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なぜ孫正義社長は「すぐ電話をかけてくる」のか…仕事がデキる人がメールより電話を多用する本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年8月30日 15時15分

ソフトバンクの新商品発表会で登壇した孫正義社長。奥はスクリーンに映し出された米アップルの多機能携帯電話「iPhone 5c」=2013年9月30日午後、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

仕事で有効なコミュニケーションとはどのようなものか。東京大学特任研究員の安川新一郎さんは「『声のコミュニケーション』は重要だ。声には人々の感情に直接訴える力がある」という――。

※本稿は、安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■リモートワークで感じる不安や孤独感

あなたは、1日誰とも話さない日があるでしょうか? または、家族や仕事仲間と最後に日常会話以外のことをじっくり話したのはいつでしょうか?

リモートワークは時間効率や、生産性改善やワークライフバランスの点でメリットも多いと思いますが、7割以上の人が会話や雑談をする時間が減ったことを認め、そのうちの4割近くが、ちょっとした不安や孤立感を覚えています。

またコロナ禍に学校がオンラインになったことで、自宅や下宿での引きこもり状態を余儀なくされた学生の多くが、孤独やうつ症状を訴えました。秋田大学の調査によると、オンライン授業期間中の2021年に学内アンケートを行った結果、16.6%に中等度以上のうつ症状、11.5%に死にたいと思う「自死念慮」が見られ、2020年5~6月に実施した初回調査の数字をそれぞれ大幅に上回っていたと報告されました。

■孤独の健康への害は、1日15本のタバコと同程度

独居老人の増加、晩婚化や未婚化の進展の結果、2040年には全世帯に占める「1人暮らし」の割合は39.3%と予測されています。また、少し前のデータ(2012)になりますが、国立社会保障・人口問題研究所の「65歳以上の世帯タイプ別・会話頻度」のアンケート調査によると、65歳以上で1人暮らしの男性の18.3%、女性の24.9%が、2~3日に1回しか誰かと会話をしていません。

この属性の男性の16.7%に至っては2週間に1回以下しか会話していません。近所付き合いも勤め先もなく、コンビニや外食で食事を済ませほとんど会話せずに生活しているのかもしれません。

日本のおじさんは、世界一孤独と言われています。男性全体の生涯未婚率は29.5%(2030年予測)で「ほとんど、もしくは人に会わない人」の割合は17%と、OECD加盟国平均の2倍に上ります。

単身者世帯が増加しているなかで、日常的なコミュニケーションがなく孤独を感じている人が増えつつあります。内閣官房孤独・孤立対策担当室が行った人々のつながりに関する基礎調査(令和3年)では、男性単身者の59.2%、女性単身者の47.4%が、孤独感が「常にある」もしくは「時々ある」と答えています。イギリスで孤独担当大臣が新設されるきっかけとなった「孤独はタバコを1日に15本分喫煙することと同じ程度、健康への害を与える」という報告書は有名です。

■孤独な環境とSNSで加速する社会の分断傾向

私が就職した頃は、仕事はまだ電話とFAXが中心で、職場は騒然としていました。会話での様々なやり取りがあり、休憩中には同僚や上司部下で雑談や冗談なども話したりしていました。今の多くの職場は良くも悪くも静まり返っています。皆がモニターに向かって作業をし、ランチも自席でSNSを眺めながら済ませ、「おはようございます」と「お先に失礼します」以外、1日中誰とも話さず黙々と仕事をしている人も多いと思います。

オフィスで働く3人の人物
写真=iStock.com/shapecharge
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shapecharge

家庭、職場、学校で言葉でのコミュニケーションが圧倒的に減っていく中、私達は以前よりもスマホやSNSを眺めて時間を過ごすようになりました。SNSを活用することで、#MeToo運動のように、知らない人同士が情報の共有と拡散によって共感と連帯を生むことも可能です。

しかし、孤独な状況によって自己中心的で攻撃的で反社会的な傾向を徐々に強めた人々が、孤独の解消に長時間インターネットやSNSの情報に触れていると、自分の考えに近い意見を目にすることによってその傾向を強め、社会の分断傾向が加速していきます。この極化の傾向は特に高齢者世代によく見られると言われています。ネットからの大量の一方的な情報に晒されながらも、それらについて誰かと話す機会が孤独な環境から少ないからではないかと思います。

