「まずはどこまで会わずにできるのかを考える」仕事のデキる人が"リアルかオンラインか"の議論をしないワケ
プレジデントオンライン / 2024年3月7日 13時15分
※本稿は、中尾隆一郎『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■時間と場所の同期・非同期…コミュニケーションの3つの型
コミュニケーションの方法は、①リアル(実際に会って実施する)、②オンライン(Zoomなど)、③テキスト(チャットツールなど)の3種類があります。私たちは、ついつい、①がよいのか、②がよいのか、③がよいのかという「OR」の発想になりがちです。
最適解は「OR」ではなく「AND」、つまり、これらを上手に組み合わせて設計することがポイントです。
その際には「非同期」でどこまで実施できるのか。
そこから設計すると、全体最適な方法が見つかります。
今でこそオンライン会議が一般的になりましたが、私は15年ほど前から、テレビ会議で仕事をし続けています。リクルート時代に全国に拠点があるスーモカウンターという店舗ビジネスの責任者だったからです。
一方、北は北海道、南は九州まで全国の拠点があったため、3カ月に1回は全メンバー300名以上を1か所に集めてキックオフミーティングをしていました。
本部組織からは、3カ月に1度とはいえ、多額な交通費と時間をかけて「リアルの対面でやる必要があるのか?」とコスト削減要求もありました。
その当時から、私は、コミュニケーションには、次のような3種類があると整理していました。
参加者全員の「時間」と「場所」を一致させる必要がある。調整が難しい。
濃厚(?)なコミュニケーションができる(はず)。
②時間を同期させる「オンライン」
参加者全員の「時間」を一致させる必要がある。調整は①より容易。そこそこ濃厚(?)なコミュニケーションができる(はず)。
③時間と場所の制約がない「テキスト」
参加者の「時間」も「場所」も一致させる必要がない。調整は不要。軽いコミュニケーションはできる(はず)。
同じ時間を使うことができれば濃厚なコミュニケーションは、①>②>③の順番になります。しかし、調整の手間などは③>②>①の順番で楽になります。
■「リアル」をなくせば大きな経費削減に
一般的に、「①リアル」は本社などで実施することが多いので、本社勤務の人にとっての負担は、(場所は同じなので)「時間」だけです。
しかし、支社勤務の人は①に参加するために移動する必要があります。また育児や介護など時間の制約がある人にとっては①への参加はとても厳しくて、②でさえ通常勤務時間外に実施されると参加が難しいでしょう。
時間や場所の制約がある人に対しては③>②>①の順で優しいともいえます。
前述のように私が担当していたスーモカウンターは全国に拠点がありました。また育児や介護についている人も少なくありませんでした。
したがって、「③テキスト」でできることは、限りなく非同期(時間や場所を問わない)でできる「③テキスト」で実施する。
そしてその次に、「②オンライン」でできることはできる限りオンラインで実施し、どうしても「①リアル」でないとできないことだけをリアルで実施するようにしたのです。
つまり、①か②か③ではなく、①②③の強みを理解したうえで、①と②と③を組み合わせて実施したのです。
その中で、当時悩んだのは「①リアル」でないとできないことが本当にあるのかという点でした。私たちは当時、リクルート内で最も「③テキスト」を活用した組織でした。さらにオンライン会議システムも活用しまくっていました。
すると、確かに「①リアル」でないとできないことはあるのですが、リアルでなくてもあまり影響はなかったのです。
コストだけを考えると「①リアル」をなくせば大きな経費削減になります。
■ただし雑談の中にイノベーションのタネがある
ところが、店舗ビジネスの大先輩であるコンビニエンスストアを研究したところ、改めて「①リアル」はやるべきだと考え直しました。
それは、他ブランドよりも10万円以上日商が多いトップシェアのブランドだけ、毎月スーパーバイザーを全国から集めて、戦略や方針を徹底させていたのです。これこそリアルでないとできないことがある証拠だと考えて参考にしました。
