「これで大きな失敗を回避した」脳内科医が無意識に出てきたひとり言を重視せよと説く深い理由
プレジデントオンライン / 2024年3月27日 18時15分
※本稿は、加藤俊徳『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■右脳からの直感的なひとり言こそ見逃してはいけない
私自身はひとり言をたくさんつぶやく人間ですから、ひとり言との向き合い方もかなりベテランの領域に入っていると思います。
とくに無意識に口を突いて出てきた言葉に対して、注意を向けるようにしています。
ひとり言は、左脳を軸にした「内言語」による思考が言葉になって、音声として発せられたものだと考えられます。
ただ、左脳由来ではなく、右脳のメッセージが直接ひとり言に結び付くものもあると考えています。
右脳では非言語情報であるイメージや表象、感覚や感性的な心象のようなものが生まれます。
それは言語化されたものではないので、なかなか意識化されず、無意識の中に眠っていることも多いといえます。
そんな非言語的なメッセージが、意識に昇ってくることがあります。
左利きであり、右脳が優位に発達した私も、そのような非言語のメッセージがたくさん右脳から送られてくるのです。
それは「直感」に近いものといってもいいでしょう。
たとえば、編集者からよく企画書が送られてきます。右脳優位である私は、文字を追い、論理的に内容を吟味するよりも、まず企画書全体をパッと見たときの印象が先に浮かび上がってきます。
直観的に「これはいい!」「面白そうだ!」と感じるものもあれば、その印象がぼやけていて、何かしら弱い感じがするときがあります。
そのとき、思わずひとり言をつぶやくことがあります。
「よくわからないけど、企画として弱いなぁ……」
ブツブツと、ひとり言を洩らしているのです。この段階のひとり言は、言葉として意味をなしていないこともあります。
ですが、この右脳からのメッセージこそ、自分の直感であり、じつはとても重要なものなのです。
口から出てきた時点で、私自身が、「お⁉ 今、何て言った?」と注意を向けるようにしています。
■本当の知恵や宝は自分の中に眠っている
左脳由来であれ、右脳由来であれ、ひとり言は自分自身の内側から自分に向けられた、重要なメッセージであることに変わりはありません。
そのメッセージをいかに真摯(しんし)に受け止めることができるか?
つまり、ひとり言を言っている自分を、しっかり認識することが大切になります。
たとえば思わずひとり言が口から出たとき、ほとんど気にも留めず、ひとり言を言っていることすらも気がつかない人もいます。
それではせっかくの重要な情報、メッセージを見逃してしまうことになります。
「なんだ? 今何て言ったんだっけ?」
ひとり言を再確認するという行為が、とても大事になるのです。それによって、無意識で出たひとり言を意識化することができます。
そのうえで、「きっと、どこかに違和感を覚えたから、そんなことを口走ったのかな?」とか、「なんで自分はダメだと思ったのだろう?」「じゃ、どうすればいいのさ!」と、ひとり言に対する返答を口に出してみて下さい。
まるで一人二役のように、ひとり言で会話を続けてみるのです。
すると、どうしてその言葉が出てきたのか、自分がそれに対してどう考え、どうしたいのか、ということが、次第にはっきりとしてくるはずです。
つまり、ひとり言と向き合うということは、自分自身と向き合うこと=「自己認知」に他ならないのです。
SNSやチャットGTPなど、私たちは答えを自分の外のデータや情報に求めがちです。
ですが、自分が何をしたいか、何が大切か、どうするべきか、といった自分の問題の答えは、自分自身の中にしかありません。本当の知恵や宝は、自分の中に眠っているのです。
禅は「すべての答えは自分の中にある」という思想を大前提としているそうです。
自分と向き合うひとり言こそ、自己を認知し、内なる答えを見つける究極のツールなのです。
■溜まったストレスを、声に出すことで発散する
気持ちが整理され、心が軽くなる
ひとり言を発することで、さまざまな効果・効用が得られます。
ここからは、その具体的な例を挙げてみたいと思います。
まず1つ目は、「内省を促し、心の整理がつく」ということです。
ひとり言は、自己の内面から自ずと溢れ出てくるものです。
それだけに、ひとり言と向き合うことは、自己と向き合うこと=「内省」につながります。
「なんで、あんなことをしたのか?」
自分の発言や行動を振り返って、いたらない思いや悔しい思いに捉われることもあると思います。
そんなとき、思わずひとり言をこぼしていることはありませんか?
