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やたら喉が渇いてトイレも近い…そんな人に膵臓がんの名医が「すぐ精密検査を受けろ」という理由

プレジデントオンライン / 2023年10月14日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peakSTOCK

膵臓がんはほとんど症状がないまま進行するため早期発見が難しい。東京女子医科大学消化器・一般外科の本田五郎教授は「これまでは正常値だったのに、いきなり血糖値が上がった人は要注意だ。膵臓がんができると急に糖尿病になることがある」という――。

※本稿は、本田五郎『膵臓がんの何が怖いのか 早期発見から診断、最新治療まで』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■がんの発生経路は2つに分けられる

膵臓(すいぞう)がんは、あらゆるがんの中でも、もっともタチの悪いがんです。ほとんど症状がないまま進行してしまい、見つかったときにはもう手術できない状態であることが少なくありません。進行すると治療が難しくなるのも事実ですが、何よりも「早期発見」がとても難しいというのが、生存率が極端に低くなっている理由です。

たしかに手ごわい相手です。

でも、だからといって“敵”の正体もよく分からないまま怖れていても、何も解決しません。ここでは、“敵”のどういう点が厄介なのか、どういう手段で“敵”に対抗していけばいいのかという具体的なことをお話ししていきたいと思います。

ですが、その前にほんのちょっとだけ基本的なことを解説いたします。

これは、膵臓がんに限らず言えることですが、がんの発生経路は大きくふたつに分けられます。ひとつは、初めの遺伝子ミスコピーでちょい悪の不良になって、これらが頻繁に細胞分裂を繰り返すうちに、さらに新たな遺伝子ミスコピーが何度か加わることで、本物の不良になって、チンピラ、やくざへと、ある程度時間をかけて成長していく経路(段階的発がん経路)です。

■段階的に悪性度が上がる発がん経路が注目されている

そしてもうひとつは、突然変異的にいきなりチンピラややくざ細胞が現われる経路(突然変異的発がん経路)です。こちらの経路では時間を要せずに悪性化するためか、患者さんの平均年齢は低くなります。発生頻度は段階的発がん経路よりかなり低いのですが、一気に悪性化して浸潤がんになるため、膵臓がんでなくても早期発見はほぼ不可能です。

そのため、これからお伝えする膵臓がんの「早期発見」の話は、前者の段階的発がん経路を対象とした内容となります。

膵臓がんの段階的発がん経路として昔からよく知られているのは、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性囊胞(のうほう)腫瘍(MCN)などの膵囊胞が悪性化して膵臓がんになっていくケースです。

これらに加えて、最近、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN:パニン)が注目されています。こちらも同じように膵管の上皮内にちょい悪の腫瘍細胞が発生するのですが、こちらは囊胞などの目立った形態的変化を見せることなく、静かに悪性度を上げていきます。そのため、ともすると突然変異的発がん経路と思われがちですが、実際には段階的に悪性度が上がっていきます。

■2種類の発がん経路をどう区別するかは意見が割れている

PanINとIPMNをどのように区別すればよいのか、膵臓を専門とする消化器内科医や病理医の間でも意見が分かれているのが現状です。さらに言うと、どちらもちょい悪の腫瘍細胞が個別にあちこちにできる、つまり多発する傾向があることが分かっていて、IPMNとPanINが混在して多発していることもあります。

これは「金髪の不良がいるのは3年A組だけかと思ったら、C組にもいるし、2年や1年の教室には金髪ではなくリーゼントの不良もいるじゃないか!」という感じです。しかも、彼らは別々の教室でそれぞれ個別にミスコピーが起きて生まれてきたものなのです。

いまのところ、IPMNとPanINは別の病気として扱われているのですが、直感で仕事をしがちな外科医の私などは、金髪(IPMN)だろうがリーゼント(PanIN)だろうが、所詮どちらも似たようなちょい悪の不良で、いつかは同じやくざ(膵臓がん)になっていくのですから、分けて考える必要はないのではないかと思ったりもします。このあたりのことはこれから解明されていくでしょう。