私たちの場合、戦略などを変更する際の徹底・浸透、つまり戦略のニュアンスを共有することはリアルの方がよいかもしれないという感覚を持っていました。それを実際に実施するためのロールプレイングなどは、リアルでやる方が浸透・定着に役立ちました。
もちろん、それらはビデオなどでも代替できますし、オンライン会議でもかなりの部分は代替できますが、リアルの方が浸透度・定着度が高かったのです。
また、間違いなくリアルでないとできないことは、「偶然の出会い」です。勤務地が異なる従業員が休憩時間や会議後の飲み会などで話した雑談の中にイノベーションのタネがあったりするのです。いわゆるセレンディピティ(偶然から予想外の発見をすること)です。
これは設計していたわけではありませんが、かなりの頻度でこのセレンディピティが起きるのです。
■白黒つけたがる日本人に必要な視点
しかし、一方で、何でもかんでも「①リアル」を求める人たちがいました。
「③テキスト」などはもってのほかで、「②オンライン」でもなく、どのような場合でも「①リアル」がベストという人たちです。
彼らはある意味、「多様性を認めない強者」なのです。時間も場所も制約がなく、いつでもミーティングができる人たちです。イメージでいうと本社や本部の偉い人です。必要であれば自分の部屋や会議室に部下をいつでも呼べます。
地方から東京の本社や本部に来る人は、(2でできる内容を)数時間の「①リアル」のために、同じくらいの時間をかけて来るのです。もちろん、それに値するだけの価値がある会議であればよいのですが、必ずしもそうでないケースも少なくありませんでした。
でも、彼らは決して本社に文句を言いませんでした。
言うと嫌われてしまうからです。
今回の「リアルかオンラインか」の問題は、OR思考で検討する必要はないのではないでしょうか。私たちはついついUA(不確実性の回避)を避けようとする国民性を持っていて、OR(白黒をつけたい)で考えがちです。
しかし、今回のケースであれば、①②③を組み合わせて、「③テキスト」でできることは、できるだけ実施。
そしてその次は「②オンライン」、「①リアル」でないとできないことは「①リアル」と、3つをANDで組み合わせるとよいのです。
■「リアル」「オンライン」のどちらかを選ぶのはナンセンス
①リアル、②オンライン、③テキストを組み合わせてコミュニケーションを設計する場合、できる限り「③テキスト」でできることはこれでやり、できないことは「②オンライン」で実施し、本当に「①リアル」でしかできない内容を、①でやると考えるのがポイントです。
つまり、どこまで会わずにできるのかを考えるのがコツです。
新型コロナの流行が収まった後には、リアルを中心に考える企業とオンラインを中心に考える企業に二分されたように感じています。
しかし、コロナのような状況はまた繰り返すタイミングがやってきます。その時のためにも、今から③テキスト→②オンライン→①リアルで設計する習慣をつける必要があります。
コロナのような感染症の再来についてもそうですが、①②③のハイブリッドは現代の多様な働き方に対しても非常に合理的で効率的な方法と言えます。
では、具体的に③テキスト→②オンライン→①リアルで設計を考える手順についてまとめておきましょう。
■テキストの優先利用・オンラインの次点利用
チャットツールを活用したテキストは、メンバー全員が同じ時間や場所にいる必要がないため、時間や場所の制約を大きく緩和します。また、これはメンバーが自分の都合に合わせて情報を活用し、作業を進めることを可能にします。
さらに、まさに「テキスト」として情報が残るので、メンバー間の情報共有の透明性を保ち、必要な情報が一元的に管理されるため、必要な時に必要な情報を取得することが容易になります。
一度発言された内容は後からも確認可能であるため、情報の見落としや誤解を防ぐことができます。
一方で、議論が必要な場合や、即時性が求められる状況では、テキストでは対応が難しい場合があります。そのような場合には、オンラインコミュニケーションが有効です。
全員が同時にオンラインで参加することで、リアルタイムで情報を共有し、議論を進めることが可能です。場所の制約は比較的少なく、メンバーが自宅や出張先から参加することも可能です。
これにより、物理的な移動時間を省き、効率的な会議運営が可能になります。
■リアルは最終手段
