「3500万円の遺産が5年ですっからかん」世帯年収2000万円の男性が75歳にして無一文寸前に転落するまで【2023上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2023年8月25日 7時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
皆さんの家庭は「お財布」の管理、どうしていますか? 結婚して世帯になるとガラリと管理の仕方が変わり、どちらかが家計の主導権を握ることも少なくないでしょう。今日は、そんなお財布を妻に任せきりにしてきた男性の顚末(てんまつ)についてご紹介します。
■世帯年収2000万円のDINKsから無一文寸前に
暑い夏の日に私の事務所にやってきたのは、麻のスーツをパリッと着こなす男性、加藤肇さん(仮名/75歳)です。「これ、お土産です」と渡された伊勢丹の紙袋の中に入っていたのは、超人気和菓子店の水菓子。お土産もファッションのセンスもすてきな加藤さんに正直、驚きました。
というのも、「困った人がいるから助けてほしい」と言われて知人の紹介でお会いすることになったのが、加藤さんだったからです。しかしすでにこのとき加藤さんは、無一文寸前でした。
加藤さんはもともと建設業を営む自営業者で、年収は1000万円ほどでした。10歳年上の妻・永子さん(仮名)はキャリアウーマンで、メーカーに長く勤務されていたそうです。子どものいないいわゆるDINKsで世帯年収は2000万円ほどだったといいますから、手入れの行き届いた麻のスーツにも納得です。
■現役時代は大盤振る舞い。地元の飲食店でも太客
現役時代はしょっちゅうふたりで海外旅行に行ったり、ゴルフ三昧の日々。自宅に仲間を招いてパーティーを催したり、ビンゴ大会を主催して高価な景品を用意していたこともあったそうです。そんな大盤振る舞いの裕福なカップルですから、取り巻きもたくさんいました。
地元の行きつけの飲み屋には夫婦連名のボトルキープがズラッと並び、友人たちには「俺たちがいないときでもボトルキープしてある好きな酒を飲んでくれ」と言っていたそうです。加藤夫妻は地元の飲食店にとっても太客でした。
■妻の急逝で取り残されたマネーリテラシーゼロの夫
そんな加藤夫妻のお財布を管理していたのは、妻の永子さんです。お小遣い制で、結婚当初から平均して毎月10万円のお金が加藤さんに渡されていたといいます。もともと見栄っ張りで派手好き。交友関係も広く、お金に余裕のあるふたりはどちらも浪費家ではありましたが、その分、きっちり稼いで永子さんが貯金もしていたので、何ら問題なく生活できていました。
そして、元来仕事が好きなわけでもなかった加藤さんは、60歳で早々に廃業。妻の永子さんはフリーランスとなって仕事を続けていたこともあり、現役時代と変わらずお小遣いをもらって日々、遊んで暮らしていました。
転機となったのは、加藤さんが70歳の時に妻の永子さんが急逝してからです。まずネックとなったのが「お小遣い制」でした。当たり前ですが、お小遣いをくれていた永子さんはいないので、お金の支給は途絶えます。彼はそこではじめて「お小遣いがない! 無一文になってしまった!」と焦り、自分の家のお金がどうなっているかをまったく知らないままきていたことに気づいたのです。
「70歳の大人がそんなことある?」と思うかもしれませんが、お小遣い制というしきたりが身体に染み付いている人は怖いですよ。本当にただただ、「お小遣い◯万円」の枠の中で自由にお金を使うだけ。加藤さんのお金のリテラシーはまるで小学生のようでした。貯蓄という概念も、育てて増やすということもまったく知らないのです。
■妻が残した現金3500万円が5年ですっからかん
しかし、幸いなことに永子さんはしっかりしていました。現金3500万円を残していたのです。さらに、彼女が個人的に入っていた死亡保険によって毎月10万円、加藤さんに振り込まれることも判明。
永子さんは長く会社勤めをされていたので遺族年金も受給できます。惜しむらくは、加藤さん自身が国民年金を繰り上げて60歳から受給していたので、5万円未満という金額になってしまったことでしょうか。
とはいえ、そのマイナスを差し引いても、妻亡き後も加藤さんには毎月25万円の“お小遣い”が支給されることになったのです。しかも、自宅は持ち家でローンも完済していましたから、初老男性のひとり暮らしとしては十分な額……と思いますよね?
にもかかわらず、加藤さんが私の事務所に来たときは、3500万円の貯金がすっからかんになっていたのです。
■旅行費は仲間の分も負担、貸したお金も回収不能
永子さんの死から5年。加藤さんに何があったのかといえば、浪費癖が寂しさで加速してしまった、ということでしょう。もともとおごり癖のあった加藤さんですが、独り身になった孤独感を紛らわすため、国内旅行を幾度となく敢行。仲間の分まで負担して豪遊したといいます。
言いにくそうにしていましたが、知人にお金の無心をされたことも何回かあったようで、その回収のめども立っていないとのこと。加藤さんと話して思ったのは、そういった行動の根底には、「妻を亡くしたからといって落ちぶれたと思われたくない」気持ちがあるように思いました。死と向き合って、落ち込むときは落ち込みつつ、妻の残してくれたものと丁寧に向き合う時間をつくったほうが、私なんかからするとよほどいいように思うのですが……。
■家計の立て直しは月4万円の携帯電話代からカット
ここまで極端ではないにせよ、どちらか片方だけにお金の管理を任せてしまっている世帯は珍しくないと思います。このパターンで問題なのは、大人になっても“お小遣い”感覚が抜けず、家計管理のスキルが欠如した人になってしまう、ということです。
すると、ライフプランに合わせた貯金やお金の育て方もわからず、ただただある分を使い果たしてしまう。ギャンブルなんかではない浪費でも、行き過ぎれば破産の恐れだってあります。
一方、加藤さんはいま75歳ですから、これからお金を育てて……というのはあまり現実的ではないでしょう。また、25万円の収入があるので生活保護は厳しいとなると、ここからは生活を立て直して家計を切り盛りすることが必要だと判断しました。
まず、毎月4万円にもなっていた携帯電話代のプランを変更し、LINEといった無料通話アプリを導入。費目ごとに支出をチェックして、抑えるべきところを確認して守ってもらう、という地道な生活再建をはじめています。
ご本人はまだまだいたって健康で活動範囲も広いので、お金を使う機会も多い。それでも、これから歳を重ねるにつれて生活は縮小していくでしょうから、細く長く、かつ充実した余生を過ごせる家計管理スキルを身に付けていってほしいと思います。
私としては、メディカルチェックならぬ毎月の“ファイナンスチェック”で、加藤さんの家計の健やかな推移を見守っていくつもりです。
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Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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