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だから大谷翔平はメジャーでも二刀流を続けられた…栗山英樹監督のプレゼンを作った「世界最古の書物」の教え

プレジデントオンライン / 2023年9月15日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/USA-TARO

優秀な人材を育てるにはどうすればいいのか。易経研究家の小椋浩一さんは「中国の古典『易経』には人材育成に関して学ぶところが多くある。WBC日本代表を率いた栗山英樹監督は『易経』を愛読しており、大谷翔平選手の育成にも大きな影響を与えている」という――。

※本稿は、小椋浩一『人を導く最強の教え「易経」 「人生の問題」が解決する64の法則』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■大谷翔平の活躍を支えた栗山英樹監督の環境づくり

プロ野球日本ハムファイターズを率いて日本一を、侍ジャパン日本代表で世界一を成し遂げた栗山英樹監督も、『易経』に学ぶお一人です。著書『栗山ノート』(光文社)には、「坤為地」「山天大畜」「坎為水」「水沢節」「乾為天」「雷天大壮」など多くの引用があります。

栗山監督は現役時代、メニエール病や故障に苦しみ、29歳の若さで引退されるなど苦労をされました。そうした生きるうえでの大きな悩みを克服すべく、『易経』に学びを求められたようです。その後はそういった教養も活かし、TVのキャスターから大学教授まで多方面で活躍され、50歳で日本ハムの監督に抜擢されました。

栗山監督の業績の一つとして、今や世界一の選手と称される大谷翔平選手を育てたことが知られています。大谷選手のすごさはやはり“二刀流”で、打者だけでなく投手としても超一流であるところです。世界最高峰のアメリカ大リーグで最高の選手に贈られるMVPを獲得するなど、その並外れた活躍には、栗山監督による育成の環境づくりが大きく寄与しました。

■誰にも感謝されなくても人が集まる場所を維持する重要性

栗山監督も学ばれた卦「水風井(すいふうせい)」では、井戸をたとえに、人の集まる場づくりの大切さが説かれています。

水風井
陰日向なく仕事を続ける時。
人の集まる場づくりとは誠意ある環境づくりである、の意。

井戸は古来、人が生きるために不可欠な水を供給する場として生活の中心にありました。たとえ戦争で国や村が変わることがあっても、井戸は場所を変えることなく、汲めども尽きず、訪れる人を誰でも養ってきました。

日差しの中で古い井戸
写真=iStock.com/augustmama
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/augustmama

しかしながら、その井戸を維持するためには、掃除や石組み・釣瓶(つるべ)などの修理、そして何より水質の維持など、地道で膨大なメンテナンス作業が必要です。それらが一つでも欠ければ、水は飲める状態ではなくなるどころか、汲み上げることすらできなくなってしまう。そういった、大変な労務を果たして誰がやるのか?

「あなたがそれをしなさい」とこの卦は教えます。たとえ誰にも感謝されなくとも、もれなく行き届いた作業を続けること。そうした努力を続ければ、それを評価してくれる人がやがて登場し、それまでの苦労も報われ、あなたが多くの人を幸福にしたのと同じく、あなたも幸福になれるだろう、ということです。

今は日の目を見なくとも、分かってくれる人はかならずいる。認められなくても諦めることなく、その才能にさらに磨きをかけていきなさい、とこの卦は説きます。

■「井戸に蓋をして水を独占するようなことをしてはならない」

そもそも井戸というものは、世間の人にその水を飲まれ、喜ばれてこそ価値があるものです。人のためにと地道に頑張ったことで得られる世間の信用が、やがてあなたにも大きな恵みとなって返ってくるでしょう。

「井戸に蓋をして独占するようなことをしてはならない。奉仕の心があれば大いに吉」。この卦のそんな言葉どおり栗山監督は、日本ハム時代、投打に大活躍しチームに不可欠な存在に成長した大谷選手を、気持ち良くメジャーリーグに送り出しました。

卒業セレモニーでの栗山監督から大谷選手への贈り物には、「世界一の選手になると信じています」というサインがありました。そして、その願いは見事に実現したのです。

■大谷は高校時代からアメリカ行きを公言していた

さかのぼれば大谷選手は、高校時代に投手として最高時速155キロもの豪速球を投げ、最強の四番打者としての呼び声も高く、すでにメジャーリーグからも声がかかっていたため、本人もアメリカ行きを公言していました。

そのようななか、栗山監督は「大谷君には本当に申し訳ないけれど、指名させていただきます」との有名な予告どおり、ドラフト会議で大谷選手を指名し、見事に交渉権を獲得しました。けれども、当時の大谷選手は「びっくりしたし動揺もした。評価していただいたのは有難いが、アメリカでやりたいという気持ちは変わらない」と語り、日本ハムからの誘いへの辞退の意志を変えず、最初は訪問にも応じなかったそうです。

それでも栗山監督自身による訪問も含む四回もの交渉を経て、結果として大谷選手は日本ハムへの入団を決め、そのニュースにはすべての球団が驚かされることになります。

なぜ栗山監督は、あれほどメジャーリーグ行きに固い意志を示していた大谷選手を説得できたのでしょう?

