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キーエンスの営業は「売上」だけでは評価されない…超一流の営業マンが常に意識していること

プレジデントオンライン / 2023年8月4日 7時15分

キーエンスのロゴマーク=2020年6月17日、大阪市東淀川区 - 写真=時事通信フォト

成果をあげている営業マンは何が違うのか。元キーエンスの鈴木眞理さんは「作られたプロダクトをそのまま提供し、顧客に使ってもらうだけであれば、営業は必要ない。顧客の取り組むべき課題を発見し、決断の手助けをすることが重要だ」という――。

※本稿は、鈴木眞理『仮説起点の営業論』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■数をこなしても成果が出ない3つの理由

「顧客、状況に合わせた提案ができる営業になる必要があるのか?」

営業職の方のなかには普段からそのように疑問を持たれている人がいるかもしれません。あるいは、こう考える人もいると思います。

「型通りの提案しかできなくても、数をこなして成果が出るならそれでいいのではないか?」

営業の存在価値が売上を増やすだけだととらえ、数をこなすだけで売上が増えるのであれば間違いではありません。しかし近年、3つの理由からそれは難しくなっていると感じています。

1つ目の理由として、世の中の課題が複雑化してきており型通りに数をこなすだけでは、売上を上げること自体が難しくなってきています。

2つ目の理由としては、テクノロジーの進化によって、型通りに説明して数をこなすだけであれば、人による営業である必要がなくなってきています。

3つ目の理由としては、競合間でシェアを取り合う限られた市場のなかでは、顧客への提供価値を増やさずに売上だけを増やそうとしても無理が生じ、様々な市場が成熟している現代は魅力的な市場にはすぐに競合が参入してくるからです。

■営業の存在意義は「介在価値」

そもそも、読者のみなさんは営業の存在意義についてじっくり考えたことはありますか?

様々な物がインターネットを通して人を介することなく直接買えるようになり、ずいぶん前から営業不要論も出てきています。私も営業である以上、自分も含めた営業の存在意義が何なのかをよく考えます。

私は営業にとっての存在意義とは“介在価値”をどれだけ高められるかだと思っています。

作られたプロダクトをそのまま提供し、顧客に使ってもらうだけであれば、営業の介在価値はゼロです。ウェブサイトからそのまま注文してもらったほうが早いと思います。

かつて私が在籍していたキーエンスでは付加価値という言葉がよく使われますが、介在価値とは「営業が生み出す付加価値」と読み替えることができるものと考えてください。まずここで付加価値とは何かについて改めて考えてみましょう。岩波書店の『広辞苑 第七版』にはこのように記述されています。

「生産段階で新たに付け加えた価値。生産額から原材料費などの中間投入物の額を控除したもので、人件費・利潤・利子・地代・家賃などに分配する。」

■「付加価値」を数値で表す2つの計算方法

また、付加価値を数値で表した「付加価値額」というものがあります。付加価値額は、控除法と積上法の2つがあり、

【控除法】
「付加価値額=売上高-外部購入価値(材料費、購入部品費、運送費、外注加工費、外部からの仕入費用)」

【積上法】
「付加価値額=人件費+経常利益+賃借料+金融費用+租税公課」

と計算されます。

付加価値額
出典=『仮説起点の営業論』

例えば自動車メーカーはエンジン部品やシャフト、鋼材などを仕入れて、加工、組み立てして完成車を販売します。このとき、完成車の販売価格は仕入れた部品価格の合計額より高くなります。仕入れた部品(ただの鉄の塊)に対して、自動車メーカーが加工、組み立てをして完成車にすることで、「速く移動できる乗り物」という付加価値がつけ足されるので、その分高く売れるのです。少し雑な言い方ですが単純化すると、この高く売れる分が付加価値額です。

■キーエンスが取り入れている付加価値額の考え方

キーエンスでは、営業の成績も付加価値額の考え方を取り入れており、売上で評価せずに売上から「社内仕切り」と呼ばれる原価を引いた成果額で成績を評価します。

成果額(営業の評価)=売上高-社内仕切り(材料費、開発費、共通費などが含まれる)

営業介在価値とは
出典=『仮説起点の営業論』

なぜなら社内仕切りは営業以外が生み出している価値であり、売上高と社内仕切りの差である成果額こそが営業が生み出した付加価値だからです。この考え方においては、社内仕切りに近い価格まで値引きをして販売すると、営業の付加価値はほとんどないということになります。

スタートアップのように初期の投資コストが高い赤字のビジネスモデルもあるので、必ずしも短期的な利益額だけで一概に判断することはできませんが、営業として自分が介在することでコスト(自分の人件費)が発生している以上、そのプロダクト自体が提供している価値に介在価値をつけられているかは常に意識しなければなりません。

もし介在価値がないのであれば、営業などおかずにウェブから直接購入できるようにしたほうが余計なコストがかからず企業の利益が増えるからです。

■営業は顧客のためになっているのか

介在価値を上げることが営業としての存在意義だという考え方に対して、「それは顧客のためになっているのか?」と考える人もいると思います。営業が介在することによって製品原価より高く販売されるのであれば、その費用を負担する顧客の視点からはデメリットなのではないか、という指摘です。

たしかに営業の介在価値のうち「売上高を上げる」という側面だけを見てしまうとそうですが、その売上高の裏には顧客が得る価値がセットになっています。

介在価値としての売上は結果としてついてくるもので、顧客に対して付加価値を発生させるからこそ、顧客からその分を費用としていただけるのです。

この順番を間違えると、ビジネスを永続させ、拡大していくことはできません。

■無理な売上の上げ方は、どこかで綻びがでる

・「売上」を一番の目的にしてはいけない

売上を伸ばすことは企業にとって重要です。売上がなければ、プロダクトの機能向上に投資することができず、顧客に届ける価値を大きくしていくことができません。

しかし、売上を一番の目的、目標にしてしまうとビジネスは破綻します。

売上という数字を一番の目的にしてしまうと、顧客に届ける価値を増やすことに時間を使うより、数字の上がりやすい顧客を担当すること、そのための社内政治に時間を使うことのほうが、個人の売上を伸ばすために短期的には効果が大きくなります。また、すでに契約をいただいた顧客をないがしろにしてでも新規提案にリソースを割り振ったほうが成果が上がることになります。

ところが、このような売上の上げ方は長期的には維持できません。個人としては成果を維持できることもありますが、そのシワ寄せを別の個人が負担しているので、組織としてはどこかで綻びがでます。売上という指標は大事ですが、その売上が顧客へのどのような提供価値から発生しているのかを考える必要があるのです。

■サブスクリプションで重視される「LTV」

そして、これは近年さらに重要性を増してきています。

この10年でサブスクリプションで提供されるサービスやプロダクトが大きく増えました。サブスクリプションは初期費用を抑えられ、不用になっても解約すれば費用がかからなくなることから、買い切りのプロダクトと比べて優位性があり、今後も増えていくと思います。

このサブスクリプションにおいては、すぐ解約されてしまってはコストが回収できないため、取引を開始してから終了するまでの期間に自社に対してもたらした利益の総額であるLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が重視されます。

そして、サブスクリプションのプロダクトは「うまい営業トークだけ」で契約に至ったとしても、提供価値に見合わなければすぐ解約されてしまいます。顧客の負担する費用に見合った本質的な価値を提供しなければ想定していたLTVを得ることができず、コストが回収できないという特徴があるのです。

また、インターネットの普及で口コミが広く速く伝わるようになったことも重要です。

販売したあとに顧客が満足していなければ、口コミサイト、SNS等に投稿され評判がすぐに落ちてしまうので、レピュテーションリスクが高まっています。

■「情報」が顧客の課題解決を難しくしている

このように、費用に見合った価値を提供することが重要になっている中で、営業が提供できる価値とは何なのでしょうか?

私が考える営業の価値とは、

「取り組むべき課題に気づかせて、決断をする手助けをする」

ということです。

オフィスで握手する2人のビジネスマンのクローズアップショット
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs

インターネットで情報をすぐに集められるようになった現代においては、営業に聞かなければわからない情報は少なくなってきています。以前は、顧客が得られない製品の情報を知っているだけで、「情報の非対称性」を活かして役に立つことができましたが、情報収集がしやすくなった現代では難しくなってきています。

一方で情報が多くなりすぎていることが、顧客の課題解決を難しくしているという現状もあります。多くの解決手段が提供され情報もあふれていることにより、何から取り組むべきなのか判断がつきにくくなっているのです。結果、何にも取り組まず現状維持になってしまったり、検討ばかりに時間がかかって取り組み始めるのが遅くなり競争優位性を失っていくことになります。

■日本が国際競争力を落とした大きな要因

スイスにあるIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表する「世界競争力ランキング」によると、2022年は日本は参加63カ国・地域中34位になっています。1989~1992年までは1位を取り、90年代前半も上位をキープしていましたが、徐々にランキングを落とし、今では競争力が弱い国になってきています。

中でも足を引っ張っている項目をみると、「変化に対する柔軟性や適応性」「企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)」で、63カ国・地域中63位と最下位になっています。

鈴木眞理『仮説起点の営業論』(KADOKAWA)
鈴木眞理『仮説起点の営業論』(KADOKAWA)

また同じくIMDが発表している「世界デジタル競争力ランキング2022」では「Opportunities and threats(機会と脅威への素早い対応)」「Agility of companies(企業の敏捷性)」の2つの項目で日本が63カ国・地域中最下位になっています。日本は「変化が苦手で対応スピードが遅い国」になってしまっており、それが国際競争力を落とす大きな要因になっているのです。

このような状況において、顧客が「スピード感を持って決断し、行動できる」ようお手伝いをすることこそが、営業の価値になると私は考えています。

そして、このような営業における価値を発揮したいと考えるときに重要なのが、「仮説」です。仮説が一番効果を発揮するのが、「余計な情報を取り除き、やらないことを決め、結論を出すまでのスピードを上げる」というところなのです。

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鈴木 眞理(すずき・しんり)
Datable VP of Sales
1981年生まれ。早稲田大学教育学部卒。2005年キーエンス入社。工場、設備メーカー向けに制御機器の営業を行う。11年SAPジャパン入社。インサイドセールスを経て、化学・石油業界担当のエンタープライズ営業に従事。15年オープンテキストに入社し、SAP経由のOEM販売を担当。16年freee入社。セールス、カスタマーサクセスのマネージャー、セールスイネーブルメントを担当。マネジメントするチームから全社売上1位メンバーを複数輩出。22年より現職。マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなどGo To Marketに関わる領域全体の責任者を務める。SNSやウェブメディアを通して営業についてのナレッジを精力的に発信し続けている。

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(Datable VP of Sales 鈴木 眞理)

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