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「書き写し」や「蛍光マーカー」には意味がなかった…最新科学でわかった「昔ながらの勉強法」の本当の効果

プレジデントオンライン / 2024年4月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotostorm

学習を効率よく進めるにはどうすればいいのか。アメリカの医師国家試験にトップ1%の成績で合格した米国内科専門医の安川康介さんは、「繰り返し読む、ノートに書き写す、蛍光マーカーで線を引くといった学習法は、いずれも効果は低い。効率を高めるには、科学的根拠に基づく勉強をしたほうがいい」という――。

※本稿は安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■科学的に効果が高くない勉強法1 繰り返し読む(再読)

教科書や本は何度も繰り返し読んだほうが良いと、どこかで聞いたり読んだりしたことがある人は多いかもしれません。繰り返し読む、再読するという勉強法は、最も一般的な勉強法の1つだと言えます。

アメリカのある名門大学の学生を対象にした調査では、アンケートに答えた84%の学生が、ノートや教科書の再読を試験対策に使う勉強法として挙げていました。そして、アンケートに答えた半数以上(54.8%)の学生が、再読が最も重要な勉強法だと回答しました。

では、再読は、効果の高い学習方法と言えるのでしょうか。

結論から言うと、「ただ繰り返し読むこと」は、『科学的根拠に基づく最高の勉強法』で説明するような他の勉強法と比較すると効果が低いことがわかっています。

★研究
コロラド大学の大学生たちを対象とした研究では、約1500~1700語の文章を再読するグループと、再読しないグループに分け、内容をできるだけ思い出してもらう試験や短答形式の試験を2日後に受けてもらいました。文章を続けて2回読んだ学生と、1回読んだ学生では、2日後の試験の成績に有意な差(統計学的な分析に基づいて評価された差)はありませんでした。

また、別の研究でも、教科書や科学雑誌からの異なる文章(学生にある程度馴染みがあるトピックやあまり馴染みのないトピック)を、再読するグループと、1回だけ読むグループに分けて、多肢選択法や短答形式などの問題を大学生たちに解いてもらいました。この研究では、直後、そして1日後の試験での正答率は、再読した学生と1回だけ読んだ学生の間で、ほとんどの場合に有意な差がなく、再読に大きな学習効果がないことを裏付ける結果となりました。

■わかった気になってしまう「流暢性の錯覚」

普通の再読に、学習効果があまりないと考えられる1つの理由としては、同じ文章を2回目に読む時のほうが文章に慣れすらすら読め「わかった気になってしまう」ため、さらに理解を深めたり、覚えたりするといった深い情報処理が新しく行われにくいことが考えられます。

安川康介『科学的根拠に基づく 最高の勉強法』(KADOKAWA)
安川康介『科学的根拠に基づく 最高の勉強法』(KADOKAWA)

このような、表面的に情報が処理しやすくなったことで、実際には内容を記憶し深く理解していないにもかかわらず、覚えた気になってしまう、理解した気になってしまう心理的な現象は、「流暢(りゅうちょう)性の錯覚(幻想)(The fluency illusion)」と呼ばれています。

何かを学習する時には、この流暢性の錯覚に気を付けなければなりません。

僕たちの脳は、実際にはしっかり記憶して、深く理解していないのに、自分の知識や習熟度を過大評価してしまうことがあるのです。

例えば、英単語の単語帳をパラパラめくり、見覚えのある単語が並んでいるのを見て、なんとなくその意味や使い方を覚えている気になってしまう。授業中に書いたノートを見返し、見覚えがあるため、覚えて理解していると思ってしまう。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

■積極的に脳に負荷をかけることが大事

効果的な勉強にとって大切なのは、ある程度積極的に自分の脳に負荷をかけることだとわかっています。学習の分野では、「望ましい困難(Desirable difficulties)」と呼ばれており、『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の後半で述べる効果的な学習法は、この「望ましい困難」を生み出す方法だとも言えます。

さまざまな学習方法の有用性について、膨大な過去の研究を調べてまとめたケント州立大学心理学部のダンロスキー教授らによる有名な報告書があります。再読に関して、ダンロスキーらの報告書では、以下のように評価されています。

「今ある科学的根拠に基づき、再読の有用性は低いと評価する」

その理由として、例えば、大学生以外ではあまり効果が検証されていないこと、再読による理解を高める効果があまり明確ではないこと、そして最も重要な点として、後述する他の学習方法と比べて効果が低いことが挙げられています。

時間をかけて教科書や参考書、英単語の本を何度も繰り返し読んでいるのになかなか覚えられない、テストの点数が伸びないといった人は注意しましょう。

もちろん、何かを「読む」という場合に、頭の中でどのように情報が処理されているのかは、人によって異なります。あとで紹介する「精緻的質問」や「自己説明」など、脳により負荷がかかる、記憶への定着や理解力を高める作業を再読に組み入れている人は、その効果も違ってくるでしょう。

■科学的に効果が高くない勉強法2 ノートに書き写す・まとめる

再読の次に取り上げたい、あまり効果の高くない勉強法、それは「教科書や参考書の文章をノートにただ書き写す・まとめること」です。

アルファベット
写真=iStock.com/sankai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sankai

教科書や参考書の内容を、綺麗な字でノートに書き写したり、まとめたりしているのに、試験の点数が芳しくない人は意外と多いのではないのでしょうか。参考書のポイントだと思う箇所や、英単語帳から英単語をノートに丁寧に書き写したり、まとめたりすることは、それだけで達成感があり、「勉強した気」になってしまう行為です。

★研究
アメリカの高校生を対象に、ノートの取り方についての学習効果を調べた研究をみてみましょう。この調査では、次のような複数のグループに学生を分け、アフリカの架空の部族に関する2000語の文章を高校生に読んでもらいました。

