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そんな格好だからミスするんじゃないの?…「ロリータ・モデル兼看護師」がそれでも医療現場から離れないワケ

プレジデントオンライン / 2023年8月12日 13時15分

出典=『まっすぐロリータ道』

「自分らしく、自由に生きる」には、どうすればいいのか。ロリータ・モデルと看護師を兼業している青木美沙子さん(40)は「何かひとつに絞る必要はない。ロリータと、看護師、二足のわらじを批判されたこともあった。どちらの生き方も捨てなかったことが、自分らしい生き方を支えてくれた」という――。

※本稿は、青木美沙子『まっすぐロリータ道』(光文社)の一部を再編集したものです。

■「ピノコになりたい」から始まった

「看護師になりたい」と最初に思ったのは、小学校高学年のころ。

母が水泳のインストラクターをしていたので、幼いうちから身近に“働く女性”のモデルがはっきりとあったのです。だから「私も大人になったら働くんだ」と自然に思うようになりました。ただ、私自身は水泳を習っても特別うまくなるわけではなく、勉強ができるわけでもない。働くにしても「手に職をつける」、何か資格をとってそれを生かせる仕事がいいんじゃないか、と思っていました。

当時「ナースのお仕事」や「ER緊急救命室」といった医療ドラマが大人気で、テレビっ子だった私は、毎週かじりつくようにして見ていました。医療を通じて人々を救う姿のカッコよさといったら! 私もこんな大人になりたいな。看護師という仕事にあこがれが芽生えたきっかけでした。そうして出会ったのが、医療漫画ということで手に取った『ブラック・ジャック』の「ピノコ」。見た目は幼い女の子なのに、主人公の医師、ブラック・ジャックを看護師として支える姿に夢中になりました。

あまりにコミックスを読み込むものだから、とうとうページが擦り切れてしまって。かわいいだけでなく、仕事もできる。テレビや漫画のヒーローのおかげで「私の行く末はナースだ!」と早くから目標が定まったのです。

■高校時代に読者モデルとしてデビューした

そんなわけで、中学を卒業したあとは看護科のある高校へと進みました。当時は「高校で3年間学んで准看護師の資格をとる→短大の看護科などを卒業して国家試験に合格=20歳で正看護師になる」というのが最短ルート。目指した道はそれです。

というと、目標に向かってまっしぐら! みたいに聞こえるかもしれませんが、本音をいえば、迷いました……看護科へ進学したら、その後はよほどのことがない限り、正看護師へ向かってひたすらに突き進むことになります。15歳で人生を決めてしまうような、大きな決断をすることが怖くないわけありません。けれどそれ以上に、ドラマや漫画で夢見た看護師に自分もなれるというワクワク感のほうが、はるかに大きかったのです。

中学時代は部活動や受験準備に明け暮れていたけれど、晴れて進学してからは、青春を取り戻す! くらいの勢いで毎日を謳歌(おうか)しました。授業や実習の合間を縫ってファストフード店で初めてのアルバイトをしたり、おしゃれに興味がわいて原宿デビューしたり。週末のたびに電車に揺られて船橋からあこがれの原宿へ、友達と一緒に繰り出しました。そうしてティーン雑誌のスカウトの目に留まり、読者モデルとしてデビューすることになります。

■“看護学生兼ロリータ”に迷いが生じた

平日は高校へ通い、週末はモデル撮影。めまぐるしい生活が始まりました。とにかく忙しかったけれど、とことん充実していました。今だからいうと、私にとって読者モデルとしての活動は、趣味の延長でした。ただただ「かわいいロリータのお洋服を着られる!」という喜びに満ちていて、それだけでよかったのです。

ひたすら楽しかった“看護学生兼ロリータ”時代に迷いが生じたのは、短大の看護学科へ進んでからのこと。

進学した先は、髪の色やネイル、服装などが校則で厳しく規制されていました。これがつらかった。いちばんおしゃれを楽しみたい年ごろで、けれど、大好きなファッションで登校すると注意の連続。私にはかわいくてたまらないボンネットやリボンも「ここは学校ですよ!」と毎回叱られました。

