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一年を通して人に会うのは数えるほど…それでもフィンランド人が「孤独」を全く感じない驚きの理由

プレジデントオンライン / 2023年8月12日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NAPA74

淋しさを感じたとき、どうすれば払拭できるか。浜松医科大学名誉教授の高田明和さんは「孤独とは『暑い』『寒い』と同じような感覚である。フィンランドでは、一年を通して人に会うのはクリスマスや誕生日などの特別なイベントのときだけという人も多くいる。それでも孤独な環境にいることを淋しく感じないのは、人に会わないことが当然であり、自然とともに生きることに幸せを感じられるという前提があるからだ」という――。

※本稿は、高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■フィンランド、ノルウェー…人々が孤独感を知らない国

人が孤独感を抱くのは、決して「孤独になったから」とか、「一人になったから」という外的要因からだけではありません。それを生じさせる要因がほかにもあるのです。

ということは、その要因に対して、あらかじめ対策をしておけば、孤独感なんて覚えなくてすむ人生を送れるということです。

とはいっても、今までほぼ毎日出勤して、誰かと顔を合わせるのが当たり前だった人が、退職を機に、一日中、誰とも会話をしない生活になったなら、やはり一時的な喪失感は生じるでしょう。また、いつも一緒にいた伴侶を突然に失ったりすれば、大きな喪失感を抱くでしょう。

しかしお伝えしたいのは、どんなに淋しい気持ちも、必ずコントロールできるということです。

その証拠に、世界には、たった一人で生きている人が多いにもかかわらず、あまり「孤独」というものが問題にならない社会(国)が存在します。日本人には考えられないかもしれませんね。

たとえば、北欧のフィンランドやノルウェーに住んでいる人々です。もちろん地域にもよるでしょうが、私が、アメリカの大学で研究をしていたときのフィンランド人の女性助手が言うには、母国のフィンランドは一年のうちのほとんどが一面雪だらけで、家がぽつんぽつんとしかないのが普通だとか。

そしてそんな環境のせいで、一年を通して人に会うのは、クリスマスや誕生日などの特別なイベントのときだけ、という人も多くいるそうです。

それで「淋しくないの?」と聞けば、「自分は孤独という感覚がわからない」と言います。生まれたときからずっと「人に会わないことが当然であり、自然とともに生きることが幸せなこと」だから、孤独な環境にいることを淋しく感じないそうです。

これと同列には語れませんが、昨今の日本の高齢の受刑者には、刑務所の独房に戻りたくて、出所後に犯罪を繰り返す人も多いと聞きます。

現実社会のわずらわしい集団の中で生きるよりは、食べ物があって寝るところがあるなら、誰もいない独房のほうがよっぽどいいというわけです。ここでも、孤独な環境それ自体が、彼らにとっては幸福であり、安心感を生んでいるのです。

■孤独とは「暑い」「寒い」のような感覚

私自身は現在、マンションの8階に住んで、日常のほとんどを一人で過ごしています。

私の住まいの向かい側には、娘家族が住んでいて、大学生の孫も二人います。でも、行くとうるさがられるので、ほとんどコミュニケーションを取ることもありません。すぐ近くにいるのに、ひと月に一度も会わないことなどしょっちゅうあります。

でも、それが当然になっているから、私のほうもなんら淋しい気持ちは持ちません。

周囲の同年輩の人に聞けば、むしろそれが今どきの普通であると口を揃えます。

そうした状況を孤独に感じる人は、メディアが作りあげてきた、「おじいちゃん、おばあちゃんと孫が、仲よくしているという理想」に感化されすぎているのではないでしょうか。

孤独感は、結局、「暑い」とか「寒い」という感覚と同じなのです。40度のお風呂の湯を「熱い」と感じる人もいれば、「ぬるい」と感じる人もいるように。

育った環境や周りの人との関係、そして普段どんな情報に接しているか、などによって感じ方は大きく変わってくるわけです。

だから普段の考え方や生活習慣を変えることによって、いくらでも「孤独感」はコントロールすることが可能なのです。

■生物は「一緒にいて安心できる存在」を選ぶ

生物学的に見れば、孤独感を持つ理由は、孤立することによる危険を避けるためです。

かつて、アメリカの心理学者ハーロウは、子ザルに「代理母」を与え、子ザルがどのような行動を取るか実験しました(現在、このような実験は倫理上の観点から規制されています)。

その実験は、子ザルを母親から離して母乳が飲めない状態にしたあと、ミルクの入った哺乳瓶を備えたワイヤー製の「代理母」と、布でできたミルクの出ない「代理母」を子ザルのもとに置く、というものです。

すると子ザルは、抱きつくと痛いワイヤー製の母に抱きついて、哺乳瓶からミルクを飲みますが、ミルクを飲むとき以外はワイヤー製の母には近づこうとせず、ずっと布のお母さんにしがみついているのです。

