起業リスクを負わずに年収1億円を稼げる…日本で人材が不足している「プロ経営者」になれる人の共通点
プレジデントオンライン / 2023年8月29日 10時15分
日本企業でも社外から経営者を招聘する「プロ経営者」が増えつつある。人材コンサルタントの荒井裕之さんと慶應義塾大学SFC研究所の小杉俊哉上席所員の共著『プロ経営者・CxOになる人の絶対法則』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を紹介する――。
■叩き上げでも起業家でもない第3のルート
かつての日本企業では、新卒で入社した会社で順調にキャリアを積み重ねていくと、課長から部長、役員へと出世していきました。そして最終的には、社長へと上り詰めていきます。
終身雇用が約束され、1社で勤め上げることが前提だった時代では、王道のルートとして誰も疑うことはありませんでした。このような「叩き上げ人材」として経営者になる人を、本書では「サラリーマン経営者」と呼ぶことにします。
ほかには、自ら事業を興し、一代で「起業家」として経営に携わる人もいます。
近年では、より一層「個の時代」を色濃く表すルートとして、会社員を経験せずにいきなり起業に挑戦するケースも増えてきました。
そして、1つの会社組織の中で役職を積み上げるのでも、起業家として経営に携わるのでもない、第3のルートがあります。
適切なタイミングで転職し、若い頃からチャレンジングな組織の環境に身を置き、そこで積み上げた経験を生かし、いち社員としてではなく「経営人材」として招かれるケースです。
■2000年代に「プロ経営者」「CxO」が登場
このように、外部から招聘(しょうへい)されて経営者になる人のことを、「プロ経営者」といいます。昨今ではこのプロ経営者を含めて、営業やマーケティング、ファイナンス、情報システム、人事、経営企画、製造など各機能の責任者として任命される「CxO」という役割も一般的になってきました。
本書でお伝えしたいのは、この「プロ経営者」と「CxO」を担える人材が、いかに世の中から必要とされているかということです。
外に目を向けると、アメリカでは外部からのCxOの起用は昔から行われていました。日本でプロ経営者やCxOが見られるようになったのは、主に2000年代頃からでした。
日本でこの当時から経営人材が増えたのはなぜでしょうか。
その背景には、バブルの崩壊が関係しています。1990年代以降、日本企業が苦境に立たされる中、欧米型のマネジメントシステムを導入し、大企業を中心に企業変革を図っていったのです。特に外資系企業の場合、外部からプロ経営者やCxOを招聘するのはより一般的になりました。
■伝統的な日本企業トップは生え抜きが多いが…
日本の中小企業も同じように変革を迫られ、同じ釜の飯を食べた新卒入社の中から社長を選ぶ、かつての日本的経営から徐々に変化を遂げていきました。とはいえ、伝統的な日本企業では、外部からプロ経営者やCxOを招くという事例はまだ少なく、日本を代表するトヨタを初めとしてその多くは生え抜きの人材がトップを担っています。
企業変革が迫られる中で、PE(プライベートエクイティ)ファンドという存在も認識されるようになりました。
PEファンドとは、機関投資家や個人投資家から集めた資金により、事業会社、未公開会社、あるいは業績不振の上場企業や一部門などに投資し、企業価値を高めていく投資ファンドのことです。その上で、株式を売却することで資金を回収し、投資家への利益配分を目的として活動しています。
このPEファンドが投資した企業の企業価値向上を実現するために、経営人材を外部から招聘するケースが広く行われるようになってきているのです。
■これから経営人材のニーズが増える理由
ここからは具体的に、プロ経営者やCxOのような経営人材が必要とされる場面を見ていきます。経営人材が必要とされるシーンをまとめると、次のようになります。
①外資系企業の日本進出
②大企業の外部招聘
③PEファンドによる登用
④オーナー系中小企業の事業承継
特に今後は、①のニーズが大きく増加することは考えにくく、②も数年に一度の頻度でしか発生しません。それに対して、③と④のニーズは間違いなく増えていくと考えています。
各国が大規模な金融・財政政策を打ち出した結果による、「カネ余り」が生じたこと、欧米と比較して日本企業の株価が割安なこと、日本の金利が低水準なこと、円安の継続などを背景に、PEファンドはM&Aを進めやすくなっています。
