「この度は! 誠に! 申し訳!」一語ずつ生理的嫌悪が増殖する…ビッグモーター"世界最悪会見"が気持ち悪い理由
プレジデントオンライン / 2023年7月27日 13時15分
■タブーだらけ「世界最悪会見」はなぜ最悪か
保険金の不正請求が問題になっている中古車販売・買取会社ビッグモーターの経営陣が、7月25日、会見を行いました。これまで一度もメディアの前に顔を見せなかった兼重宏行前社長(71)が登壇し、“謝罪”しましたが、その言動に再び批判が集まる事態となっています。まさに、炎にまきをくべるがごとく「禁忌(タブー)」だらけの謝罪会見の問題点を整理し、改めて掘り下げてみましょう。
そもそも、こうした不正請求がはびこった要因として、特別調査委員会の報告書で指摘されたのが、「経営陣に盲従し忖度(そんたく)する歪な企業風土」でした。この会見ではその兼重社長の「強すぎるリーダーシップ」が遺憾なく、そして残念な形で発揮されたと言えます。
いわゆる「カリスマ社長」の半端ない「圧迫感」は言葉や態度の端々に表れていました。特に彼が繰り返していたのが「全く」という言葉です。「全く知らなかった」「全くない」……。「天地神明に誓って」といった表現も使っていましたが、一瞬のひるみもなく、言い切る、断定する。これは独裁者が強いリーダーシップを印象付けるテクニックです。
特長的なのは、その語調の厳しさと威圧感でした。「連携しながら! 速やかに! 問題の原因として! 二度と!」「この度は! まことに! 申し訳! ございませんでした!」など、一語一語を区切って発声するので、怒鳴っているように聞こえてしまいます。まるで、「鷹」のような眼光の鋭さからも、この人は日常的にこうして、半端のない「圧」を放ちながら、日々社員とコミュニケーションをとっていたのだろう、と容易に想像できました。
自ら、「理詰めで話をする」と言及していましたが、あの口調で、日々、部下を「ツメ」ていたのではないか、と想像した人は少なくないでしょう。カリスマ経営者らしくざっくばらんで、言葉にエネルギーがあるスタイルは、平常時には、魅力的に映り、ポジティブに受け入れられますが、こうした危機管理時にはあだになります。
よく言えば自然体ですが、それが尊大に見えたり、反省の色がうかがえないように見えたりするわけです。「傲慢(ごうまん)で、エラそうで、全く謝罪に聞こえない」という危機管理の会見において、最も許されない禁忌を犯してしまいました。
さらに、聞き手の怒りに火をつけたのが、他責的な言葉の数々でした。
■昭和の「上意下達」「やばい会社」の悪臭・腐臭
「組織的ということはないと思います。個々の工場長が指示してやったんじゃないか」
「(経営層の関与は)全くない」
さらに、現場の社員を告訴することに言及し、「器物損壊罪に当たる。当然、犯罪ですから、罪を償ってもらわないといけないと思う」「社員もやっていいことと悪いことがありますよね。不正を働いた人間はそれぐらいの償いはしてもらいたい」などと、「自分は知らないし、責任もない。悪いのは現場」と言わんばかりの発言を連発し、聞き手の不快感を誘ったのです。
そういった他責志向の一方で、パワハラの張本人ではないかと言われている息子の宏一前副社長(35)については、「一生懸命確かにやって、なんとか会社業績を上げようと動いているのはよくわかってました。それが行き過ぎになったのか、結構、理詰めで話をしますんで、それがプレッシャーになったんだなと、今となっては感じておりますけれど」などとかばい、露骨な身内びいきで顰蹙を買いました。
また、カリスマ社長らしい、放言・珍言・迷言も数多く飛び出しました。
「ゴルフボールで傷つけるとは、ゴルフを愛する人に対する冒涜(ぼうとく)」と言ったかと言えば、「メディアの力ってのはすごいな。影響力は半端じゃないな」と苦笑い。
一方で、自らが退任した後、「新経営陣が思う存分やってもらって、お客さんに喜ばれて、その結果として、利益が出るようであれば、株主としてうれしい」「(会社と社長の思想は受け入れない社員はやめろ、という方針について)遊びに行くなら気心の知れた人間と、仲のいい友達と遊びに行った方が楽しいじゃないですか。その延長線みたいな感じで。会社の方針が前を行こうっていって、俺はもう前をいかないといっては、これはもう経営になりませんので」というKY発言で、聞く人をドン引きさせたのです
その上、会見運営も異例ずくめでした。
例えば、会見の司会を行ったのは、危機管理PR会社の男性だったこと。そもそも、この規模の会社で正式な広報担当者が不在のような状態で、全くの情報発信を行ってこなかったこと自体が異常ですが、こんな時に、社内に司会ひとつする人材もいないのか、との疑問が湧いてきます。