この実験からハーロウは、「スキンシップの重要性」を説きました。生物は孤独を嫌がるけれど、やはり「苦痛を与える存在」と一緒にいるよりは「一緒にいて安心できる存在」を選ぶ、ということです。

人間も基本的には群れで生活し、進化してきた社会的動物です。孤立した個体よりは、仲間と一緒にいる個体のほうが安全で、当然、生存率は高かったでしょうし、そもそも集団から離れていれば、子孫を増やすことができなかったでしょう。

つまり、孤独感を抱かない個体よりも、すぐに孤独が辛くなる個体のほうが、生物学的には生存上も繁殖上も有利だったのです。

だから「独りが好き」な性格の個体は進化の過程で次第に淘汰されていき、淋しがりで群れたがり、また、魅力的な異性を見つけるたびに手当たり次第アタックするような個体が増えていったと思われます。

そして、今生きている人類の多くは、多かれ少なかれ、そうした淋しがりな祖先の遺伝子を受け継いできていると推測されます。だから私たちは、孤独を感じやすい傾向があるのです。

しかしその傾向は、必ずしも現代社会に合ったものではありません。現代は、そこらに野獣もいないし、盗賊や蛮族がウロウロしているわけでもありません。

先立つもの、つまり少々のお金さえあれば、素早く動けない老人も、か弱い女性も、自由気ままに一人で暮らしていけるでしょう。

動物でも、群を作らずに単独で行動する種族は、繁殖期を除けばずっと孤独な状態で生活をしています。

ソファーでぬむる猫
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

「おしどり夫婦」なんていう言葉がありますが、そのオシドリさえも繁殖期が終わればカップルを解消し、次の繁殖期に新しいパートナーを見つけるまで、独身生活を楽しんでいます。

時代も環境も変わったのですから、人間も、むしろ孤独な環境を楽しめるように変化し、進化していくほうがいいと思うのです。

■「世間の基準」をどのように捉えるか

実際、現代社会においては、「孤独を恐れない体質」のほうが、よっぽど有利に生きられる面が多々あります。

発達障害や統合失調症的な傾向のある人たちに見られるような、突出したある種の能力や才能を見れば、本当は彼らのほうが、優位な特性を持つ人間ではないかと感じます。

アカデミー賞の作品賞などを受賞した映画、『ビューティフル・マインド』でその人生を描かれた実在の数学者、ジョン・ナッシュが、まさにそんな人物でした。彼は統合失調症に陥り、他者との人間関係をほとんど作ることができなくなります。

けれども、ナッシュはまったく孤独感を覚えません。なぜなら、自分の周囲には、相談役のような人間が常に幻覚として見えていたからです。

彼は最終的には、“世間の基準に照らし合わせると”、自分が病気であることを理解しますが、その傾向を薬で抑え込んでしまえば、数学の研究にとってマイナスの影響があるからという理由で、薬の服用を避けたといいます。

ほかにも、「絶対に解読できない」とされたナチス・ドイツの暗号機「エニグマ」による暗号文を解読した、アラン・チューリングという数学者がいます。彼も大天才だったのですが、自閉スペクトラム症の気があり、文科系の学問がいっさい理解できないという理由で、母国イギリスでは、パブリックスクールの入学を拒否されました。

そのため地元の評判のよくない中学校に入り、哲学や歴史などの人文系の学問をまったく知らずに大人になったのですが、それでもケンブリッジ大学に進学し、難解な暗号を数学的に解読することに成功しました。

ただ、当時の社会は、彼のような人間に対して、決して温かかったわけではありません。彼は40代で、自らの命を絶つ道を選んでしまいます。

科学技術の概念。抽象的な背景
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■孤独は最大の武器になる

日本でも、『孤独がきみを強くする』(興陽館)という著作がある芸術家の故岡本太郎さんは、子供のころから周囲の人間関係になじめず、転校を繰り返していたといいます。おそらく、今でいう発達障害を抱えていたのでしょう。

高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)
高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)

けれども、彼の孤独を好む傾向は、創作活動に集中するのに好都合だったわけです。岡本太郎さんがどれほどの孤独を感じていたのか、私には知るよしもありませんが、彼は、誰かに理解されようなどとは考えず、ひたすら自分の内面世界を表現することに情熱を捧げました。それが傑出した芸術作品の創造につながったのだと思います。

数学者と芸術家の例をあげましたが、研究職、スポーツ、音楽、囲碁・将棋、ビジネス……どの分野においても、孤独だからこそ輝いた才能は、確実にあります。

孤独が最大の武器になる――それは仕事にとどまらず、趣味の分野にも当てはまるでしょう。

孤独を恐れる人は多いのですが、「孤独だからこそできること」「孤独でなければ究められないこと」も、確実に存在するのです。それを見つけていくことは、孤独を楽しむ練習となります。

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高田 明和(たかだ・あきかず)
浜松医科大学名誉教授 医学博士
1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。

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(浜松医科大学名誉教授 医学博士 高田 明和)

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