花火大会でゴミを捨てる人はなくならない…経営コンサルタントが提案する「渋谷ハロウィン方式」という意外な解決策
プレジデントオンライン / 2023年8月12日 13時15分
■花火大会の問題とは、オーバーツーリズムの問題である
7月25日、江戸川の河川敷で行われた4年ぶりの葛飾納涼花火大会には77万人もの観客が訪れました。夏の風物詩であり、しかもコロナ禍で長い間開催されてこなかったイベントでもあるため、その反動ともいえる賑わいを見せました。
7月29日の隅田川花火大会では、それをさらに上回る過去最多の103万人が殺到しました。ネット上では早い段階から混乱を予測して、花火の観覧は自宅でテレビを見ながらと呼びかける投稿がSNSに飛び交っていましたが、それでも大勢の人たちが現地を目指したわけです。
多くの人々を非日常で楽しませる花火大会にも、深刻な3つの問題が内在しています。災害級の暑さがもたらす熱中症のリスク、制御不能なほどの人波がもたらす群衆雪崩のリスク、そして後に残される大量のゴミ。これは真夏の夜に一晩だけ発生するオーバーツーリズムの大問題です。
■隅田川花火大会で浅草に殺到する人々
浅草は国内外から多数の観光客が訪れるという意味でオーバーツーリズム対策が進んでいる街です。それでも隅田川の花火大会では、いつもとは違う異次元の人波が出現します。花火の開始2時間前の17時の時点ですでに人が動けないほどの混雑となり、警察の交通整理が効きにくい状況が起こり始めます。
この日の浅草近辺の道路は一方通行規制が行われるのですが、友達との待ち合わせなどの理由からか、規制を破る人が出始めます。最初のうちは柵を乗り越える人が散見される程度だったのが、やがてフェンスを破壊して人波が反対方向に独自に流れ出す事態まで起きました。
この事態で思い出されるのは昨年のハロウィンに韓国の梨泰院で起きた群衆雪崩によると見られる雑踏事故です。狭い路地に入った人々が身動きがとれなくなり、150人以上の犠牲者を出しました。これはオーバーツーリズムが引き起こした悲劇です。
警視庁はこの点に関しては十分な対策をたてていた様子で、実際に現場では人波を分断しながらコントロールすることで、1カ所に人が集中しないような規制をかけていました。フェンス破壊のような行為は幸いにしてそれ以上広がることはなく、徐々に人波は交通規制に従い始めます。
■大量のゴミが残る理由は「割れ窓現象」
18時に交通規制による車道の封鎖が始まると、待機していた人々が一斉に道路に走り出してブルーシートで場所取りを始めます。車道は一瞬で観覧席に代わり、人で埋め尽くされました。
19時に花火が始まり、集まった人たちは90分の壮大なショーを堪能することができました。ただそれが終わると、道路にはブルーシートや空き缶、ビニール袋など大量のゴミの山が残されていました。
隅田川でも葛飾でも、花火の会場ではいわゆる割れ窓現象が起きて、そこら中にゴミが残された様子です。割れ窓現象とは、道端にゴミが捨てられているのを見ると、普段はそのようなことをしない人たちも「まあいいか」と思ってそこに自分のゴミを捨てていくような現象です。普段とは違う不届きなことを起こすのもオーバーツーリズム現象です。
■熱中症を引き起こす2つのリスク
そしてもう1つ、今年の夏の災害級の暑さがもたらしたのが熱中症です。花火が開始する前から救急車で搬送される熱中症患者があちこちで出現しました。実は花火大会の現場には熱中症に関して2つのリスクとなる現象があります。1つは飲料が買えないという現象です。浅草では自販機は売り切れ状態のうえコンビニに人が入りきれず長蛇の列ができて、ペットボトル飲料を手に入れられない人が続出しました。
さらに人が密集することによる人熱(ひといき)れという現象が起きます。これは集まった人々の体温でその場所の空気が熱せられるうえに、風通しも悪くなることで、熱を帯びた空気が人混みに滞留する現象です。結果として気づかないうちに気分が悪くなり、夜間なのに熱中症になっていたという事態を引き起こします。
さて、この夏は全国各地で同じようなオーバーツーリズムの光景が繰り返されることになります。夏の夜にわたしたちを楽しませてくれるイベントとしての花火大会は、もろ刃の剣のように1つ間違えれば大きな社会問題を引き起こしかねません。
■今年の「浅草スタイル」で人混みのリスクを減らす
