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中学受験の修羅場「こんな低偏差値校に行くために塾に通わせたわけじゃない」親の捨て台詞で壊れる子供たち【2023上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2023年10月9日 12時15分

撮影=プレジデントオンライン編集部

2023年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。教育・子育て部門の第5位は――。(初公開日:2023年2月28日)
中学受験には従来の4科目のほかに2科目受験などさまざまな方式が登場している。教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは「以前は、偏差値や大学合格実績などで4科目の中高一貫校を選ぶ家庭が多く、その結果全落ちしてしまうケースもありましたが、最近は親が子供の個性ややりたいことに合った校風の学校と受験方式を選ぶケースが増えている」という――。

■「中学受験2023」史上初めて5万2000人以上の受験者

1月から2月にかけて首都圏で実施された2023年度入学の中学受験の受験者数は、過去最多を更新しました。前年比1500人増の推定5万2600人(首都圏模試調べ)で、受験者総数は2015年から9年連続の増加。5万2000人超は中学受験史上初めてのことです。

女子校からリニューアルした芝国際中学校や、明治大学との連携を発表した日本学園などが台風の目となり話題となったほかに、従来の4科目以外の受験方式も多様化し、受験生の動向にも新しい動きがありました。

そこで、塾目線ではなく親目線に立って独自に取材したものを基に、来年度以降の中学受験にどう向き合うべきかを考えてみました。

まず、首都圏の中学受験者数が増加した理由や、受験生の動向について首都圏模試センター 教育研究所長の北一成さんに聞きました。

「今年度の首都圏の中学入試は史上最高の受験者数を叩き出し、東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城いずれも受験者数は増加しました。その結果、合格率も91.8%、特に男子は82.9%とかなり厳しい受験になりました。ただ、この中には公立中高一貫校との併願者も6500人くらい含まれていることを考えると、受験者がすごく増えているわけではありませんが、難関校や新設校を狙い撃ちした結果、全落ちという相当厳しい結果になってしまった受験生もいたということです」

一方、北さんは「受験校選びが多様化すると共に、受験準備のスタイルも多様化して3極化している」と語ります。それは以下のようなタイプです。

■塾に通いつつ偏差値重視ではない中学受験が主流に

① 従来通り小4(小3の2月頃)からしっかり進学塾に通って難関校を目指す層。
② 塾には通っているが偏差値重視ではなくわが子にあった学校を選びたいという層。
③ 公立中高一貫校との併願や新タイプ入試を活用して、習い事などと並行しながら中学受験をする。志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っているライトな受験をする層。

最近の特徴は、②がボリュームゾーンで、③も増えているといいます。つまり、4科目入試がほとんどだった15年前のピーク時と違い、入試自体が多様化し、受験生の思考も着実に変わってきているのです。

実際、私のまわりでも、大手塾での競争に疲れて途中で小規模塾や個別指導の塾に移り、できるだけわが子にあった受験をしたいと学校研究をして志望校を変えて合格したという家庭や、習い事や自分のやりたいことをしていくために中高一貫校を選びたいと新タイプ入試を活用して合格したケース、子供が小6年の途中から急に受験をしたいと言い出して、急遽2科目で駆け込み受験をしたといったケースを見聞きすることが増えていましたので、その分析には同感しました。

こう書くと、「中学受験はそんな甘いものではない」「4科目受験こそ王道」といった声も聞こえてきそうです。

確かに中学受験で、御三家や大学付属校など偏差値60以上の難関校突破のために求められる学力レベルは相当高く、その場合、進学塾がもつノウハウに沿って準備をする必要があります。こうした学校は人気を集めるにふさわしい教育をしており、大学進学実績も素晴らしい。よって偏差値も高くなるため、本気で目指すためには“強い塾”に行かなければ……という流れになりがちです。

合格祈願
写真=iStock.com/Kavuto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kavuto

