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「グーグル、電気を消して」より「ピカチュウ、電気を消して」のほうがイイ…日本企業がGAFAに勝る"最強の強み"

プレジデントオンライン / 2024年1月22日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pius99

現在、身の回りのITサービスはGAFAMと呼ばれる巨大IT企業が独占している。日本企業が逆転するにはどうすればいいのか。経営戦略コンサルタントの鈴木貴博さんは「日本のメーカーが勝ち筋を作るチャンスはある。それはAIをキャラクター化した『アイドル家電』を作ることだ」という――。

※本稿は、鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■AIの進化はスマート家電を劇的に変える

生成AIがあらゆるビジネスを変えていく未来では、当然のことながら私たちの家庭生活も大きく変わっていくと予測されます。

徐々に始まっている家電のスマート化として、たとえば最近では、エアコンのスマート化が挙げられます。外出中にエアコンが誤作動を起こして火事になるのではないかといった危険性から、実用化にかなり時間がかかってしまいましたが、家を出る際にエアコンや暖房を切り、帰宅したら寒いないしは暑い部屋で冷暖房のスイッチを入れるのが当たり前だった生活は、このスマート化により大きく変わりました。

また他にも、勤務先などから自宅のペットや子どもたち、遠く離れた家に住む後期高齢者の家族などの様子を見守れる遠隔カメラも実用化されてきています。しかし、実際はそれほど普及していません。なぜなら、プライバシー問題や、ハッキングの危険性をまだ解消できていないからです。

このようにスマート家電は、技術的にはすぐにでも実現できそうだと言われていましたが、心理的や法律的な理由からなかなか実現できていませんでした。ところがAIの進化により、その状況が一気に変化しつつあります。

10年後の皆さんの家の中は、現在からは想像できないほどの進化を遂げた空間に変わっているでしょう。

■生成AIを使って仕事をするのが当たり前になる

まずこの先、早い段階で私たちの日常生活に入り込んでくるのが、マイクロソフトの「コパイロット」です。コパイロットとは、副操縦士の意味で、新しいウィンドウズ11に搭載された以外に、検索エンジンのBingにも搭載される予定ですし、オフィス365にも月額30ドルの有料前提ですが搭載されることになっています。このコパイロットは、マイクロソフトが資本提携をしているオープンAIのChatGPTが製品のベースになります。

多くの人が仕事でパソコンを使う際には必ずマイクロソフトの生成AIを使うようになりますし、2030年になれば、家庭で使っているパソコンでも普通に使うことになるでしょう。

それに対抗するのが、グーグルとアマゾンです。

グーグルは、グーグルカレンダーやグーグルマップなど、マイクロソフト製品とは別のジャンルのアプリで高いシェアを持っているため、やはり仕事で使うのに便利な生成AIサービスを展開できます。グーグルが資本参加しているユニコーン企業の、アンソロピックが仕事用途でChatGPTよりも便利な生成AIを開発できれば、有料のマイクロソフトよりも、無料のグーグルがより優位なポジションを占められる可能性があるでしょう。

■GAFAのうち、「一番の話し相手」を作れるのはどこか

アマゾンはグーグルとは違い、家庭用のスマートスピーカーを主戦場に、家庭内で便利な生成AIのトップを目指すでしょう。これまで伊達に1兆円を投資してきたわけではないので、家庭内スマートスピーカーを使う際の顧客ニーズは、誰よりも知っているはずです。

では他の企業はどうでしょう? アップルは、アップルの展開するAIを持っていなければダサいとあなたに感じさせるようなやり方で、この戦線に本格参入してくるはずです。

興味深い存在となるのはメタです。おそらくメタは、少ない投資で参入できるようになったという競争前提の変化を大チャンスだと認識しているはずです。後から参入しても、メタの場合はあなたを知り尽くしたAIをあなたのために送り込むことができるという、他社にない優位性を持っています。

なにしろメタは、あなたがフェイスブックやインスタグラムで「いいね!」ボタンを押しているすべての情報を持っています。メタはあなたが一定数の友達とつながったうえで150回「いいね!」ボタンを押した段階で、誰よりもあなたのことを理解するようになるそうです。

この点はXも同じです。もしメタやXが本気でスマートスピーカーを開発するとしたら、それは、単なる家電をスマート化させるための司令塔的な存在ではなく、あなたの一番の話し相手になるでしょう。

■GAFAMに勝てる「ソニーミュージック」

日本の家電メーカーにもチャンスはあるのでしょうか。その答えは、イエスです。

2030年までに、生成AIは人間の話し相手へと成長します。それは、質問をすれば何らかの回答を返してくれるといった実用的な存在であると同時に、暇つぶしの話し相手になってくれるといった友達のような存在でもあります。

たとえば「バスで新宿に出るとしたら、後何分で支度をしたらいい?」と話しかけてもいいし、「ちょっと私のボヤキを聞いてくれない?」と話しかけてもいいでしょう。何を聞いても、AIは人間の友達のように返事をしてくれます。

それを、マイクロソフトやグーグルは便利な機能という勝ち筋から開発していきます。アマゾンは、買い物の手助けや、本の読み上げ機能、お勧めの映画情報配信などの便利コンテンツから勝ち上がりを目指します。アップルは、その高級感から消費者の物欲を刺激しますし、メタはあなたの一番の友達を目指します。

