。無機リンは食品添加物として数多くの加工食品に使われているため、過剰摂取になりやすく、腎臓に負担をかけます。
■腎臓がなくなると体の中がゴミだらけになる
そもそも、腎臓が悪くなると、あなたの体に何が起きるのでしょうか。
想像してください。もしもあなたの住む町で、下水処理場やゴミ焼却施設といったライフラインがストップしたら、いったいどうなるでしょうか。キッチンで皿を洗った水も、浴室でシャンプーした後の水も、トイレで使った水も、排水口でたまったまま、流れていきません。
そして下水管が詰まってしまったら、何かの拍子で下水が逆流して、家じゅうの排水口から一気に吹き出します。こうして家の床は、臭く濁った生活排水で水浸しになります。
また、ゴミ焼却施設の操業が止まると、ゴミを載せた収集車は行き場をなくします。ゴミ捨て場のゴミも徐々に増えていき、道路にまであふれてきます。カラスや猫がゴミ袋をあさり、生ゴミがまき散らされて異臭を放ちます。その結果、町はどんどん汚れ、不潔になります。
ライフラインについては「あって当たり前」なので、普段はほとんど意識が向けられていません。しかし、町の衛生を保って、住民が健康に暮らすために必要不可欠な存在なのです。
そして人間の体が町だとしたら、住民が全身の細胞で、ライフラインの役目を果たしているのは腎臓です。もしも体から腎臓がなくなれば、細胞の活動で出てきたゴミ(老廃物)は排泄されません。そのために、体の中はゴミだらけになってしまうのです。
■「沈黙の臓器・腎臓」をいたわることが長生きの秘訣
「腎臓は血液をおそうじするフィルター」
このたとえ話、多くの人が耳にしたことがあると思います。
車の場合は、ガソリンを燃料にして動く際に、排気ガスを外に出しています(電気自動車を除く)。それと同じように、人間は空気と水と食物を体内に入れて活動していますが、その結果、体内で発生する有害なゴミ(老廃物)や毒素は、体外に排出しなくてはなりません。
人間の体の細胞の数は、およそ37兆個といわれています。一つひとつの細胞が、血液で運ばれてきた栄養と酸素を受け取り、ゴミや二酸化炭素を戻しています。
体のゴミには、次のものがあります。
●尿素窒素……たんぱく質が分解された後にできるゴミ
●クレアチニン……筋肉が運動するためのエネルギー源の燃えカス
●尿酸……遺伝子の構成成分であるプリン体が、肝臓で分解されてできるゴミ
血液に乗って運ばれてきたゴミは、腎臓の糸球体という組織でふるいにかけられて、不要なものは尿として排泄されます。つまり、尿は血液からできているわけです。
腎臓の働きが低下してふるいがザルになると、血液中にゴミが残るだけでなく、必要なものは尿に混ざってどんどん出ていきます。
■自覚症状が出てからでは手遅れである
体のゴミの排泄というと、便を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、便に含まれるのは食べ物の残りカスや腸内細菌の死骸など、ほとんどが腸のゴミです。
一方、尿については、血液に乗って運ばれてくる、全身のゴミを排泄しているのです。便秘が数日続いても不快な程度ですが、尿が出なくなることは生命の危機につながる深刻な事態です。
この状態が続いたら、体にはゴミがたまっていきます。先ほどお話しした「ゴミ焼却施設のない町」「下水処理場のない町」のような状態になってしまいます。そして、心臓など全身の臓器は本来の働きができなくなり、命の危機にさらされます。
もしも体から腎臓がなくなれば、汚れ切った血液が全身を巡り、脳や心臓、肝臓などはゴミだらけです。そのために、全身の臓器は本来の機能を果たせなくなるのです。
腎臓は「沈黙の臓器」と言われます。病状の変化は少しずつ起こるので、自覚症状はなかなか現れません。むくみや頭痛、だるさを感じるようになっているときには、すでに腎臓の機能低下はかなり進行しているので、「非常にまずい状態」になっています。
拙著『人は腎臓から老いていく』では、腎臓を元気にする「食」「運動」「呼吸」について詳しく解説しています。これを参考にしながら、普段から自覚して、腎臓を傷めつけない生活習慣を心がけてほしいです。
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医学博士、腎臓専門医
1975年生まれ、鳥取大学医学部卒業後、岡山大学病院腎・免疫・内分泌代謝内科などを経て、現在は埼友クリニック外来部長。抗加齢医学(アンチエイジング)の観点から、腎臓病を捉えなおす新たな手法に取り組んでいる。日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医。「世界一受けたい授業」「林修のレッスン!今でしょ」など、人気番組の医療監修を多数手がける。
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(医学博士、腎臓専門医 髙取 優二)
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