■「こんな低偏差値校のために塾に通わせたわけじゃない」

このとき親が陥りやすいのは、いちどこのレースに足を踏み入れることで、少しでも偏差値の高い学校への合格が目的になり、子供を過度に追い詰めてしまうことです。

例えば、目標とする学校に受からなかった時にその結果を親が引きずり、「こんな学校に行くことになってしまった」とあからさまな言い方をする。進学することになった学校を否定することで、親子関係が悪くなったり、子供自身も否定的に捉えて自分には価値がないと思い込んだりすることにもなりかねません。

今回も2月1日からの試験で、5日間午前午後と受け続けるも落ち続けた受験生がいました。このままではまずいと5日の夜に急遽出願し6日に受験した学校に合格したものの、親は「こんな偏差値の低い学校に行くために塾に通っていたわけでない」と悲嘆にくれていたそうです。子供はその学校の先生と話して納得し、合格をくれた学校に進学することにしたそうですが、こうした親の対処は子供にダメージを与えてしまいます。

2023年2月カレンダー
写真=iStock.com/bgblue
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bgblue

実際、難関校の滑り止めとなった学校では、そんな心が傷ついた子供たちのメンタルケアから始めなければならないというぼやき声もしばしば聞かれます。

もちろん、正しい対処をする親もいます。難関校を目指して塾に通い始めたけれど、途中で子供の様子を見ながら学校研究を進め、偏差値だけではない受験校選びをして、結果的に子供にあった学校に進学できて満足しているという事例もあります。

この違いはやはり、親が何のための受験なのかを見失わない冷静さを持てるかどうか。学校の本質を見極め、子供の今時点での実力で受かりそうな学校の中から、上手に選んで受けていけるかどうかによって生じるものです。

■塾業界が敷いたレースを走らされ、消耗する親子

筆者がこれまで200校以上の学校を取材して感じるのは、偏差値に囚われてしまうと、その学校の魅力を見落としてしまうことが多いということです。その結果、塾業界が敷いたレースを走らされ、消耗する親子がなんと多いことか。

そうした悲劇を繰り返さないためにも、トライして良かったという受験にするためのポイントを3つ挙げました。

① なんのために受験をするのか、ゴールを明確にし、そのゴール達成のために、わが家はどんなルートを選ぶのか子供と一緒に考えること。
② そのゴールに向けた学校研究を怠らないこと。
③ 受験に向かうのは子供。親はあくまでもサポーターであることを忘れない。

東大合格者など難関大学合格実績の高さを受験校選びの基準にする人は昔も今も多いですが、基準はそれだけではありません。時代が大きく変わり、基準も多様化しています。

中学受験において、最終的な学校選びは親の仕事になります。そのため、学歴社会を生きてきた親も意識をアップデートしていくことがきわめて重要です。自分の経験を基に、最新事情を学びもせず「この学校はレベルが低い」「偏差値上位の学校に行かなければ敗北だ」といった考え方を持つのはもう終わりにしなければなりません。

大事なのは、各学校の教育理念や育成しようとする生徒の人物像をしっかり把握し、子供を託したいと思える学校を選ぶこと。大学入試の半分以上が総合型選抜になっている今、子供との相性を見極めて賢い学校選びをしてほしいです。

勉強している子供の手
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

参考までに筆者が主宰する親向けの受験講座に寄せられた実際の事例、現在、中1の3人の中学受験ストーリーを紹介します。いずれも親が賢明な判断をできたケースです。

一人目は、大手進学塾から洗足学園に進学した家庭。2つ上の兄が同じ塾から最難関校に合格して楽しそうに通学しているのを見て、自分も同じ塾に通うことにした女の子。頑張り屋で塾の勉強も手を抜かず、塾内のクラスは常に最上位を維持。小6の志望校別特訓も御三家を目指すクラスでしたが夏休みに突然、「クラスを辞めたい」と言い出したのです。

本人の心境は、「まわりの子との差が広がって、つらかった。それで、『辞めたい』と言うと先生からは頑張れば大丈夫だから諦めるなと引き止められたけれど、みんなライバルという環境の中でプレッシャーを感じながら通い続けるのは限界だった」と言います。

