「かわいいですよね」と言われて…40代後半、バツイチ、子持ちの女性ライターが「婚活パーティ」に潜入した結果
プレジデントオンライン / 2023年10月29日 12時15分
■「お母さん、流しそうめんのイベントだって」
バツイチ子持ちの40代筆者が、意を決して婚活アプリを始めたものの、最初にマッチングしたのが「ヤリモク男」だったことは前回述べた。そのアプリは1週間で退会した。
婚活を勧めてくれた成人している娘に一部始終を打ち明けた。すると彼女はスマートフォンで何かを検索し、しばらくして目を輝かせて顔をあげた。
「お母さん、流しそうめんのイベントだって。こういう場所のほうが“いい人”いるかも。行ってみたら?」
娘が差し出したスマホの画面には、婚活業界大手企業が主催する婚活パーティが。関東のある週末、土日の2日間だけで30~40ほどのイベントがずらりと並ぶ。散歩やボルダリングなど体を動かす「スポーツ婚活」、クッキングやアート体験など「モノづくり婚活」、ランチやディナーなど食事付きの「合コン」など。サークルのような雰囲気で、どれも楽しそうだ。
「流しそうめん」のイベントも、流す機械さえ見たことがない私には、たしかに面白そうに感じた。参加対象は〈40代と50代の男女〉〈恋愛に前向きな人〉だった。参加費は男性4500円、女性1800円。都心の駅直結のイベント会場で開催される。
婚活アプリではなくイベントを通してリアルに会ってみよう。
ここから婚活パーティへの怒涛の参加が始まったのだった。
■10畳ほどの部屋に4人がけテーブルが2つ
「本日は流しそうめんのイベントにお越しいただき、ありがとうございまあす」
事務局の若い女性がマイクを握りしめて甲高い声で挨拶する。10畳ほどの広さの部屋に4人がけのテーブルが2つ。テーブルの上にそうめんを流す機械がドーンと置かれている。それぞれのテーブルに、男女2人ずつ計4人が座る。胸には自分で記入したニックネームの名札。しかしその名札どころか、誰もが下を向いたり顔をそらしたりしてお互いを見ることもない。
「それでは機械のスイッチをオンにして、そうめんの具材を取りにきてください」
マイクの声がうるさく感じるほど、会場は静まり返っている。
私は立ち上がり、隣の男性と目を合わせて、具材を取りに行く。といってもツナ缶や、パッケージに入ったプチトマトを取りに行くだけで、大人が2人で取りに行く量ではないのだ。しらけたムードが漂う。
■一人がタクシー運転手、もう一人がIT関係
「それでは食べる前に自己紹介してくださいね。1・ニックネーム、2・今日どこから来たか、3・職業、4・テーブルの上の質問カードをひとつ引いてくださあい」
質問カードには「もし小学生に戻れたら?」「朝はごはん派かパン派か」など簡単な問いが記載されている。しかし初対面で「朝はパン派です」といわれたところで、周囲はリアクションに困ってしまう。
私と同じテーブルにいた男性は一人がタクシー運転手、もう一人がIT関係の仕事という。それを聞いて、「私と同じだ!」と正面に座っていたぽっちゃり女性が目を輝かせる。「私もITなんですよ!」と、その男性の肩に軽く触れる。触れられた男性はやや身を引くが、それでもぽっちゃり女性は「お住まいはどこなんですか?」と明るくたずねる。こういってはナンだが、正直かなり太めの女性で、日頃からモテているようには見えない。
だがニコニコとオーバーリアクションで相づちをうつ彼女に、徐々に男性陣が笑顔を見せるようになった。笑い声に誘われたのか、もう一つのテーブルにいた男性もこちらにやってくる。
「えー、じゃあ今度一緒にディズニーに行きましょうよ」
なんと、ぽっちゃり女性はデートの約束までしている。しかも男性側もあいまいにうなずいているではないか……。
■「新聞の投書とかする感じですかね?」
さて肝心の「流しそうめん」はというと、つゆを入れた紙コップを各自で持ち、みんな1回はそこに麺を入れてすすったものの、2回目は手をつけない人が多かった。そうめんを流す機械のぶんぶん回る音と、ぽっちゃり女性の笑い声だけが響く。一口1800円の高いソーメンである。
ボーッとしている私に、となりにいたタクシー運転手の男性が話しかけてきた。
「ひろこさんは“執筆業”ということですが、」
先ほどの自己紹介で私は自分の職業をそう説明していた。私がうなずいて彼の目を見ると、タクシー運転手の男性は首をかしげてこうたずねた。
「それって新聞の投書とかする感じですかね?」
驚きすぎて言葉が出てこなかった。「新聞の投書」でどうやってお金を稼ぐのだ。生きている世界が違うと感じた(前向きに考えれば、これまで出会ったことのないタイプといえるが、婚活イベントに初参加の私はそう捉える余裕がなかった)。
その時、事務局のお姉さんの「そろそろ終わりの時間です」という声が聞こえた。続いて「気になる人と連絡先を交換してくださいねー」とも言う。ぽっちゃり女性は周囲の男性とLINEを交換しているようだ。私はタクシー運転手の男性の質問には答えず、あいまいに笑みを浮かべながら荷物をまとめて、そそくさと会場を後にしたのだった。
■「いい人」=「年収が高い」なのか
「どうして誰とも連絡先を交換しなかったの?」
家に帰ると娘に責められた。
「“いい人”がいなかったから」
娘は聞こえるように「はーっ」とわざとらしく肩を落とす。「あのね、とりあえず許せるレベルなら自分からいかないと」と言う。はいはい、わかりました、と答える。内心はその許せるレベルがいなかったんだよ、とつぶやく。
