だから三流大学卒でも東大卒に勝てる…医師・和田秀樹が考える「本当に頭のいい人」に共通する人生の態度
プレジデントオンライン / 2024年2月28日 13時15分
※本稿は、和田秀樹『頭がいい人の勉強法』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■「頭のよさ」の活かし方を知れば「勝てる」可能性が高くなる
心理学者のハワード・ガードナーは、人間の知能は単一ではなく、複数あるという「多重知能理論」を提唱しています。
この理論では、「言語的知能」や「論理数学的知能」に加え、「音楽的知能」や「身体運動的知能」、「対人的知能」など8つの知能が想定されています。
つまり、音楽ができる人も「頭のいい人」ということです。
「頭のよさ」にはいろいろなタイプがあります。自分にはどんな頭のよさがあって、それをどう活かしていくことができるかを考えると、「勝てる」可能性が高くなるのです。
昔なら、「音楽的知能」が高かったとしても、楽器が弾けなければ作曲はできませんでした。そのため、その知能を発揮しようがないまま終わっていた人も多かったと思います。
でもいまは、パソコンで音を組み合わせて作曲したり、思いついたメロディを譜面に起こしたりすることが簡単にできるようになり、「音楽的知能」がある人はそれを格段に活かしやすくなっています。
映像の制作も、昔は個人で行うのはまず不可能なものでした。かつて私の知人が、マグロ漁船に乗り込んでドキュメンタリー映画を撮った際、その制作費は3000万円にのぼったそうです。
当時はフィルム代や照明などの機材にスタッフの費用がかかったためですが、いまならデジタル撮影なのでフィルムは使用しませんし、ビデオカメラの性能が高いので、照明を使わずマグロ漁船内の明かりだけで撮影ができてしまいます。
費用はおそらく数万円で済むでしょう。編集もパソコンでできるので費用だけでなく、作業時間や労力も比べ物になりません。
■知識を応用できることが頭のよさ
このように、いまは技術が進んだ分、思いついたことを実現しやすい状況にあります。「知能の持ち腐れ」になることなく、それを活かすための手段は豊富にあるのですから、自分の能力の使い方を考え、そのための勉強をしてみてもいいのではないでしょうか。
認知心理学においては、知識が多いほど「頭がいい」わけではなく、その知識を応用できることが頭のよさであるとされています。
高学歴のお笑い芸人で、知識は豊富なのにそれを応用できず、肝心の芸の面白さがいまひとつという人がいます。応用能力の乏しさという意味においては、彼は「頭がいい」とは言えません。
しかし彼の賢いところは、その応用能力のなさを自覚し、知識の豊富さのほうを売りにしてクイズ番組に出ていることです。
自分の能力を把握し、その使い方がわかっている。つまり「メタ認知」をうまく働かせているということ。そこが彼の「頭のよさ」なのです。
自分を客観的に見つめて、どんな「頭のよさ」を持っているかに気づき、それをどう使うかを考えられることも必要なのです。
■「考え方」の多様性を知る
論理的に考えることが得意な人ほど、はまりがちな落とし穴があります。それは「自分の論理が正しい」と思い込んでしまうことです。
知識としての「事実」はひとつでも、それに対する「考え方」は、かなりの数があります。その中でひとつの考え方だけが正しいと思い込むのは、きわめてリスクの高いことです。
ひとつのことに対してひとつのことしか考えない、というのは一見論理的ではありますが、「頭がいい」とは言えません。
それはむしろ「頭が固い」ということです。
ひとつのことに対して、いろいろな考え方ができる人こそが、「頭のいい人」だと私は思っています。
その「頭のよさ」を磨くために私がしているのは、いろいろな人の考え方に触れることです。多様な思考に触れることが、自分の思考パターンを広げてくれます。
たとえばある事件について、ジャーナリストの池上彰さんが解説するのを聞いて「そうだったのか」とただ納得して終わってはいけません。
その考えに対する反論がないか、少しインターネットで調べるだけでもいろいろな角度からの意見が出てきます。それを踏まえて、「池上さんはこう言っていたけど、こういう説もある」と言えれば、「頭のいい人」だと思われるでしょう。
「今日、池上さんがこんなことを言っていたよ」と得意げに受け売りをしているだけでは、子どもと同じです。
大人の勉強とは、知識としてひとつの答えを知るためにするものではありません。「いろいろな考え方がある」ことを知るためにするものなのです。
■直せるものを直し、得意なものを磨く
子どもの勉強であれば、算数が得意で国語が苦手なら、国語の点数を伸ばすことも考える必要があるかもしれません。
しかし大人の場合は、不得意なものを向上させようと躍起になる必要はありません。
仕事に支障が出るようなマイナス面、たとえば怒りによって感情のコントロールがきかなくなるといったことは、直す必要があるでしょう。自分の特性の中で、修正するべきものを見極めて、修正できるものは修正します。
しかし、変えられないものに対して無駄な努力をするよりは、やり方しだいで向上できるものに特化して取り組むほうが効率的と言えます。
2通りの勉強に対して、あるやり方を試すことによって、成績が上がったものと上がらなかったものがあったとしたら、上がったほうのものが自分の能力特性に合うものということですから、そちらに力を入れるようにしたほうがいいでしょう。
不得意なことに目を向けるよりも、むしろ得意なことを探して、それを磨くことを考えたほうがいいのです。
単純に考えて、自分ができないことを勉強するより、できることを勉強するほうが楽しいに決まっています。
得意なこと、好きなことを勉強して、この分野に関しては絶対に誰にも負けないと言えるようになれれば、それで道が開けるという可能性もありますし、少なくとも人生において何らかの形で役立つはずです。
たとえばワインの勉強をして、会社の中でワインに一番詳しい人間になったとします。それが業務の上で直接役に立つことはほとんどないとしても、大事な接待の場面でその知識が活きるということはあるかもしれません。
これが自分の取り柄だと思えるものがひとつでもあれば、それが何もないよりは生きていて楽しいことは確かです。得意なことをきわめる勉強は、その過程と成果の両面で人生を豊かにしてくれます。
■自分にとってのゴールを考える
ただ漠然と「勉強しなければ」という思いから、勉強に手をつけようとする人も多いように思います。
勉強を始めるなら、その前に「何のために勉強するのか」を明確にすることが必要です。
「資格をとるため」「転職するため」「会社の中で生き残るため」など、目的に応じて行うべき勉強は変わってきます。
まず目的があって、そこからするべき勉強が具体的に見えてきます。たとえば資格試験の合格が目的であれば、過去問をチェックしてみて、自分にはできそうもないと思えば、あきらめてまた別の目的を探したほうがいい。それができるのが大人のいいところです。
目的は、仕事に関することだけとは限りません。老後に史跡めぐりを楽しむために、歴史の勉強をするといったことでもいいし、異性にモテるために知性を磨くということでも何でもいいのです。
たとえば異性にモテるために勉強するというのは、一見くだらない動機のようにも思えますが、実際にウンチクで異性にモテようと思うなら、相当なレベルの知識が必要になります。
自分の知性で異性を惹きつけるというのは、それなりに目指しがいのある目的ではあります。
たまに喫茶店などで、勉強サークルの講師役と思われる60代ぐらいの男性が、40~50代の女性たちに囲まれて楽しそうに盛り上がっている光景を目にすることがあります。
モテるということではないにしても、勉強したことを人に教えられるぐらいになれば、それによって異性のファンをつかむということもあり得るでしょう。そういうことができるのは、テニスのコーチだけとは限らないわけです。
人に教えることが目的になれば、難しいことをわかりやすく伝えるスキルを磨くなど、またそこでゴールに応じた勉強が見えてきます。
あるいは「子どもに尊敬されるため」でもかまいません。
たとえばテレビのワイドショーを見ていると、少年が起こした事件をめぐって、コメンテーターが「少年犯罪の増加」を憂慮するコメントをしていることがあります。
しかし実際には、少年犯罪の件数は戦後一貫して減少傾向にあります。子どもと一緒にテレビを見ているときに、それを指摘してデータとともに解説することができれば、子どもの尊敬を勝ち得ることができるはずです。
■「とにかくバカになりたくない」は重要
勉強というと、とりあえず英語やプログラミングを始めようと考える人が多いのですが、それらはあくまでも道具であって、それを使って何をしたいのかという目的がまず先にあってしかるべきです。
仕事の場面や勉強の過程で「もっと英語が読めたほうがいいな」とか「ITリテラシーを高めたいな」と思うことがあって、それらの勉強を始めるというのが自然な順序です。しかし、英語力やITリテラシーは勉強するための道具にすぎません。
それらがあれば、確かに勉強しやすくなるのですが、道具を磨くための勉強にひたすら熱中した挙句、その道具をどこにも使えない、というのは最悪のパターンです。
目的は何でもいいのですが、「とにかくバカになりたくない」という危機感を持つということは、重要なポイントだと思っています。
私自身、そのような「バカ恐怖」が強くあるほうです。
自分も含めて、どんな人でも勉強していなければバカになると思っているからです。その発想を持たず、自分の学歴や地位に慢心しきっている人たちが、実際にバカになっていくのも見ています。人間に生まれた以上は、賢くなりたいと思うのは大事なことだと思います。
