これができれば本当の幸せが手に入る…稲盛和夫が「無理かもしれないが絶対に必要」と説く心の態度
プレジデントオンライン / 2023年8月3日 7時15分
※本稿は、鹿島しのぶ『小さな感謝 人生を好転させる一番簡単な方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■コンビニや事務連絡で感謝を忘れていないか
国連が発表している世界幸福度ランキング(2022年)によると、日本はなんと54位です。参考までに、上位5カ国は、1位:フィンランド、2位:デンマーク、3位:アイスランド、4位:スイス、5位:オランダの順でした。
これはかなり残念な結果ですが、たしかにいまの日本は、コロナ禍に加え、経済の低迷や少子高齢化問題などを抱えて将来を見通せず、幸せを感じにくい時代を迎えているような気がします。
実際、日本国内では、多くの人が「思いどおりにならない」と閉塞感を訴え、世の中に対するネガティブな嫉妬、恨み、後悔を口にしています。
「親ガチャ」なんていう言葉もあります。自分では選べない親や家庭環境によって人生は決められていて、「とても将来に対する夢なんて持てないよ」というわけです。
なんだか、もうすっかり人生をあきらめてしまったかのような言葉です。幸福度ランキング54位というのは、そんないまの日本の世情を反映しているようにも思えます。
そんな日本では、多くの先進国と同様に、社会がどんどんシステム化され、生活はきわめて便利になっています。いまや、言葉なんて交わさなくても生きていけるほどです。
コンビニに行くと、ひとことも会話をしないまま出ていく人を多く見かけます。また社会生活で必要ないろいろな連絡事項だって、おおかたはメールで済んでしまいます。それこそ、会話の必要がどんどんなくなっているのです。これでは、感謝の言葉を口にするシーンが減るのも必然です。
でも私は、こんな時代だからこそ、感謝が必要だと思うのです。だって、思いどおりにいかないことを並べ立て、「それは社会のせいだ」とか、「しょせん自分なんて」とあきらめていても、何ひとつ変えられるわけがないのですから。
そんな状況を打ち破るためにも、ポジティブ心理学の代表的研究者であるカリフォルニア大学のロバート・エモンズ教授がいうような「感謝の力」によって、自分を再構築する努力をはじめるべきでしょう。
最初にすべきことは、「自分のこれまでの人生を振り返ってみる」ことです。それは別に難しいことではないでしょう。そして思い出すのです。
お父さん、お母さんがいたからいまの自分がいるんだ。
小学校のとき、あの先生にはお世話になったわ。
そういえば、あのときは友だちに助けられた。と。
■「感謝力」の第一歩は、「感謝の記憶」を掘り起こすこと
子どものころに限りません。社会に出てからだって、会社の同僚や上司、趣味で知り合った人など、いろいろな人に助けられ、支えられて生きてきたはずです。
どんな人でも、ひとりで生きてきたわけではありません。感謝すべき人は、いっぱいいるはずです。
ただ、そのときには気づかなかったり、感謝したものの、それを言葉にしないまま忘れてしまったりしているだけなのです。
私は、まずそうした「感謝の記憶」を掘り起こすことが、「感謝力」を磨く第一歩だと思います。自分が多くの人に支えられ、助けられながら、それらの人とともに生きていることをしっかりと自覚するのです。
その作業は、言葉を換えれば、自分の心に“感謝の気持ちを育てる豊かな花壇”をつくるということを意味しています。
そこで、感謝の気持ちをいっぱい育てることでマインドを前向きにリセットしましょう。それが、この思いどおりにならない人生をよりよく生きることにつながるのです。
■日本人が「ありがとう」といわれる回数が少ない理由
少し前のことですが、ネスレ日本が、全国の10代~50代の男女1000人を対象に、日本人の感謝行為に関する調査を行ないました。
それによると、日本人が一日に「ありがとう」という回数の平均は7.5回だったのに対して、いわれる回数は4.9回で、いう回数の約3分の2にとどまったといいます。
これは、本人は「ありがとう」といったつもりなのに、それが相手にうまく伝わっていないということを意味しています。
その結果、多くの人が、日ごろ「ありがとう」をいう機会より、いわれる機会のほうが少ないと感じているということです。
一日に「ありがとう」という回数が平均7.5回というのが、国際的に多いのか少ないのかはっきりとしませんが、少なくとも、日本人は感謝の気持ちを持って、いつもそれをきちんと口にするのが苦手なようです。
また、この調査は2013年に行なわれたものですが、それから10年ほど経ったいま、新型コロナウイルスの流行や、それに伴う在宅ワークの普及などで、人が直接ふれあう機会が大幅に減少し、感謝の気持ちを口にする機会はますます減っているのではないでしょうか。
■「あたりまえの日常」に感謝する方法
