治療の始まりは「自由な暮らし」の終わり…現役医師が「人生を謳歌したいなら病院には行くな」と話すワケ
プレジデントオンライン / 2024年1月26日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『ゆるく生きれば楽になる』(河出新書)の一部を再編集したものです。
■財政破綻した夕張市に起きた不思議な出来事
「夕張パラドックス」という言葉が話題になったことがあります。2006年、北海道夕張市は財政破綻が明らかになり、2007年には財政再建団体に指定されました。
市の総合病院は閉鎖、いくつかの診療所が残るのみという事態に陥り、それまで171床あった病床が19床へと大幅に減少、医療機関に行くための足である無料バスチケットもなくなってしまいました。
市民の約半数が高齢者で、医療に頼っていた人たちが多かったため、市民の健康に悪い影響が出るのではないかと心配されていたのです。
ところがその後の調査によると、夕張市の高齢者たちが一転、元気になったとしか思えないような、驚くべき結果が現れました。
死亡者数に変わりはなかったものの、高齢者の死因として上位にある「ガン」「心臓疾患」「肺炎」のうち、女性のガンを除いたすべての原因による死亡率が減少したのです。その代わりに増加した死因が「老衰」でした。また、救急車の出動回数も半減したというデータがあります。
■無理して病院に行く必要はない
病床が少なくなった結果、ちょっと調子が悪いからといってすぐ入院せず、自宅で過ごして天寿を全うすることになった高齢者が多くなったのです。
同じような現象は、コロナ禍でも起こりました。2020年は、まだウイルスに対する不安が大きかったため高齢者ほど外出を控えており、それまで慢性的な病気で定期的に病院に通っていた人たちも医療機関での受診が減り、薬をやめてしまうこともあったのです。
そのため、健康状態が悪化して死亡者数が増加するのではないかという不安がありました。ところが、実際には2020年は11年ぶりに日本の死亡者数が減少するという結果になったのです。
こうしたことから、私は無理して病院に行く必要はないと言っているのです。
■治療の始まりは不自由の始まり
では、どんなときに病院にかかるといいのでしょうか。自分が日常生活を送る上で、どうにも不快な症状があったら行くといいというのが私の考えです。
たとえば私自身、鼻水が止まらず、咳が出て、夜は眠れないくらい苦しい状態になっても、咳止めと鼻水止めの薬と漢方の麻黄湯(まおうとう)を飲んでよく休み、医者には行きません。どうせ一過性のものですし、医者にかかってよけいな病名をつけられでもしたらうっとうしいからです。
それほどの症状もない、なんの不自由もないのにわざわざ医者にかかった結果、病気らしきものが見つかって病名がついてしまうことが往々にしてあります。すると、その時点から治療が始まり、不自由な暮らしが始まりかねません。もちろん、それによってうまく治ればいいのですが、治りもせず、気分もよくならず、中途半端な状態がずっと続くこともあります。
そうやってずっと行動を制限しながら、よくなっているのかどうかわからない不安な状態を続けることを望むのか、それともとくに何もせずに自由に生活を続けながら、病気の症状が出た時点でそれを受け入れて対処するのか。
ある程度の年齢になったら、覚悟を決めて自分の人生を選択するのがいいのではないかと思うのです。
■日本人の死因2位が「心臓疾患」のワケ
もし、健康診断を受けない、またはその結果を気にしないと決めて、だんだん体が弱って死を迎えることになったら、80歳までは「心不全」、それを過ぎると「老衰」が死因になるでしょう。ただ、それだけのことです。
日本人の死因の2位が心臓疾患というのも当然だと思うのは、本当の原因がはっきりしないときにもつけられる「心不全」という病名が、心臓疾患としてカウントされるからです。多くの人が恐れている心筋梗塞は、心臓疾患のうちのわずか2割程度に過ぎません。
もちろん死んでから解剖すればどのような病が潜んでいたか、臓器がどのような状態になっていたのかなどいろいろなことがわかります。けれどもそれをしない以上、真相は闇の中ということがほとんどです。
ですから、私は先に心配しすぎるよりも、症状が出てどうにも困った状態になってから病院にかかったほうがいいと考えているのです。
■薬を飲んで調子が悪くなったらやめていい
調子が悪いときに医者に行くと、必ずと言っていいほど薬を処方されます。血圧を測って高いとわかれば、では薬を飲んでみましょうかと気軽に処方されるでしょう。
さて、帰って薬を飲んでみたらなんだか具合が悪くなったとしたら、どうしますか。私なら、その薬はやめます。あるいは、この程度までなら大丈夫というところまで薬の量を減らします。
ほとんどの医者は、規定量の薬を規則正しく飲みなさいと言うだけでしょう。けれども、簡単にそう言う医者には、欠けている視点があると私は考えています。
患者は、その薬を一生涯飲み続けることになるかもしれないのです。もちろん、薬代もずっと払い続けなくてはなりません。高齢者の多くの場合、自己負担が1〜2割ですので、8〜9割は公費で賄っていることになります。
■エビデンスのある薬はあまりない
アメリカの場合、日本のような国民皆保険制度がありませんので、事情は少し異なります。保険会社が無条件で保険金を払うというわけではありませんので、治療薬にどれほどの効果が見込めるか、はっきりしたエビデンスが必要になるのです。
たとえばその薬を飲み続けたことで5年以内の死亡率がどれだけ下がったか、5年以内に脳卒中を発症する割合がどのくらい減少したか、5年以内に心筋梗塞を起こす確率がどのくらい少なくなったかなど、きちんとしたデータを示さなくては、保険会社は薬代を払いません。ですから、ほとんどすべての薬にはっきりとしたエビデンスが明らかにされています。
ところが日本の場合、制度の違いからきちんとした根拠を示す必要がないため、エビデンスのある薬というのはそれほどありません。
医者に「血圧の薬を飲めば、今後脳卒中になる確率が減ります」「心筋梗塞になる危険が少なくなります」と言われたとしても、はっきりしたことはわからないのが実情です。正直に伝えるなら、そうなるかもしれないし、ならないかもしれないとしか言えません。
■健康保険料がぐんぐん上がる要因
しかも、薬を飲み続けることで気分が悪くなったり、「自分は病気だ」「いつ脳卒中や心筋梗塞を起こしてもおかしくない」と意識し続けることになるので、そのストレスから免疫力が低下し、ガンなどの病気にかかりやすくなるかもしれません。薬を飲み続けることで、死亡率が上がるかもしれないとさえ思うのです。
本来は、きちんとエビデンスを示してその人に必要な薬だけを処方すべきです。けれども、日本では医者が病名をつけて処方さえすれば公費がほぼ自動的におりるので、必要なさそうな薬まで渡されています。アメリカの保険会社のようなチェック機能がどこにもないのです。
そうやって不要な薬がどんどん処方された結果、給料から天引きされる健康保険料がぐんぐん引き上げられていきます。私は常々、本当にそれでいいのかと広く問いかけています。
本当は、日本でもきちんとエビデンスのある薬を適切に処方すべきではないかと主張しているのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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