「規則正しい生活」を頑張るのは逆効果…「自律神経の乱れ」をいますぐ一気に整える2つの方法
プレジデントオンライン / 2023年8月6日 15時15分
※本稿は、犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■自律神経の乱れは背中にあらわれる
「自律神経の乱れによるものかもしれません」。よく聞く言葉です。動悸(どうき)や息切れ、呼吸がしづらい、便秘や下痢、頭痛、めまい、立ちくらみ、不眠、全身の倦怠(けんたい)感、とれない疲労、イライラや不安感……体に明らかな異変や不調を感じてさまざまな検査をしても、これといった原因が見つからず、「自律神経の乱れ」を指摘されたことがある方も多いと思います。
自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまうと、全身に症状があらわれます。このバランスを整えるためには、規則正しい食事や睡眠、ストレスのコントロールなど、さまざまな方法がありますが、どれも簡単にできるものではありません。自律神経で悩んでいる方は、ぜひ一度、ご自身の「背中」に注目して頂きたいと思います。
自律神経の乱れは、背中の筋肉の固さとしてあらわれるからです。首から骨盤にかけて、背骨に沿って背中の中央部分に位置する脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)という大きな筋肉があります。上体を起こしたり、背筋を伸ばしたり、上体を反らしたりといった体幹を動かす動作に使われる筋肉です。自律神経が乱れると、この脊柱起立筋肉が固く、こり固まります。
■真面目に頑張ってしまう人ほど要注意
自律神経が乱れ、背中が固くなっている人は下記のような傾向があります。私のウォーキングスタジオの生徒さんでも、このような方が多くいらっしゃいます。
・気が付くと体に力を込めて、歯を食いしばっている
・長時間、スマホの操作やパソコン作業をしている
・自分にも他人にも厳しく、「あるべき」姿を求めがち
・胸を張って、背中を反らせる姿勢をしている
・痛みに耐えながらストレッチや運動をしている
・呼吸が浅く、早くなっている
これらは、「がんばる人」の特徴でもあります。この記事を読んでいる方にぜひお願いしたいことは、「体に力を込めて何かをがんばること」を、一度やめてみることです。なぜなら、上記に挙げたいずれもが、筋肉を固くしてしまう習慣だからです。がんばる人は、筋肉が固くなっていることが多いのです。
■背中がゆるむとストレスが減る
筋肉には、力を入れているときに固くなり、力を抜いたときに柔らかくなるという性質があります。筋肉は、ゆるんだり縮んだりすることで、ポンプのような働きをして、血液やリンパ液を流しています。細胞のすみずみまで酸素や栄養を届けたり、老廃物や余分な水分を回収したりするのに、筋肉の動きはとても重要です。
ところが、体に力を込めて筋肉が緊張した状態が続くと、筋肉が弾力性やしなやかさを失ってしまいます。筋肉は一時的に「固い」状態から、常時「固まった」状態になります。
こうなると、自分ではリラックスしているつもりなのに、筋肉はゆるまず、固いままなのです。筋肉のポンプ作用が働かなくなると、血液やリンパ液の流れが阻害され、酸素や栄養の運搬・老廃物の排出が滞ります。こうして、疲れやすさやコリ、痛み、不快感などの不調が発生します。
心と体はつながっています。嫌いな人と会ったり、苦手な人と電話をしたり、人前に出てあがったりすると、無意識に人の筋肉は固くなります。イライラしたり、緊張したりすると、脳が戦闘モードになり、交感神経が優位になるため、筋肉も収縮反応を起こして固くなるのです。
一時的に固くなるのはよくあることです。緊張がゆるむと筋肉もゆるむので、問題ありません。ただ、ストレス状態が続くと、筋肉の緊張状態が慢性化し、そのまま固まってしまいます。
■頑張りかたを間違えると心も体もクタクタになる
かくいう私もいわゆる“スポ根世代”で、「力いっぱいがんばることが良いことなんだ!」とずっと思い込んできました。ジムや姿勢改善のインストラクターからも、肩甲骨をグッと寄せて胸を張り、がんばって「良い姿勢」をキープするよう、繰り返し指導されてきました。
でも、人間にとって、力を入れ続けることは決して自然な状態ではありません。疲れる動作や姿勢は長続きしませんし、力を込めていることが原因で体に余計な負荷をかけ、不調を訴えている人も実際に多いのです。
とは言え、この思い込みはなかなかやっかいです。例えば「メールはすぐに返信するべきだ」「部屋はいつもきれいにしておかなければいけない」「自分が決めたことは最後まで守るべきだ」などという思い込みは、簡単に取っ払うことができるものではありません。人の性格やクセはそう簡単には変わりません。そこでおすすめしたいのが、体からアプローチすることです。
体と心は常に影響し合っています。背中をゆるめて背骨や骨格の歪みを正すことで、自律神経を整えることが可能なのです。つまり、背中をゆるめれば、思考の固さも自然にゆるまります。いろいろなことが許せる状態になると、心も体もびっくりするほどラクになります。こり固まった背中をとことんゆるめてあげることに目を向けてください。
■腹式呼吸よりも簡単な「胸腹式呼吸」
背中をゆるめるためにおすすめのアプローチを二つ紹介します。どちらも10秒あればできる簡単なものですので、ぜひ習慣にしてみてください。
