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日本への「嫌がらせ電話」はカネになる…中国人の若者の間で「SNS反日デモ」が大流行している理由

プレジデントオンライン / 2023年8月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■日本の飲食店に「ショリスイ」「バカヤロウ」

東京電力福島第一原発の処理水の放出を受け、中国政府は日本に強く抗議しているが、政府だけでなく、個人のSNS上でも対日批判が巻き起こっており、まるで「SNS上の反日デモ」のような事態となっている。

とくに中国から日本の福島県などの飲食店に嫌がらせの迷惑電話をかけるだけでなく、その動画をSNS上に投稿することが中国国内で大流行しているという。なぜ、このような現象が起きているのか。

中国の微博(ウェイボー)などのSNSを見ると、日本の飲食店に片言の日本語で「ショリスイ」「カク」「バカヤロウ」などと話す様子が多数投稿され、それに大量の「いいね」がつけられていた。また、福島県の飲食店の店主が日本のメディアの取材を受けて「電話が鳴り続けて困っています」と話している場面を切り取って、画面上に中国語の翻訳をつけて投稿しているものも多かった。

日本の参議院に「莫西莫西(もしもし)」と電話をかける様子を映した動画。このほか、東京電力だけでも中国の番号からの電話が約6000件寄せられているという
画像=ウェイボーより
日本の参議院に「莫西莫西(もしもし)」と電話をかける様子を映した動画。このほか、東京電力だけでも中国からの番号とみられる電話が約6000件寄せられているという - 画像=ウェイボーより

コメント欄を見ると「(日本の飲食店の人が困っていて)いい気味だ」「われわれは南京大虐殺、731(旧日本軍が中国で細菌兵器開発のために人体実験などを行った731部隊のこと)を決して忘れない」「この機会に日本をやっつけろ」といった過激なものがあった。一方で、「こんな投稿をするなんて、ひまだね」といったものもあったが、多くは投稿を肯定するような内容だった。

■「愛国無罪」を掲げる中国の若者たち

中国の国番号「86」からかかってくる日本への迷惑電話は福島県だけにとどまらず、日本全国各地へと広がっている。福島県から遠く離れた福岡県でカフェを開く私の友人の元にもかかってきた。彼らは日本の電話番号を探し出し、手当たり次第に国際電話をかけている愉快犯だが、これまで日中関係が悪化しても、こうした国境を超えた迷惑行為が行われたことはほとんどなかった。

中国国内で起きた反日デモで思い出すのは、2012年9月、尖閣諸島の国有化を日本が決定した際のものだ。中国全土100都市以上で激しい反日デモが繰り広げられ、山東省のトヨタ自動車の販売店やパナソニックの工場で放火事件が起きた。日系スーパーや日本料理店でも破壊や略奪などが行われ、日本製の自動車に乗っていた中国人さえも、車を叩き壊されるという被害に遭った。

当時、こうしたデモや破壊活動を行った人々は、中国国内での生活に不満を持つ、比較的若い年齢層で、その不満のはけ口として「日本」関連の施設への暴力行為に及んだ。

彼らの多くは日本人との接点はなく、日本についての知識もほとんどなかったが、政府が反日攻勢を強めているため、この機に乗じて「愛国無罪」(国を愛するために行っていることならば罪にならないという意味)というスローガンを高らかに掲げ、やりたい放題の反日行動を起こしたのだ。

■前回とはまったく違う「SNSデモ」の目的とは

政府もそれを黙認し、若者のガス抜きに利用しただけに、当時「官製デモだ」と言われた。だが、今回はそうしたリアルな暴行やデモではなく、SNSというネット空間で起きている。

彼らがネット上で日本批判の動画を大量に投稿する理由は何なのか。それは11年前の構図と同様、「自らの中国での境遇に不満を持ち、強いストレスを感じており、反日デモをストレス発散のはけ口としている」こともある。彼らは日本についての知識などなく、日本や日本人が憎いわけでもなく、原発処理水問題を詳しく理解しているわけでもない。そうした点は当時、尖閣諸島が地図上のどこにあるのかさえも知らない無知な若者と共通している。

今回、大きく異なるのは、彼らの対日批判の目的が「お金」であることだ。彼らは迷惑電話をかける動画をSNSに投稿し、そこで広告収入を得て、自分の利益を増やしたいと考えている。SNSで人気が出て閲覧数が増えれば、すぐに収入に結びつく。そのため、こうした行動に出ているのだ。

また、SNSのフォロワーを増やして自己アピールをしたい、もっと目立ちたいといった自己顕示欲も背景にあるだろう。もしリアルなデモを行えば自分の身元が特定され、いくら中国でも自分が危険な目に遭ったり、批判の対象となったりする可能性があるが、SNS上の行為なら、危険を回避できるという側面もある。

