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高齢でのスポーツは早死にと寝たきりのリスクを高める…医大名誉教授「運動不足以上に気をつけたいこと」

プレジデントオンライン / 2023年8月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

うつや認知症を招く老化を遅らせるにはどうすればいいか。浜松医科大学名誉教授の高田明和さんは「65歳以降、いわゆる老化に伴い多くなる孤立状態になると、うつの症状が出てくる。また、うつになると認知症を引き起こしやすくなる。これらの負の連鎖を避けるためには、生涯現役が理想という幻想を捨て、日々のちょっとした生きがいを持つといい」という――。

※本稿は、高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■「不安」「孤独感」「うつ」の相関関係

肉体の衰えと孤独感には、非常に深い関係があります。

やはりちょうど肉体の耐用年数を超えた65歳くらいから、心を病む人が非常に増えてきます。

私の周りで多いのは、うつ病になるケースで、不眠の症状が出る人が増えています。社会的地位を失ったことや、人間関係を損なってしまっただとか、自分が陥った状況についてくよくよと思い悩んでいるうちに、寝つけなくなってしまうのでしょう。

それから、妻に先立たれて一人になった夫は、認知症になってしまうケースが多くあります。孤独感を忘れよう、亡くなった妻のことは考えないようにしようとするせいか、思考停止の状態が、だんだんと認知機能を衰えさせるのでしょう。

「不安」と「孤独感」と「うつ」は、いずれも脳の扁桃体と帯状回という部分が関連しています。

人が孤立状態に置かれると、脳の帯状回がだんだんと正常に機能しなくなり、その影響で、不安障害の傾向が出てきて、やがて、やる気や食欲も低下し、うつの症状が出てきます。

さらには、うつになると、「アミロイドβ」と呼ばれる、脳内に生じるゴミのようなタンパク質が脳から排除されなくなります。これがどんどん蓄積していくと、脳細胞が壊れ、アルツハイマー型認知症が引き起こされます。

■老化を遅らせる練習

ここから逆算して考えれば、年を取ったら、うつを引き起こす原因となる状態を避けることで、認知症になるリスクをかなり減らせることになります。

そのために重要なことの1つめが、本書で詳しく述べている「腸内環境を整えること」です。食事を改善することが、腸内環境を整え、認知症の対策にもなることが、最近の研究でわかってきました。

2つめは、「生きがいを持つこと」。生きがいを持っている人であれば、こうした「孤立→不安→うつ」の悪循環に陥りにくいことはすでにわかっています。

のんびりお茶でも飲もうかと思ったら、仕事の依頼の電話がくる――そんな忙しい人であれば、不安になっている暇なんてないでしょう。

こう書くと「仕事がない人はどうするんだ?」と思うでしょうが、たとえば、これまで専業主婦として会社勤めの経験がない女性でも、孤立からうつになる人は、男性よりもずっと少ないことが判明しています。

それは、たとえ誰とも会わなくても、食事を作ったり掃除をしたり、家事のさまざまな「やるべきこと」があるせいで、十分に生きがいのある忙しい毎日を過ごしているからです。

「生きがい」とは、時が経つのを忘れるほど夢中になれる“特別なもの”ばかりを指すのではないのです。スーパーの特売日に目的のものを特価で買うこと、植木に花を咲かせること、道のごみを拾うことなど、どんな小さなことでも十分に当てはまるのです。

孤立感から、認知症などの病気になる人とならない人の違いは、年を取ってからのライフスタイルや考え方に大きく左右されるということです。

ほかにどんなライフスタイルや考え方が孤独感を招くのか、どんどん明かしていきましょう。

■孤独な寝たきりになる高齢者の共通点

肉体が衰えて病気になると、ときには死へと誘導するような致命的な孤独感が生じます。だとすれば、私たちにできる「老化を遅らせる練習」の3つめは、「体を酷使しないこと」です。

高齢者に対しては、「日々、足腰を鍛えなさい」と、運動を推奨する風潮があります。でも私は、そんなに無理をする必要などない、と考えます。

介護者-買い物でシニア男性を助ける女性
写真=iStock.com/FredFroese
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FredFroese

