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「親からもらった命を大切に」と言ってはいけない…自殺願望を打ち明けられたとき最もやってはいけないこと

プレジデントオンライン / 2023年8月2日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/globalmoments

芸能人の自殺など、突然の訃報に「なぜあの人が」とショックを受ける事件は少なくない。もし身近な人に「死にたい」と言われたら、どうすればいいのか。心理学者の末木新さんは「『死にたい』と打ち明けた人間が最も恐れるのは、意を決して行った重大な自己開示が軽く扱われること。その気持ちに向き合うことは、打ち明けられた側にとってもしんどくて恐い。そんなとき、取ってはいけない対応を知っておこう」という――。

※本稿は、末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

■自殺の3つの要因から危機介入の戦略を考える

それでは、実際に自分で自殺を防ぐことに挑戦してみようと思った場合に、どのようにすれば良いのでしょうか。その場合には、自殺がなぜ起こるのかについて分かっていることから逆算して、要因となりうるものを一つずつ排除していけば良いということになります。ここでは、具体的に、自殺の対人関係理論に沿って考えてみたいと思います。

自殺の対人関係理論とは、自殺潜在能力、所属感の減弱、負担感の知覚という3つの要因が重なった時に自殺の危険性が最大化すると考えるという理論でした。自殺を予防したいのだとすれば、これらの要因をひとつずつ取り除き、3つが重ならないような状況を作れば良いということになります。

3つの要素をひとつずつ取り除くと書きましたが、優先順位があります。

3つの内、最も優先すべきなのはもちろん、自殺潜在能力への対応ということになります。死にたいか否かに関わらず死んでしまったら生き返らせることはできないので、とにかくこの部分を優先するように考えるのは自然なことです。

■まずは用意したものを使えないように物理的介入をする

では、具体的にはどのようにすれば良いのでしょうか。人間は自分の力だけで死ぬことは基本的にできませんので、自殺をする際には何らかの手段を用意する必要があります。この手段を「物理的に」使えないようにすることによって(例:首を吊るために用意してあった縄をあずかる)致死的な自殺企図をできないようにするのが実施すべき第一の介入ということになります。

逆に言うと、これをやるために、「死にたい」と言われたら、「死ぬための手段は具体的に考えているのか? それはどの程度までちゃんと用意しているのか?」ということを聞く必要があるということです。多くの人は人生において誰かにこんな質問をしたことがないはずですし、初めてこんな質問をする時にはためらいも生じるのではないかと思います。変に具体的な手段について聞いたりすると、背中を押してしまうのではないかと不安になるのも、それほど不思議なことではありません。

しかし、このような質問をすることがネガティブな影響を持つ可能性は低く、こうした心配は杞憂(きゆう)に終わります。というのも、「死にたい」と打ち明けた人間が最も恐れるのは、意を決して行った重大な自己開示が軽く扱われることだからです。「もう具体的な方法を考えているのか?」という質問は、「死にたい」という自己開示を重く受け止め、本気で死を考えているのだと理解したからこそ出てくる質問です。そのため、こうした質問が自殺のリスクを高めることにつながる可能性は低いというわけです。

■対話して引き留めるときにやってはいけない3つのこと

具体的な自殺企図の手段を物理的に撤去し、安全な環境を作ったら、次にやるべきことは所属感の減弱への対処となります。これは要するに、「死にたい」と打ち明けた人との関係性を密にし、対話を通じて心の絆を作り、孤独を癒すということです。心の絆を作るためにやってはならないことは割と単純です。

1)話をそらさない

話をそらして「死にたい」という気持ちに向き合わないことは、最も避けるべきことです。最も避けるべきことなのですが、最もやらかしてしまうポイントでもあります。というのは、「死にたい」という気持ちに向き合うということは、向き合う(向き合わされる)側にとってもとてもしんどくて恐いことであり、できれば避けたいものだからです。

自分の対応によっては「死にたい」人が実際に死んでしまうかもしれないわけで、それはやはり我々にとってとても恐いことです。話題をそらしたくなるのは、ある意味で自然な反応です。しかし、打ち明けた側は、この人であればと思って打ち明けているわけですから、これぞと見込んだ人に話をそらされてしまえば、相当がっくりくるはずです。

2)相手を叱りつけ説教しない

また、当然のことながら、相手のことを批判して叱りつけたり(例:「そんなことは口に出すもんじゃない!」)、社会的・一般的な価値観を押し付けたり(例:「親からもらった命や身体は大切にするもんだ」)すれば、心の絆ができることはないでしょう。こうした点は、自殺への危機介入というだけではなく、人間関係一般と共通する点であり、特段おかしなことはないでしょう。