幸い、親は子供の意思を尊重し、クラス変更を認めました。娘さんは、「あの時もし、もったいないから続けなさいと言われていたら壊れていたかもしれない」と後で正直に語ったそうです。最終的に、「自分の第一志望校」に合格できて大満足しているそうです。

■入試問題を解くのが楽しすぎて合格後も、受験し続けた

2人目は、小5の秋に、本人が「地元の中学校に通いたくない」という理由から中学受験を志望し中堅塾に通うようになり、横浜女学院中学校に進学した家庭。毎年、早慶やMARCHの合格者を出している学校ですが、この娘さんの場合、本が大好きだったことが受験の決め手になりました。体験授業に参加した際、好きな本を読んで探究するリーディングという授業を受けて、「この学校に入ってこの授業を受けたい!」と熱望し、この学校だけを受験したそうです。受験科目は国語と英語の2科目。「入試問題を解くのが楽しすぎて、初日に合格した後も、受験し続けた」という逸話の持ち主です。

3人目は、自分が真剣に取り組んでいるドローン競技を続けることを最優先として、それを認めてもらえる中高一貫校を志望した男子児童。自己アピール型の新タイプ入試(思考・表現型)でドルトン東京学園中等部に合格・進学しました。この子は、年の離れた兄が中学受験をしたことから、親が受験をさせたいと4年生から中堅塾で4科目受験の準備をしていましたが、あまり勉強に身が入らないまま、途中からドローン競技に夢中になり受験勉強との両立が厳しくなっていったん受験をやめる決意をしました。

ドローン
写真=iStock.com/evandrorigon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/evandrorigon

ところが、その後「公立中学に行ったらまた高校受験で両立できなくなる。それならやりたいことと両立できる環境を得ることを目的に中学受験をしよう」と思い直し、個別指導塾に入り直して受験準備を再開。そして、2科目と新タイプ入試で問われる作文の対策に絞って勉強をし、見事第一志望校に合格しました。

母親は当初、偏差値の価値観からなかなか離れられませんでしたが、筆者との対話を通して徐々に受験の目的を考え直し、子供のやりたいことと学業の両立という希望を叶えられそうな学校をいくつか選んで受験した結果、自分の偏差値以上の学校に合格を果たしたのです。

以上、三者三様の受験ストーリーですが、こんな受験スタイルもあるのです。もちろん3つの家庭も、いつも平和だったわけではありません。たくさんの葛藤があり、やる気を見せない子供を責めたり、親が不安をぶつけて喧嘩したりすることもありました。それでも、最終的には子供の良き理解者であろうとし、いい関係を作ったからこそいい結果を得られたのです。

受験が成功するかどうかは「親子関係が9割」と言ってもいいでしょう。それくらい、受験では親が試される場面が多く、葛藤が生まれますが、その葛藤は親子を成長させてくれます。

成長といえば、こんな事例もありました。

塾に行かずに通信教材だけで勉強していたものの途中でやめていた小6男児が、入試3週間前になって、クラスの友達が受験に向けて真剣になる姿に刺激を受けて、「自分も受けたい」と言い出したという珍しいケースです。残り3週間、猛勉強をして2月1日以降、3校を受験し、なんと2校に合格したそうです。

両親は、記念受験で終わらせないためにこの先どうするのか、子供を囲んで真剣に話し合いをしたそうです。その結果、「息子の気持ちはもう高校入試に向かっていたので、公立中に進学することを決めた」と母親は言います。本番の試験を体験したことで、息子は「もっと早くから頑張っていたら、違う結果を手に入れられたのかもしれない!」と実感し、初めて自分ごととして受験を捉えられるようになったのです。

受験は、どんな結果であろうと、親子が成長できるまたとない機会です。これから受験をされる皆さんが、最終的にやってよかったと思える受験になりますように。心から応援しています。

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中曽根 陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト
マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かして取材・編集を行う、編集企画会社を発足、代表に。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。その後、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。ポジティブ心理学コンサルタントも取得し、最近は子育て教育探究ナビゲーターとして、親に寄り添った発信をしている。最新刊『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの探究力の育て方』(青春出版社)他著書多数。

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(教育ジャーナリスト 中曽根 陽子)

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