悲劇や地元への迷惑行為をなくすことはできるのでしょうか? コンサルの視点で3つのリスクについてそれぞれの対策を考えてみたいと思います。
そもそもの前提として全国各地の花火大会は公共事業として行われ、無料の観覧イベントとして大量の人が集まる傾向があります。もちろん主催者としては観覧エリアについては事前に抽選するなどして入場規制を行うのですが、花火は遠くからでも見られるわけで、それをあてにして公道に集まる人の数まで制御をするのは難しいものです。
今年に関してはコロナ禍明けということで、例年にないほどの人が集まるのは特殊傾向かもしれません。一方で観覧客にはインバウンドの訪日客が多いことも事実で、その人数は来年以降も増加の一途をたどるでしょう。
その観点で考えると、人混みの人数を減らす対策には限界があると思います。そうではなく人が大量に集まることを前提に、浅草で行われたように人混みが流れていくように一方通行規制を設計し、それを守らせたうえで、人波を分断しながら動かすことで群衆雪崩のリスクを減らしていくことしか対策はないと考えるべきです。
この点で、今回浅草で機能していた警視庁のやり方は、来年以降、全国各地にノウハウとして広めていくことが重要です。
■「水の持参」は繰り返し呼びかけるしかない
つぎに熱中症の問題を取り上げると、この問題はこの先、より深刻な問題となっていくはずです。気候変動による夏の気温の上昇は「数年に一度、異常に暑い夏が発生する」ところがポイントで、実は毎年酷暑が繰り返されるわけではありません。
そのことの何が問題かというと、忘れた頃に熱中症が増える年が訪れるということです。そして夜だから昼間よりも涼しいだろうとか、コンビニや自販機がこれだけあるからいざとなれば水分は手に入るだろうとか、その予測が裏切られるのです。
この問題については啓蒙(けいもう)活動を繰り返し行うしか方法はありません。花火大会に出かけるなら「十分な水分を手に持って出かけよう」と繰り返し呼びかけるのです。
■ゴミ問題は「渋谷のハロウィン」が参考になる
最後のゴミの問題は、残念ですがなくすことはできないでしょう。花火大会を行うと自治体が決めた時点で、マナーだけではなくせないゴミの問題が必ずついてくると覚悟すべきです。マナーを守れない人はどの社会、どの都市にも一定数いるうえに、花火大会の夜にはそこに割れ窓現象が起きて、普段ゴミを捨てない人までが道端にゴミを残していくのです。
有料のイベントなら、ゴミ箱を増やしたり清掃するスタッフを増やしたりもできるのですが、無料ということであればここは地元で解決する以外にありません。
ただこの点では渋谷のハロウィンの翌朝のムーブメントが参考になるのではないかと思います。渋谷ではハロウィンの夜に大騒ぎをする若者の中から、翌朝に率先してゴミを片付けるボランティアを組成する動きができています。楽しむのも自分たちであり、その後の街をきれいにするのも自分たちがやるんだという精神です。
仮に花火大会の祭りが夜通し続けられるのであれば、早朝にツーリストも一緒に片づけを手伝えるかもしれません。朝早くから地元の人たちと交流しながらごみを集めることが旅の思い出になればそれはよりよい解決策ともなるでしょう。
■花火大会はオーバーツーリズムの「ワンナイトバージョン」
話をまとめます。夏の花火は日本人にとって心を癒やす夏の風物詩です。日常の疲れやしがらみを忘れて一時、夏の夜空を彩るアートを心の底から楽しめる大切なイベントです。それに対して人が集まるなというのは無理というものです。真夏の夜にはこれからもオーバーツーリズムが発生するのです。
ですから、できうる限り群衆雪崩が起きないように人波をコントロールするとともに、参加者はルールを守る責任を最低限の約束として忘れないことが大切です。熱中症の問題は啓発で減らし、ゴミの問題はボランティアで参加者の側から解決を模索していくべきでしょう。
この問題、全国の観光地を悩ますオーバーツーリズムの「ワンナイトバージョン」というべき現象です。その問題とうまくつきあっていくことが、イベントをこの先も毎年続けていくための条件になるのです。
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経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)
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