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「まだ運転したい親」に免許返納させるにはどうするか…ブッダが「大事なのは説得より納得」と説いた真意

プレジデントオンライン / 2024年3月12日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

高齢ドライバーに免許の自主返納を促すにはどうすればいいのか。福厳寺住職でYouTuberの大愚元勝さんは「力んだり、高圧的な態度で免許返納を迫ったりすれば、当然本人は構えてしまう。大事なことは説得よりも納得だ」という――。

■後を絶たない高齢ドライバーによる悲惨な事故

警視庁の統計によれば、2022年に全国で起きた75歳以上のドライバーによる車やバイクの交通死亡事故は、前年に比べて33件増の379件。2年連続の増加となったという。

確かに、YouTubeで「高齢者 交通事故」と入力すれば、高齢者による悲惨な事故の映像が次々と出てくる。

そこには、ただ「車をぶつけた」「擦った」レベルではない、狂人が運転しているとしか思えない、暴走する車の映像が流れる。

後を絶たない、高齢者が引き起こす悲惨な交通事故。

後を絶たない、高齢者が運転する自動車によって命を奪われる罪もない人々。

もちろん加害者の高齢者とて、悪気があったわけではない。

決して誰かを傷つけようとして、暴走したわけではない。

けれども、ひとたび事故を起こせば、それは本人の命の安全を脅かすだけでなく、他人の命を奪うことにすらなりかねないし、さらにそれが人身事故であった場合には、加害者と被害者双方の家族にも、生涯の心の傷を負わせることになる。

■「高齢の親に自主返納してほしい」は73.5%

インタースペースが運営する日本最大級のママ向け情報サイト「ママスタセレクト」が約2700人に実施した、高齢者になった親の「運転免許証の返納」についてどう考えるかを問うアンケートがある。

それによれば、親世代が高齢になったとき、「自主返納してほしい」と回答した人が最も多く、全体の73.5%にのぼった。

次いで多かったのは、「どちらともいえない」で、20.8%。

その他、「自主返納してほしくない」が1.6%で、「すでに自主返納している」との回答が4.1%だった。

■親の利便性や自分の負担を考えると勧めにくい

「すでに自主返納している」と回答した人の、自主返納のきっかけには「すでに交通事故を起こしたから」「免許更新の試験の点数が悪かった」などが挙げられていた。

「どちらともいえない」と回答した人たちの理由は、親の住む地域が「バスも電車もなく、自家用車のみがライフライン」「農家で軽トラックが運転できないと出荷もできない」といったものだった。

また「返納してほしくない」理由には、「バスが2~3時間に1本あるかどうかのところに住んでいるのに、私も遠方で助けられない」と、代わりに親を手助けできないことへの葛藤が綴られていた。

確かに「親の生活や利便性」のことを考えると、そして「自分に負担がかかる」ことを考えると、そして何より親の心情を考えると、親に免許返納を「言いたくても言い出せない」というのが本音だろう。

車に高齢者マークをつける人
写真=iStock.com/banabana-san
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/banabana-san

■ドライバーに不可欠な4つの能力が衰えていく

しかし、車は便利で快適な乗り物であると同時に、普通車で1トンを超える鉄の塊であり、アクセルを踏み込めばわずか10秒足らずで時速100キロものスピードに達する危険な乗り物でもある。

だから車の運転には、次の4つの能力が欠かせない。

①視覚・聴覚情報などによる認知力
②それによる予測力
③適切な判断力
④アクセル・ブレーキ・ハンドルなどの操作能力

これらの能力が衰えた高齢者が車を運転したらどうなるか。

過去に起こった高齢者たちによる数々の交通事故が、その悲惨な実情を物語っている。

こうした背景を受けて、2022年5月から75歳以上の高齢者が免許更新の際に受験しなければならない認知機能検査の内容が変更された。

さらに高齢者運転講習において、3年以内に一定の違反歴のあるドライバーは、実技試験に合格しない限り、免許の更新ができなくなった。

もはや車の運転に必要な能力が衰えた親に対しては、「免許を返納してほしくない」とか、「どちらともいえない」などとは言っていられない。

あなたの親が運転する車が、今この瞬間、凶器となって他人の命を奪うかもしれないのだ。

■親子関係に亀裂を入れずにすむ説得方法

とはいえ、急いで親に免許の自主返納を勧めたところで、「はい、はい、分かりましたよ」「ちゃんと免許を返納するから心配しないでね」などと、聞き分けのよい親はまずいない。

