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ゲーム・スマホ漬けのわが子もリスク大…進行すると水原一平容疑者のような依存症になりうる子の家庭環境

プレジデントオンライン / 2024年4月25日 10時15分

練習の合間にドジャースの大谷翔平(手前)と言葉を交わす水原一平通訳=2024年3月3日、アメリカ・アリゾナ州グレンデール - 写真=時事通信フォト

賭けは、2021年9月から約2年間で1万9000回――。米司法当局は、大谷翔平選手のお金をだましとったとされる元通訳の水原一平容疑者が陥ったギャンブル(賭博)依存の異常な実態を明らかにした。ギャンブル依存を含め依存症は脳の機能不全の病気だと言われる。ジャーナリストの浅井秀樹さんは「専門家に取材すると、現代では子供も大人もアルコールやゲーム、ネット、薬などさまざまな依存症にかかるリスクがあると話している」という――。

■大谷翔平のお金を約2年間で1万9000回の賭けに投じた

米国では大リーグの大谷翔平選手から、元通訳の水原一平容疑者が巨額のお金をだましとったと、銀行詐欺容疑で訴追された。米司法当局は、水原容疑者が陥ったギャンブル(賭博)依存の異常な実態を明らかにした。ひとごとのようにもみえるが、専門家は、一般人がギャンブル依存に転落するきっかけは身近になっているという。

米当局によると、水原容疑者はスポーツ賭博を繰り返し、大谷選手の預金口座から送金していた。賭けは2021年9月から約2年で1万9000回(1日平均25回)に及んだ。賞金総額約1億4000万ドル(約218億円)に対し、負けが約1億8000万ドル(約280億円)に膨らんだ。ここまで賭けに溺れると、一般人からは異常にみえて、理解しにくい。

ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表は次のように話す。

「いまはオンラインでギャンブルをできる時代です。若い子はスマホなどで登録するのにストレスを感じず、四六時中でもギャンブルができます。昔は依存症になるまでに10年くらいかかることもありましたが、いまはあっという間になってしまいます」

何かに依存し、「正常」とみなされる範囲を逸脱すると「心の病」になる。その境界線は人により違い、一律でない。依存症にはギャンブルやアルコール、ゲームやネット、薬物など、さまざまなものがある。

たとえば、お酒が好きで、アルコールを飲むことでストレスを発散する人は少なくない。アルコールに依存していても、生活に支障がなければ依存症とは呼ばない。

ギャンブルで1億円の負けとなっても、数千億円の資産がある大富豪ならポケットマネーで処理できる。一方、10万円の負けでも、お金がなくて借金をして返せなくなる人もいれば、人のお金に手を出して犯罪になる人もいる。

あるいはゲームにはまり、毎日数時間ものめり込んで、学業や仕事がおろそかになる人もいれば、悠々自適の生活で何の問題も生じない人もいる。

依存症の診断は自ら制御ができなくなり、社会生活の障害が起きているか、社会通念からどれだけ逸脱しているかで判断される。

ギャンブル依存の心理状態について、田中さんは自らの経験に基づき次のように話す。

「ギャンブル依存症の人は仕事を終えて暇になったとき、たとえば夜中や土日に、ギャンブルをやらずにはいられないという衝動にかられます。本能が欲に支配されて、誤作動しているのです。やめたいけれども、やらずにはいられない。食費もなく、食事もできなくなり、借金を繰り返しているので、本人も楽しんでいるわけがありません」

■「進行すると水原一平・元通訳のようになります」

田中さんは自身を「ギャンブラーの妻で、ギャンブルと買い物依存症の当事者」でもあり、夫とともにギャンブル依存症の問題から自助グループのなかで回復したと、ギャンブル依存症問題を考える会のホームページで明らかにしている。