そもそも、文明が進むにつれて、人が感謝の行為を示す機会が減っていったのかもしれません。“便利な日常”をごく「あたりまえ」のこととして、感謝することもなく過ごしています。でも本当は、日常はあたりまえのものではありません。
たとえば大きな地震が起きて停電や断水が起きたりすると、たちまち困ってしまいます。そして電気や水がいかに大切で必要なものだったかを痛感し、それが復旧すると「ああ、よかった。ありがたい」と感謝するでしょう。
ところが、しばらく経つと、そんな思いなどすっかり忘れて、以前と同じように、“何事もない日常”があたりまえだと思うようになってしまうのです。
これは、人間は予期せぬ出来事に対して、心が過剰に反応しないように、自分にとって都合の悪い情報は無視したり、過小評価したりするという特性(正常性バイアス)を持っているからかもしれません。あれこれ心配ばかりしていると、ストレスで疲れ果ててしまうのを防ぐための機能です。
でも、そこでちょっと立ち止まって考えてみてほしいのです。私たちのまわりにあふれているあたりまえは本当にあたりまえなのか、と――。
電気があるのは発電所があり、そこに働いている人がいるおかげです。水道の蛇口からきれいな水が流れてくるのも、水道施設を維持し管理してくれる人たちが24時間働いてくれているからです。
■どれだけ視座を高められるか
また、スーパーに行けば、野菜や肉など新鮮な食材がそろっていますが、それも生産者や流通業者ががんばってくれているからであり、バスや電車が時間どおりにやってくるのも、多くの人がそれぞれ責任を持って働いてくれているからにほかなりません。
そういう意味では、私たちがあたりまえだと思っている生活は、本当に多くの人々の存在があってこそ成り立っているものであり、この世の中にあたりまえのことなんてひとつもありません。
もっと極端なことをいえば、地球が存在しているのは、そもそも宇宙が存在していたからであり、その地球で人類がこれほど繁栄しているのは、地球が進化する過程でじつに多くの生物種が誕生し、それらの生物が共存しているからこそといえます。
つまり、私たちの存在はけっしてあたりまえのことではない……。偶然の産物ではなく、数えきれないほどの奇跡の上に成り立っているのです。
話が少し大きくなりすぎたかもしれませんが、そんなことを考えると、私たちは、けっしてひとりで生きているのではないということにあらためて気づかされますし、「小さなこと」への感謝の気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。
そして、そんな感謝の気持ちをきちんと伝えるのが大切であることを忘れてはいけません。
アメリカの作家ウィリアム・アーサー・ウォードは、こういっています。
「感謝の気持ちを感じたのにそれを伝えないことは、プレゼントを包んだのにそれを渡さないようなものだ」と。
本当に、そのとおりだと思います。
あたりまえのことをあたりまえと思わず、小さなことにも感謝できるかどうか。
そこが分かれ道です。
■稲盛和夫「それでも感謝しなさい」
日本を代表する経営者であった稲盛和夫さんも次のように語っています(出典:稲盛和夫 OFFICIAL SITE)。
「人は自分一人では生きていけません。空気、水、食料、また家族や職場の人たち、さらには社会など、自分を取り巻くあらゆるものに支えられて生きているのです。
そう考えれば、自然に感謝の心が出てくるはずです。不幸続きであったり、不健康であったりする場合は『感謝をしなさい』と言われても、無理かもしれません。それでも生きていることに対して感謝することが大切です。
感謝の心が生まれてくれば、自然と幸せが感じられるようになってきます。生かされていることに感謝し、幸せを感じる心によって、人生を豊かで潤いのあるものに変えていくことができるのです」
生かされていることに感謝し、幸せを感じる心によって、人生を豊かで潤いのあるものに変えていくことができる……。つまり、感謝があってはじめて本当の幸せが手に入れられるということです。
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プロ司会者、作家
白百合女子大学文学部英語英文学科卒業後、会社員を経てプロの司会者として活動を開始。(株)総合会話術仟言流の代表を務め、ブライダルプランナーの役割も兼ね備えたプロ司会者の育成にも力を注いでいる。また、2017年まで駿台トラベル&ホテル専門学校ブライダル学科長を務め、ブライダル関連、接遇会話、ビジネスマナーの授業を担当した。『「また会いたい」と思われる人』『「品がいい」と言われる人』『99%人に好かれる「礼儀正しい人」』(以上、三笠書房)など著書多数。
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(プロ司会者、作家 鹿島 しのぶ)
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