怒って反発する、あるいは「そうだね……」とは言いながらも、さまざまな言い訳を並べて、免許返納を先送りしようとする。それが普通の親だ。

親のためを思って熱心に免許の自主返納を説得したことで、親子関係に亀裂が入ってしまうケースもある。

私がYouTubeで配信している、悩み相談番組『大愚和尚の一問一答』には、「親に免許の自主返納を勧めたいが、どのように親を説得したらよいか」という相談も届く。

そこで、免許の自主返納に向けての「親の説得の仕方」を心技体に分け、3つのポイントを紹介してみたい。

■親に「恐れる心」を育てて納得してもらう

ポイント1:説得の「心」

まず始めに、説得する側が心折れてしまうことがないよう、心得を書いておきたい。

慚愧(ざんき)という言葉がある。

慚愧とは、仏教が説く心所(しんじょ)と呼ばれる人間心理の一つで、「慚」は、恥ずべきことを恥じる心のこと。「愧」は、恐れるべきことを恐れる心のこと。

お釈迦(しゃか)さまは、この「慚愧の心を育てなさい」、さもなくば、世の中から道徳と秩序が失われ、カオスになってしまうと説かれた。

親の認知力、予測判断力、運転操作能力が衰えて、危なっかしい運転をしているにもかかわらず、そのことを本気で「恐い」と思っていないならば、それこそが「恐ろしい」。

老いは誰にでもやってくる。認め難いけれども、必ずやってくる。老いて能力が衰えていながら運転を続けるのは恐いことだと知って、自分自身にも親にも「愧」を育てること。

■高齢者に影響力を持つ媒体に協力を仰ぐ

ポイント2:説得の技

次にどのように説得をするかということだが、これには、

①他人に説得してもらう
②一度に説得しようとしない

という2つの技法を提案したい。

①他人に説得してもらう

人は、自分が尊敬している人の話しか聞かない。多くの親は、自分の子どもは何歳になっても「こども」だと思っている。

だから、なかなか自分の子どもの言葉に素直に耳を傾けられない。そこで、「他人に説得してもらう」のだ。

とはいえ、誰が説得してくれるのか。

例えば健康診断。健康診断は、視力、聴力など、老いを突きつけられる。これが免許返納へのきっかけの一つとなることもある。

例えばYouTubeにあがっている「高齢者が引き起こした悲惨な事故」的なニュースや特集の収録番組を見せるのも一つ。

親がよく見る番組や、好きな司会者、タレントさんが登場している番組で取り上げられたりすると、免許返納に向けての大きな説得力となる。

とにかく自分の言葉だけで説得しようとせず、テレビといった高齢者には強力な説得力を持つ媒体に協力を仰ぐといい。

テレビのリモコンを操作する人の手
写真=iStock.com/Hanafujikan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanafujikan

■たった1日で説得できると思わず、長期戦で

②一度に説得しようとしない

ある日突然「わかっちゃいるけどやめられない」ことを、突きつけられて、素直に受け取れる人は少ない。これは高齢者に限ったことではない。

だから時間をおいて、何度も説得材料を提供するのだ。

先に紹介したように、高齢者が引き起こした交通事故についての「YouTubeの特集」を見せたり、ネットニュースの過去記事を見せたり。

そしてそこからの「お父さんもそろそろ、人ごとじゃないよね」、「何かあってからでは取り返しがつかないよね……」など、ポロッと話す。

そんな話題を振ったり、意見を求めたりしながら、免許返納に向けての心の準備をしてもらうのだ。

聞いていないようでいて、これが時間をかけて効いてくるもの。

最初からそう構えて根気よく、親自身の気持ちに寄り添いながら、親を免許返納の話題に慣らしてゆく。

そして、親が車を必要とする時は自分が運転を申し出たり、あるいは遠く離れて暮らしているならば、「タクシー」「電動自転車」などの代替案もある。「車を運転しなくても生活できる」ための、具体的な策を提案するのだ。

■親がリラックスした状態で説得に入る

ポイント3:説得の体

こちらが緊張したり、力んだりすれば、当然相手も緊張して力が入る。

説得する側が、「お父さんのため」「お母さんのため」と言いながら、力んだり、高圧的な態度で免許返納を迫ったりすれば、当然親も構えてしまう。

永らく車社会で暮らしてきた人にとって免許返納は、自分の手足を手放すに等しい「悔しい」体験であり、自分の老いと向き合う「厳しい」現実である。

親も自分も感情的にならず、リラックスしてこの重要な決断について話し、受け入れられたら理想的だ。

そこで提案したいのが、親孝行だ。

仕事が忙しいかもしれない。遠く離れて暮らしている人にとっては、そう頻繁に、親元に帰れないかもしれない。

だからこそ、積極的に機会を見つけて、食事に誘ったり、温泉旅行に連れ出したりして、親との距離(想像以上にあるもの)を縮める努力をお勧めする。

■「まだ元気だから」と放置してはいけない

しばらくぶりに、我が子と共に過ごす中で、親は子の成長を感じるものだ。

「老いては子に従え」という言葉もある。

わが子の成長を感じたとき、本気で親を心配してくれていることを感じたとき、あれほど意固地になって免許返納を嫌がっていた親が「私もそろそろ免許の自主返納をしようか」と、自分から切り出すようになったりするのだ。

お寺にいると、お檀家(だんか)さんの親子、双方からそんな体験談を聞かされることがある。

私自身が住む地域も、車がないと不便で仕方がない。だから決して人ごとではない。

もちろん人間はみな、個人差がある。

田舎に行くと75歳を過ぎても、若者よりも元気で、矍鑠とした高齢者もたくさんおられる。

だから、高齢者だからといって、誰にでも「免許返納」を説教するのは失礼だ。

ただ、親の心身の衰えを感じながらも、慚愧の心を忘れて、「自分の親はまだ元気だから」とか「不便になったら可哀想だから」という理由で、取り返しのつかないことになるまで放っておくこともまた愚かである。

免許返納のコツは「説得」するのではなく、親自身に「納得」してもらうこと。

焦らず、力まず、少しずつ。親に寄り添い、情報提供し、「免許返納」を受け入れやすくして差し上げるといい。

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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え 一問一答公式』(飛鳥新社)。最新刊は『自分という壁』(アスコム)。

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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)

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