■褒めるネタよりも誹謗中傷が人気

中国ではインフルエンサー、KOL(キー・オピニオン・リーダー)で生計を立てたり、副業にしたりしている人が非常に多く、常にウケる「ネタ」を探しているが、日本は格好のネタだ。

私は2021年、日本在住の中国人インフルエンサーに取材したことがあるが、その際、その人は「日本への関心は非常に高いので、日本関連のネタは常に人気ですが、ほのぼのとした話題や、日本を褒めるネタは、日本批判や日本を誹謗(ひぼう)中傷するネタに比べれば、人気がありません。やはり、誹謗中傷を喜ぶ層というのが一定程度、いるわけです。そこを狙って、例えば、『日本人は昔と比べて、こんなに貧乏になった』など実例を挙げて、中国人にウケそうな投稿を繰り返す人が多いのです」と語っていた。

私も最近SNSで見かけたことがあるが、在日中国人インフルエンサーが、日本の警察官をわざと怒らせるような暴言を吐き、熱くなった警察官がその人に注意すると、その様子をすかさず撮影し「日本の警察官のレベルは低い」「警察官なのに私にこんなひどいことをした」などとコメントつきで動画を投稿するものだ。これは「やらせ」だが、それを信じてしまう中国人も多い。

このような投稿は主に在日中国人のインフルエンサーの間で行われているが、中国国内でも、ここ2~3年、SNS上での対日批判は増えている。

■中国政府も投稿を容認している?

2年前の2021年8月、大連市で「盛唐・小京都」という京都と唐の街並みを再現し、土産物なども売る日中共同のプロジェクトがオープンしたが、営業開始直後、中国のネット上で「これは日本の文化侵略だ」という批判が巻き起こり、営業休止にまで追い込まれたことがあった。

当時、9月18日の柳条湖事件(満州事変の発端となった事件)を前にして、中国メディアは国威発揚につながる言葉で国民を煽っていたが、そうした中国社会の「空気」が大きく影響したのではないか、と言われた。

このように、中国のSNS上では、政府の高官の発言や、社会の空気を察知して、日本批判を繰り広げ、簡単に広告収入を得ようというやからが急速に増えている。彼らは真実が何であるのかなどに関心はなく、自分たちの行為の影響力も考えず、ただお金儲(もう)けができればいい、注目を集めればいい、と考えている。

中国の情報統制が厳しいことは有名だが、中国政府への批判はすぐに検閲され、削除されるのに対して、政府の方針と合致した行為であれば、SNS上の動画や投稿は削除されない。投稿者はそうしたことを十分にわかっているから、今回こうした行為に及んでいるのだろう。逆のいい方をすれば、政府もこうした迷惑行為を容認しているとも取れる。

中国人のスマホの画面に表示されたSNSアイコン各種
写真=iStock.com/c8501089
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/c8501089

■「日本産の海産物不使用」という張り紙まで

在北京日本国大使館では26日、SNSで「迷惑電話は犯罪行為」と警告し、中国政府に厳正な対処を求めた。現地の日本人学校にも卵や石が投げ込まれたりする事件が発生。大使館周辺には大勢の警察官が配備され、中国在住の日本人に、外出する際には、不必要に、大きな声で日本語を話さないよう注意を呼びかけるなど、緊張が走っている。

28日、私は北京でラーメン店と日本料理店を開く友人にそれぞれ話を聞いてみたところ、ラーメン店は「うちは中国人経営の店だと思われているようで、今のところ、迷惑電話もないし、影響はありません。お客さんもいつも通りです」という回答だった。

日本料理店は「やはり少し客足は落ちていますが、冷静に、応援してくれている中国人もいます。こちらでは、政府からの要請で、店頭に『日本産の海産物不使用』という張り紙をはっています。長期戦になるかもしれませんが、がんばります」と話していた。迷惑電話などは、主に日本国内に対して行われているようだ。

■「日本製」の不買運動に広がるのではないか

私がふだん見ている中国のSNS、ウィーチャットでも、中国人の友人で処理水問題について言及している人は少ない。日本人との接点があり、多角的に情報を収集できるレベルの人々は冷静で、中国政府が処理水問題を政治カードとして利用していることも承知している。

日本でも同様だが、SNS上では、注目を集めようとして過激な発言をしたり、動画を投稿したりする人が少なくないが、そうした人が国民の大勢を占めているわけではもちろんない。むしろ、そんなことをしている人々は少数派だ。ただし、SNSはいったん暴走したら止まらず、思わぬ方向へと発展してしまうこともある。

ネット上の反日行為はどこまでエスカレートするのか。一部では、日本製の化粧品や日用品への不買運動へと広がるのでは、との懸念もある。訪日団体旅行も一部キャンセルとなるなど影響は必至だ。前述のように、9月18日(柳条湖事件)という日中にとって最も敏感な日も近づいているだけに、今はあまりよくない時期に差しかかっていることは確かだ。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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