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あなたが死ねば「遺体ホテル」に泊まってから焼かれ、遺骨はトイレに捨てられる…孤独多死社会の現実

プレジデントオンライン / 2024年3月26日 11時15分

■毎年「鹿児島県民全員」がいなくなるスピードで人が死んでいる

未知の多死時代へと突入――。厚生労働省はこのほど、2023年の死亡数が過去最多の159万503人となったと公表した。3年連続で過去最高を更新し続け、従前の予測値「2030年に死者160万人」より5年以上も早く達する見込み。統計学上の予測よりも上回る「超過死亡」状態が続く異常事態といえる。多死社会は、何をもたらすのか。すでに「死の現場」では異変が起きていた。

厚生労働省が公表した人口動態統計速報(2023年12月分)によれば、2023年1〜12月の出生数は75万8631人で過去最少となり、8年連続の減少(対前年4万1097人減少、△5.1%)となった。対し、死亡数は159万503人で過去最多を記録し、こちらは3年連続の増加となっている(対前年8470人増加、0.5%)。

死亡者数から出生数を差し引いた自然減数は過去最大となる83万1872人となり、激しくわが国の人口が減少していっていることがわかる。

ちなみに、婚姻件数は48万9281組。前年よりも3万542組減少(△5.9%)した。離婚件数は18万7798組と4695組増加(2.6%)した。「孤独社会」も、進んでいるようだ。

わが国の人口は、明治維新時点(1868年)でおよそ3300万人だった。以降、急増し、1945年の終戦時でおよそ7200万人を数えた。2008年には、ピークの約1億2808万人に達する。

だが、それ以降は減少局面に入っている。今後は少なくとも100年以上にわたって、人口が減り続けると予測されている。

国立社会保障・人口問題研究所によれば、2052年に1億人を割る。2070年には8024万人になると推計される。このまま、劇的な社会変動や、画期的な人口対策が取られなければ、現在から100年後の2125年には5000万人を切ってしまうと見込まれる。

いずれは、江戸時代の人口レベルまで戻ってしまうのは自明だと思う。政府は少子化対策に躍起だが、「世の摂理」に抗うことには、どだい無理があるのだ。

死者数は平成に入ってからの34年間でおよそ倍増した。年間死者数160万人という数字は、鹿児島県の人口とほぼ同じである。まるで、ゆっくりと海へと流れ出てきた巨大氷河が、海に向かって崩落する最終段階のように、人が消えていく時代に入ったのだ。

■火葬に長蛇の列で「遺体ホテル」が大繁盛

死を受け入れる現場ではすでに特異な現象が始まっている。まずは、「火葬待ち」である。すでに人口に対する火葬炉の少ない都会の火葬場では、待ち状態が長期にわたっている。横浜市など複数の公営斎場では、待機状態が1週間以上のケースもでてきた。

政令指定都市における人口10万人あたりの炉数は平均2.47(2017年、横浜市調べ)だ。だが、政令市の中で最も人口の多い横浜市(約377万人)では、公営の火葬場が4施設、民間が1施設の計5施設しかない。10万人あたりの炉数は1.45と極端に少ない。死者が多い冬場の昼間に火葬するならば、朝一番か夕方の火葬、あるいは1週間ほど待っての火葬となる。

こうした状況に対し、横浜市は炉16基を備えた新設の火葬場を、同市鶴見区に整備中だ。もっか建設中で、2025年度末の完成を見込んでいる。

神奈川県相模原市やさいたま市、京都市、千葉市、福岡市、仙台市、川崎市などでも火葬場の不足が指摘されている。だが、火葬場は迷惑施設にあたる。近隣住民の反対運動などによって、なかなか新設が進まないのが実情である。

そこで、遺体安置施設(通称・遺体ホテル)が盛況だ。人が亡くなった場合、墓地埋葬法の規定では、24時間以内の火葬はできない。かつては、身内の遺体は自宅に安置し、ドライアイスで遺体が傷むのを防いでいた。そのまま自宅で通夜、葬儀を営むことも少なくなかった。

しかし、現在ではマンション住まいなどの住環境の変化などによって、自宅に遺体を安置できないことが多くなってきた。病院や高齢者施設で亡くなれば直接、葬儀会館や遺体ホテルに移動し、火葬までの時間を過ごすことが常だ。

多死社会と火葬待ち、そして自宅葬の減少などによって、遺体ホテルに需要が集まっているのだ。10年ほど前までは、遺体ホテルは東京都内や大阪市内、川崎市内などに数えるほどしかなかったが、現在では多くの中核都市に多数存在する。老朽化したビジネスホテルや倉庫を改装して、遺体ホテルに転用するケースも出てきている。

そのタイプは様々だ。冷蔵庫のようになっている壁面収蔵型の霊安室もあれば、それこそホテル同然の瀟洒な遺体ホテルもある。ホテルさながら8畳ほどの部屋に分かれていて、1室に1棺ずつを安置するのだ。

ホテルタイプの霊安室には棺を冷やす冷蔵設備がついていないため、業者が毎日ドライアイスを補塡(ほてん)しにやってくる。こうした遺体ホテルは今後、さらに増えていくことが予想される。

故人が見えるタイプの遺体安置カプセル
筆者撮影
故人が見えるタイプの遺体安置カプセル - 筆者撮影
壁面収蔵型の遺体安置施設
筆者撮影
壁面収蔵型の遺体安置施設 - 筆者撮影

■縁なき多死社会…遺骨はゴミ箱、トイレ、電車網棚に捨てられる

故人を送る側のマンパワーも、高齢化や親族間の希薄化によって限界を迎えている。つまり、「縁なき多死社会」である。そして時に、人としての一線を越えさせてしまうこともある。

近年、身内の火葬後の遺骨を遺棄する事案が増えているのだ。埋葬や弔いを煩わしく思ったり、コストをかけられなかったりする人が、人知れず遺骨を捨てる。

鵜飼秀徳『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)
鵜飼秀徳『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)

その場所は、商業施設や公共施設のゴミ箱やトイレなど。さらには、電車の網棚に「わざと」骨壷を置き忘れて去っていく。骨壷の電車の網棚への置き忘れは、「古典的手法」として知られている。

遺骨は遺失物として扱われ、保管期間が過ぎれば、警察が引き取り、無縁の遺骨としてどこかの集合墓に入れられる。投棄となれば刑事事件に発展するため、「置き忘れ」の体を取るのだ。だが、火葬後の骨壷には埋葬許可証が入っているのが常。身元が判明する埋葬許可証はしっかりと抜き取って、電車に置き去りにするのだから、悪質としか言いようがない。

現在は、まだまだ多死社会の入り口にある。都会では、孤独死が当たり前の風景になりつつある。多死社会への対策は待ったなしである。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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