この戦いでGAFAMに対する一番大きな勝ち筋を生み出せるの日本企業はソニーミュージックだと考えます。それは以下のような話です。

生成AIによる生活アシスタントは、最初のうちは機能差による競争が起きますが、比較的早い段階で「キャラ化」による競争が始まると予測されます。

■「大谷の36号ホームランが出たんだよ」と話しかけてくるかも

たとえば私の運転するテスラ・モデルYでは、2024年時点では、つたないアクセントの女性合成音声による音声アシスタントで、「ツギ右、曲ガリマス」のようなナビゲーションをしてくれます。これが2030年にはどうなっているかというと、その頃にはそもそも、カーナビゲーションが必要なくなっているはずです。

なぜなら、その時代にはもう、レベル5の完全自動運転車になっているはずだからです。右に曲がるとか、高速を降りるとか、そういった運転操作は車が無言で勝手にやってくれるでしょう。その時代、カーナビの最大の仕事は、移動中の人間の話し相手になることです。

たとえば朝、私が職場に向かうために車に乗り込んだら、

「おはよう。ロジャーだよ。今日はオレ、ごきげんだよ」

と、このように私に話しかけてくれるはずです。私ももう慣れたもので、テスラのカーナビのロジャーに対して、

「なんでそんなにご機嫌なんだ」

と、会話を進めます。すると、

「大谷の36号ホームランが出たんだよ。観るかい?」

といって、運転席の液晶画面にそのシーンを映し出してくれたりするわけです。レベル5の自動運転車では、運転席に座っている私に車の運転責任はありません。とりあえず惰性で前の座席に座っていますが、本当は後部座席でふんぞり返って無人運転の車内で寝ていてもいいのです。

未来の車のコックピット
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■“AIの擬人化”競争になれば日本に勝ち筋が生まれる

そこでソニーミュージックのチャンスの話です。

ここでの一番のポイントは、この時代のAIアシスタントにはキャラ性が生まれているということです。ここで例に挙げた馴れ馴れしい運転手のロジャーだけでなく、何パターンものキャラクターが登場し、それが私たちの生活空間に当たり前のように存在しているはずです。

AIアシスタント市場がキャラ競争になるとしたら、ソニーはその市場の競争ルールをタレントマネジメントの競争に持ち込むことができます。だから、ソニーミュージックが一番の勝ち筋なのです。ちょっと考えただけでも、アメリカ製のSiriやAlexaみたいな無機質なアシスタントと、ソニーミュージックが育成したバーチャルタレントのメンバーから、自分の好きなキャラを選べるアシスタントだったら、後者を選ぶ人口は一定数いそうです。

さて、このような競争により、家庭内には合計でいくつの生成AIたちが、私たち家族と一緒に生活するようになっているのでしょうか。私は2030年にはどの家庭でも4種類の生成AIを使うようなライフスタイルに変化していると考えています。

■あなたの家にピカチュウがやってくる?

①スマホやパソコンのAIアシスタント
②スマートスピーカー
③カーナビ
④ペットロボット

の4種類です。

実は日本企業にとって、このジャンルで一番勝ち上がりやすいのは4種類目のペットロボットのジャンルです。

ソニーがGAFAMに勝てる可能性があると申し上げた一方で、実はこのペットロボットが将来の主流になってしまうことで、ソニーグループではない他の日本企業がこの勝ち筋でソニーにあっさり勝ってしまう可能性があるかもしれないと、私は考えています。

鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)
鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)

皆さんの家の中にソニーのaiboではなく、ポケモンのピカチュウがやってくるのをイメージしてください。両手で抱えられるくらいの大きさで、いろいろなイントネーションで「ピカー」と話してくれます。自分では動けないぬいぐるみなのですが、中にスマートスピーカーが入っている、任天堂グループが開発する商品です。

たったこれだけの商品ですが、ベッドサイドに置いておくとそれなりに可愛い存在になってくるはずです。1人暮らしの独身生活で、

「ピカチュウ、テレビをつけて」とか、
「ピカチュウ、もう寝よう。電気を消して」

みたいに話しかけると、テレビをつけては「ピカー」と反応してくれるからです。

■日本企業が世界を獲れるチャンスはまだある

このピカチュウ、生活を共にしているうちに、あなたのことを学び、理解してくれるようになります。たとえば、あなたが寂しそうにしていると「ピカー」と言ってあなたが元気になれそうな音楽をかけてくれたり、あなたのスマホにインスタグラムから探してきた癒し動画を送ってくれたりするのです。

この「家電が言葉を話す」というイノベーションに関しては、前述のような考察をすれば、ソニーグループの勝ち筋であることは間違いありません。ですが、それが家庭に浸透する過程でペットキャラの方がリアルなバーチャルタレントよりも受け入れられるようであれば、家電メーカーよりも任天堂やバンダイナムコのようなエンタメ企業の方が、先に勝ち上がっていく可能性があります。

さらには大企業よりも新興のベンチャーの方が有利になってしまう可能性も考えられます。日本企業がGAFAMを逆転できる可能性を持つジャンルであるのと同時に、誰が勝者になってもおかしくないジャンルでもあるのです。

いずれにしてもこのように、日本の大企業もAI投資に参入できるチャンスが生まれています。AIキャラでの参入、ペットロボットでの参入、そして自動車メーカーにとってはSDV車での参入と、それぞれにチャンスと脅威が生まれているのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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