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ダメ社長ほど「パーパスおじさん」になっている…ハーバードの研究で判明した「ダメなパーパス経営」の条件

プレジデントオンライン / 2024年4月2日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pgiam

儲かる会社をつくるにはどうすればいいのか。京都先端科学大学ビジネススクールの名和高司教授は「会社の存在意義を示す『パーパス』を効果的に活用すべきだ。ハーバード・ビジネススクールの研究によると、企業のミドル層がパーパスを繰り返し口にしている企業は収益性が高い」という――。

※本稿は、名和高司『パーパス経営入門』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■なぜパーパスは「浸透」しないのか

あなたの会社にもひょっとして、作ったはいいが誰からも顧みられないパーパスやミッション、ビジョン、社是といったものがあるのではないでしょうか。

私はそれを「額縁パーパス」と呼んでいます。頑張ってパーパスを作ったはいいが、そこで力尽きてしまう企業は意外と多いのです。

より重要なのは、パーパスをいかに浸透させるか。しかし、これがなかなか難しい。

2021年、あるパーパス経営のセミナー(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー マネジメントフォーラム)の際に、参加者へのアンケートを行ったことがあります。

「明確なパーパス(企業の存在意義)やパーパス・ステートメントが明文化されているか」という質問に対して「はい」と答えた人が全体の約4分の3を占め、パーパスそのものは多くの会社に存在していることがわかりました。

一方、「パーパス経営を行う上で抱えている課題を教えてください」という問いに対しては、約40パーセントの人が「従業員への浸透が進まない」と答えており、回答率としてはこれが一番高かったのです。

多くの企業が「パーパスを作ったはいいが、浸透していない」という問題を抱えているということがよくわかる結果でした。

■「額縁パーパス」を生み出す3つの要因

パーパスを掲げてもうまく実践できない企業の共通点は次の三つに集約できるでしょう。

1.「社会課題病」に陥っている
2.「中期計画病」に侵かされている
3.「自前主義病」を抱えている

1.の「社会課題病」は、今、日本企業の多くが陥っているものです。SDGsなどを参考に社会や地球の持続可能性という大きすぎる理想を掲げた結果、社員にとってはまったく現実味のないパーパスになってしまうということです。

2.の「中期計画病」については、日本企業の多くが、3年から5年先のいわゆる「中期計画」をゴールとして経営を行っています。しかし、3~5年という時間軸では、今の延長上でしか答えを求めることができません。そのためパーパスが、よく言えば現実的、悪く言えば夢のないものになってしまうのです。

そうではなく、パーパスを策定するにあたっては、30年先、50年先の自社の未来を見据える必要があります。

■シュンペーターが語った「イノベーションの基本」

「そんな先のことなどわからない」と言う人もいるかもしれませんが、コロナ禍を見てもわかるように、そもそも3年後、5年後の未来すら正しく読むことが不可能な時代です。むしろ、30年、50年先を見据えた大きな流れを見るほうが、未来をより正確に予測できるとすら言えるのです。

最後に、3.の「自前主義病」です。

日本企業はそもそも、何でも自社内だけで解決しようとしすぎです。パーパスを策定するにあたっても、「自前でできること」にどうしても発想が限られてしまいます。そして、その視点で作られたパーパスもまた、夢のないものになってしまいがちなのです。

今、自社にできないことも、その能力を持った他社と組んだり、それができる人を取り込んだりすることで、可能になるはずです。

経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションの基本は「新結合」にあると言いました。私の言葉で言えば「異結合」ですが、企業は異質な外部資産を活用できるかが今後の勝負のカギになります。

パーパスを策定することは、そのための有効なツールとなります。

ビジネスミーティングのコンセプト
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■提供するモノやサービスの価値こそ重要

前述のアンケートでは「パーパス経営の実践によって、どのような企業価値が生まれると思われますか?」という質問も行いました。これに対して最も回答率が高かったのは「ブランド価値、レピュテーション(評判)向上」であり、次点が「従業員体験価値(EX、ES)向上」でした。

