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"便漏れ"が当たり前の大介護時代がくる…医師が「誰かの大便の処理をできない男性は詰む」と言うワケ

プレジデントオンライン / 2024年4月1日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

定年後に必要な心構えは何か。医師の石井洋介さんは「60代以降は、社会的役割を失ってしまったときにどう立ち回るかというのが大切な課題だ。その解決策として、介護に関わってみるというのは、自分にとっても社会にとっても有意義なアクションになる。大高齢化、大介護時代を迎えたら、今後、うんこは『見て、触らなければいけないもの』に変わっていく。60代からは『誰かのうんこを見に行こう!』の精神が必要である」という――。

※本稿は、石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■うんこをタブー視するのは、そろそろやめよう

コレラやペストといった感染症で人が大勢亡くなっていた時代は、うんこは病気の原因となる危険な存在でした。

そこで「うんこは汚いものである」と教育され、排泄後はすぐ下水道に流して手を洗うことが徹底されてきたのです。その結果、うんこは汚いものとしてタブー視されるようになっていきました。

しかし、現在のように感染症に対する医療体制が整った状態で、きちんと管理されていればうんこは危険なものではないのです。

以前、「トイレでスマホをいじると汚くて危ないのか?」という取材を受けたことがあるのですが、結論としては基本的に危なくはありません。

もちろんうんこから飛び出す菌がスマホにつくことがあるかもしれませんが、菌の多くは、皆さんが普段触っている机やPCにも大量についています。世の中には常在菌と呼ばれる菌がたくさん存在していて、この世は思った以上に細菌だらけなのです。

TVドラマ等で白血病の患者さんが無菌ルームといわれる部屋に入っているところを見たことがある方もいると思いますが、常在菌によって感染が起こるほど体が弱っている場合はそうしないと防げません。

ちょっと洗ったり消毒したりする程度では、菌はすぐに増殖し元通りになるのです。超高齢になると常在菌によって肺炎や尿路感染症を起こすこともありますが、自宅を無菌ルームにすることは現実的ではありませんし、それはもう体がこの世界に対応できなくなってきている、天寿が近いことを示すサインなのだと思います。

■うんこは「見て、触る」時代へ突入する

もちろん、明らかに感染症を持った患者さんのうんこの場合は別です。たとえば冬場のひどい下痢はノロウイルスに感染している可能性があります。こうしたウイルスは糞便の中に入って感染していくため、トイレをしっかり消毒洗浄し、手洗いも徹底する必要があります。

トイレを流すときには周りにウイルスを撒き散らさないために蓋をしましょう。さらにノロウイルスはアルコール消毒では死なないため、感染している方がトイレでうんこをしたあとは、ハイターのような次亜塩素酸ナトリウムを用いてトイレをしっかり洗う必要があります。

自宅では十分な対応ができると思いますが、公衆トイレなどではどこにどのような菌がついているのかわからないので、素早くトイレを済まして、よく手を洗って出ましょうね(お腹がゆるくてトイレが近い経験を持つ私としては、公衆トイレで用が終わったあとはスマホをいじったりせず、待っている人のためにすぐに出てあげてほしいです)。

こうした例外はありますが、基本的にうんこはそれほど忌避するべき存在ではありません。私たちは、そのことをもっと意識すべきではないかと思います。

なぜなら、大高齢化、大介護時代を迎えようとしている私たちにとって、今後、うんこは「見て、触らなければいけないもの」に変わっていくからです。

介護を始めた人が最初にショックを受けるのは、排便処理によるものだといいます。一方で、前述の通り、多くの人がうんこを見なければいけない時代が到来しようとしています。

私たちはそろそろ「うんこは汚く触れてはいけないものである」という認識を、変えなければいけない時期を迎えているのではないでしょうか。

■便漏れは当たり前の社会に

大介護時代を迎え、これからの社会は誰もが「ケアする側」に回らなければ立ち行かなくなっていくでしょう。徘徊(はいかい)する認知症患者を介護施設に閉じ込めたり、便失禁を白い目で見るのではなく、「それって当たり前だよね」と受け入れられるようになっていかないと、おそらく日本社会は回っていかなくなります。

そのためにはうんこをタブー視せず、「便漏れは当たり前」の社会になっていくこと。「うんこを見ない」社会から、「うんこを見る」社会へと移行していく必要があるのです。

誰もがケアする側に、と言いましたが、現状では特に家庭で親世代を「ケアをする立場」にいるのは圧倒的に女性が多いでしょう。しかし、これからは男性もケアを担うようになっていく必要があります。

車椅子の高齢男性のそばに立つ男性と座って腕に手を置く女性
写真=iStock.com/PRAPAS POOLSUB
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PRAPAS POOLSUB

それは、誰もがケアをする側にならなければ社会が回らなくなるから、という理由だけではありません。社会的な役割を失わないため、という側面もあるのです。

60代になると身体機能は誰でも落ちてきます。心筋梗塞・脳梗塞などの血管の加齢に伴う病気や、がんのような細胞の加齢に伴う疾患など、あらゆる病気が出現してくる時期でもありますし、病気とは無縁な方も、若い頃と比べて身体機能は明らかに落ちていく。

■60代になったら、誰かのうんこを見に行こう

一方、精神的には成熟度が上がっていくため、気持ち的には落ち着いて、周りのことがよく見える状態になっていきます。

石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)
石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)

そんな時期に定年を迎えると、それまで仕事ばかりをしてきた人は、一気に社会的役割を失ってしまいます。

そうなったときに、これまでの自分を俯瞰(ふかん)してみて、「ああ、自分がいろんな人から必要とされて、部下が慕ってくれたのは部長や課長といった会社内での立場があったからだったんだな」と気づく人も多いようです。

自分自身が好かれていたわけじゃなくて、立場があったからだと。そうすると、立場や肩書きなしでどう人と接していいかわからなくなり、急に認知症が進んだり、引きこもりがちになったりしてしまうことがあるのです。

活力がある男性は、新しいつながりを探しに行ったりもしますし、そこで誰かの役に立つこと、社会的な貢献をすることが自分には大事だと思い至って、介護をする側に立ってみたり、ボランティアを始めたりします。

そういう人はやっぱり元気です。反対にそういう方向へはいかず、引きこもってしまう人は、ますます社会とのつながりがなくなってしまいます。

社会的役割を失ってしまったときに、どう立ち回るかというのは、60代以降の大切な課題です。

そこで介護に関わってみるというのは、自分にとっても社会にとっても有意義なアクションになることでしょう。だから60代からは「誰かのうんこを見に行こう!」。

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石井 洋介(いしい・ようすけ)
医師、日本うんこ学会会長
19歳の時に潰瘍性大腸炎により大腸全摘出術を受けたことをきっかけに医学部受験を決意。高知大学医学部卒業後、研修を経て横浜市立市民病院へ。消化器外科医として大腸がんの手術などを多数手がける一方、厚生労働省勤務や「日本うんこ学会」創設など意欲的に活動。「大腸がんは見つかった時点で寿命が決まる」という厳しい現実を打開すべく、毎日うんこを観察するカンベン(観便)を推奨し、医療の現場はもちろん、ゲームアプリやエンタメを通して発信し続けている。近年は、病気の予防・治療に加えて在宅医療の必要性を感じ「おうちの診療所」を開設。著書に『19歳で人工肛門、偏差値30だった僕が医師になって考えたこと』(PHP研究所)。

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(医師、日本うんこ学会会長 石井 洋介)

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