学校だからこそ、私にとって戦闘服であるロリータアイテムを身につけて向き合いたかっただけなのに。

■このまま看護師を目指していいのか

医療の勉強会で最前列に座っていたら、講師からビンタされたこともあります。頭につけていたミニハットが、講師には“不まじめ”に映ったようなのです。そのうち、だんだんと毎日をキツく感じるようになりました。キラキラと楽しい撮影現場と、大好きなロリータを否定されながら国家試験の勉強に追われる学校生活。このギャップが大きすぎて……。

周囲のモデル仲間は、アパレルブランドのカリスマ店員だったり、ファッション系の学生だったりして、看護師を目指す私は異色の存在でした。

このまま看護師を目指していいのか、モデル活動に絞ってファッション系の学校へ進む道もあるんじゃないか、などと迷い始めたのです。専業モデルとしてのお誘いもありました。でも、それだけでやっていけるほど甘い世界ではないし……悶々(もんもん)と悩む日々。このころが人生でいちばん悩んだ時期かもしれません。

■経済的に自立することが絶対に必要

ぐちゃぐちゃに思い悩んだ末、とにかくこの泥沼から脱出しなければ! と気力を奮い立たせました。いつまでもこんな苦しい状況につかっているなんてごめんです。まずは原点に立ち戻って考えよう。私はどうしたいの? →「子供のころからのあこがれ、看護師になりたい」「大好きなロリータを思いきり楽しみたい」。いろいろな雑念を取り払うと、シンプルにこのふたつの願いが残りました。

そうしたら次は、現実的な視点で見てみる。好きなことを続けていくには、経済的に自立することが絶対に必要です。残念ながら読者モデルは、それだけで生計を立てられる世界ではありません。だから、モデルたちも学生時代の趣味の延長という意識が強かったし、必然的にほかに本業を探そうとしていました。それでもなかなか就職には苦労していたようです。

それらを見聞きして考えました。若く体力のあるうちに国家資格をとり、しっかり働きつつ好きなことを楽しむのが私にとってはベスト。やっぱりこのまま学校へ通って、正看護師になる!

■「自立できる方法」と「好きなこと」は別でいい

数年前、YouTubeの「好きなことで、生きていく」というキャッチコピーが流行りました。それって現実的にはなかなか難しいし、必ずしも好きなことで生計を立てなければならない、なんてこともない気がします。自立できる方法と、好きなこと。両方を別々にもっていたっていい。むしろ、両方あることで生活の安定と潤い、どちらも手に入れられるのかも。よし、泥沼から脱出!

結論が出てからは、迷いなく正看護師への道を突き進むことができました。その後の短大生活は、勉強と実習とモデル活動で手いっぱい。大学生活につきもののサークル活動もしなかったし、友達と遊ぶ余裕なんてそうそうありませんでした。けれど、がんばった甲斐あって、20歳で無事に国家試験を通り、正看護師の資格を得ることができました。原宿からほど近い大学病院に配属が決まると、夢に見た看護師の一歩を踏み出したのです。

自転車に乗る青木美沙子さん
出典=『まっすぐロリータ道』

■人生最高にキツかった大学病院での5年間

大学病院で働いた5年間は、これまでの人生でいちばん体力的にキツかったかも……。看護師は資格をとっただけでは意味がなく、実務を積まなければ、医療スキルも緊急対応も身につきません。そのため最低3年間は修業するつもりで大学病院を選んだものの、これが超ハードな職場だったのです。

生死のかかった現場で張り詰めた緊張のなか、ひたすら患者さんの処置に走る毎日。そこにロリータ・モデルの仕事が加わります。朝まで夜勤をこなして帰宅し、髪を金色にカラーリングしてそのまま雑誌の撮影へ急行、なんてことも普通にありました。ひとえに若かったから乗りきれた、としかいえません、今思うと。

でも、だったらモデルをやめよう、とはなりませんでした。むしろカメラの前でスポットライトを浴びる、この看護師とはまったく違う仕事が、心のバランスをとるのに最高に作用してくれました。ドクターとカメラマン、病棟と撮影スタジオ、両方を行き来できるのが楽しくて仕方なかったのです。