これはまさにその通りで、パーパスが浸透すれば、「顧客」「従業員」双方に対して大きな効果が期待できます。

顧客に支持されるからこそ売上が伸び、従業員の満足につながります。また、従業員がパーパスによって働きがいを得ることで、提供する製品やサービスの価値が上がり、顧客にさらに喜んでもらえます。

実は、この点は極めて重要です。

昨今はコーポレートコミュニケーションという言葉のもと、どのようなメッセージを発信するかにばかり注力する企業が多くあります。それについて否定はしませんが、いくら口でいいことを言ったところで、その会社の提供するモノやサービスの価値が低ければ何もなりません。

製品やサービスを通じてパーパスを伝えること。これこそがパーパス経営の一丁目一番地であるということを、再度認識しておいてほしいと思います。

■「パーパスおじさん」は冷めた目で見られている

話をパーパスの浸透に戻しましょう。

ここで、ある興味深い研究結果をご紹介します。ハーバード・ビジネススクールのジョージ・セラフェイム教授による、ROAとパーパスの関係についての研究です。

ROAとはReturn On Assetの頭文字を取ったもので、「総資産利益率」などと訳されています。投下された資本に対してどのくらいの利益が得られたかを示す指標で、企業の収益性の高さだと考えてもらえばいいでしょう。

セラフェイム教授の研究によれば、企業のミドル層がパーパスを繰り返し口にすればするほど、ROA、つまり企業の収益性は高くなるというのです。

一方、トップ層に関しては、パーパスとROAにはほとんど相関がありませんでした。つまり、トップがいくらパーパスを連呼しても、収益性向上にはつながらないということです。

この結果には驚きました。アメリカのようなトップダウンの国ならば、トップの熱意さえあればパーパスが浸透し、経営結果にも表れると考えていたからです。

やはり、面従腹背はどの国にもあるものです。いわんや日本では、この傾向はもっと顕著ではないでしょうか。

トップが毎日のようにパーパスを連呼するのを、社員はさめた目で見ている、という企業の話も聞きます。そんな「パーパスおじさん」「パーパスおばさん」だけでは企業は変わらない、ということです。

そう、日本でもアメリカでも、パーパス浸透のカギを握るのはミドル層だということです。私がこれまで何度も「カギを握るのはミドル層だ」と言ってきたのは、このためです。

■今こそ「日本企業の強み」を見直すべき

ではなぜ、ミドル層がパーパスを繰り返し口にすれば収益性が上がるのに、トップだと上がらないのでしょうか。

トップと現場との間には相当な距離があります。そのため、トップの言葉はなかなか現場に浸透しません。また、現場の言葉はトップに届きにくいのが現実です。

だからこそ、その中間に立つミドルがトップの声を自分の言葉としてメンバーに伝え、そしてまたメンバーの声を吸い上げることで、全社的な意思疎通が可能になるということです。

名和高司『パーパス経営入門』(PHP研究所)
名和高司『パーパス経営入門』(PHP研究所)

これはまさに、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱する「ミドル・アップダウン」そのものです。

野中氏と竹内弘高氏(現国際基督(キリスト)教大学理事長)は、共著『知識創造企業』(東洋経済新報社、1996年)の中で、個人間、組織間の相互作用によって暗黙知から形式知を生み出す、日本企業独自の知識創造のプロセスを明らかにしています。そこに出てくるのがこの「ミドル・アップダウン」という概念です。

組織の中間層が主体となって企業を動かしていくというこの仕組みは、日本企業の強みとして紹介されたのですが、今まさにそれが見直されていると言っていいでしょう。

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名和 高司(なわ・たかし)
京都先端科学大学ビジネススクール 教授、一橋大学ビジネススクール 客員教授
東京大学法学部卒、三菱商事(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。シュンペーターおよびイノベーションを主に研究。2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして、約20年間、コンサルティングに従事。著書に『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』『企業変革の教科書』(ともに東洋経済新報社)、『稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質』『経営改革大全 企業を壊す100の誤解』(ともに日本経済新聞出版)などがある。

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(京都先端科学大学ビジネススクール 教授、一橋大学ビジネススクール 客員教授 名和 高司)

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