さらに、幹部ら会見者を4人並べて、その役割分担もわからないまま、進行を進め、社長の発言を遮って他の人間が答える、音声が聞き取りづらいなど、違和感を覚える場面も多く見られました。
ビッグモーターの不祥事に多くの国民が怒りを感じるのは、その事案の悪質性ゆえだけではありません。この会社に充満する、昭和の「上意下達」「やばい会社」の悪臭・腐臭に強烈な生理的嫌悪感を覚えるからでしょう。
「(社員を頻繁に降格させる措置について)ちょっと一歩下がって全体をみてもらって、それで人間は成長するんですね。すぐ敗者復活。その繰り返しで、一つの社員教育の一環と思ってやってましたので。それがそのまま、今回の頻繁(な降格)といわれてますけれども、復活した人間も同じくらいおりますので」
といった精神論を振りかざす。
私は、リーダーの家庭教師として、日本の社長や役員の家庭教師として話し方の指導をし、拙著『世界最高の伝え方』(東洋経済新報社)を上梓したばかりですが、ビッグモーターの会見はもはや「世界最悪の伝え方」と断じるほかありません。
■同族・中小・地方企業にはビッグモーター的風土が残る
組織の方針などが記された同社の経営計画書も報道されているが、そこには社員を奴隷扱いにするパワハラ系・空虚で大げさなスポ根系の言葉が並んでいました。
「燃える闘魂。経営にはいかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要」
「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある。(そんな人は)今、すぐ辞めてください」
「経営方針の執行責任を持つ幹部には、目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える」
「毎日口に出して言う言葉 幸せだなあ! 俺(私)はツいてる!」
背中をそり返し、直立不動で、計画書を毎朝唱和して行われる朝礼など、まるで軍隊のような閉塞的で硬直的な組織体質もあったとされます。
日本では、こうした「強権型・カリスマ型のリーダーシップは決断力・実行力がある」として理想化する傾向があります。上下関係に基づき、上司は部下に「命令」し、部下は上司に「ほうれんそう」をするという主従関係が当たり前とされているのです。
こうしたトップダウンの組織は一時的に成果を上げても、長期的に簡単に破綻してしまいます。ただ、上の言うことに盲従すればいいという考え方は、何より、部下の考える力、主体性をうばい、イノベーションを起こす気風が醸成されず、トップの暴走を招きやすいからです。
今、グローバルでは、リーダーシップに求められる最も重要な資質は「共感力」だと言われています。実際に、「強権型」・鬼「教官」型はもう古く、もっとチームとして一人ひとりの力を伸ばす新しい形のリーダーシップが必要である、と考えられ、アップルのティム・クック、マイクロソフトのサチャ・ナデラ、グーグルのサンダル・ピチャイなど、多くの優良企業のトップが、「共感型」に置き換わりました。
教官・強権型から共感型へ。そのシフトの大きな波は、日本にも押し寄せており、WBCの栗山英樹監督、サッカーワールドカップの森保一監督も、命令より、問いかけをし、一人ひとりに寄り添い、やる気を引き出す、「チーム重視」「対話重視」型で大きな成果を上げました。最近、就任する大企業の社長は皆、そろって、この後者のスタイルです。
まさに、リーダーシップの革新が求められている中で、顕在化した、「昭和型リーダーシップ」のひずみ。ビッグモーターは「完全に時代に乗り遅れた企業」として、淘汰は必至と思われますが、実は、こうした組織はいまだに決して珍しくありません。
日本の同族企業、中小企業、地方の企業などの多くには、こうした風土が根強く残っています。令和の今、「強いトップダウン型リーダー信仰」からの脱却とコミュニケーションスタイルの変革が求められているのです。
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コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師
「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。
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(コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師 岡本 純子)
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