■政治の話は同じ「階級」の信頼できる友人以外とはタブー

アメリカのトマス・ジェファーソン元大統領は「よく知らされた市民は民主主義の砦だ」と市民への情報公開の重要性を主張しました。しかし市民は、実は情報を得てそれだけで判断するわけではありません。その情報の意味合いについて、対話し討議し、自分の意見を披露し、他者と意見を比較してから総合的に判断をするものです。

かつて私達は、長屋のご隠居さんや職場の上司との日常的なコミュニケーションから様々な情報についての意見を聞き、その判断をしていました。今はそのような場は失われ、ネット上での過激な応酬か、コメンテーターのポジショントークを眺めることしかありません。

また皮肉なことですが、平和で安定した社会で自由競争資本主義経済が続くと、必然的に、より資産を保有している人間がより豊かになります。結果として、既存秩序が続く競争社会では世代を重ねる毎に、経済的に豊かな家庭に育った子弟ばかりが良い教育を受け、所得の高い職業につくことで、格差は拡大し、階級は固定化されていきます。

私達日本人は、イギリスやアメリカは文化に多様性があり、様々な立場でのオープンな議論や対話が行われていると思いがちですが、現地に住む友人に聞くと、最近は政治的な話は、経済状態の近い同じ「階級」の余程信頼できる友人以外とはタブーだと話していました。

■負の感情がシェアされ、ただただ消費されている

こうした階級社会における庶民の不満は、これまでも様々な形で存在していました。しかし今は、SNSによって、小さな不満すら可視化され、大きな流れを生みます。論点は単純化され、人々の理性的な意見というよりは、匿名のアカウントからの感情的な反応で、ヘイトもフェイクニュースもシェアされ、うねりのように拡散していきます。

そのような自分の身体の中で発生したマイナスの感情、煩悩や苦しみ等を外に出すとしても、これまでは本人が自分の言葉でその場で発言し、その発言は一定の人間関係の中の噂話で止まっていました。

それが、SNS空間では、本人の身体性やコミュニティから切り離された感情的な文字が、徐々に意味や形を変えながら拡散していきます。複雑な内容の記事も読まずに、記事のタイトルだけをみて芽生えた「けしからん」とか「ザマアw(草)」といった負の感情がシェアされ、ただただ消費されていきます。

SNSアプリのアイコンが並ぶスマホの画面
写真=iStock.com/P. Kijsanayothin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/P. Kijsanayothin

■孤独が恒常化すると攻撃的・反社会的な性格になりやすい

その連鎖は、複雑な社会を単純化します。共和党支持者か民主党支持者か、保守かリベラルか等で分断し、それぞれはそれぞれの主張を裏付けるテレビ番組のみを視聴し、アカウントをフォローし、分断は益々広がる傾向にあります。

世界で29億人と繫がれるFacebookや、26億人が使っているYouTubeを利用していたとしても、世界の人々と繫がっているようで誰とも繫がっていない私達の多くは、孤独に苛まれています。リアルな人間とは本当の意味で触れ合っていないし、話せていないからです。

孤独が恒常化すると人を嫌いになり、攻撃的・反社会的な性格になりやすいと言われています。銃乱射事件やテロの犯人に共通するのは、社会との接点がなく孤独な生活を送っていた人たちです。そしてその動機は世界共通です。「誰も自分の話を聞いてくれなかった」と。

■何の目的もなく、ただひたすら話すだけの寄り合い

私達は、地平線に夕陽が沈むのを1人で見ていたりすると、感傷的で寂しい気持ちになることがあります。私達人類はその歴史の95%を狩猟採集民族として生きてきました。狩猟採集民族においてはジャングルや山で1人取り残されることは、即ち死を意味しました。狩猟採集民族の脳は、仲間がそばにいないと大量のコルチゾールを分泌しストレスと不安を感じるようにプログラムされています。

かつて北アメリカのある部族と生活し研究した人類学者は、その50人くらいの部族が、時々何の目的もなく、ただひたすら話すだけの寄り合いを持つことを観察しています。特に何かの結論が得られることもなく、やがて会合は終了するのですが、誰もが自分の成すべきこととお互いを十分に理解したように見え、その後、より少人数の会合で判断したり行動を取るとのことでした。