また、④の中堅企業の事業承継のニーズも同様です。
事業承継に困っている企業のオーナーは、資金調達に苦戦するだけでなく、会社を任せられる人材を育てられないという問題も存在しています。
オーナーの考えとして、地元の経済界での地位や、社員の雇用を守ろうとし、倒産して会社が消滅してしまうことはどうしても避けたいはずです。このような背景からも、会社を存続、発展させられる経営人材が求められているのです。
■基本給だけで1億円を超えるケースも
プロ経営者やCxOは、ニーズが増えているほどには供給が追いついていない現状です。そのため、これらの人材の報酬は驚くほど高くなっています。
売上が数千億円ある企業のプロ経営者なら、基本給が5000万円以上(1億円を超えることもありえる)、売上500億~1000億円で2000万円台半ば〜5000万円、100億~500億円で2000〜3000万円代半ば、100億円以下で1000万円台後半〜2000万円台半ばとなります。
さらには基本給に加えて、成功報酬やストックオプションが別途支給されるといったイメージですが、その企業の利益や業界などにより、報酬は様々です。
転職を希望する人の多くは、収入アップを希望して転職しようとするわけですが、2度目、3度目の転職でプロ経営者やCxOを務めた人は、ストックオプションを期待する人も見られます。
■ストックオプションは追加報酬を得るチャンス
発行済み株式の数%~10%をマネジメントに対してインセンティブとして渡すケースがよく見られますが、これは社長が10%の場合もあれば、社長が5%でCFOが3%、その他のCxOで2%を得るというように、時と場合によって異なります(ただし、インセンティブ10%の案件はほとんど存在せず、相当難易度が高い場合のパーセンテージと認識してください)。
任期5年でストックオプションによるキャピタルゲインが2億円あるとすると、単純計算で毎年4000万円が給与以外にもらえるということになります。プロ経営者以外にも、CxOには年換算で1000万円程度になるようにストックオプションを付与するケースもよく見られます。
株式価値が倍になれば、ストックオプションによって数千万から億単位の報酬を得ることができます。株式を重視するのは、給与の税率よりも株によるキャピタルゲインによる税率の方が低いという心理も働いているはずです。
例えば、2億円を給与でもらうと累進課税の最高税率(所得税+住民税)が55%のため、手元に残るのは1億円ほどになってしまいます。一方、株式の利益の課税率は20%(復興特別所得課税は除く)のため、1億6000万円が手元に残ります。
■高報酬ばかり狙っていると落とし穴がある
ただし、ストックオプションによるインセンティブは、実現されないこともあるため、転職のモチベーションとすることはあまりおすすめではありません。
例えば、PEファンドがプロ経営者を招聘し、ストックオプションのインセンティブを設計する際には、ある一定のハードルが課せられるケースがほとんどです
例えば利益が○○円以上になる、企業価値が○倍以上になる、PEファンドのリターンが○○%を超えた場合、等のハードルです。企業の事業活動においては、社長本人の責任に帰する事項もあれば、コロナ禍のような不可抗力により、減収となる場合もあるのです。
結局のところ、報酬ばかりを求めて経営に携わるような方では、真の価値の発揮もできないことは忘れてはいけません。
■CxOに必要なのは専門性とマネジメント能力
CxOを志向する人は、それぞれの専門分野の専門性を高めていくことが大切です。成果を出すフィールドが、CFOであればファイナンス、CHROであれば人事領域ということになります。
この専門性の上に、ゼネラルマネジメント(包括的な管理業務)の要素が必要とされます。職人的に専門性を極めて行く中で、人を動かすマネジメント能力が求められるのです。
CxOになるような人材は、若い頃からそうした志向性を持ちながら、3年や5年を1つのスパンとして、自身のキャリアの見直しを行っている人が多い傾向が見られます。
その中で、自分1人で判断せず、周りの信頼できる人の話を聞きながら、足りない経験やスキルを伸ばすために自ら活躍する場を選んでいきます。