ちょい悪から本物の不良、チンピラ、やくざへと成長していく段階的発がん経路ですと、本物の不良かチンピラくらいのまだわりとおとなしい時期がしばらくあります。その時期にその芽を摘んでしまえば、かなり高い確率で社会秩序の混乱と壊滅から逃れられます。

つまり、膵臓がんで命を落とすことを避けられるわけです。

■リスクファクターは「多量飲酒」「喫煙」「肥満」

まず、どんな人が膵臓がんになりやすいのか。好発年齢は、60代半ばから70代です。60〜80歳の人が8割を占め、男性がやや多い傾向があります。

慢性膵炎がある人はない人に比べて膵臓がんの発症率が13倍も高いという調査報告があります。

生活習慣面では、「多量飲酒」「喫煙」「肥満」などがリスクファクターとして挙げられています。このうち、飲酒に関しては、長年の多量飲酒の習慣によって慢性膵炎が引き起こされ、炎症による膵管の破綻と修復が繰り返されることで、がん細胞ができやすくなるものと考えられます。

灰皿に乗るタバコとアルコールの入ったグラスを持つ男性
写真=iStock.com/Srdjanns74
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Srdjanns74

遺伝的素因は、慢性膵炎に関与している場合もありますが、膵臓がんの発がんに直接関与している場合もあると考えられています。膵臓がんの患者さんの家族歴を調べたいくつかの研究報告によると、家族の中に膵臓がんになった人がいた患者さんは、3〜9%もいたそうです。

■糖尿病があると膵臓がんの発症率は1.8倍に

そして、膵臓がんにつながりやすいリスクファクターとして一般によく知られているのが「糖尿病」です。糖尿病があると、膵臓がんの発症率が1.8倍になるという調査報告があります。そのほか、IPMNなどの膵囊胞がある人も、もちろん発症率がグッと高くなります。

最近は膵臓がんを超早期に見つけるための「膵臓ドック」「膵臓がんドック」などもできています。たとえ「膵臓がんリスクが高い人」であっても、こういった施設で専門的な定期検査を受けていれば、もし膵臓がんになったとしても、本物の不良かせめてチンピラになったくらいのうちに見つけて、膵臓がんから命を守っていける時代になっているのです。

ですからここに挙げたようなリスクファクターが当てはまる方は、定期的に膵臓の状態をチェックすることをお勧めします。

■手術で治せる可能性がある段階で現れる代表的症状

黄疸(おうだん)や背部痛から早期段階の膵臓がんを見つけられることもある症状についても述べておきましょう。

膵臓がんの早期はほとんど無症状であり、そのために発見が遅れてしまうケースが少なくありません。実際、症状が出たときには、すでに手術ができないほど進行していたということも少なくありません。腹痛や背部痛が続いて、「これはさすがにおかしい」と思って医療機関を受診したら、進行した膵臓がんが見つかったというのは典型的なパターンのひとつです。

ただ、早期とまではいかなくても、手術で治せそうな段階で症状が現われる場合もあります。

その場合の代表的な症状は、黄疸、腹痛、背部痛です。また、背中の痛みが腰痛として感じられる場合もあります。

腹痛や腰痛は日常的に起こりやすい症状でもあり、「腹が痛い」「腰が痛い」からと言ってそこから膵臓がんを疑うのは難しいかもしれませんが、少なくとも黄疸と背部痛は、日常的ではない症状だと思います。

■「黄色い白目」「こげ茶の尿」「灰色の便」に要注意

黄疸は、膵臓の中でも膵頭部にがんができた場合に出てくる症状です。膵頭部の中を通過する胆管が膵臓がんによって狭くなり、胆汁の流れが悪くなって、黄色い胆汁の成分であるビリルビンが血液中にあふれ出すため、体中が黄色くなるのです。とくに、眼球の白目の部分を見ると、黄色くなっているのでよく分かります。それと、尿の色が濃くなってこげ茶色になりますし、逆に便の色は薄くなって、場合によっては灰色になります。また、胆汁の成分の影響で、体中がかゆくなって夜も眠れなくなる人もいます。

胆管を巻き込んで黄疸が出るような膵臓がんは、もちろん早期がんではありません。しかし、胆管の近くにできた膵臓がんであれば、比較的早い時期に胆管を巻き込むため、まだ何とか手術ができそうな段階で見つかることがしばしばあります。

一方、膵体部や膵尾部にがんができたときには黄疸症状が出ません。そのため、膵体尾部にできたがんは、膵頭部にできたがんと比較して、より進行した状態で発見されるケースが多い傾向があります。

■症状が続くときは様子見をせずに早めに診察へ

次に背部痛についてですが、背部痛にはふたつのパターンがあります。

ひとつは膵炎による背部痛で、膵管が詰まって流れが滞ることで背中が痛くなるパターン。このパターンは早期の膵臓がんでも現われることがあり、この症状で早期膵臓がんを見つけられたなら、かなりラッキーです。

もうひとつのパターンは、がんが進行してから現われる背部痛です。膵臓の背側には、おなかの中のいろんな臓器に向かう太い動脈が通っていて、それらの動脈の周りには、おなかの臓器の動きを制御する自律神経がツタのように絡みついています。

膵臓がんが進行すると、がんがこれらの神経伝いに染み込むように広がっていきます。

自律神経にはおなかの調子を脳に伝えるための感覚神経も含まれていて、それに乗って痛み信号が脳に伝わると、これが背中の痛みとして感じ取られるのです。残念ながら、こちらのタイプの背部痛で見つかった膵臓がんは、かなり進行しているので、普通は手術による切除はできない状態です。

とにかく、黄疸や腹痛、背部痛が出たときには、まだ手術が可能な段階かもしれません。症状が続くときは、様子を見たりせずに早めに診察を受けることをお勧めします。

■急に血糖値が高くなった人も膵臓がんを疑ったほうがいい

それから、多尿やのどの渇きなど、高血糖による症状にも注意しましょう。膵臓がんができると、急に糖尿病になったり、糖尿病を持っている人であれば数値が急激に悪化したりする場合があります。

原因はよく分かっていませんが、膵管が狭くなって膵液がうっ滞すると狭窄(きょうさく)部よりも上流の膵臓が萎縮します。これによって膵臓機能が一気に低下することは十分に考えられることです。

本田五郎『膵臓がんの何が怖いのか 早期発見から診断、最新治療まで』(幻冬舎新書)
本田五郎『膵臓がんの何が怖いのか 早期発見から診断、最新治療まで』(幻冬舎新書)

たとえば、これまで糖尿病など気にしたことがなく、普通の血糖値だった人が、急に高い血糖値を指摘された場合などは要注意です。また、もともと糖尿病の治療をしている人で、高めでもそこそこ安定していた血糖値が、思い当たること(食べすぎや運動不足など)は何もないのに、急に不安定になって高い数値ばかり出るようなときも注意が必要です。このような場合は、膵臓がんを疑ってすみやかに精密検査を受けましょう。

膵臓がんが進行してくると、黄疸や腹痛、背部痛、腰痛以外にも、食欲低下、体重減少、腹水、消化管からの出血、腹部に硬い塊を触れるといった症状が現われてくるようになります。ご想像の通り、こういった数々の症状が現われたときには、通常はかなり進行したステージになっています。

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本田 五郎(ほんだ・ごろう)
東京女子医科大学消化器・一般外科教授
1967年生まれ。県立熊本高校、熊本大学医学部を卒業後、京都大学医学部附属病院外科(研修医)、市立宇和島病院外科、京都大学消化器外科、済生会熊本病院外科、社会保険小倉記念病院外科、東京都立駒込病院外科、誠馨会新東京病院消化器外科などを経て、2020年10月、東京女子医科大学消化器・一般外科准教授に着任。2021年7月より現職。肝臓・膵臓の手術件数は2500件を超え、肝胆膵疾患の腹腔鏡下手術における高い技術力は世界的に知られており、海外での手術経験も豊富。

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(東京女子医科大学消化器・一般外科教授 本田 五郎)

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