私の心の声が聞こえたらしい。「まぁ、ちょっとイベントの見込み違いだったかもね」と娘。そして再びスマホで婚活業界大手企業が主催する婚活パーティのサイトを検索しながら、「婚活パーティの中に“年収600万円以上”とか、男性の参加条件が厳しいイベントもあるよね」と話をふってくる。
「こういうところに行く女性は、その年収の男性が目当てというより、よりいい人を見つけるためなんじゃない?」
ということは、「いい人」=「年収が高い」ということだろうか。私は男性の経済力に頼って結婚したいとは思わない。強がっているわけではなく、対等な関係でなくなるのがいやだからだ。離婚したいけれどできない女性の大半は、経済的理由であるのを見聞きしている。
■銀座駅すぐそばの居酒屋での「5対5」
けれども、参加条件が厳しいイベントにどんな男性がくるのか、心惹かれた。そして「土曜夜の飲み会」に目が留まった。
対象は、男女ともに40~47歳。女性は「独身で、明るく恋愛に前向きな人」という条件のみだが、男性は「独身・年収600万円以上で気配りができる人」というずいぶん高いハードルである。会費も女性4000円に対し、男性は7900円。たしかに“いい人”がくるかもしれないと期待した。この時の私にとっての“いい人”とは、仕事関係者のように自分の世界を理解してくれる人だ。少なくとも「執筆業」と伝えた時、「新聞の投書」などと言わない人……。
それでも開催寸前まで私は迷っていた。当日、募集サイトに男性は満席、女性は「残り1名」と表記されていたため、私は滑り込みでクリックしたのだった。
銀座駅すぐそばの居酒屋での開催。婚活事務局のスタッフは出席者の身分証を確認し、皆の自己紹介が終えるまで見守って、あとは退席するという。長テーブルに男性5人が横一列に並び、その向かいに女性5人という典型的な合コンスタイルだ。
男性は奥から会社員、会社員、不動産経営、営業、会社員と自己紹介。女性側職種は、5人中なんと3人が幼稚園教諭。残るは経理の人と、ライター業の私。皆、「職場での出会いがない」と言う。
■「ひろこさん、かわいいですよね」
私の目の前に座ったのは営業職の男性。参加資格にある「気配りのできる人」という言葉通り、進んでこちらのオーダーもしてくれた。仕事のこと、やっていたスポーツ、最近のニュースなど話題は多岐にわたった。流しそうめんと比較にならないほど時間が経つのが早い。やがて右隣の幼稚園教諭の女性と、その正面、つまり私の斜め前に座る不動産経営の男性と4人で話すようになった。
「ひろこさん、かわいいですよね」
不動産経営の男性に言われた。柄にもなく照れてしまい、何も返せずにいると、右隣の女性が「チャラい」と彼をにらみ、ぐびっとビールを飲んだ。営業職の男性がとりなすように言う。
「ほらこの歳になって女性を褒めると、すぐチャラいって言われちゃうんだよね。俺もそう」
そして、「こういう会に出るのが8回目なんだけど」と打ち明ける。
「みんなで楽しくしゃべって、そこからどう距離を縮めるといいんだろうね。40歳にもなると、みんなそれなりに恋愛経験があるから、それをイチからしゃべるのもどうかと思うし、容姿を褒めるのも違うし、でも当たり障りのない会話だと先に進まないし……」
■一つのグラスを二人で交互に飲み合っている
その時、左隣にいた女性のキャハハという笑い声が響いた。彼女も幼稚園教諭だが、右隣のキリッとした女性と違って甘ったるい空気を作っている。目の前の男性と完全に二人きりの世界で、一つのグラスを二人で交互に飲み合っているのだ。女性から男性に唐揚げも食べさせている。
4人の間で気まずい空気が流れた。私は「トイレに行ってきます」と小さな声で言う。
しばらくして席に戻ると、私の左隣にいた女性は席を移動して男性の肩に頭を乗せていた。見ているこちらまで恥ずかしい。するといいタイミングで店員さんが「そろそろイベント終了の時間です」と告げにきた。どこかから「2次会どうする?」という声がする。
斜め前にいた不動産経営の男性が私のほうを見て「連絡先……」と口にした。
私は聞こえないふりをして部屋の外に出てしまった。そのまま店の外へ、そして早足で駅に向かう。会費は参加前に支払っているので問題ないが、誰にも「さよなら」を言っていない。
■躊躇なくしなだれかかれる女性がうらやましい
自分がどうしたいのか、どんな人を求めているのかがわからなくなった。
これまでは徐々に異性と親しくなって、そこから恋愛感情が芽生えた。婚活を始める前に好きだった人も、仕事を通して親しくなって、一緒に食事などに行くうちに少しずつ惹かれていった。
けれども婚活市場では、スタートラインで「恋愛できるかどうか」を選別しなければならない。その線引きは何によって行うのだろう。容姿か年齢か年収か。逆に私は今でも、好きな人の年収を知らない。「いい人の条件」がなくても好きになるのが、本来の恋愛ではないだろうか。
一方でお高くとまっているような自分もいやだった。ちょっといいなと思う男性に、躊躇なくしなだれかかることができる、甘えられる女性がうらやましい。私は今日も、連絡先さえ交換することができなかったのだ。(続く。第3回は<「回転ずし」のネタになって男性10人から値踏みされる…40代後半ライターが「個室パーティ」で婚活した結果>)
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フリーライター
雑誌を中心に記事を執筆。40代後半のバツイチで成人した子どもがいる。
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(フリーライター 荒川 ひろこ)
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