その一つは呼吸法です。呼吸というとまず「腹式呼吸」をイメージされる方が多いと思いますが、私は「腹式呼吸」ではなく、より簡単な「胸腹式呼吸」をおすすめします。なぜなら、腹式呼吸の場合は、息を吸い込む際に無理にお腹を膨らませる必要があるため、どうしても不自然な動作になってしまうからです。
なぜ、背中をゆるめるために呼吸が大切なのでしょうか? 呼吸について少しだけ説明します。呼吸というと、「肺が広がったり縮んだりする」と考えがちですが、肺そのものが勝手に動いてくれるわけではありません。肺の周辺にある筋肉(呼吸筋)の動きによって、呼吸は行われています。
人の肺は、胸椎(きょうつい)や肋骨(ろっこつ)、胸骨(きょうこつ)、横隔膜などで囲まれた「胸郭(きょうかく)」と呼ばれる骨組み状の箱の中におさまっています。その内側の空間を「胸腔(きょうくう)」と呼びます。胸腔が広がったり縮んだりすることで呼吸活動が行われているのですが、胸郭を動かしているのが、呼吸筋なのです。呼吸筋が固くなって動きが悪くなると、胸郭はうまく広がらなくなります。
■筋肉がゆるみ、呼吸が深くなる好循環
その呼吸筋として代表的なものの一つに、肋骨の周辺にある「肋間筋(ろっかんきん)」があります。
肋間筋は、肋骨を取り囲むようにぐるりと背中側にもついているので、背中の筋肉が固くなると、肋間筋のスムーズな動きをさまたげてしまい、肋骨がうまく広がらなくなります。そうすると、もう一つの代表的な呼吸筋「横隔膜」の動きも制限されます。こうして胸郭が広がらなくなると、無意識のうちに呼吸は浅く、速くなります。
筋肉はピンポイントで固くなるのではなく、引っ張り合い、連動しています。背中にある、大きな筋肉をたくさん動かしてゆるめることで、胸まわりの筋肉や呼吸筋をゆるめることができるのです。背中をゆるめると、呼吸の質が上がるというわけですが、逆のことも言えます。
つまり、深い呼吸を意識することによって、背中をゆるめることもできるのです。呼吸が深くなると、酸素の供給量が上がります。筋肉にも酸素がしっかりと届くので、筋肉の柔軟性が上がって動きやすくなります。呼吸によって背中の筋肉がゆるみ、筋肉がゆるむことでさらに呼吸が深くなる……。このような良い循環が生まれます。
■深い呼吸を意識するだけでいい
「胸腹式呼吸」はとても簡単です。ひと言で説明すると、鼻から吸って口からフーッとラクに吐くだけ。普段、無意識に行っている呼吸を、ゆっくりと意識的に行うだけです。
ポイントは1つだけ。肋骨全体が広がっていること、特に背中側の肋骨が動いていることを意識しながら行うことです。
座って行ってもいいですが、仰向けに寝た状態で行うと、肋骨の後ろ側が膨らむ感覚がよりわかりやすくなるのでおすすめです。1日10呼吸程度でいいので、毎日続けてください。(図表1)
【胸腹式呼吸】
1 仰向けになり、体をラクにした状態で、口からフーっと息を吐き切る。このとき、両手で肋骨に手を当てて、肋骨の動きを意識します。
2 鼻からスーッと息を吸います。このとき、肋骨の背中側がしっかりと広がっていることを確認します。
3 体が床に沈むように、口からフーっと息を吐きます。
■いつでも、どこでもできる「両腕ひねり」を試してほしい
効果的に背中の筋肉をゆるめるもう一つの方法は、「両腕ひねり」という動作です。いすに座った状態のままできて、たった10秒で肩甲骨まわりの筋肉をゆるめてくれます。筋肉は動かさないとそのまま固くなってしまうというお話をしました。
座りっぱなしの状態が続く時には、1時間に1回を目安に、このような動作を取り入れていくとよいでしょう。(図表2)
【両腕ひねり】
1 座った状態で、右腕を肩の高さまで上げます。
2 肩の付け根から、腕を内側→外側の順にひねります。これを3回繰り返します。
3 同様に左腕を肩の高さまで上げ、内側→外側の順に3回ひねります。
4 両腕を肩の高さまで上げて、同じように左右の腕を内側→外側の順に3回ひねります。
最後に、腕を外側にひねった状態のまま両腕を下ろし、手首を内側に戻しましょう。一度動作を覚えたら、1~3は省略して、4のみでも大丈夫です。これなら3~4秒あればできます。この時、肩が上がってしまわないように注意してください。
ストレスのコントロールは、簡単にできることではありません。でも、1日10回の胸腹式呼吸と、「両腕ひねり」の10秒ほぐしなら、誰でも簡単にできます。背中をゆるめるアプローチから、自律神経の乱れを整えてみてはいかがでしょうか。
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ウォーキングコンサルタント
歩き方コーチ。「ORO(オーロ)ウォーキングスタジオ」代表。「オーラをまとう歩き方レッスン」主宰。愛媛県松山市出身。「正しい歩き方」ではなく、「心地よい歩き方」を探求し、これまでに述べ6000人以上に指導し、肩こり・腰痛、猫背、坐骨神経痛など、体が抱える数々の悩みを改善してきた。開催する講座やセミナーは1000回を超える。
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(ウォーキングコンサルタント 犬飼 奈穂)
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