1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

早く安く酔えるコスパ最強のお酒…若い女性もゴクゴク飲める「ストロング系チューハイ」の本当の怖さ

プレジデントオンライン / 2024年3月22日 11時15分

アルコール度数9%の「ストロング系チューハイ」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

アルコール度数の高い「ストロング系チューハイ」の販売を縮小する動きが出ている。低価格で酔えるコスパの良さで親しまれているが、どこに問題があるのか。筑波大学医学医療系の吉本尚准教授(地域総合診療医学)に、酒ジャーナリストの葉石かおりさんが取材した――。

■約15年で日本人に浸透した「ストロング系」

2008年、キリンの「氷結ストロング」の発売以来、2009年にサントリーの「-196℃ストロングゼロ」、そして2011年にアサヒビールの「アサヒ スパークス」と、いわゆる“ストロング系”と呼ばれる高アルコール濃度のチューハイが次々と発売された。

一般的にストロング系チューハイとは、アルコール度数が8%以上のものを指す。フルーティながらも、飲み応えのあるガツンとした飲み口から人気に火がついた。

当初は酒に強い男性がこぞって飲んでいた。しかし、ぶどうや桃といった季節のフルーツを使ったテイストのものが出始めると、これまであまりストロング系に手を出さなかった若い女性たちも「フルーティで飲みやすい」からと手に取るようになっていった。

今だからこそ言えるが、私もストロング系を飲んでいた時期がある。会食を終えた帰り道、バーに行くのはだるいが、何となく飲み足りない。自宅に焼酎や日本酒はあるが、今から飲むにはアルコール度数がほどほど高くて、軽く飲めるものがいい。そんな時、コンビニでもすぐ手に入るストロング系は、ちょうどよかったのだ。だが「ちょうどいい」というのは酔っ払いの幻想で、仕上げにストロング系を飲んだ翌朝は、決まってプチ二日酔いになっていた。

■医師たちは「危険だ」と口をそろえた

「もしやストロング系って、カラダに良くないのでは?」

そんな疑問を抱き始めた頃、取材先の医師から「ストロング系は危険なので、飲まないほうがいい」という話を聞いた。注意喚起したのは1人だけではない。多くの医師たちが同じことを口にするようになり、「これはどうやら、本気で飲まないほうが良いのだな」と実感。以来、ストロング系とは疎遠の生活を長くしてきた。

ストロング系の味すら忘れかけていた2024年1月、アサヒビールが「今後売り出すストロング系の度数を8%未満に抑える」というニュースが飛び込んできた。次いでサッポロビールも、ストロング系の新規発売をしない方向だという。

これはやはり2月19日に発表になった国内初の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(以下、飲酒ガイドライン)」が影響しているのだろうか? だが、筆者の周囲を見ても、ストロング系の根強いファンが未だいるのは事実。今一度、ストロング系の危険性について、筑波大学医学医療系准教授で、「飲酒ガイドライン」の策定にも携わった吉本尚さんにお話をうかがった。

吉本尚(よしもと・ひさし)1979年生まれ。北海道出身。2019年1月、北茨城市民病院附属家庭医療センターに総合診療科で日本初となるアルコール低減外来を開設。その後、筑波大学附属病院でもアルコール低減外来を開設した
本人提供
吉本尚(よしもと・ひさし)1979年生まれ。北海道出身。2019年1月、北茨城市民病院附属家庭医療センターに総合診療科で日本初となるアルコール低減外来を開設。その後、筑波大学附属病院でもアルコール低減外来を開設した - 本人提供

■「同じ値段だったら5%より9%」という選択

まず気になるのが、ストロング系が相次いで発売された2010年前後の業界の動きである。それ以前の主流はアルコール度数3~5%だったのに対し、なぜ7%以上のストロング系が市場を圧巻したのだろう?