室内で議論しているカップル
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix
3)無理に励まさない

また、これは難しいところですが、励ましたり激励することも、避けておいた方が無難かもしれません。もちろん、励まされることによって元気になる人もいないことはありません。とはいえ、自殺への危機介入の場合、すでに大いに頑張った末に死にたくなっていることがほとんどであり、頑張れと励まされても、これ以上は無理だと思う人が多く、逆効果になってしまうことが多いものです。

助言をすることも同様で、問題状況を解決するための助言やアドバイスは空疎に響くことも多く、当初は避けておいた方が無難です。死にたい状況に追い込まれた人の置かれた環境は複雑で、簡単な解決策が見当たらない場合がほとんどであり、死にたいと言う前に本人なりに考えたさまざまな解決案がいろいろと試されているはずです。そのような状況下で、安易な解決策を助言したところで、ほとんどの場合、「もうそんなことはとっくにやったよ」となってしまい、信頼を失う可能性が高くなります。

■否定も励ましもせず、どうやって話を聞けば良いのか

それでは、どのようにすればこのような「やってはいけないこと」を避けつつ、心の絆を作り、孤独感を癒すことができるでしょうか。最も重要なことは、その人の死にたい気持ちに向き合い、話をじっくりと聞くということです。そして、話の聞き方はおそらく、普段その人と接する感じで問題はないのだろうと思います。死や自殺について話をするからといって、何か特別なことをする必要はありません。

普段の関係性で良いと書きましたが、もし話を聞くのが苦手だという意識があれば、以下のようなことを軽く意識してみてください。相手の話を聞くときに大事なことは、何が起こっているのかという状況と、その時の本人の感情状態を理解し、こちらが理解したことを伝え返すことです。それが、話を真剣に聞いてもらえているという感覚を生み出し、心の絆を作っていきます。

対話の際に、感情面の話が多く状況についての説明が苦手な人には、状況についての質問をときどきはさみながら話を聞くと良いでしょう。状況の説明が多く感情面の説明が苦手な人には、「で、その時どう感じたの?」といった感じで感情面に焦点をあてた質問をはさみながら話を聞くと良いでしょう。

うまい返しが思い浮かばない時には、相手の言ったことに対してオウム返しをするのも良いですし、相手の話が分からない時には、「○○の部分が分からなかったんだけど、△△ということ?」みたいな感じで確認とも質問ともとれるような言葉をはさんでいくと良いでしょう。また、言葉で理解したことを伝え返すだけではなく、表情や声のトーン、相槌など言葉以外のリアクションも大事です。

考え事をしている男性
写真=iStock.com/Oat_Phawat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oat_Phawat

■沈黙は続く場合はそのまま同じ時空を共有するだけでいい

話を聞くと書きましたが、沈黙が続く場合にはそれを共有する(時空を共有する)だけでもOKです。死にたい状況に追い込まれた人は、いつでもその人の状態を饒舌に話してくれるわけではありません。場合によっては、「死にたい」以外にほとんど何も口にしないという状況もあるかもしれません。そうした場合には無理に話をせず、沈黙を共有するだけでも絆を作る上ではプラスになります。

また、ぽつりぽつりとでも話をしてくれるのであれば、やはり沈黙を大事にし、返答をするにしてもゆっくりと返答をし、相手の発話を大事にすることが求められます。沈黙が続くと場の雰囲気が悪く感じられ、そのことを恐れた話の聞き手がべらべらとしゃべったり、質問を連発したりすることがありますが、これは心の絆を作るという点で、上策ではありません。

■「そんな状況なら死にたいのも無理はない」と共感を示す

末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)
末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)

自殺への危機介入の際には、このように共感的に相手の話を聞くことが大事だということはよく言われることです。実際にやったことのある人から良く出る質問に、「『死にたい』と言われたことについても共感しなければならないのか? そんなことをして死に向けて背中を押すことにならないのか?」というものがあります。

このように感じるときには、もしかすると、共感することと、肯定することを混同しているかもしれません。大事なことは相手の言ったことを全て肯定して受け入れることではありません。「死にたい」と言われて、それを肯定する必要はありません(ただし、それを否定する必要もありません)。重要なことは、「死にたい」と感じる背景にある状況を理解し、そのような状況であれば「死にたい」と思うことも無理はないということに対して共感し、気持ちを分かち合うことです。

電話やSNSによる相談窓口の情報
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末木 新(すえき・はじめ)
和光大学現代人間学部教授
1983年生まれ。東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース博士課程修了。博士(教育学)、公認心理師、臨床心理士。主な著書に『インターネットは自殺を防げるか――ウェブコミュニティの臨床心理学とその実践』(東京大学出版会、第31回電気通信普及財団賞受賞)、『自殺学入門――幸せな生と死とは何か』(金剛出版)、『公認心理師をめざす人のための臨床心理学入門』(大修館書店)など。

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(和光大学現代人間学部教授 末木 新)

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