■東大出身でもバカになる理由
多くの人は、「頭のよさ」を固定的なものと考えています。
「あの人は、東大を出ているから頭がいい」というふうに、一度頭がよくなった人はずっと頭がいいと思いがちです。
しかし、いくら東大を出ていても、その後勉強しなければバカになるし、三流大学卒でも継続して勉強していれば頭がよくなっていきます。そして両者が逆転するということも十分あり得るのです。
頭のよさは、一度獲得したらずっと続くものではなく、それを維持、発展させる努力をしなければ失われていくものです。
東大とハーバード大の大学院を出ていても、怒りにまかせて品のない言葉で秘書を罵倒して地位を失った国会議員もいます。それは、感情をコントロールする知能が低いという意味で「頭の悪い人」になっているということです。
怒りや不安感情にまかせて誤った行動や判断をしないよう対策を立てるなど、頭が悪くなる要素をつぶしていくことも重要になります。
私が東大受験をしたのはいまから40年以上も前の話です。当時は頭がよかったかもしれませんが、それでいまの頭のよさが保証されるわけではありません。
ノーベル賞受賞者でさえ、評価の対象となっているのは多くの場合、数十年も前の業績です。受賞が必ずしもいま現在の「頭のよさ」を示すものではないのです。
■知的謙虚であれ
私にとっては、学歴や経歴が立派であることよりも、「いま頭がいいかどうか」のほうが大事です。東大の同窓会にわざわざ出かけて行って、「昔頭がよかった」人と話すより、いま賢い人と話をすることに魅力を感じます。
「いまの自分にはまだまだ知らないことがある」という、「知的謙虚」な姿勢が勉強の原動力になります。
机に向かってする勉強だけでなく、日々の経験からも学べることはいくらでもあります。
「いまはこういうものは売れないらしい」「こういうことをすると人に嫌われる」「これは健康によくないようだ」というふうに、本来なら毎日のように学びを得ているはずなのです。
昨日よりも今日の自分のほうが賢いと言える人、学歴などに関係なく「昔の自分はバカだった」と思える人が、真に「頭のいい人」だと言えます。
高学歴な人が、それをひけらかしたり、「東大に入った頃の自分は輝いていた」と、過去の栄光にすがるのは、もっとも情けないパターンです。
過去のモテ自慢をする人は、たいていいまはモテていないと言っているのと同じで、学歴をひけらかすということは、いまの自分には誇れるものがないと言っているようなものです。
どんなにすごい過去を持つ人よりも、いまがすごい人のほうが立派なのは言うまでもありません。
昨日より今日、今日より明日のほうが賢い自分になる。そのために勉強するということが大切です。それを積み重ねていけば、スタート地点がどこであっても、誰でも「頭のいい人」になれるのです。
■試さなければ意味がない
私の本の読者の中には、私が書いた勉強法の本を片っ端から読む、「和田オタク」と呼ばれる人たちがいます。
そんな「和田オタク」の子を持つ親御さんから、「うちの子は和田先生の本をたくさん読んでいるのに、成績が上がらないんです」とクレームを受けることがあります。
そこで「もしかしたら、本を読むだけで勉強していないんじゃないですか?」と確認してみると、その通りだった、などということがあります。
勉強法の知識がいくら多くても、それを実行しなければ成績は上がりようがありません。
「和田オタク」の人にはもうひとつ、本で仕入れた勉強法を他人に教えたがるという特徴があります。結果的に、教えられたまわりの人はそれを実行して成績が上がり、教えた本人だけが取り残される、という皮肉な現象が起こります。
私が何より残念だと思うのは、勉強法の本を読んでも、それを実際に試す人がきわめて少ないということです。本に書いてあることをすべて試すのは難しくても、ひとつでも2つでも試してみれば、変わることがあるはずです。
「試さない」ことが、一番の問題です。試して損をすることは基本的にありません。あったとしても多少の時間ぐらいのものです。うまくいかなければ、またそれとは別のやり方を試せばいいのです。
「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」というエジソンの有名な言葉のとおり、試してうまくいかなかったとしても、それを知っただけでも意味があります。このやり方は自分に合わないということがわかれば、その方向でそれ以上無駄な努力をしなくて済みます。
何がうまくいくのか、いかないのか。すべてはやってみなければわからないのです。変化の激しい時代だからこそ、「やってみなければわからない」という発想をつねに持っておくことが大事なのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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