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SNSの「#不買運動」では無視されるだけ…問題企業の経営陣が「ネットの評判」より気にしていること

プレジデントオンライン / 2024年4月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/witsawat sananrum

企業の不祥事に対し、SNS上で「不買運動」が起きることがある。桜美林大学の西山守准教授は「不買運動の呼びかけ人は、その企業の『非顧客』であることが多く、効果は限定的だ。企業の行動を変えるためには、SNS以外で働きかける必要がある」という――。

■ネット上の不買運動で企業は本当に困るのか

静岡市に本社を構える「いなば食品」が、“ボロ家ハラスメント”や食品衛生法違反報道など、相次ぐ不祥事によって、激しい批判にさらされている。SNS上では、同社の主力製品であるペットフード「CIAOちゅ~る」について、企業姿勢を疑問視する一部のユーザーが「もう買わない」と不買表明をしているようだ。

また直近では、サントリーが実業家・インフルエンサーのひろゆき氏を飲料の広告に起用したところ、ひろゆき氏の過去の言動が疑問視され、SNSで「不買運動」が起きている。マクドナルドについても、CMのタレント起用を巡って「#さよならマクドナルド」というハッシュタグの投稿が散見される。

最近は企業が不祥事を起こすたびに、SNS上で「#不買運動」が拡散する。この実態はどのようなものなのだろうか? この運動は企業にとってダメージを与えるものなのだろうか?

結論を先に述べると、ネットの不買運動は、企業の収益にはほぼ影響しないと言ってよい。

ネット上の運動に限らず、不買運動が企業に与える影響は大きく下記の2つがある。

1.直接的な影響(売り上げの減少)
2.間接的な影響(風評被害、イメージ悪化)

■「不買」を呼び掛ける人のほとんどが顧客ではない

1つめの直接的な影響は、個人の不買運動については「ほとんどない」というのが実態である。理由としては、SNSで不買運動を叫んでいる人は、その企業や商品の顧客ではない人が大半であるからだ。

筆者は過去にSNSで不買運動を呼び掛けている人のアカウントを調べたことがあるが、不祥事があるたびに同様の投稿を行っている人、世の中に対する不満を吐き出している人が多くを占めていた。本当に顧客であれば、条件反射で不買運動に走ったりはしないだろうし、SNSに投稿するにしても、もっと建設的な批判をするだろう。

また、大企業であれば、SNSの「不買運動」による売り上げの減少は、全体としては誤差の範囲内程度に収まる。

■「#不買運動」はただのお祭り

2つめの間接的な影響のほうが、直接的な影響よりも大きいと言えるが、それでも企業に与えるダメージは限定的である。SNS上で炎上したとしても、波及力には限界がある。不買運動がメディアで取り上げられることもあるが、せいぜい「こたつ記事」レベルにとどまるのが一般的だ。

冷静で賢明な消費者であれば、直接面識もない第三者のSNSへの投稿や、こたつ記事に影響されて行動を変えたりはしないだろう。実際、筆者もネット上の「不買運動」について企業から相談を受けた際には、「真剣に取り合う必要はない」と答えている。

ネット掲示板「2ちゃんねる」の全盛期に、多くのスレッドが立って話題が盛り上がることを「祭り」と呼んでいたが、まさに、いまのSNSの不買運動も一種のお祭りのようなもので、同じ話題で盛り上がって楽しむこと以上のものでも、以下のものでもない。

筆者は、いなば食品の「ライトツナ」や缶入りのカレーシリーズを定期的に購入しており、同社に対しても比較的良いイメージを持っていた。今回の一連の不祥事を知って「しばらく買うのをやめようかな」と思ったりはしたが、それはあくまでも筆者が同社の行動を見てそう判断したことによる。もちろん、SNSで不買運動を呼びかけるつもりもない。

■企業がされると本当に困ること

企業が本当に恐れているのは、「(これまで買ってくれていた)顧客が離反すること」だ。さらに言えば、利害関係者(ステークホルダー)が離反することである。

具体的には、以下のようなことが挙げられる。

1.顧客が離反する
2.従業員が離職する
3.投資家・株主が資金を引き上げる
4.取引先が離反する
5.(メディア報道、世論の批判により)企業の評判が低下する

これらが相互に影響を及ぼし合い、負の連鎖が起きてしまうと、企業は危機に陥ってしまう。まさに、中古車販売大手のビッグモーターが昨年起こした一連の不祥事では、それが起きた。

「#不買運動」と投稿することは簡単にできるが、本当に問題のある企業に影響力を行使したいのであれば、「利害関係者」として自身の役割に見合った行動を取るほかはない。

具体的には、顧客として企業の問い合わせ窓口から連絡を入れる、法令違反を行っているのであれば監督官庁に連絡する、投資家として株主総会に出席して発言したり、議決権を行使したりする――といったところだ。

「それで企業の態度が改まるのか?」という疑問もあるかもしれないが、複数の人や組織が動けば、企業側も対応せざるを得なくなってくるし、対応できなければ負の連鎖が起きて、経営難に陥ってしまう。