自分の言動や行動を後悔する気持ちや責める気持ちが強いほど、心の中には強いストレスが生じています。
ひとり言には、そんなやるかたない憤懣やストレスを、言葉にすることで解消し、昇華する力があります。
「あーあ」とか、「もう!」というような感嘆詞は、そんなひとり言の一部かもしれません。
また、「はぁーっ!」と大きくため息をつくことも、ひとり言の一種だといえるでしょう。
いずれにしても溜まったストレスを、声に出すことで発散する作用があります。
意識的にも無意識的にも、このようなことを皆さんは日常の中でやっているのではないでしょうか?
さらに、ひとり言をつぶやくことで、たんにストレスを発散するだけでなく、次にどうしたらいいかという対処の仕方がわかったり、心の整理がつく場合があります。
「今さら気にしても、仕方がないさ」
「どうにかなるって!」
ストレスを発散しながら、自問自答するうちに、不安や心配が少し軽減されるでしょう。
ひとり言には、もやもやした気持ちが整理されたり、踏ん切りがついて心が軽くなるという効果があるのです。
■悩んでいる人は、悩みを問題化することができない
「悩み」を言語化することで解決に導く
「悩み」というのは、脳科学的に言うと、「問題を言語化できていない状態」だといえます。
たとえば、なかなか彼女ができない、と悩んでいる人がいたとします。
職場に異性が少なく、出会いがないとか、性格が消極的で自信がないとか、容姿が人より劣るとか、彼女ができない理由がいくつかあるはずです。
その理由をしっかりと認識しているのであれば、改善できるものは改善すればいいということになります。
仮に、背が低いとか容姿が人より劣っている、と感じていたとしましょう。
それでもおしゃれをしたり、清潔にして身だしなみを整えることで、かなり印象が変わります。
消極的で自信がないという人は、たとえば自分の趣味や興味のある分野を突き詰めて、他人にこれだけは負けないとか、自慢できるというものを持つことで、かなり意識が変わるはずです。
職場に出会いがないのであれば、サークルだとか勉強会など、いろんな場に足を運んでみることだってできるでしょう。
そのうえで、どうしても改善したり、変えることができないものもあります。
たとえば自分の出自だとか、出身地、人種などはどうあがいても変えることはできません。
そういうコントロール不可能なものに関しては、最初から悩んでも仕方がないでしょう。
残ったコントロール可能なものに関しては、とにかく改善、改良をすればいいということになります。
つまり、悩みというのは、本来は解決するべき問題や課題に変えることができるということです。問題や課題にできるということは、必ず解決する方法があるということなのです。
ですから、何かに悩んでいる人は、悩みを問題化することができない人、ということができます。
ここで、ひとり言が大きな力を発揮することになります。
「どう改善すればいいのかな?」
声に出してもいいし、声を発せず内言語でもいいでしょう。
いずれにしても、そうやって自問自答を繰り返すことで、悩みはいつの間にか解決するべき問題に変わっていくはずです。
ひとり言は悩みを問題化し、解決に導く有効な手段なのです。
■内なる声を尊重し従い、大きな失敗を回避
違和感を覚えたら、注意する
私は研究者ですから、自分以外の研究者のさまざまな論文や説を目にしたり、耳にする機会があります。
すると、中には直感的に「いや、それは違うんじゃないかな?」と感じるものがあります。
ただし、どこがどう違うか、その段階では論理的に指摘することができません。
ただ、一種の違和感のようなものを覚えるのです。
この「違和感」を、私はとても大事にしています。
というのも、言葉ではなかなか説明がつかない違和感が、結局当たっていることが多いのです。ほとんど、百発百中といってもいいのではないでしょうか。
おそらくですが、この違和感は、非言語情報を司る右脳からのメッセージだと考えています。
非言語的なメッセージですから、理屈や理論では説明できません。ただ、イメージとして何かおかしい、違和感がある、という感覚が沸き上がるわけです。
そこで時間をかけていろいろ検証してみると、やはり矛盾やほころびがロジカルなレベルで明らかになります。
やっぱり直感が当たっていたんだ、ということになるわけです。
この直感に、私はずいぶんと助けられてきました。
「どうも、腑に落ちないけど、なんだろう?」
「なんか気持ち悪いけど、どういうこと?」
思わず、声として口に出てくるときもあれば、内言語として心の中で鳴り響くこともあります。
このひとり言を、私はとても重要視しています。
なぜなら、それこそが右脳のセンサーに、真っ先に引っ掛かったシグナルだからです。そして、違和感のひとり言が出てきたら、絶対にどこかおかしいところや間違いがあるはずだと信じて、今度は左脳をフル回転させて検証に専念するのです。
このことは研究の現場だけではありません。日常でいろんな人に会ったときの第一印象も、右脳からのシグナルをもとに判断しています。
「この人と仕事をすると、トラブルが起きそうだ」
内なる声を尊重し、従ったことで、大きく失敗したということは今のところありません。
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脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)
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