田中さんはギャンブル依存症を「脳のなかの機能不全で、病気なのです」と指摘し、「進行してくると水原一平・元通訳のようになります」と話す。

自らをギャンブル依存症とアルコール依存症の経験者というのは、三宅隆之・ワンネス財団共同代表。いまはギャンブルをしない、酒を飲まない生活を続けている。この財団は、精神疾患などの心身の回復と成長を支援する専門機関だ。三宅さんは自らの壮絶な経験を次のように話す。

「どういう高校に入れば親に喜ばれるか」と三宅さんは考え、地元でトップクラスの高校に入った。親からは「いい大学にいける」と期待されたが、高校で「成績が上がらず、親に申し訳ない、自分にも許せないとストレスを抱えていた」という。

そんなときに部活の先輩に誘われて酒を飲んだところ、「天にも昇る気持ちで、ぱっと気持ちが晴れた」と。お酒でストレスを紛らわせ、親との会話はなくなり、自室にひきこもるようになった。

アルコール依存状態だった三宅さんは、浪人しながらも大学に進学した。希望の大学でなかったこともあり、酒量が増え、ギャンブルと出会った。大学に入学後の夏ごろ、先輩に連れられたパチンコ店で「体が震えるような快感」を覚えた。「大きな刺激がいまだに残っている」と当時を振り返る。

三宅さんは「ギャンブルがひどくなり、半年後にコントロールがきかなくなった」という。大学の友人に借金をして返せなくなり、時給の高い夜勤アルバイトを始めた。夜勤が終わった翌朝に、学校でなく、パチンコ店に行くこともあった。このころ、サラ金で借金をするようになった。

大学を卒業した三宅さんは、会社に就職した。自分が「どうみられているか」を気にしながら、仕事が終わると会社から逃げるようにパチンコ店へ行った。ストレスをまっとうに解消せず、パチンコにのめり込み、借金を重ねた。借金を重ねる生活は会社で発覚し、退職を余儀なくされた。退職直前のボーナスなどで、借金は何とか返済できたという。

その後、三宅さんは東京に出て転職した。「ギャンブルをやめて、ギャンブルのことを考えないようにしようと思っていたが、ちょっとならいいかもと、ギャンブルを始めるようになった」と振り返る。当時はサラ金からも借金ができなくなり、ヤミ金にまで手を出した。さらに、会社のお金に手をつけ、同僚の財布からお金を抜き取り、会社に発覚して刑事事件となった。

三宅さんは会社を解雇され実家に戻った。そのとき、支援組織の存在を知り、民間の支援を受けることで立ち直ったという。そこで「ギャンブルやお酒につながらない生活パターンをつくってもらった」と話す。

依存症の人について、三宅さんは「一般的にはだらしない、自分の好き勝手にしていると、表面上はみられている」と指摘し、社会の見方が批判的なのは仕方がないともいう。一方で、「原因はだらしないというのを超えたところにある」とも話す。

さまざまな依存症の人々
画像=iStock.com/Darya Yahmina
※画像はイメージです - 画像=iStock.com/Darya Yahmina

■ゲーム・スマホ漬けの子も強度依存症になりうる“家庭環境”

三宅さんは依存症に陥りがちなケースとして、たとえば、人から良く思われたいという気持ちが強く、嫌われると孤立してしまい、死にたいと思う人もいるという。自分のことを言葉で伝えるのが苦手な人も多いとも。自らの経験も振り返り、次のように説明する。

「こうあるべきだという考えが強いと、ストレスを大きく抱えてしまい、発散しにくくなる。たまたま出会ったギャンブルなどで癒された気持ちになる。私も高校時代は劣等感が強くあり、酒を飲んでいた」

依存症から立ち直る方法について、前出の田中さんは自助グループによるグループ療法をアドバイスする。「仲間たちとの共感がすごく大事です。仲間でないと支えられません。気持ちが楽になれたと思うまで、だいたい2年くらいかかります」と話す。

ひとりで悩まず、同じ問題を抱える人が集まり、話し合うことで悩みを共有し、問題解決のプロセスを確認できる。さらに、次のようにも言う。

「誰かの役に立つという居場所を感じることなどで、人間らしい本能が戻ってきます。社会貢献で回復する、不思議な病気です」

三宅さんは、ワンネス財団が基本にすえる「Well-Being(ウェルビーイング)」を重視する。身体的、精神的、社会的に良好な状態で、幸せを意味する。どうして自分は生きづらいのか、こんなにストレスを抱えているのか、と感じている依存症の人たちは、このウェルビーイングが低いという。依存症の人はストレスへの対処能力が低く、第三者がサポートする必要性を強調する。三宅さんは若い人のことを心配し、次のように話す。

「誰かに話すなど、ストレスに対処する能力が弱いことがあります。若い人がギャンブルなどに出あってしまう可能性はあり、それに振り回されない人になれるように、親や地域社会が自分のこととしてとらえていってくれるといい。依存症になって問題を起こしたとしても、社会から排除されるのでなく、社会復帰できる余地があるほうがいい」

日本には競馬、競輪、競艇、オートレースという公営競技がある。公営のギャンブルは自治体にとって重要な収益源で、関連業界もある。田中さんは、関連業界からの圧力もあるとみており、一般人がギャンブル依存にならないようにするため、国の取り組み姿勢が消極的と懸念している。

最近の現象に、スマートフォンやパソコンでネットやゲームに夢中になる人がいる。学業や仕事が手につかなくなるとネット依存症やゲーム依存症と呼ばれる。依存の対象が薬物やアルコールなどの物質ならば、どれぐらいのめりこむと依存症になりやすいのか目安があるが、ネットやゲームは依存する時間だけでは判断ができない難しさがある。

暗い場所でスマホを見ている子ども
写真=iStock.com/ljubaphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

「ネットやゲームは他の依存症と異なり、小学校高学年から大学生くらいが多い。本人は気づきにくく、家族が心配になって相談にくることが多い」

こう話すのは、ネット・ゲーム依存専門心理師でMIRA-i(ミライ)の森山沙耶所長。本人は勉強でのつまずきなどでストレスを抱え、どう向き合えばいいのかわからず、いやなものから逃避するなどの問題を抱えることがある。そこでストレス発散やストレス逃れでゲームなどにはまりやすくなるという。森山さんは相談事例などから、次のようにみている。

「家族関係が悪化していることが多いです。家族が注意や説得しようとすると、本人は家族に対して否定的な気持ちになり、家で居場所がなくなり、ひきこもるようになります」

そうして依存症になった人には、どう接すればいいのだろうか。

■依存症、依存症予備軍を周囲はどう支えればいいのか

森山さんは「家庭の雰囲気を変えるようにする。まず、コミュニケーション」と話す。本人を見れば、勉強しなさい、というのはだめ。できるだけ日常的な会話ができるようにして、家族と一緒にいる時間を増やしていくといい。森山さんは「家族の対応が変わったと、本人も気がつくようになります」という。

森山さんが所長を務めるミライはネット依存症、ゲーム依存症、スマホ依存症の予防・回復を支援している。「本人の意思が弱い」から依存になるのではない、という。依存状態になると、自分の意思と関係なく欲求や行動をコントロールできなくなり、この症状になると、本人の力だけで回復を望むのは困難としている。

ギャンブルなどに依存し過ぎた人たちに対して、社会は依存症とレッテルを貼り、異質者とみてしまう。これは排除につながり、社会復帰を妨げてしまう。三宅さんが強調するように、依存症になりそうな人を社会が引き止めるように支え、依存症になった人を排除するのでなく、復帰に向けて支援していくことが大切になる。大谷翔平選手の元通訳をめぐるギャンブル問題をきっかけに、依存症への理解が進むといい。

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浅井 秀樹(あさい・ひでき)
ジャーナリスト
米国証券会社調査部を経て東洋経済新報社、米通信社ブルームバーグなど国内外の報道機関で30年以上にわたり取材・執筆。森林文化協会の月刊「グリーン・パワー」で森林ライターも続ける。

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(ジャーナリスト 浅井 秀樹)

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