今88歳の私がしている「運動」といえば、スーパーまで歩いて買い物に行くことと、都心にある出版社に電車に乗って出向くことくらいです。

ただ、マンションの外に出るときは、エレベーターは目的の1階手前の階で降りるようにしています。そして1階分12段の階段を自分の足で上ったり下りたりしています。このようにして一日4往復くらいすれば、十分体力を維持できます。

また、このくらいの軽い運動をすれば、自分の体力がまだまだ衰えていないことを確認できますし、何かのスポーツをするよりずっと簡単で、確たる自信にもなります。

この程度でまったく構わないのではないか、と思っているのです。

ウォーキングはおろか、少しの散歩すら、本当は必要ないのではないでしょうか。

足腰の関節などの耐用年数からいっても、世の中の筋トレブームにつられて無理に「運動しよう」なんて考える必要は、まったくないと思っています。

もちろん、苦もなく楽しく動けるならば、それに越したことはありません。山登りもいいし、マラソンだっていい。若いころにしていたスポーツを、年寄り仲間と楽しむことは否定しません。

ただ、私の周りで、高齢になってまでスポーツをやっていた人は、どういうわけか皆、早くに亡くなっているのです。あるいは、寝たきりになっています。

そういう事実ともあいまって、「運動すれば健康的になる」という常識は、「軽い運動をすれば健康的になる」という程度に解釈して、汗だくになって息があがるほどのハードな運動はやめておいたほうがいいと思うのです。

苦痛に顔をゆがめてまで健康になろうとする必要はないし、日々練習をして「大会で優勝しよう」なんて気張る必要もないでしょう。

ヒトは何歳まで生きられる? 寿命の神秘
出所=『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』

■運動不足以上に気をつけるべきリスク

こう書くと、ゴルフとかテニス、マラソンなど、あらゆるスポーツを生きがいとしている人たちから批判されるかもしれません。

楽しんでやっている分には構わないし、私はそういう方に対して「やめなさい」とまで言うつもりはありません。

しかし、高齢になっても続けている以上は、「それができなくなったとき」のことを想定しておいてほしいとは思います。

というのも、体力もあって積極的にスポーツを楽しんでいた方が、身体機能の衰えや足腰を痛めたことをきっかけに、思うように運動ができなくなり、孤独感を増してしまうケースがとても多いからです。

特にチームスポーツをやっていた人は、元気に運動を続けている仲間の姿と自分を比較して、チームに迷惑をかける心配も含め、まるで自分が脱落してしまったかのような疎外感を覚えてしまいがちです。そこから、うつになってしまう方が多くいます。

だから運動を楽しむのであれば、あまり「競い合うこと」や「チームプレー」に熱心にならないこと。

ゴルフのスコアも、マラソンのタイムも、一日に歩く歩数も、年を取ったら下がるのが当たり前なのです。ただ、その下がり具合を誰かと競い合っても意味がありません。

ボールを見て、それはちょうど打たれました。
写真=iStock.com/DeMenace
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DeMenace

運動をしてはいけないというのではなく、人間の体は、高齢になっても若い時と同じようにハードな運動ができるようにはできていないことを知っておいてください。

運動不足で老いてしまうこと以上に、「無理な運動をしたせいで足腰を痛めて動けなくなり、それがきっかけで、あっという間に老いてしまうリスク」のほうを、心配するべきでしょう。

■「生涯現役」という幻想も、孤独感を招く

年を取ってから執着してはいけないのは、運動の強度だけでなく、仕事や社会的な役割についても同じかもしれません。

もちろん、経済的な事情から「仕事をして収入を得なくてはいけない」人はいるでしょう。でも、そうではないのに、何歳になっても「仕事をするべきだ」ということはないですし、いつまでも現役でいる人が偉いわけでも、幸せなわけでもありません。

医学の分野にはいつまでも現役の人が多いのですが、早期に引退したからといって悪いわけではないし、仕事を辞めたって人生を大いに楽しんでいる人は大勢います。

世の中は、「高齢でも、仕事をしている人が素晴らしい」と、むやみやたらに崇め奉るのですが、そんな幻想に惑わされてはいけません。

すでに述べたように、私たちの肉体は70歳や80歳を超えたら、正常に使えるようにはできていません。したがって仕事年齢だって、本来は70歳以上を想定してはいないわけです。だから一般的には65歳くらいで定年になっています。

しかし、人生が長くなった結果、私たちは想定外の努力をしなければならなくなりました。

たとえばあるマンションで、高校の校長先生だった方が、管理人の仕事を引き受けていたとしましょう。そうやって仕事をしていることは賞賛されるべきことですし、管理人よりも校長先生のほうが偉いということもありません。時間に余裕があるし、本人が楽しんでやっているならば、何も問題はないことです。

しかし、もし、「なんで校長だった私が、この仕事をしなければいけないんだ」とか、「校長までやった人間に世の中は冷たい」などと感じるようであれば、そこからたちまち疎外感や孤独感が、広がっていきます。

それに、家でのんびりしている状態とくらべれば、やはり体に負担がかかるのは事実です。なんだかんだいって管理人さんの仕事は忙しいものですから、それなりに体をケアしながら、無理をせずに仕事をしていく必要があるでしょう。

というわけで、「老化を遅らせる練習」の4つめは、「生涯現役が理想! という幻想を捨てること」です。

■元部下との関係性の変化は当然

引退後も仕事を続けることは、生きがいにもなるし、人間関係を維持したり新しく築いたりするきっかけにもなりますから推奨すべきことです。私も執筆の仕事をしているおかげで、心身ともに健康な生活ができているのは確かです。

ただ、多くの場合、現役のころよりも権限は少なくなるし、言い分も通らなくなります。現役時代にそれなりの地位にいて部下たちから丁重に扱われていたのに、引退して顧問のような立場になったとたん、部下が持ち上げてくれなくなり、言うことを聞いてくれなくなることは、よくあります。

現役時代は上下関係が厳格だったので、部下もそれなりに気をつかわなければならなかったのが、そうした関係性がなくなれば、元部下も自分の仕事があるから、いちいちあなたに構ってばかりもいられません。

ときには元部下に、これみよがしに邪険にされることがあるかもしれませんが、それは現役時代にあなたが相手に辛く当たっていたからでしょう。多くの場合は親子関係と同じで、必ずしも元部下がリスペクトの気持ちを忘れたわけではないのです。ただ、関係性が変化しただけです。

こうした変化を素直に受け入れられるならば、年を取って仕事をしても問題はありません。けれども、「現役と同じように自分は大切に扱われるべきだ」と心のどこかで思っていれば、そうならない現状を淋しく感じ、自信を喪失していくことは多くなります。

■90歳で元気な人が認知症になった理由

私の知人に、100歳近くまで現役で、非常に健康だったある大学の名誉教授の方がいました。

ところがキャリアの最後で、大きなミスを犯してしまったのです。人間関係における判断を間違えたのです。

偉くなると、周りにあれこれいろいろな企みや思惑、嫉妬を抱えた人たちが近づいてきます。そうした人たちに、あることないこと吹き込まれ、自分が一番信頼していた部下を、自らの手で排除するように唆されてしまったのです。

その後、彼は自分の過ちに気づいたのですが、もはやあとの祭りです。野に下った部下を、呼び戻すことはかないませんでした。

すると突然、彼は認知症になり、施設に入って2年ほどで亡くなってしまいました。

90歳を超えてもあれほど頭の切れた人が、まさか認知症になるとは、私は考えもしませんでした。てっきり、仕事中にポックリ逝くのだろうと思っていたくらいです。

そのときは、年を取ることの怖さを感じたものです。

■高齢になったら執着は捨てる

アルツハイマー病による認知症(アルツハイマー型認知症)は、一般的には加齢とともに脳内にアミロイドβというタンパク質が蓄積していき、それが脳細胞に影響を与えるために起こるとされていますが、若年でかかる人もおり、なぜ、アミロイドβが蓄積するのか正確な原因はわかっていません。

ちなみに、「認知症」というのは病名ではなく、表面に現れた症状のことを指します。そして、認知症を引き起こす原因は1つではありません。

日本の介護スタッフは、日本の先輩女性が公園を散歩するのをサポートしています。
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