それでも、全員が対面で会う必要がある場合もあります。
新しいプロジェクトのキックオフ、重要な決定を伴う大規模なミーティング、深い議論やブレインストーミングが必要な場合などです。
リアルコミュニケーションは、ボディランゲージや微妙な表情など、非言語的な情報を共有することが可能で、それによって深い理解や共感を生み出すことができます。
しかし、時間や場所の調整が必要で、移動時間も発生します。
以上のように、③テキスト→②オンライン→①リアルの順に優先的に利用することで、それぞれのコミュニケーション形式の利点を最大限に活かし、無駄な時間や手間を省き、プロジェクトの効率を最大化することが可能になります。
最後に「現場を正しく把握する」という観点でいうと、③テキスト、②オンラインに軍配が上がります。それは「現場の生の情報」が残るからです。
テキストは、文字通りテキストが残ります。オンラインは、オンライン会議で容易に録画情報が残せます。もちろんリアルも録画は可能ですし、議事録やその簡易版の議事メモを残しているケースもありますが、手間とコストがかかります。
経営者や、上司の上司が「現場を見る」場合には、③テキスト、②オンラインでコミュニケーションをしてくれた方がよいのです。
新たにその組織に加わった異動者や新人などがいた場合についても、現場の生の情報が残っているのは、きわめて重要なインプットになります。
この観点からも「③テキスト→②オンライン→①リアル」の順で考えるのは有効なのです。
■「リアル」「オンライン」「テキスト」を有効に組み合わせる
それでは、①リアル、②オンライン、③テキストの3つの方法を組み合わせて実施する場合を考えてみましょう。
これは、1つのコミュニケーション(1つの会議)ではなく、1つのプロジェクトを進める場合に有効です。
プロジェクトの開始時には、全チームメンバーがリアルで集まり、プロジェクトのゴール、目的、目標、タイムライン、役割等を共有します。この時に、ビジョンや方向性を深く理解し、全員が同じ目標に向かって進むことを確認します。
日常的なタスクのアップデートや情報共有には、Slackなどのテキストコミュニケーションツールを活用します。これにより、各メンバーが自分のペースで作業を進め、必要な情報を適切なタイミングで取得できます。
週次や月次のプロジェクト進捗(しんちょく)のミーティングでは、全メンバーがオンラインで集まります。この時に、各自のタスクの進捗状況、問題点、改善点などを共有し、全体の進捗を把握します。
新たな方向性の設定、重要な決定を必要とする段階や、ブレインストーミングが必要な場合は、リアルでの集まりを設けます。対面でのコミュニケーションは、深い議論や新たなアイデアの創出に有効です。
このように、プロジェクトの設計では、これら3つの方法を効果的に組み合わせ、適切なタイミングで最適なコミュニケーション方法を選択することが重要です。
なお、すでに何度も仕事したことがあるメンバーが大半であるケース、あるいはオンラインでの仕事の仕方に習熟しているなど、メンバーの関係性によっては、「リアル」を「オンライン」で代替することも可能です。
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中尾マネジメント研究所(NMI)社長
旅工房取締役。LIFULL取締役。ZUU取締役。東京電力フロンティアパートナーズ投資委員。LiNKX監査役。1964年生まれ。大阪府摂津市出身。1989年大阪大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年NMI設立。NMIの業務内容は、①業績向上コンサルティング、②経営者塾(中尾塾)、③経営者メンター、④講演・ワークショップ、⑤書籍執筆・出版。専門は、事業執行、事業開発、マーケティング、人材採用、組織創り、KPIマネジメント、経営者育成、リーダー育成、OJTマネジメント、G-POPマネジメント、管理会計など。
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(中尾マネジメント研究所(NMI)社長 中尾 隆一郎)
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