何かのアルゴリズムや論理的思考によらず、ひたすら声のコミュニケーションを取ることで集団全体の意識とそれぞれの存在と役割を確認する、これは人間ならではです。別の言い方をすれば、自分の意識と知能/知性だけでなく、他者にも自分と同じ意識と知能/知性があると認識して、コミュニケーションを取る。そして見知らぬ他者から学び、他者と共感し、集団を良い方向に進化させようと努力する。これは他の動物と違った人間だけの特徴です。

ChatGPTなどの生成AIは、言語データを大規模に事前学習しているので、あたかも対話が成立しているようなやり取りになりますが、AIにもちろん意識はなく、お互いの共感も芽生えません。

■見直されつつある音声メディアの役割

オフィスはキーボードの音が響くだけの静かな場所になり、テレビやYouTube番組には字幕が必ずつくようになり、電車の車内を見渡すと全員がスマホの小さな画面を見て小さな文字を打ち込んでいます。

効率性、特にタイパ(Time Performance/時間効率)が求められる現代において、情報一覧性があり、深く読み込むか浅く斜め読みするかも選べ、興味がなければ簡単に離脱も可能なテキストメディアに私達は囲まれています。

しかし近年、徐々に声(Voice)や音声メディアの役割が見直されつつあります。

1つには、アマゾンのアレクサ等のスマートスピーカーやワイヤレスイヤフォンといったデジタル機器が普及し、高音質で音声コンテンツを楽しめるようになったことがあります。また、可処分時間を奪う様々なコンテンツに囲まれた人々が、益々タイパを求め、家事やジョギングをしながらの「ながら利用」が可能な音声コンテンツに流れている傾向があります。

コンテンツの制作側にとっても、動画に比べて編集作業等も少なく、コストを抑えられるメリットがあります。これまでニッチなアナログメディアの印象が強かった音声ですが、皮肉にもさらなる情報化とデジタル化の流れによって改めて注目されているのです。

■多くの人々にとって情報伝達の主体は声だった

文字を石や貴重な羊皮紙に記すしかなかった時代においては、多くの人々にとって情報伝達の主体は声でした。人々は子や孫に伝えるべき情報を、『ギルガメッシュ叙事詩』や『古事記』などの口承文学や神話に託し、言葉を身体に刻み込み記憶することで伝承してきました。

中国の『論語』をはじめとする四書五経も音読(素読)が基本です。内容をすぐに理解することよりも、幼児期から言葉の響きとリズムを反復・復唱する素読によって、身体で体得し、さらにはそれを子や孫の後世に伝えることに重きをおいてきました。

音声・声によるコミュニケーションは私達の脳の記憶や身体性と強い関係性があり、視覚や文字とは本来的に異なる特性を持っています。アメリカの哲学者、文化史家ウォルター・J・オングは『声の文化と文字の文化』において、文字に対する声の文化の特徴とその重要性を次のようにまとめています。

■声には人々の感情に直接訴える力がある

まず、第一に声には特別の没入感を持って人々の感情に直接訴える感情移入的要素があり、話し手と聞き手を一体化する力を持ちます。音声や声が熱狂を生み出す有名な例が、ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーの演説です。

開発されたばかりのラウドスピーカーによって、ヒトラーの演説は、10万人以上の集会参加者の最後尾まで届き、演説がプロパガンダに有効であることに気づいたナチスは、当時高価だったラジオの廉価版を開発普及させ、歓声や拍手を交えた演説を連日国民に向けて放送したと言われています。

ラジオ放送でも言われてきたことですが、ミュージシャンやポッドキャスト配信者と紐づく広告はエンゲージメントが高いということがデータとして示されています。私達が何かコンテンツを配信する時も、場合によってはテキストブログではなく、ポッドキャストのほうが良いかもしれません。

企業においても、メールや社内コミュニケーションツールがある中で、上司と部下が、改めて時間を取って1on1ミーティングを行うのも、異動や解雇等の重要な人事決定を直接会って口頭で伝える必要があるのも、声の文化における感情を込めた全人格的なやりとりが必要だからです。

■記憶に徹底するためには、声による繰り返しが大切

第二に、文字による記録に頼ることができない「声の文化」においては記憶が大切です。そのため口誦は、韻やリズムを大切にし、キーフレーズが繰り返される傾向にあります。お経は「声明」と呼ばれる独特の節をつけて、リズムに乗せて読誦されることで、文字の読めない庶民にも暗唱されるようになりました。ヒップホップにおけるラップの歌唱法が、リズム感(グルーヴ)を伴って、韻(ライム)を踏んだ歌詞(リリック)を歌うのも同じです。