「WHOのデータを見ると2000~2009年は、バブル経済の破綻の影響か、アルコールの消費量(純アルコール換算)は男女ともに下降しました。しかし、ストロング系が発売された2010以降は男女ともに横ばい。あくまで私の予測ですが、横ばいになった理由の1つにストロング系が影響している可能性があるのではないかと思います。5%も9%も同じような値段だったら、じゃあ、9%を選ぼうといった感じで、コストパフォーマンスを考えて選択する方も多かったのではないでしょうか?」(吉本さん)

(データ:World Health Organization, Global Health Observatory Data Repository)

なるほど。同じ値段なら、1本で十分に酔えるストロング系がおトクで手に取りやすかったということか。確かにストロング系のロング缶を1本飲めば、相当いい気分になれる。

■若い女性をターゲットにしたCM戦略

「ストロング系の市場が拡大した理由の1つに、若い世代を取り込んだことも挙げられます。コストパフォーマンスはもちろん、果実味があり、炭酸で飲みやすいストロング系は、お酒に飲み慣れていない若い人にも“飲みやすい”と感じさせたのでしょう。また、それまでのチューハイは低アルコールが主流だったので、若い世代にはアルコール度数の高いストロング系が斬新かつ、新鮮に映ったのかもしれません」(吉本さん)

各社がさまざまなフルーツテイストのストロング系を発売している
撮影=プレジデントオンライン編集部
各社がさまざまなフルーツテイストのストロング系を発売している - 撮影=プレジデントオンライン編集部

“タイパ”(タイムパフォーマンス)を良しとする若い世代にとって、安くて早く酔える、そしてさらにジュースのように甘くて飲みやすいストロング系は、時代に合った格好のアルコール飲料だったのだろう。

発売当時は女性タレントを起用したCMも流れており、その影響もあってか、若い女性がコンビニでストロング系を手に取る姿も多く見かけた。

■ロング缶2本はワイン1本に相当する

一時期はコンビニやスーパーのアルコール飲料の棚は、各社から次々と発売されるストロング系に占領されてしまうのではないかと思うほどの加熱ぶりだった。そんなストロング系に対し、医師たちが口を揃えて「危険」だという理由を吉本さんはこう解説してくれた。

「一番の理由は、そのアルコール度数の高さです。個人差もありますが、アルコール度数9%のストロング系は、ふつうなら2本のところ、1本で確実に酔えます。またフルーティな味わいもあってか、アルコール耐性の強い人だと短時間で軽く2本飲めてしまいます。実はストロング系のロング缶2本の純アルコール量は、ワイン720ml約1本に値します。ワイン1本というと飲み過ぎと感じますが、チューハイというイメージもあってか、ストロング系はそういう印象が薄いんですね。しかも血中アルコール濃度が急激に上がるので、早く酔っぱらってしまうのです」(吉本さん)

ストロング系9%のロング缶の純アルコール量は35.5g。これだけでも「飲酒ガイドライン」が示す「男性で40g以上、女性20g以上」のイエローゾーン(女性はレッドゾーン)となる。ワイン1本の純アルコール量は約71g(750mlアルコール度数12%)なので、ストロング系を2本飲めば、ワイン1本を飲んだのとほぼ同じになる。

■いったん蓋を開けたら飲み切らないといけない

「こうしたことに加え、そういったお酒がコンビニやスーパーで気軽に買えることもまた、危険だと思う理由の1つです。ストロング系は“RTD”(Ready to drink)と呼ばれる蓋を開けたらすぐ飲めるお酒。しかも一度開けてしまったら、全部飲み切らないとダメだと思わせてしまう。日本酒やワインは1本飲み切らずとも、自分の酔い加減で止められますよね。でもストロング系は炭酸を含んでいるので、翌日以降に残すことがしにくい。だから飲み過ぎてしまうのです」(吉本さん)

飲料缶
写真=iStock.com/groveb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/groveb

かつてストロング系を飲んでいた経験者として、これは非常によくわかる。甘いストロング系は、炭酸が抜けてしまうと正直おいしくない。それ故に「これ以上飲むと飲み過ぎかな」とわかっていても、「もったいない」からと飲み切ってしまうのだ。

■「飲んで酔う」と「酔いたいから飲む」は違う

「アルコール関連障害の専門誌『Alcoholism: Clinical and Experimental Research』で発表された論文『日本のアルコール含有量の高いすぐに飲めるストロングチューハイと危険なアルコールの使用:全国横断的研究』においても、ストロング系を飲んでいた経験者は調査参加者の56.2%で、性別や年齢、社会経済指標、喫煙、自己申告でのうつ病・精神疾患の有無、現在の不安抑うつ状態の影響などを調整しても、多量飲酒、飲酒をコントロールできなくなる、朝に飲酒をしてしまうなどの問題飲酒と有意に関連しているという結果が報告されています(全国3万3000人へのインターネット調査で2万7993人の有効回答)。こうした研究結果からも、ストロング系の危険性がわかります」(吉本さん)