■「そんな格好をするからミスするんじゃないの?」

ただ、周囲の反応は温かいものばかりではありませんでした。「ひとつのことを極めるのがえらい」という風潮があったから「なぜ看護師に専念しないの?」「どうして看護師になってまでモデルを続けるの?」と問われたことは何度もあります。通勤中の私を見た先輩から「そんなチャラチャラした格好をするからミスするんじゃないの?」とまで言われたことも。

仕事中はもちろんナース服を着るけれど、それ以外では何を着たっていいはず。内心そう思いつつも、病院という職場は言葉の強い人が多いとわかっていたので、無難な受け答えをするようにしていました。

私にはこことは違うもうひとつの世界がある、と考えたら、理解はしてもらえる人にしてもらえればいい、と思えたのです。同期など応援してくれる人たちもいましたし、ささやかな自己主張として、聴診器をピンクにしたり、キティちゃんのボールペンを使ったり。そうやって気持ちを切り替えました。

■趣味を楽しむのにもってこいの職業

看護師って、趣味に力を入れている人が多いのです。「推し活」につぎ込む人もいれば、1年の半分を看護師として働き、残りは旅している人も。そして、ロリータをしている人もかなりいます。私もそのひとり。

なぜだろう? と考えて、気づきました。看護師は、趣味を思いきり楽しむのにもってこいの職業なのです。だって、

①国家資格をもっているので、一生食いっぱぐれない

全国各地でつねに求人が出ている状況ですし、それは、少子高齢化社会が進む今後も変わらないでしょう。

②フレキシブルな働き方ができる

契約次第で、非常勤で働いたり長期間の休暇をとったりと、時間的に融通がきく。高給を目指して夜勤専門で働く人もいます。

③健康管理に役立つ知識が得られる

体調を崩したときなど、自分で適切な処置をとれる。特に海外にいるときに自分で体調管理できるのは、モデルの仕事にも大きなプラスになりました。

④給料が高い→これはかなりポイント!

特に夜勤のある職場なら、若いうちから平均以上の収入を得ることもできます。私は夜勤のおかげで、ロリータファッションを全力買いできました。

つまり“時間とお金に融通がきく”ポイントがそろっているのです。結果論になるけれど、私がロリータ・モデルとの二足のわらじをはけたのは、看護師だったからこそかもしれません。看護師という職業は、厳しい実習を受けて国家試験に合格し、実務を積んで、険しい道のりを乗り越えなければたどり着けない、けれど、そのぶんの努力が報われる仕事なんじゃないかな。

■「自分らしく自由に生きる」はきれいごとじゃない

社会人になって、もうすぐ20年。変わらずずっと思っているのは「自分で稼ぐ」のがものすごく大事だということ。

青木美沙子『まっすぐロリータ道』(光文社)
青木美沙子『まっすぐロリータ道』(光文社)

何度もお話しした“自分らしく、自由に生きる”ことは、けっしてきれいごとではなく、経済的な自立とセットだと思うのです。どれだけ夢見たって、現実はごはんを食べなきゃ生きていけない。そのうえ、趣味を誰はばかることなく思いきり楽しむには、プラスαでお金がかかります。そういう経済的な裁量を他人にゆだねてしまうと、何かの事情でそれがなくなったときに詰んでしまうかもしれない。

20歳そこそこで激務にもまれたから、着実にスキルを身につけて、早くから自分で稼ぐ方法を得ることができました。自分で自分の面倒を見られると思えたことが、人生のターニングポイントで毎度、選択肢を増やしてくれた気がします。私が今“自由”なのはきっと、二足のわらじをはき続けてきたことが根底にあるのです。

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青木 美沙子(あおき・みさこ)
ロリータ・モデル、正看護師
外務省よりカワイイ大使に任命され、ロリータファッション代表として文化外交にて20カ国30都市歴訪し、ロリータファッション第一人者として活動中。しまむら、PINK HOUSEなど様々なブランドコラボ、書籍発売などプロデュース業も行う。

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(ロリータ・モデル、正看護師 青木 美沙子)

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