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「NHK離れ」が止まらないのに…組織存続のために「スマホ持っているだけで受信料」を狙うNHKの厚顔無恥

プレジデントオンライン / 2024年3月21日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

放送法の改正でNHK番組のネット配信が「必須業務」に格上げされた。テレビを持っていなくても、スマホなどから番組を視聴する場合、受信料の支払いが義務となる。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著書がある早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「今回の放送法改正は、スマホを持っているだけで受信料を徴収する布石だ」という――。

■ネット配信が放送と同等の必須業務に

政府は3月1日、放送法改正案を閣議決定した。その内容をまとめると以下のようになる。

1.放送番組とその理解増進情報をインターネットにより視聴者と番組提供事業者に対し提供すること(以下「インターネット活用業務」という)を必須業務として位置づける。
2.関連情報の範囲を「放送番組と密接な関連を有する」ものに限定し、他のメディア(文字メディア、特に新聞のこと)との公正な競争に支障が生じないようにする。
3.テレビを持たない視聴者がスマートフォンなどでネット配信番組の受信を希望すれば、受信契約を結ぶ義務が生じる。

放送法改正案 政府が提出 “ネット配信 NHKの必須業務に”NHK NEWS WEB

■狙いは「スマホを持っているだけで受信料」

これまで、NHKは放送によって番組を契約者に届けてきた。これがNHKの必須業務であり、これに対して受信料を要求してきた。ネット配信のNHKプラスなどにより、放送コンテンツをネット配信することは、必須業務ではなく、補完業務とされてきた。また、NHKがニュースと「理解増進情報」と称するものをネットで配信してきたが、これも補完業務とされていた。

今回の放送法の改定は、これらの業務を補完業務から必須業務に格上げするものだ。言い換えれば、放送もネット配信も必須業務となる。

なぜ、NHK・総務省はこのようなことをするのだろうか。今のままではいけないのだろうか。NHKの狙いはなんだろうか。それは、当然ながら「スマホを持っているだけで受信料をとる」ことだ。現状、スマホを持っているだけでは支払い義務は発生しないとしているが、今回の放送法改正は、その布石なのだ。

■「NHK離れ」で受信料収入は下がり続けている

現在、放送法第六十四条により「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会と受信契約を締結しなければならない」とされ、NHKは受信契約をした人から受信料を徴収している。だが、そのような設備を持っていない人は、契約の義務はなく、したがって受信料を払う必要もない。

このことを知っているので、若い世代、とくにZ世代は、放送を受信できないテレビ、チューナーレステレビを買い、その数がだんだん無視できないレベルに達してきた。実際、NHKの受信料収入は大幅に減少している。若者は年をとっても受信料を払わないだろうから、この傾向は止まらないだろう。これは受信料を主な収入源とするNHKにとっては死活問題だ。

【図表1】受信料収入の推移
NHK「2023年度 収支予算と事業計画の説明資料」より

現在のような、放送によって番組を受信者に届け、ネット配信でそれを補完するというやり方はなんの問題もない。NHK受信者もそうでない人びとも満足している。しかし、NHKにとっては、このままでは受信料収入は下がり続ける。戦前からNHK(日本放送協会)と相即不離の関係にあった総務省(かつては逓信省)としては、この窮状を救いたい。

■受信料は「NHKを維持するためのもの」

そこで、これまで放送だけを必須業務としてきたのを、ネット配信も必須業務に格上げすることにした。狙いは、放送を受信する設備を持たない、あるいは、NHK受信料支払いを忌避するために持たないことを選択した人からも受信料を取ることだ。

その理屈はこうである。NHKがプロパガンダのように言ってきたのは、受信料は放送コンテンツの代価ではなく、放送を行うNHKという組織を維持するためのものだということだ。NHKが必須業務である放送を行うかぎり、放送法のもと、番組を見ようと見まいと、契約義務を負い、受信料を払わなければならない。だが、このままでは、受信設備を持たない人からは受信料はとれない。

では、どうしたら、とれるだろうか。NHKが頭をひねって考え出したのは、ネット配信も必須業務とすることだ。必須業務とすれば、放送でなくとも、ネットからコンテンツを受け取れる状態にあるのだから、番組を見ようと見まいと、ネット配信からも受信料が取れるだろう。それは、番組を見ていようといまいと、放送を受信できる状態にあるのだから、受信料をとるのと同じ理屈だ。つまり、「スマホを持っているだけで受信料がとれる」のだ。

■放送法を操れば「スマホ受信料」は実現する

もちろん、これはNHK側の理屈だ。必須業務としようとしまいと、前述の放送法第六十四条により、放送を受信できる設備を持たない人は、NHKと契約する義務がなく、したがって受信料を支払う義務はない。

渋谷、東京、2016年12月19日 NHK
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

だが、放送法第二条の1では、放送とは、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう」と規定されている。その電気通信は、電気通信事業法二条の1では、「電気通信 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けること」とされている。つまり、理屈の上では、放送も有線のネット配信も「電気通信」だということになる。

そこで、第一歩として、放送だけでなく、有線の電気通信であるネット配信も必須業務とし、次のステップで、必須業務になったから、NHKの維持費である受信料を取れると法改正するのではないか。

考えすぎだという人には「ではなぜ、わざわざネット配信を必須業務と変えたのか」と尋ねたい。受信者にとっては何の意味も必要性もないではないか。

■若者たちがテレビを持たない本当の理由

NHK・総務省はその意味と必要性をこうこじつけている。「とくにSNSやYouTubeではデマ、ウソ、誹謗(ひぼう)中傷がはびこっていて、ユーザーは誤った情報を与えられ、歪んだ思想を持つようになっているので、これを是正するためにも、テレビを持たない人びとにも公共放送を届ける必要がある」