聞けば聞くほど、ストロング系の危険性がわかる。だが冒頭でも示したように、未だストロング系の根強いファンはいる。ではいったい、どういう人がストロング系にはまってしまうのだろう? 吉本さんはこう考察する。

「女性よりも男性のほうがストロング系を好む傾向にあります。ただ、最近はわずかですが女性の愛飲者も増えています。ストロング系は安価に早く酔えるので、経済的に困窮している方が飲むと思いがちですが、裕福な経営者の方にも愛飲者はいます。私が思うに高ストレスを抱えている方が、“酔いたいがために選んでいる”といった印象があります。楽しくて飲み過ぎて酔っぱらうのと、酔いたいから飲むのは飲酒理由が違うのですが、ストロング系は、酔いたいと思う方に選ばれやすいお酒と感じます」(吉本さん)

■「少量でも飲まないほうがいい」が現代の常識

これもまた、経験者として深くうなずいてしまう。ストロング系を飲んでいた頃は、公私ともにストレスが多く、不安定な時期で、「とっとと酔いたい」がためにストロング系を飲んでいた。今はもうストレスもほぼなく、家飲み自体をほとんどしないこともあって、ストロング系とは無縁になったが、あのまま飲み続けていたら……と思うと胃がキュッとなる。

「ストロング系に限ったことではありませんが、日常的に多量飲酒を続けていると脳卒中や大腸がんなどの疾病リスクが上がります。2018年に医学雑誌『Lancet』の論文でも発表されましたが、お酒は少量でも飲まないほうがいいという報告もされています。『飲酒ガイドライン』にも胃がん、高血圧、食道がんなどは少量でもリスクが上がると示されています。健康面を考慮しても、1本で多くのアルコールが摂取できるストロング系は選ばないほうが賢明です」(吉本さん)

【図表1】我が国における疾病別の発症リスクと飲酒量(純アルコール量)
厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」より

■低アルコール化、ノンアルコール化が加速する

「飲酒ガイドライン」の発表や、健康経営が注目される中、アサヒビールをはじめとする大手企業のストロング系の新商品が発売されないことで、ますます低アルコール化、ノンアルコール化が進むのは間違いないと言ってもいいだろう。

居酒屋に行っても今まで目にしなかった“モクテル”と呼ばれるノンアルコールのカクテルが置かれるようになったり、日本酒と同等の造りで醸したクラフトノンアルコール日本酒が開発されたりと、ノンアルコール化が進んでいるのを肌で感じる。これは世界的な流れでもあり、徐々に日本にもその影響が出てくると思われる。

だが、それでも酒飲みとしては、何とかして健康を害さないように酒を飲み続けたいと思う。吉本さんに健康リスクを損なわない飲み方を教えてもらった。

「ノンアルコール飲料を1杯目に飲むなど、うまく使うといいでしょう。今は味もだいぶおいしくなっていますし、種類も豊富にあります。ストロング系に慣れてしまっている人なら、いきなりノンアルコールではなく、徐々にアルコール度数を減らしていく方法も有効です。また、お酒以外のストレス発散法を考えることも大切です」(吉本さん)

実質賃金が上がらない今、若い世代に限らず、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを重視する人は少なくない。だが酒にいたっては健康のためにもそれらを追わず、ちょっと贅沢な質のいい酒を、時間をかけて飲むよう心がけたい。

グラスに入った飲み物で乾杯する人たち
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

----------

吉本 尚(よしもと・ひさし)
筑波大学准教授
2004年、筑波大学医学専門学群(現医学群医学類)卒。筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センター長。日本プライマリ・ケア連合学会理事。

----------

----------

葉石 かおり(はいし・かおり)
酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に各メディアで活動中。「飲酒寿命を延ばし、一生健康に酒を飲む」メソッドを説く。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。現在、京都橘大学(通信)にて心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『名医が教える飲酒の科学』(ともに日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。

----------

(筑波大学准教授 吉本 尚、酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください