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「ラーメン1000円の壁」は本当にあるのか…値決めのプロが解説「1杯1100円でも売り上げを維持できる」その条件

プレジデントオンライン / 2024年3月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jina Ihm

ラーメン業界の定説である「1000円の壁」は本当に存在するのか。値決めのコンサルティングサービスを手掛ける「プライシングスタジオ」代表の高橋嘉尋さんは「シミュレーションを行った結果、条件次第では1100円に値上げしても売り上げを確保できることがわかった。『1000円の壁』があるとは一概に言えない」という――。

■「1000円を超えると客が来ない」は本当?

古くからラーメン業界に伝わる「1000円の壁」という言葉。文字通り、ラーメン1杯の価格が1000円を超えるのは難しいという意味ですが、プライシングの専門家としての観点からすれば、「1000円の壁」は必ずしも値上げのハードルにはなりえないというのが本音です。

現在、多くのラーメン屋さんは光熱費と材料費の高騰に悩まされる一方、値上げに踏み切れない状況が続いています。結果として、2023年のラーメン店の倒産は45件(前年比114.2%増)で、前年の2.1倍と大幅に増え、過去最多を記録しました(東京商工リサーチ)。ニュースでは「価格を1000円以上にするとお客さんに来てもらえない」という店主の声が聞かれますが、果たしてそれは事実なのでしょうか?

今回、「1000円の壁」の真偽を確かめるため、ラーメン屋でラーメンを食べたことがある全国の消費者を対象に独自調査を行いました。調査では消費者がラーメン1杯に対してどの程度の支払い意欲を持っているのかをアンケートをもとにあぶり出し、結果に基づいた独自のシミュレーションを行いました。

その結果、売り上げが最大化するラーメン1杯の単価が990円であることが明らかになりました。これよりも価格が上がると顧客数は減少し、それに伴って売り上げも減少していくことがわかります。

【図表】ラーメン1杯の単価に「1000円の壁」はあるのか
筆者作成

■1100円に引き上げても売り上げを維持できる

次に、現実により即したシミュレーションを行うため、席数が20席のラーメン店で考えてみます。一般論的に、ラーメン店に必要な面積は1坪あたり1.5席~2席程度といわれており、今回は10坪=20席で試算します。

一人当たりの滞在時間が30分とした場合、1時間で受け入れられる人数は40人が限度です。仮に80人が来店した場合、半数の人にはラーメンを提供することができず、提供可能数は40となります。つまり価格を990円とした場合、売り上げは990円×40=3万9600円です。

では価格を1100円まで上げるとどうでしょう。シミュレーションによれば、顧客数は32.4%減少し、80人から54人まで減ることになります。しかし、席数は40人しかないため、1100円×40=4万4000円となり、価格を上げたとしても理論上、このようなケースでは売り上げを維持できる計算になります。

すなわち、支払い意欲を持った顧客の数が席数(受け入れ可能数)を上回って店の外にもいるような場合には、価格を上げてそのぶん支持者の数が減少したとしても、十分に席が埋まる(売り上げが最大化する)ということもあり得るということです。

■顧客の7割が「1000円は予算内」と考えている

顧客の支払い意欲が価格によってどのように変化していくのか、グラフでさらに細かく検証してみましょう。データからは、ラーメン1杯あたり1000円は「高すぎて検討に乗らない」という人が31.3%存在することが読みとれます。同様に1200円では53.2%、1500円では83.1%の人が購入の検討から外れてしまうという結果でした。

【図表】顧客の支払い意欲は価格によってどのように変化するのか
筆者作成

それぞれ1000円、1200円、1500円に上がるラインで一定の顧客の離脱を引き起こしており、つまり「1000円の壁」のほかに、「1200円の壁」と「1500円の壁」も存在しているといえるでしょう。

注意しておきたいのは、この心理的な壁はすべての顧客を対象とした場合にのみ存在するということです。ラーメン店とひと口にいってもさまざまであり、全国チェーンから行列のできる個人店、二郎系やトマト麵まで業態は多岐にわたります。当然、ラーメンのジャンルによって、客層も支払い意欲も大きく変化します。

裏を返せば、価格が1000円でもおよそ70%の人が検討予算内に収まるということでもあり、店側が想像しているほど一般的な顧客は「高すぎる」と感じていないといえそうです。

■週1以上食べるラーメン好きは価格への抵抗が少ない

このように、確かに価格の壁は存在しつつも、ターゲットによっては検討圏内にもなり得ます。重要なのは、「誰」をメインの顧客層に設定するのかという観点です。

例えば1カ月に4回以上ラーメンを食べるヘビーユーザーを対象に同様の調査を実施すると、一般消費者と比較して価格への寛容さが見てとれます。1杯1000円で検討外になる人の割合は23.5%と、一般消費者の31.3%と比較して8ポイント近くも離脱率が低いのです。

【図表】ヘビーユーザーを対象にした調査結果
筆者作成

さらに結果上は、価格が3ケタ台時の離脱は確認できませんでした。すなわちラーメン店のヘビーユーザーにとって一般消費者が離脱し始める800円~900円という価格は、十分検討範囲内といえそうです。

このような結果から、ラーメン好きをメインの顧客層に据えるのであれば、ある程度の高単価帯を狙うのも価格戦略上効果的だといえるでしょう。

■立地別の値上げを実施したマクドナルド

利用頻度に限らず、属性情報によっても適正価格は変化します。その一例がチャネルです。ラーメン店でいえば、イートインなのかフードデリバリーなのかで支払い意欲は大きく変わります。

過去の自社の調査によれば、フードデリバリーサービスの利用時には、1000円を壁に感じる人はイートイン時と比べて6.6ポイント少なく、1200円だと18.5ポイント、1500円だと25.1ポイントも離脱率が低いのです。フードデリバリー利用時のほうが、イートインの利用時よりも価格に寛容になるといえそうです。

店舗の立地、つまり利用客の居住エリアも支払い意欲に影響を及ぼします。

この点を巧妙に突いた値上げを実施したのがマクドナルドです。マクドナルドは店舗をその立地によって「通常店」「準都心店」「都心店」と区別。そのうえで各店舗の利用客の支払い意欲に差があることを特定し、「都心・準都心店」の販売価格のみ引き上げるエリア別値上げを実施しました(2023年7月)。

渋谷のマクドナルド
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

ラーメン店においても店舗の立地によって支払い意欲に差がある可能性は十分にあり得るでしょう。

それ以外にも、利用用途が「ご褒美ラーメン」や「デート」など特別感を重視する場面なのか、「サクッとランチ」など手軽さを重視する場面なのかも支払い意欲に大きく影響します。

■顧客のニーズを見極めた「1杯2700円のラーメン」

実際に「たまの贅沢に食べる嗜好品」としての地位を確立し、1000円の壁を大きく超える高単価でも顧客に受け入れられているラーメン店も存在します。

「らぁ麺 飯田商店」では、通常のしょうゆらぁ麺を1800円、わんたん入りしょうゆチャーシュー麺を2700円で提供していますが、こだわり抜いた素材や旨みを究めた製法、そしてその味は大きな話題を呼び、予約がとりにくい状況が続いています。

らぁ麺 飯田商店の例からも、顧客ニーズに応え価格に見合う価値を設計することができれば、必ずしも1000円の壁はハードルにはならないことは明白です。

「誰」をターゲットにするかによってそのニーズは大きく異なり、支払い意欲にも差が生まれます。そうした差が発生する顧客セグメントを突き止めて、ターゲットのニーズに合った商品を設計し支払い意欲に沿った値決めができれば、1000円を超えても顧客に受け入れられる可能性はグッと高まるでしょう。

■「1000円の壁は存在する」とは一概に言えない

ここまで、1000円が壁になるかならないかはターゲットとする顧客の支払い意欲次第であるという事をお伝えしてきました。

収益の最大化を目指して顧客数と価格だけを勘案したシミュレーションは机上の空論でしかなく、現実的ではありません。つまり1000円が壁になると、単純にいうことはできないのです。

冒頭のシミュレーション結果では、満席状態を維持できれば1杯1100円に値上げしても売り上げを確保できることがわかりました。にもかかわらず、ラーメン店の中には「1000円の壁があるから1000円以内で」と一般論をあてはめて価格を据え置きした結果、閉店に追い込まれるケースが少なくありません。これはとてももったいないことです。

設計を正しく実装するためには、受け入れ可能なキャパシティに加えて顧客の支払い意欲を考慮し、極端にキャパを超えず集客が成り立つ絶妙なラインで価格を調整する視点が必要だといえるでしょう。

ラーメン店と一口にいってもそのジャンルや形態、エリアはさまざまです。そしてそれだけに、バラエティに富んだ顧客ペルソナが考えられます。

■鉄則は「誰が、どんな商品に、いくら払いたいか」

「1000円の壁」に惑わされず、自分の店でラーメンを消費する層はどういう人たちなのか、そのターゲットにとってはいくらまでが予算内なのか。顧客のペルソナと彼らの支払い意欲を調査で明らかにして初めて、妥当な価格を定義できるのです。

ラーメンに限らず値決めの鉄則は、誰がどんな商品/サービスにいくら支払う意志を持っているのかを特定し、そのラインから大きく逸れない範囲で価格を設定することに尽きます。それに加えて今回のような受け入れ可能な数に制限のあるビジネスの場合、そもそも何人にサービスを提供できるのかという観点も不可欠です。

1000円の壁という固定観念にとらわれず、ケースに応じた価格を顧客層、支払い意欲視点から導くことが、顧客の納得を誘う最善の方法といえるでしょう。

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高橋 嘉尋(たかはし・よしひろ)
プライシングスタジオ代表取締役CEO
2019年、慶應義塾大学総合政策学部在学中に「価格1%の見直しが、企業の営業利益を約20%改善させる」ということを知り、その影響力に魅力を感じ、同社を設立。30以上の業界、100以上のサービスの値付けを支援している。著書に『値決めの教科書  勘と経験に頼らないプライシングの新常識』(日経BP)

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(プライシングスタジオ代表取締役CEO 高橋 嘉尋)

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