これはとんでもないたわごとだ。「テレビを持たない人」とされている人びとの中には、NHK受信料の支払いを忌避するために、わざわざチューナーレステレビを買っている人がいる。現在、家電量販店ばかりでなくケータイショップまでチューナーレステレビを販売している。

若者、とくに生まれたときからインターネットやケータイがあったZ世代は、NHKの番組だけでなく、そもそもテレビを見る習慣がない。彼らはスマホで、SNSを使い、YouTubeを視聴し、ゲームを楽しんでいる。

民間放送の番組ならタダだからいい。見逃した番組があったら、これもまた無料のTVerなどで見逃し視聴すればいい。受信料など払いたくないし、それがNHKの番組ともなれば、なおさらだ。

つまり、若者は、「テレビを持っていない」のではなく「NHK受信料を払わないために持たない」のだ。このような若者に「公共放送」(そんなものではないことはこれまで拙著『NHK受信料の研究』や何本ものネット記事で明らかにしてきた)を届けたいといっても、それは無理というものだ。

■NHKもエコーチェンバーのひとつ

また、NHKの「公共放送」によってSNSやYouTubeの「デマ、ウソ、誹謗中傷」から守るという主張だが、これには失笑を禁じえない。なぜなら、NHKの番組を見ているのならともかく、見ていないのだから、そのような効果があるはずがない。

特定のSNSアカウントやYouTube番組を常習的に見る人は、一種のエコーチェンバーに入っている。つまり、限られた数の同じ思想傾向や好みを持った人が互いにワーワー言い合い、同調し合あう、狭い閉じられた情報空間だ。彼らはほかのエコーチェンバーの人びとには同調しないし、意見交換もしない。

エコーチェンバーに入っている人は、自分と反対の意見や好みを持った他の人びとのエコーチェンバーを徹底して叩く。実は、数ははるかに多いものの、他のエコーチェンバーとは同調しないし、意見交換することもないという点では、NHKの熱心な視聴者もエコーチェンバー状態にあるといえる。

SNSやYouTubeのエコーチェンバーとNHKのエコーチェンバーは互いに交流することはないのだから、前者のエコーチェンバーの人びとをNHKの「公共放送」によってそれらの害悪から守るなどありえないのだ。

■自らの既得権だけを守った新聞各社

このことからも、今回の放送法改正の目的がNHK・総務省の言うようなものではないことは明らかだ。あくまで狙いは「スマホを持っているだけで受信料をとる」ための布石だということになる。

注目されるのは、新聞などのメディア業界が特に強く今回の法改正に反対したことだ。「理解増進情報」という名のもとに、新聞などとバッティングする記事を必須業務として配信されては困るというのだ。

このため、今回の改正点の2つ目のポイントである、「関連情報の範囲を『放送番組と密接な関連を有する』ものに限定し、他のメディア(文字メディア、特に新聞のこと)との公正な競争に支障が生じないようにする」ことにしたのだ。

実際イギリスでは、BBCのローカル局の報道がローカル紙の利害に悪影響を与えるので、そうならないようにチェックされている。

とくに新聞業界は、ワーキンググループが改定の検討に入った段階から、利害関係者として積極的に発言してきた。その成果が「公正な競争に支障が生じないようにする」という内容に結実している。自らの既得権を守ったということだ。

■結局、受信料問題は置き去りにされた

民間放送の代表である民放連はどうかというと、今回の法改正に関しては「民放のネット配信には放送法上の規律がなく、変更がない旨を明記」するよう求めただけである。これに対して総務省が「インターネット上で配信する放送番組については、番組準則のような法律上の規制は課さず、NHKを含む放送事業者における自主的な判断に委ねられるべきと考えており、そのことは明らか」というと、あっさり引き下がった。

番組を制作しているキー局は、これまでの放送の広告収入に加え、番組コンテンツを2次利用したり、NetflixやU-NEXTに販売したりすることで利益を上げており、今回の放送法改正で不利益を受けるわけではない。

新聞協会も民放連も、NHKがネット配信を必須業務にするという議論が進行していたときは、「受信料のことを置き去りにしている」と批判したが、結局、それで困るのは自分たちではないので、口をつぐんでしまった。

■暴走を止めるには若い世代の監視が必要

したがって、NHKを次のステップ、すなわち「ネット配信も必須業務になったのだから、その必須業務で配信する番組を受信できる設備(スマホ、タブレット、パソコン、チューナーレステレビ)を持つ人から受信料を取ることができる、なぜなら受信料は番組を見る、見ないに関係なく、必須業務を行うNHKの維持費なのだから」に進ませないためには、国民、とくに受信設備を持たない若い世代の監視が必要だ。

『NHK受信料の研究』および数々の雑誌記事、ネット記事で筆者が書いてきた通り、受信料の正体は、テレビ放送のためのマイクロ波通信網の建設・維持費だ。もはや放送の時代は終わり、ネット配信の時代なのだから、NHKは放送からネットに移ればいい。

その際は、放送ネットワークの建設・維持費である受信料は徴収できなくなる。そうなったら、徹底的に規模縮小して、諸外国の公共放送がそうしているように、広告費でやっていけばいい。

使わなくなったNHKの電波は、すべて返上し、それを総務省がオークションにかければ、数千億円を国庫に入れることができる。それを少子化予算や防衛予算にまわせばいい。

アメリカは、早くも1994年に電波オークションを始め、その収益で国庫を潤している。BBCの許可料(受信料にあたる)廃止の方向に動いているイギリスも、2000年に電波オークションを始めている。わが国も続くべきだ。

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有馬 哲夫(ありま・てつお)
早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』『日本人はなぜ自虐的になったのか』『NHK受信料の研究』(新潮新書)など多数。

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(早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究) 有馬 哲夫)

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