・Aグループ:各ページを読んだあとに、短く3行に内容をまとめる(要約)
・Bグループ:読んでいる時に重要だと思う文章が出てきたら、自分の言葉でノートに書く(パラフレーズ)
・Cグループ:重要だと思う文章を3行そのまま書き写す
・Dグループ:文章を読むだけ

そして、勉強直後と1週間後に内容についての試験を受けてもらい、学習効果を調べました。結果は、文章をそのまま書き写した生徒は、ただ文章を読んだ学生と変わらないというものでした。

書かれた文章をそのまま書き写す作業は、文章を記憶したり理解したりしなくてもできるうえ、脳で負荷のかかる処理がほとんど行われないため、学習効果が低いと考えられます。

それでは、自分の言葉でまとめたときの学習効果はどうでしょうか。この研究では、パラフレーズしたBグループと、より短く要約したAグループの点数は同等で、ただ読んだ学生や、そのまま書き写した学生よりも高い点数となりました。読んだ文章を自分の頭の中で処理して言い換える、まとめることには、一定の効果があるとする研究報告は、このほかにも複数あります。

しかし、注意しなければいけないのは、何かを「要約」するという場合の方法と、その質です。どれくらいの基礎知識があって、どこの部分を重要と判断し、どれくらいの量の情報を、どれくらいの文章にまとめるのかなど、要約する能力と、要約した情報の質には、かなりの個人差があります。

要約をうまくできるようになるための特別な訓練を行うと学習効果が高まる、という報告もありますが、そうした特別な訓練を多くの人が受けているわけではありません。さらに、後述するいくつかの学習法と比べても、要約の学習効果が低いことが報告されています。

ダンロスキーらによる報告書は、要約について以下のような評価をしています。

「今ある科学的根拠に基づき、要約の有用性は低いと評価する」

要約するのがうまい学習者にとっては、効果的な学習方法になり得るとしつつも、多くの学習者(子どもや高校生、一部の大学生など)にはきちんと要約する訓練が必要であるとしています。

机の上に積み重ねられた本
写真=iStock.com/fstop123
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fstop123

授業中などにノートを取ること自体(それを復習するという行為は別にします)には、どれほど学習効果があるのかについての57の研究をまとめて分析した研究報告によると、効果はあるけれど限定的である、と書かれています。

■科学的に効果が高くない勉強法3 ハイライトや下線を引く

「ハイライトすることや下線を引くこと」も、あまり効果のない学習方法です。色とりどりの蛍光ペンを使って単語や文章をハイライトすると、なんとなく勉強した気になります。けれども残念ながら、これにはあまり効果がありません。

★研究
例えば、アメリカの大学生を対象とした研究では、学生を8000語の文章をハイライトするグループ、ハイライトしないグループ、他の人がハイライトしたものを読むグループに分け、1時間かけて読んでもらいました。1週間後、10分だけ文章を見直してから内容についてのテストを行ったところ、どのグループでもテストの点数に差がなかったことが報告されています。

また、1992年に報告された大学生を対象とした研究では、大学で使う歴史の教科書の章を、下線を引きながら読むグループ、引かないでただ読むグループに分け、その1週間後に15分間、教材を見直してから内容についての試験を受けてもらいました。

2つのグループの試験の点数には差がないどころか、興味深いことに、推論問題については下線を引きながら読み、それを見直してから試験を受けた学生たちのほうが、点数が低いという結果でした。もしかしたら、下線が引いてあるところだけに気が向き、全体の内容を関連づけて理解することが阻害されてしまった可能性があります。

そのほかにも、ハイライトを学習に取り入れていた学生のほうが、試験での成績が悪いという報告もあります。

ハイライトや下線を引くという勉強法は、文章を要約することと同様に、個人差があると言われています。つまり、強調する場所を選ぶのがうまい学習者もいれば、そうでない学習者もいて、そのハイライトした教材をどのように勉強するのかも人によって違ってくるのではないかということです。

先ほどの、膨大な過去の研究を調べたダンロスキーらの報告書でも、ハイライトについてはこのようにまとめられています。

今ある科学的根拠に基づき、ハイライトや線を引くことは有用性が低いと評価する。これまで検証されたほとんどの状況や学習者において、ハイライトは成績向上にほとんど効果がない。ハイライトをより効果的に行う知識を学習者が持っている場合や、文章が難しい場合には役立つかもしれないが、推論を必要とする、より高度な課題では、かえってパフォーマンスを低下させる可能性がある」

■使うなら効果の高い学習法と併用で

このようにかなり低い評価となっているハイライトと下線ですが、僕は本や教科書、学術論文などを読む時、ハイライトしたり下線を引いたりすることがよくあります。昔から使い慣れている日本のuniのプロパス・ウインドウ蛍光ペンをアメリカでも購入して使っているくらいです。大事なところは蛍光ペン、それよりちょっと重要性は落ちるけれど強調したい箇所は赤いペンで下線と、使い分けることもあります。

ハイライトや下線を引くことは、それほど手間がかからないことと、繰り返し通読することはしないので、あとで覚え直すところ、何か資料として使えそうなところはマークしておきます(なので、みなさんも気にせずにこの本にハイライトや下線を引きましょう)。

しかし、再読と同じで、あまり効果がないにもかかわらず「勉強した気になってしまう」ことがある点には注意し、ハイライトや下線を引くだけでなく、『科学的根拠に基づく最高の勉強法』で述べているように、「思い出してアウトプットする」といった効果の高い学習法も行う必要があります。

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安川 康介(やすかわ・こうすけ)
米国内科専門医
2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター初期研修修了後、2009年に渡米。University of Minnesota内科レジデンシー、Baylor College of Medicine感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。南フロリダ大学内科助教。

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(米国内科専門医 安川 康介)

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