頭部の外傷で起こることもあるし、糖尿病などの生活習慣病やアルツハイマー病が原因であることもあるし、レビー小体の蓄積や遺伝性の場合もあります。

すでに述べたように、アルツハイマー型認知症には、うつが大きくかかわっています。孤独感や自信喪失、挫折感などで、耐えられないほどの精神的な苦しみがある人は、アルツハイマー型認知症になりやすいわけです。

実際に、アルツハイマー型認知症になった人を見れば、「人生をかけて、自分が立ててきた学説がダメになった」とか、「今までの自分の功績が否定された」など、何か取り返しのつかない大きな失敗をしたと思い込んでいる場合が多くあります。もちろん、伴侶を失ったことに対する喪失感が、認知症の発症を促すこともあるでしょう。

だからアルツハイマー型認知症を避けるために大切なのは、高齢になったら、もう執着は捨てることです。

世の中は変化していくのですから、仕事で成し遂げたことも日々どんどん更新されるし、下の人間が上の人間をどんどん追い越していくのも当然だ――そのように認識を改めましょう。そうした変化は、人類にとってむしろ喜ばしい進化発展であり、自分が否定されているわけでは決してないのです。

というわけで、「老化を遅らせる練習」の5つめは、「過去の実績に執着しない」ということです。

それでも、どうしても執着が捨てられないのなら、いっそ自分が属していた世界から完全に離れることです。

いつまでも「尊敬されていたい」とか、「下の人間に優越感を持ちたい」と考えているかぎり、現実とのギャップに打ちのめされるだけ。

だから、そうした苦しい思いをしないですむように、その世界から離れるのです。引退者は引退者として、まったく違った人生を楽しむほうが、きっと心穏やかでいられ、楽しくもあるはずです。

■本当に「脳に効くトレーニング」の中身

最近は、認知症を予防するために、パズルや間違い探し、クイズや計算ドリルを解くといった、いわゆる「脳トレーニング(脳トレ)」が流行っています。ただ、これが実際に予防に効果あるかといえば、大いに疑問です。

というのも、脳の一部分を酷使したところで認知症対策にならないことは、すでに医学的に証明されているからです。それは、コンピューターのように優秀で明晰な頭脳を日々鍛えている囲碁や将棋の名人でさえも、認知症になることからも明らかです。

逆に、無理に好きでもない脳トレをして、それ自体がストレスになるのであれば、うつの原因になってしまうことすらあるでしょう。

それよりも、積極的に新しい知識を吸収したり、今、あなたがしているように本を読んだり、文章を書いたり絵を描いたりといった活動をするほうが、よほど脳の海馬の細胞は増えていきます。

そんなふうに好奇心や創作欲を満たしていくことこそ、本当の意味での「脳トレーニング」ではないでしょうか。

高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)
高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)

というわけで、「老化を遅らせる練習」の6つめは、「好奇心や創作意欲を満たしていく」です。

ちなみに、認知症の原因の中でも上位を占めるアルツハイマー病は、脳神経が変性し、脳細胞が萎縮していく病です。

最近になり、アルツハイマー型認知症は薬で進行を遅くすることができるようになりました。でも高額なわりに、遅らせる程度は20~25%のみ。たとえば85歳くらいで始まる認知症が、88歳くらいで始まるようにする効果しか、今のところありません。

しかも、認知症を引き起こす病気は、ほかにいくつもあるわけです。ですから、「アルツハイマー型認知症だけの発症を延ばしたところでリスクは変わらない」とする考え方もあります。

でも、「3年も遅らせることができるなら、朗報だ」と考えることもできます。そのご家族にしてみれば、3年間の介護負担があるかないかの差は大きいからです。

ところで、今、世界は、アルツハイマー病と腸内細菌との関係に注目しています(残念ながら日本での研究は遅れています)。

アルツハイマー病を発生させる要因が解明されれば、将来はかなりの割合で認知症を抑えることができるでしょう。

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高田 明和(たかだ・あきかず)
浜松医科大学名誉教授 医学博士
1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。

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(浜松医科大学名誉教授 医学博士 高田 明和)

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