CxOの中でも、CFOやCHROはそのままファイナンスや人事の分野を極めて専門家になっていく傾向があり、CSOやPL(Profit and Loss/事業の損益結果)の責任者となるようなCxOのポジションを得た人は、プロ経営者を目指す方が多い印象です。
ただ、これもあくまで人材市場の傾向に過ぎず、例外もたくさん存在します。専門性を極める過程で経営感覚や視点を得て、やがてCEOを志向するようになる人もいます。
■経営人材として活躍できる人の共通点
では、実際にCxOになるには、具体的に何が必要なのかを考えていきましょう。
私たちは仕事柄、様々な経験を経てきた一流のビジネスパーソンと対面します。なかには、誰もが羨むような経歴を重ねている人も数多く見てきました。
例えば、東大を卒業後、大手商社や大手銀行に入り、40代に差しかかったタイミングでキャリア相談を受けることがあります。そんな彼らの多くは、このまま役員を狙うべきか、もしくは役員になれそうにないなら、転職して外の世界を見る方がキャリアは充実するのではないかと悩んでいるのです。
ほかにも、外資系コンサルティングファームに転職したり、スタートアップ企業を起業したりといった人たちの話を耳に挟み、キャリアの相談に来る方も少なくありません。
このように、様々なキャリアの事例を見てきた中で、プロ経営者やCxOとして活躍する人に共通するのは、「厳しい環境でチャレンジする」経験をしているかどうかです。この点はほとんどの経営人材に該当していると断言できるほど、共通して見られる傾向です。
■若いうちから厳しい環境に身を投じる
もし経営人材として活躍していきたいなら、20〜30代といった若いうちから居心地の良い場所を抜け出し、より厳しい環境に身を投じる経験が必要不可欠です。これは私たちが20年以上、人材紹介業を行ってきた中で必ずお伝えしたいアドバイスです。
これまで私たちは1万人以上のプロ経営者・CxOにインタビューを重ねてきましたが、すべての人に共通するポイントを見つけることは簡単ではありませんでした。
キャリアとは、個人が選んできた1つひとつの「選択の積み重ねの結果」でしかありません。当然ですが、プロ経営者やCxOを目指す方法に「唯一解」はありません。
何が正しかったのかは、たとえ歳を重ねたとしても、わからないことの方が大半でしょう。ですが、失敗が許される若いうちから厳しい環境でチャレンジする経験は、その後のキャリアに多大な影響を与える、正しい選択とだけは言い切れるのです。
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キャリアインキュベーション社長、人材コンサルタント
日本リクルートセンター(現リクルート)での営業マネージャーを経て、キャリアデザインセンター(現在は東証プライム上場)の創業に参画。同社では専務取締役、人材紹介子会社社長を歴任。2000年にキャリアインキュベーションを創業。30年以上人材ビジネスに関わる中で、プロ経営者やCxOの採用支援を数多く手がける。
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慶應義塾大学SFC研究所上席所員・大学院理工学研究科非常勤講師、THS経営組織研究所 代表社員
早稲田大学法学部卒業後、NECに入社。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長を歴任後、独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、同大学大学院理工学研究科特任教授などを歴任。ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行などの社外取締役を務める。主な著書に『起業家のように企業で働く 令和版』(クロスメディア・パプリッシング)、『リーダーシップ3.0 カリスマから支援者へ』(祥伝社)など。
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(キャリアインキュベーション社長、人材コンサルタント 荒井 裕之、慶應義塾大学SFC研究所上席所員・大学院理工学研究科非常勤講師、THS経営組織研究所 代表社員 小杉 俊哉)
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