情報は必要な時に調べれば良いと考えがちな現代の私達は、あまり記憶することに重きを置かなくなっていますが、行動や判断をする際に重要になる言葉や文章は頭に刻み込んでおく必要があります。

政治家は街頭演説を行い、人々の記憶に残るよう自分の名前を連呼し、当選すると国会で言葉の論戦を繰り広げます。トランプ前大統領がMake America Great Again等の決まり文句を繰り返し、音楽やダンスを交えたライブのような政治イベントを演出したのも、平易なフレーズを繰り返す声の文化が熱狂を生み、支持者を増やすことを理解しているからです。

楽天グループが月曜朝8時の朝会を創業以来欠かさないのも、重要なメッセージを社員の記憶に徹底させるには、声によって繰り返し伝達することが大切だからでしょう。

楽天モバイル 渋谷公園通り店
楽天モバイル 渋谷公園通り店(写真=Antonio Tajuelo/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■せっかちな孫正義社長は「電話魔」

社内の改革に取り組む社長や役員の方から、改革を成功させるには、話している本人が飽き飽きするほど同じ話を繰り返し現場に伝えることだ、と伺ったことが何度かあります。声のコミュニケーションによって人々はメッセージを記憶し、自らの行動を変えていきますが、それには話し手が思う以上に聞き手に同じメッセージを繰り返す必要があるのです。

オングがいう声の文化の第三の特徴として、声による会話は、その場での答えを得るためのものが多く、実践的かつ具体的になります。また相手の背景知識と理解力次第という意味で状況依存的であり、即興的になります。そういう意味では、声の文化は、「脳に関する仕組み」「記憶と思考に関する仕組み」でいうところの、即興的に行う脳の働きそのものです。

せっかちな孫正義社長は実は電話魔です。問題や疑問があると、会議中でもそれを解決できそうな社員にすぐに電話を繫ぎ、質問し、そしてその場でネクストアクションをコミットさせます。また、仕事において時に、テキストメールのやり取りで双方が感情的な応酬を延々と続けてしまうことがあります。しかし仕事ができる人は、齟齬(そご)があることを確認すると、メール返信の文章を考える前に、すぐに相手の席に行き、話し合って解決してしまいます。

■文字・声の良い点を活かしたコミュニケーション

テクノロジーの進化によって声の文化と文字の文化を融合させるケースも出てきています。例えば、メールほど堅苦しくなく、電話のように相手の時間を一方的に奪わないテキストチャットは、仕事でもプライベートでも活用されています。

安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)
安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)

チャットはテキストで表現されていますが、声のコミュニケーションの延長です。そのため、絵文字やスタンプ等の非言語コミュニケーションや、感嘆符や長音符等の感情を込めたニュアンスをつけるセンスが求められます。

「よろしく!」や「よろしくー」という親しみを込めた声の感情のニュアンスが求められるなかで、「よろしく。」のように句読点を多用した文章は、冷たさと圧を感じ、おじさん構文として嫌われます。チャットを文字の文化(メール)の延長として捉えてしまっているからです。

私は、少し込み入った状況の説明や、読んだ本の感想など、声で説明してしまったほうが簡単でかつ伝わりやすいと思ったときは、1分ほどの音声メッセージを残してメッセンジャーで相手に送っておきます。記録ができ、再現性があり、非同期でお互いの都合の良い時に情報を取得できるのは文字の文化の良いところです。そこに声の文化の状況依存性、即興性、感情移入性などの要素を上手く組み合わせることで、文字・声の良い点を活かしたコミュニケーションが可能になります。

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安川 新一郎(やすかわ・しんいちろう)
東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員
グレートジャーニー代表。1991年、一橋大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社、東京支社・シカゴ支社に勤務。99年、ソフトバンクに社長室長として入社、執行役員本部長等を歴任。2016年、社会課題を解決するコレクティブインパクト投資と未来社会実現のための企業支援に向けグレートジャーニーを創業。これまで東京都顧問、大阪府・市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、Well-being for Planet Earth共同創業者兼特別参与等、行政の現場や公益財団活動からの社会変革も模索している。

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(東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員 安川 新一郎)

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