■不買運動が実際に影響を及ぼしたケース

不買運動の話に戻ろう。冒頭で影響は限定的と述べたが、必ずしも不買運動自体が無益なものというわけではない。

例えば、中国市場においては、不買運動が企業の業績に大きな影響を及ぼしている。反日意識が高まると、日本製品の不買運動が起きて、実際に売り上げが落ちてしまうことも多々ある。昨年は、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出により、SNSで日本製化粧品の不買運動が起き、資生堂や花王など、大手の化粧品メーカーの売り上げが落ち込んだ。

スイスに本社を置くネスレは、キットカットなどのチョコレートの原料であるパーム油の調達先が、熱帯雨林を違法伐採して開発されていたことから、2010年に国際環境NGOのグリーンピースが批判キャンペーンを行った。それにより、多くの消費者から批判が集まり、不買運動へと発展し、ネスレ社は調達先を変更するという対応を行っている。

ネスレのキットカット
写真=iStock.com/Panama7
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panama7

■日本で不買運動が一大ムーブメントにならない理由

上記以外にも、不買運動が企業の業績や行動に影響を与えた事例はいくつも存在する。

しかしながら、日本においては、本当の意味での「不買運動」はなかなか起こらない。たとえ、起きても企業の業績にダメージを与えたり、企業の行動を変えたりするまでには至らない。

争いや対立を避けたがる日本人の国民性や、国民みずから行動を起こさずとも現代の平和な国家が成立した歴史性に負う部分も大きい。

さらには、人々に政治的に影響を及ぼす、オピニオンリーダーやインフルエンサー、団体が不在であることも大きい。

海外であれば、政治家に限らず、ミュージシャンや俳優、アスリートなどのセレブリティが政治的な発言を行い、それが人々に影響力を及ぼすことも多い。

日本でも2020年、検察庁法改正案に際し、複数の芸能人が反対意見を表明したが、賛同よりは批判意見のほうが目立ち、結局は尻すぼみに終わっている。

また、人権侵害に遭った被害者が、野党や人権団体と連帯することもあるが、「政治に利用されている」あるいは「政治を利用している」として、批判されたり、冷ややかな目で見られたりすることも多い。

■逆効果だった2011年の「花王不買運動」

ネット起点の不買運動として思い出されるのが、2011年の花王に対する不買運動だ。この騒動は、フジテレビが「韓国推し」であることに対して、嫌韓・反韓の人たちが批判を行ったことが起点となっているが、フジテレビの大口スポンサーが花王であったことから、「反日メディアを支援する反日企業」としてやり玉に挙がり、不買運動へとつながったものだ。

なお、この年は東日本大震災が起こり、リアルタイムの情報共有ツールとして、Twitter(現X)の利用者が急増した年でもある。それに加えて、2ちゃんねるも健在であった。こうしたメディアを発火点として、レビューサイトが荒らされたのみならず、リアルのデモまで起こった。

ネット起点の不買運動としては、この花王不買運動が最大のものだったと言えるだろう。しかしながら、この運動は、有効なものであったとは言い難い。それどころか、ネット起点の不買運動が「(企業側が)真剣に向き合う必要はない」という通念を形成してしまった、逆効果をもたらした運動であったとも言える。

当時のフジテレビが「韓国推し」であったことは、政治的な意図があったわけではなく、単純に「韓国のコンテンツが安く調達できる」「視聴者のニーズに応える」という経済合理性に基づくものだった。もちろん、フジテレビにスポンサーしている花王にも政治的な意図はなかった。

花王側としては、たとえ不買運動によって売り上げが落ちたとしても、フジテレビのスポンサーを降りるという選択は「人種差別的だ」「不当な圧力に屈した」と批判される恐れがあるため、安易に取ることはできない。

■SNS上の不買表明だけでは世の中は簡単には変わらない

なお、その後も多くの企業が「反日企業」として叩かれたり、ネットで不買運動が起きたりしているが、筆者が知る限り、実際に反日的な行動を取っている企業は見たことがない。むしろ、「愛国的企業」の方が、経済合理性よりも政治的信条を重視しているように見える。

そもそも、テレビ局の「韓国推し」が気に入らないのであれば、間接的な方法を取るよりも、直接テレビ局に申し入れを行うか、当該テレビ番組の「不視聴運動」でも起こした方が効果的だったのではないだろうか。

旧ジャニーズ問題に際しても、旧ジャニーズタレントを広告に起用している企業に対して、SNSで不買運動を呼びかける動きはあったが、それに対するファンによる「買い支え」運動も起きた。むしろ、後者の影響力のほうが強く、不買運動に効果があったようには見えない。やはり、ジャニーズファンがまとまって事務所に対して責任を求めるのが、有効な方法であったように思う(ただし、この動きも大きな潮流とはならなかったが)。

SNSは、誰でも手軽に情報発信できるツールではあるが、それで「世の中を変えることができる」と思うのは過信であるし、「良い方向に変えることができる」というのも、いまや妄想に近いのではないかと思う。

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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)

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