その秘密はこの卦の教えである「人の集まる場づくりとは誠意ある環境づくり」である点に加え、次の「山雷頤(さんらいい)」にもピッタリの話がありますので、そちらで続けて謎解きをいたしましょう。

■栗山監督が用意した『大谷翔平くん 夢への道しるべ』の中身

山雷頤
食うために正しい努力をする時。
使うより養え、
自分も養い他者も養うことが吉、の意。

栗山監督が自ら臨んだ「高校球児大谷君」の入団の説得で、最終的な決め手になったのは『大谷翔平君 夢への道しるべ~日本スポーツにおける若年期海外進出の考察~』という30ページもの資料です。これは一時期、日本ハムファイターズ公式ホームページで公開されたことで、企業の人材育成担当者の間でも話題となりました。主な内容は次のとおりです。

(1)大谷選手の夢の確認
1.大谷君の希望、達成比較
2.MLB(メジャーリーグベースボール)トップまでの道のり
(2)日本野球と韓国野球、メジャー挑戦の実態
1.日本野球、メジャー選手一覧
2.日本人メジャー選手のキャリア一覧
3.韓国野球、MLB進出状況
4.韓国人メジャー選手中の高卒→メジャー選手の成績
5.韓国人メジャー選手のキャリア一覧
6.日本野球、その他のアマチュア→MLB挑戦者一覧
7.日本・韓国野球、メジャーにおける活躍状況まとめ
(3)日本スポーツにおける競技別海外進出傾向
1.競技別海外進出傾向の違い
2.競技別海外進出の傾向+指標
3.若年期海外進出が向いている競技
4.若年期海外進出理由の競技別適性
(4)世界で戦うための日本人選手の手法
1.日本サッカー海外移籍組のキャリア一覧
2.日本人らしい育成項目
3.「Global(世界の)」でなく「International(多国間の)」で戦う

これだけでもすごい内容ですが、さらに素晴らしいのが、別紙として添えられた「日本人メジャー選手一覧」です。これは選手別の活躍年代が多色刷りで帯グラフ化されたもので、これを見れば、「いきなりメジャーに行くよりも、日本で基礎体力をつけて実績を挙げたうえで挑戦したほうが、活躍の可能性が高く選手生命も長い」ことが一目瞭然でした。

企業もDX(デジタル技術活用による業務改革)推進に大いに取り組んでいますが、このデータの力を存分に活用した資料は早くも2012年の傑作で、今でもデータ分析の成功事例として人気があります。

■大谷も想像していなかった「二刀流」の提案

さらに栗山監督は、大谷選手に投手と打者の「二刀流」の育成方針を示しました。当初は大谷選手本人も「そんな考えはなかった」と驚き、かつ懐疑的であったものの、日本ハムへの入団会見に臨んだ際には「どっちでも頑張りたい」と二刀流への挑戦を表明するに至ります。これこそ、大谷選手が「二刀流」への第一歩を踏み出した記念すべき瞬間でした。

入団後は大谷選手の最高の練習環境をつくるため、まずは未成年という年齢を考慮し、外出制限をかけます。このため、たとえ食事の誘いであっても球団に事前に報告せねばならず、皆が簡単には大谷選手を引っ張り出せなくなりました。

現に入団当初の大谷選手は、チームメイトとの食事以外ではほとんど外出しなかったそうです。入団前からスターだった大谷選手にとって、こうした誘惑や社交のわずらわしさから解放されたことは、大いにプラスだったことでしょう。

■登板間隔にも本人の意見を取り入れる環境を用意

また身体のコンディションづくりも徹底され、日々のチェックから投手出場と打者出場のサイクルまでが緻密につくり上げられました。さらには登板から何日で次の登板をするかなども本人の意見を取りいれて決めました。本人の夢であった「将来のメジャー行き」も常に念頭に置き、全部自己判断で進められるよう、球団を挙げてサポートしたのです。

小椋浩一『人を導く最強の教え「易経」 「人生の問題」が解決する64の法則』(日本実業出版社)
小椋浩一『人を導く最強の教え「易経」 「人生の問題」が解決する64の法則』(日本実業出版社)

やがてメジャーへの挑戦を成功させ、MVPを獲得するまでの成長を遂げた大谷選手はその後、栗山監督率いる侍ジャパンで投打にわたり大活躍します。グラウンドだけでなくベンチでも控室でもチームをリードし、ウイニングボールまでをも自らが投げ、見事世界一を決めました。両者にとっても感無量だったに違いありません。

これらの逸話からも、人材育成とは、良質な環境を用意したうえで良質な言葉をかける修養である、という指導者の徳がうかがえます。

あなただったら、人(部下や後輩、わが子)を伸ばすためにどんな言葉をかけますか?

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小椋 浩一(おぐら・こういち)
易経研究家
1965年、名古屋生まれ。某電機メーカー経営企画部プロジェクト・マネジャー。名古屋大学大学院経営学博士課程前期修了。早稲田大学商学部卒業後、上記電機メーカーに入社。海外赴任を経て会社を「働きがいのある会社ベスト20」に導くが、キャリアの絶頂期に新規事業で大損失を出し居場所を失う。その後『易経』との出会いで人生観が180度変わる。現在では全社横串の次世代リーダー育成の傍ら、社内外でセミナーや講演を多数行っている。

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(易経研究家 小椋 浩一)

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